表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/7

忘れ形見

そこへロケバスが到着した。よく温泉送迎に使われる小型のバスだ。

「お待たせしました。」

ヤスオがヘラッと笑ってでてきた。

「それじゃ・・・」

トリオが乗り込もうとした。

「まだ、ダメですよ・・・」

パンと制止した言葉の主は顔立ちりりしく、目つきが鋭いやせ形の男だ。びしっと髪型を整えている。(城島だ・・・)スッとバスから降りてきた。スタッフジャンパーだが、ネクタイをつけ、管理職と言って差し支えない。

「えーっ?ここはインサート無しだから収録しないとプロデューサーが・・・」

気弱なヤスオがジョニーの言葉を代弁した。プロデューサーが演出に口はさむのは、初回のこだわりなのだが、それを聞いた城島は

「君たち、俺が演出担当者だ。それに、あのプロデューサーは演出がわかってない。このシーンは番組のカカリなのだ。俺の指示にしたがってもらう。エキストラカット撮るぞ!」

(オイオイッ、爆弾発言だぞ。露骨にプロデューサー批判じゃねぇのか?)

「な~に?この人。偉そう!」

後ろでメイクの智美がぼやいている。

「番組の最初はロケ隊の出発シーンから入る。映像の収録をする。」

「でも・・・予定が・・・」

ヤスオは指示と違うので食い下がったが城島は強気だ。

「いいのだよ。俺がディレクターだ。演出担当が言えば通る。“おれの番組は”美しくなければならない。」

自分に自信を持っているのだろうが、自信過剰だ。「俺の仕事」ならわかるが、誰の番組だよ。どうやら二重構造になっているようだ。ロケ隊はジョニーのコントロール下には無いようだ。

フーム

城島がなにやら皆をじろじろ見ている。

(いやらしい奴だな。)

「なんとも彼らしい人選だな。俺的な絵にするのは難しいな・・・」

それを聞いたトリオの表情は一気に変わった。誰もあんたのためにいるわけじゃない。前々から噂には聞いていたが不遜な態度は有名だ。俺たちを何だと思ってるんだ?

(祓らっちゃおうか?)

(“ワシは長い物にまかれるような生き方しとうないき!”)

ハセナンが正田の袖をひっぱり、ひそひそ言葉をかけてきた。こいつに祓われたらこの世から消されるだろう。芸能界から消されるとはわけが違う。

(相手は生身の人間だ。やめときなさい・・・)

誰が聞いても頭に来るような挑発的な発言だ。でも過激なのもいけない。この手のディレクターは多い。こんな程度でやけを起こす正田ではない。任せな、とばかりハセナンの手をほどく。

「それならそれでいいよ。こちらの栗太郎さんやる気だし。本当に準備がいいよな。なあ、みんな。」

「望むところだぜよ!」

どうもこのお坊ちゃんはわかってないようだ。軽いとはいえ皆売れっ子のレベルだ。視聴率の関係ないこのディレクターに、それが理解できないらしい。映像の色を決めるのは俺だ。あんたじゃない。

「じゃあ、ここで一発もらうよ!米ちゃん、ヤスオ!よろしく!」

掛け声は正田の方が悦に入っている。現場は慣れっこだ。レポーターという種族はハプニングを好む。一気に収録の準備を整えた。手際の良さにこのディレクターも口がはさめない。

「……」

ライトいかして、カメラが手持ちでスタンバイした。正田はマイク片手にスタンバイした。米ちゃんのキューの合図に撮影が始まる。

「本日始まりました『人物アクロポリス』で探検の扉が開かれました。今からの探検の前の意気込みを聞きたいと思います。まず奈緒ちゃんから・・・」

ちょうどいい程度のフレンドリーの雰囲気で入る。

「うっす!どんな怪物でも負けないぞ!行くぞ、萌えぞぉー!」

「やや、勘違いしてますが、本気度はびんびんに伝わってきます。」

アドリブでも全然びくともしない。百戦錬磨の突撃レポーターだ。

「どの社会にも偉人はいつも存在します。激動の時代において時代を動かす方位針です。さあ、今からアクロポリスの丘に姿を現すのは、どんな人物でしょうか。時代の偉人を見つめ続けるなりきり侍の栗太郎さん、もとい、坂本龍馬さん、意気込みを一言お願いします。」

「“自分が成し遂げる物とは何ながか、今探さんと私は一生見てけられませんき!”ワシもわくわくしちょるよ。」

「こういう時、偉人の引用は説得力があります。今からの道は世紀の発見の連続か、はたまたしっとりとした人間再発見か!このメンバーでお送りします。では、せーの!」

みんなで

「いってきまーすっ!」

と手を振りつつ、バスに入って行った。出発シーンはこんなもんでしょ?

「ディレクター、OK?」

もちろんなんの打ち合わせもなく撮影した。ぽかんとしていた城島だが

「ああ・・・OK・・・」

あれだけケチ付けても、具体的にはイメージはなかった。ネガティブな言葉に支配されていたのだろう。褒め言葉は全く出ない。完璧なので一発OKだ。それぞれプロだ。本気なら自然と息が合い、OK映像にしてしまう。

「そうだな、ロケバスの移動にロケーションの説明付けますか?ねぇ、ディレクター?」

正田が矢継ぎ早に言いだすので、城島は少々遅れ気味になった。

(オッケー、流れは掴んだよ。)

「OKだってさー、バス転がす間に、米ちゃん、カメラよろしく!アクアラインのSAのショットも拾っておこうか?」

次々勝手に進める。やはり、正田とは役者が違う。なにやら不満を口ごもっているが、そんなの外っておけばいい。主導権とっておけばこちらのものだ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ