序章
マスコミ探偵三部作、男性レポーター編です。主人公・正田は犯人を暴く探偵です。しかし、姉妹作「闇の法廷『ケルベロス』」では仕事人で、人情殺人者の役目です。
地上のアクロポリスの住人に降りかかる災禍。はたして支配する神はハーデースかゼウスか・・・
東京・汐留にあるサンセットTVで今日、新番組「人物アクロポリス」の記者会見が開かれようとしていた。知名度、オーラ抜群の人気キャスター・北川クリスタルの司会の話題の番組だ。彼女は化粧品のCMで単独起用されるなど、芸能人顔負けの人気を誇っていた。彼女の祖母はイギリスの名家で、顔立ちも良く清楚で大人の魅力があった。TV局あげてのなり物入りの新番組だ。今ちょうど旬の美人キャスターだ。
キャスティングの中に正田剛という芸能レポーターがいた。かれは二十七歳で、いろいろなバラエティーのレポーターをやっている。髪の毛が後ろだけ長髪で染めている。明るいジャケットで蝶ネクタイにマイクが彼のイメージだ。かれはこの番組で突撃レポーターとして対象人物のゆかりの地にあがりこみ、私生活、生い立ちなど次々紹介すると言う企画だ。彼自身芸能レポーターとして人気が高かったが、縦軸でぶっつづけのレポートは未知数だった。現地の情報等は全て彼にまかされ、番組的には二枚看板だ。以前から北川クリスタルと番組を一緒にしたかったが、北川は報道関係、自分は芸能関係で接点がなかった。内ないで付き合いたいなあと思っているが、高嶺の花だった。芸能レポーター故にいろんな情報があった。彼女には人気男性キャスターとの噂がある。この男性キャスターは、これも人気、実力とも申し分なく、当前高学歴の名家の生まれだ。もし、こいつ相手では勝負は見えている。
「は~、話聞いた時は、よしっと思ったけどな・・・」
普通の家庭出身の正田にはゴールデンカップルなど程遠い。周りにたかるしかないのだろうな。
「やっぱ、むりっぽいな~」
二枚看板だっていっても格の違いは明らかだ。
サンセットTVに特設会見場が設営された。
「うぃーすっ!」
いつものように気楽に会見場裏に来た。会見は間もなく始まるので、そのうち楽屋から支度を終え、メンバーが集まるに違いない。
「つよしちゃん!あたしの番組の軸なんだから、しっかり頼むわよ!」
おねえ系のド派手なプロデューサー・ジョニー西がつつく。
(このプロデューサー苦手なんだよな・・・)
「北川クリスタルに気に入られなきゃ、承知しないわよ!」
プロデューサーだが、パンク系の恰好をして、あごひげの生えたマッチョだ。今回の担当だった。それにしてもキャスターに気いられないと、どういう意味だ?大人同士いろいろあるだろう。なんであんなこというんだろう。
TV局はなぜこのプロデューサーにしたかは不明だが、番組にはたして合うのかが素朴な疑問だ。
「あたし、井川智美よ。よろしく!」
見るとIDにはメイクとある。そういえば、メイクは新しい子だと聞いたよな。女性のメイク担当なのだろう。美人というほどではないが、活発そうだ。
「ああ・・・よろ・・・」
あいさつもそこそこに
「でっさー、あんた、水鳥ヒロと仲いいんだって?サインもらってくれない?あたしファンなのよ。」
「はあ?」
後からゴシップ娘と聞いた。この時は唐突で驚いたが、こんなスタッフでいいのだろうか。番組はしっとりと、大人の雰囲気で進めると言う話だが。そういえば、俺も・・・かな?やめとこう。
そろそろ出番かな?キャストもそろったし。
「それでは会見を始めます。」
会見は4人並んだ。会場は五番スタジオで、セットもしっかりしている。一時的なちゃちなセットではない。テレビ局の入れ込みの姿勢が見える。
「この新番組『人物アクロポリス』は、バラエティー人物列伝番組です。社会は何でできているのでしょうか。脈々と受け継げられた人の繋がりの上に成り立っていると言っても過言ではないでしょう。現代の偉人たちに密着し、紹介するのがこの番組です。」
北川クリスタルが番組趣旨を述べた。さすがクリスタルは話がうまい。それに、会場全体にオーラを放っている。キャスターと言うには軽すぎる感じだ。芸能人の域だ。
「それでは、このアクロポリスを探検するハンターを紹介します。現場にはこのトリオがお邪魔することになってまいす。」
北川クリスタルとは正田は初めてだ。素顔はなかなかわからないが、取材の中ではおとなのような雰囲気があると、思っている。
「まずは現場取材のレポーターの正田剛さんです。彼の“体を張ったレポート”に期待ください。」
正田は“えっ?”と思った。それって俺のセリフだろう。なんでキャストのことまでいうんだ?
「ご紹介にあずかった正田剛です。番組では・・・」
このセリフ言う予定だったのに。
「俺の十八番の『真実は暴かれた』を連発したいと思います。」
少々腰砕けになってしまった。この番組といえば、北川クリスタルと俺の二枚看板のはずだが、気に入らないのかな?
「続きまして、隣はアイドルグループ・ホワイトチョコのセンター、長谷川奈緒さんです。」
現場のレポートを面白くするためトリオを組まされるのだった。そうか。ハセナンか。彼女は今度の“総選挙”でセンター取った娘だ。今はブレザーの制服だ。ただ、別の顔も持っている。巫女ユニットを組んでいる。巫女の時最強になるのは伝説だ。今日は相棒の“萌え蔵”の姿がない。当然か。危険だよな。
こうみるとベストメンバーだ。ハセナンといえば必殺技が・・・またにしよう。
「ハセナンでーす。偉人は教科書に載っているだけじゃないぞー!今の日本、たくさんの偉い人が生きているのだっ!おっ楽しみに!」
「そして、今回お笑い担当のなりきり侍・栗太郎さんです。今回は“坂本竜馬”のようです。」
ハセナンの隣の侍姿の男がいる。年齢は四十歳。中肉中背だ。美男子ではないが、悪くもない。顔は細面だ。坂本龍馬風の衣装に座ったまんま、顎に手を添えている。お笑い界では武将をまねて登場するのが芸風だ。西郷隆盛、織田信長、豊臣秀吉など体格が違っていても無理やりにまねると言うのだ。初回は別に高知県ではない。
「紹介された栗太郎だぜよ。一生懸命頑張るがやき、応援お願いするがで。“今一度、日本を洗濯致し候”・・・」
「はいはい、十分です。それに無理な土佐弁はやめましょう。標準語でお願いします。」
「はい、なりきり侍の栗太郎だぜよ。よろしく!」
「最後まで龍馬さんね。このメンバーで番組を盛り上げたいと思います。」
「あ、あ、ちょっと待って。俺は龍馬をやるっす。よろしく!」
生まれは埼玉らしい。普段は普通のアラフォーだ。会見は順調に進み終了した。
「お疲れ様・・・」
取材陣を残し、袖に下がった。
「いいわよーん。これからよろしくね!」
ジョニーが上機嫌だ。北川クリスタルが寄ってきた。あらためて挨拶だろうか。
「正田さん。どうも軟派に進みそうだけど、しっかりしてくださいね。」
ちょっと変だ。表情が冷たい。
「メンバーが軽いのよ。あなた含めて!」
あっちゃーっ!そういうことか。確かに軽い連中ばっかりだ。彼女のイメージだと報道番組とでも思っていたようだ。自分が担当なら報道と思っていたのに、自分以外バラエティーなのだ。先ほどの発言は、その不安の表れだったのだ。
つまり、俺たち信頼されてない・・・。それにしてもあんなイメージ初めてだな。つんつんとして廊下を歩いて行った。今は冬。収録、編集が終わって春の新番組「人物アクロポリス」は始まる。
「おい・・・大丈夫かよ・・・」
正田は正直そう思ってしまった。