第五話 眩しい世界
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(あぁ、やっちゃった…。姐さん相手に怒鳴りつけるなんて…。全部解決したら酔い潰される程度で済むかな?)
ヤマメもまた後悔していた。が、すぐに頭を切り替えることにした。
(今はこいしのことだね。とりあえずキスメに話つけないと)
ヤマメが自分の中で結論を下すと同時にキスメの住む井戸に到着した。ヤマメは自分の顔を揉みほぐして、「いつものヤマメ」でキスメをよんだ。
「おーい。キスメはいるかい?」
そう言って井戸を覗くと中には誰もいなかった。誰かのところに行ったのだろうか?と考えて首をかしげようとした時、頭に衝撃がはしって井戸に落ちそうになってしまった。
「あいだっ!」
「いっつも中に居るとは限らないよ~」
上から”降ってきた”のはキスメだった。どうやらヤマメが来るのに合わせて悪戯を仕掛けたようだ。いかにも笑いが止まらないと言った具合のキスメがヤマメの横にあたる井戸の縁に桶ごと乗っかった。それを見たヤマメは頭をさすりながら苦笑した。
「いった~。久しぶりに直撃でくらったよ…」
「油断してたもんね~。それに、なんか悩み事?」
ずばり言われてちょっと驚いたヤマメだったが、その事を話す話さないは別にして先に用件を伝えることにした。
「いや、悩み事ってほどじゃないけど―」
「嘘。顔、揉みほぐしてたでしょ。何かを隠す為に演技するときはいつもやってるもん」
「そこまで見てたのかい?まぁ、その事も話すけど今は別の用事できたんだ」
「?」
キスメの観察眼に再び苦笑しつつこいしの事を説明した。
「こいしって人って、あの巫女と魔法使い相手に絶叫しながら戦ってたひとだよね?」
するとキスメはそんな事を言ってのけた。その事にヤマメは眼を見張った。
「そうなの?」
「確か。地霊殿のさとりさんの妹だっていってたんだって」
「ん?又聞きなのかい?」
「うん。萃香さんからきいたよ。博麗神社で弾幕してるとこ見たんだって。見たかったなぁ」
「へぇ、後で聞いてみよ。とにかくその子がすごく人見知りでさ、お姉ちゃんの前に出る事さえ怖いんだって」
「…そうなの?なんか随分伝え聞いた印象と違うから違和感がするよ…」
「あたしは逆に絶叫するところが想像できないんだけど…」
若干人違いではないかと言う話にもなったが、とにかく翌日に約束をこぎつけてヤマメは別れようとした。がそうはいかなかった。
「それじゃあ、明日の九時だよ!」
「待ってヤマメ」
「?」
「ヤマメの悩み事、まだ聞いてないよ」
ごまかされたと感じたのか、キスメはご機嫌斜めだった。桶の縁に口を隠してじぃっとヤマメを見ている。実を言うとこいしの話が意外で忘れていたのだが。
「折角忘れてたんだけどな…」
「ぅぐ…でも聞きたいし。もしかしたら気を使ってたのかと思って…」
ヤマメの発言に申し訳なさからか縮こまるキスメ。その頭を優しく撫でながらヤマメは笑った。
「きにしちゃいないよ。ただ、姐さんと喧嘩したってだけさ」
「え?それって結構大変なんじゃ…」
「どうってことはないよ。こいしをさとりさんに会わせたいってところは一緒みたいだし。ただ、ちょっと食い違っただけだから」
「…無理しちゃ駄目だよ。勇儀さんは優しいから大丈夫だとは思うけど…」
「そうそう、あの人の事だし。きっとあたしがこいしのために動いてる事も通じてる。だから怒っちゃいないと思うよ」
そう言って今度こそ二人は別れた。ヤマメは旧都のメンストを歩きながら呟く。
「殻の外に出れば、こんなにも眩しいのにねぇ」
ヤマメの呟きは風に乗って雑踏の中に消えていった。
随分間が開いてしまいすみません。
今後も超不定期更新ですがよろしくお願いします。