忘れ形見 事件編
マスコミ探偵3部作の探偵物です。それぞれ登場人物を共通化し、それでそれぞれ独立した話です。このストーリーの主人公・正田はここでは殺人犯を追う探偵ですが、「闇の法廷『ケルベロス』」では仕事人の殺人犯になってます
戻ると、泉谷が待っていた。ロケ隊の接客を命じられているのだろう。手には手さげの紙袋を持っている。
「お帰りなさいませ。鍵はご用意させていただいております。当館主人、八代ひばりのインタビューは体調のこともあり明日の午後一時を予定しております。番組企画の取材リストにある建物と人物は地図をご用意させていただいております。」
さわやかに伝えることを言った。城島は
「今日はそんなわけだ。スケジュールは縮まった。ちょっと早いが解散だ。各自スケジュール通り動いてくれ。朝食は七時だぞ。」
泉谷は今度ハセナン近づいた。
「これは、変わったペットでございますね。」
「萌え蔵だよ~。いい子でしょ?」
「なんとも・・・変わったコモドドラゴンですか?」
萌え蔵はリアルなトカゲというよりは、ぬいぐるみのような感じだ。火をちろちろ出す。
「ドラゴンだよ。知らないの~?かわいいでしょ?」
知るも何もフツウいないだろ。さわやかな泉谷も言葉を失った。そりゃそうだろ。
「しつけは万全ですから泊めてやってください。」
しょうがないから援護射撃してやった。
「・・・いや、めずらしい・・・でも可燃物はどけておかないと。どうぞ・・・」
と言って、無線に連絡を入れている。変更点を指示しているようだ。客の接待の良さに感心した。だが、確かめることがある。
そこに正田が泉谷に近づいた。聞いておかないといけない。
城島を正田は見た。(本当に奴は鈍いな)正田は城島の感覚の鈍さに呆れた。周囲の状態は何かあると本能に訴える物がある。それを確かめるべきなのだ。それを城島は聞きもしない。
「ちょっと、泉谷さん。いろいろ聞きたいのですが・・・」
「はい?取材ですか?」
「違います。ここら辺の噂について・・・」
というと泉谷は怪訝な顔をした。
「入り江に何かいると言う噂を聞いてませんか?」
入り江というと泉谷は目をそむけた。間違いない、何かあると直感した。
「いえ、何もないですよ・・・別に。」
「でも今日、岬の展望公園に行った時、何かいると噂になっていると聞いたのですが・・・。それに周辺に人の姿もありません。」
目が躍っていたが、意を決したようにはきだした。
「いづれわかることですので、言います・・・たいしたことはありませんが、化け物が宝を守っているというのは聞いたことがあります。実際に襲われたとか聞いたことありませんし・・・それに、噂にすぎませんので・・・。」
「そうですか。それでは実際そこに行っても危険はないのですね。ゆかりの地を撮らなければなりません。」
そういうと動揺した。
「いや、それは辞めてください。」
「なぜ?」
「なぜって・・・そう言われても・・・」
この人にも確証ないのだな・・・まあ、いいや。
「それより、飯山さんが未発表曲を分けてくれるというお話でした。いただけます?」
動揺している城島が聞かなかったことだ。
「ああっ、しまった、忘れていました。皆さんに渡してください。この中に未発表曲入っています。再生は各部屋にオーディオがセットされてますので、それでお願いします。それから城島さんに・・・」
たぶん布団かぶって震えてますよ、とは言わなかった。
「俺から渡しておきます。じゃっ!」
まだホールにいるみんなに配った。
「へ~、これがそうなの?」
ハセナンが感心して見ている。キラキラした自分たちのCDとは雰囲気が違う。大人のジャケットだ。
「新鮮ね~。」
今時のアイドルとしてはありうる感想かもしれない。泉谷は残りの連絡をする。
「お風呂はご自由にお使いください。全て整っております。それから、ご夕食は夜6時に大広間にご用意されております。」
「で、どうしてこうなるの?」
「だって、まだ陽の高いうちに打ち切りでしょ?みんな、暇で・・・」
というのは智美だ。城島以外全員そろっている。ああ見えて、城島は怪談系の話は苦手のようだ。部屋に帰ってきたらみんな集まってきた。正田は城島と違って人気がある。みんなで聞こうと言うのだ。皆、隠された歌の謎に興味があるらしい。結局狭い部屋を出て、会議室を借りて六人集まった。撮影打ち合わせなどで使うよう、最初に借りてあった。曲のタイトルは「哀愁歌」とある
「じゃあ、再生するぞ。」
オーケストラの調に乗って、悠然な曲調だ。もう、ある種の頂点と言っていい。
春の花はさきみだれ
秋の落ち葉にかくれゆく
わが身をけずりて わかれのさだめ
落ちた玉はいまいずこ
一本杉のもと ウサギが駆ける
社の子はいずれにあるか
けだし言葉をわけてみよ
唇噛んで囲いこまん
命よりたいせつなもの
失う さだめのつらさよ
落ちた玉は防人の元
慈しみのこころ わが身を責める
しばらく余韻で誰も口を挟まない。円熟した歌手の熟成しきった歌声と言っていい。
「流石、ひばりですね。」
ヤスオが珍しく声を出す。
「まあ、歌がうまいはわかったけど、これに宝の隠し場所隠されているんだろ?」
栗太郎が言う。だが、情緒的に歌われていて地名などどこにもない。地名を特定できそうなクダリといえば「一本杉」と「社」だが、その程度はどこにでもあるものだ。ウサギと子どもでは解きようがない。「唇噛んで囲い込まん」なんて意味が全く分からない。これだけ恋の歌らしくないので確かに何か含んでいるのだろう。特定な場所を示すとは全く思えない。そもそも示す場所がこの地域にあると言って、断言していいものか。だが「命より大切な物」とはっきり歌われている。噂は間違いないようだ。玉というのは宝を意味するのは推理小説にはよく出てくる。スーパースターの命より大切な宝だ。




