第四話 すれ違う思惑
さとりのために少しでも早く会わせてやりたいと考える勇儀。
こいしのために少しでも慎重に進めていきたいと考えるヤマメ。
二人は同じ事を目指しているのに―。
無意識から出る。とは言ったもののどうすればいいのか見当が付かなかった。
「う~ん…。とりあえずあたしの友達にあってみるかい?」
「嫌、怖いよ」
「大丈夫だって。向こうも恥ずかしがり屋だけどいい奴だから」
「……」
それでもこいしは人前に自ら姿を見せる事自体に対する恐怖が拭えない様子だった。眉尻が下がっていて、怯える小動物みたいになっていた。もしここに霊夢や魔理沙が居たら、別人だと言うかもしれないぐらい縮こまっていた。
それをみてヤマメは苦笑しながら言った。
「大丈夫だよ。三人とも似たようなものさ」
「…三人もくるの?」
ついに目をそらしてしまうこいし。ヤマメはこいしの震える手を優しく握った。
「いや、こいしと、あたしと、キスメ…って言うのはそのあたしの友達の名前ね。三人とも自分の居場所を探してたってこと。」
「ヤマメも?」
「うん。あたしだって昔は虐められてこの地底に逃げてきたんだ」
「…意外かも」
「よく言われるよ」
そう言ってヤマメはニカッと笑って見せた。
(私もいつか、こんな風に笑えるのかな…)
「こいしにも『意外』って言われる時が来るかもね。あたしにだって出来たんだから。覚でも土蜘蛛でも関係ないよ」
この時こいしはヤマメが本当にまぶしく思えた。
結局そのあと、明日の九時に地霊殿に向かう橋の上で待ち合わせをする約束をしてから別れた。
「怖がらないでいいからさ、ちゃんとおいでよ?」
ヤマメはそう言って走り去って行った。
*****
「ヤマメ、ちょっといいかい?」
「おや?どうしたんだい姐さん?」
勇儀は走ってきたヤマメを呼びとめた。さっきまでヤマメが”誰と話していたのか”が気になったのだ。
「お前さん、今誰と話してたんだい?」
「え?こいしだけど…」
勇儀はヤマメの回答に耳を疑った。あの子はどうコンタクトを取ろうとしても返事をくれないのだから。今しがたさとりの声を聞き入れずに地霊殿を出ていったばかりだというのに、ヤマメと会話していて、なおかつ親しげにしているのが信じられなかったのだ。
「!?こいしって古明地の妹さんかい?」
「そんなに驚いて、どうしたってのさ?」
勇儀は今さとりがどんなふうにしているか。こいしの事をどんなに探して、心配しているかを伝えることにした。
「実はな、さとりを知ってるだろう?」
「地霊殿の主の?」
「あぁ、そのさとりがこいしを探していてな。…ただ、どうにもこうにも尻尾が掴めないんだ。会えない時間が長引いているせいか、色々と心労を患っているみたいなんだ。私としてもなんとかしてやりたくてな…」
「そんな事になってたのかぁ…」
「だから今すぐにでも会いに行かせてやれば―」
「そ、そいつは駄目だよ!」
ヤマメは自分でもびっくりするほどの声で勇儀の提案を却下していた。
「…っ。ごめん、でも今はまだ駄目なんだ」
「そいつはどうして」
「いま、こいしは大事な一歩を踏み出そうとしているんだ」
「さとりに会わせてやる事は出来ないのかい?」
「そのための一歩なんだ。今焦って失敗したら、きっとまた籠ってしまう」
要領を得ているようで微妙にぼかした言い方に勇儀は煮え切らない思いを募らせ始めた。
「そんなの分からないじゃないか、会わせてみないと」
「あたしにはわかるんだよ」
「なんでそんな事が言えるんだい!」
「あたしがそうだったからだよ!!」
「…ッ!」
「これ以上はいくら姐さんでも言うつもりはないよ。ただ、今はそっとしておいてあげて欲しいんだ」
そう残してヤマメは去って行った。その場には踏み込んではいけない事を言わせてしまったに対する後悔をにじませた勇儀が佇んでいるだけだった。