私が逃げたい理由
「ということで帰っていいかな」
「何がということでだ、全然説明になってないだろうが」
「ちっ、流されないか」
「リリィ、女の子が舌打ちするものではないぞ」
トリアの指摘に自分を除く全員が頷く。
「はいはい、気をつけます。で、私がシアン侯爵家の人間から逃げている理由だけど」
「彼らの不利益になることでもやらかした?」
オリバーのその言葉にカチンとくる。人を問題児扱いしないで欲しい。まぁ、世間一般の子よりは扱いにくいけどね。
「べっつに~、変態野郎を退治しただけ。まぁ、そのせいで上層部の処分待ち。それでその苛立ちを学校でカツアゲしようとしてた不良にぶつけたら停学処分になっただけ」
その説明にみんな言葉を失う。反応は、様々でセシルは変わらず侍女スマイル。トリアは、苦笑。カインは、呆れ顔で反対にオリバーは、楽しげだ。
「そろそろバレてる頃だからさ、会ったらお説教とマナー講習が待ってるのよ。いい迷惑。私は別にお嬢様目指してないもん!」
「いや、お嬢様云々は別として普通にお小言の一つは言いたくなるだろう」
「リリィ、異性相手にあまり無茶をするな。どうしても男女では力の差が出てくる。いくら君が強いのだとしてもだ」
「はーい。ということでそろそろ帰るね。あんまり長居すると家族が心配するから」
「…………残念だが仕方ないか。きっとご家族も心配しているだろうからな。セシル、リリィの洋服のクリーニングは終わったか?」
「はい、今からお持ちします。殿下もくれぐれも油断なさらないように」
「だから、何もしないってば…………」
リリアナの言葉を見事にスル―したセシルは、部屋から足早に出て行った。彼女の態度はトリアの護衛としては当然だから別にいいけど、何でこんなにも神経質なのだろう。トリアだって軍人ならある程度の訓練はしているだろうし、ここが基地内ならすぐに味方が現れるだろう。それにここが基地内と聞いてちょっと違和感があるんだよね。
何よりこの部屋の作り。応接室兼執務室があって奥には寝室、お風呂とかに繋がっているんだけど、部屋にある調度品は見ただけで高価と分かる物が多い。物としてはロココな感じの品々。昔のヨーロッパの王侯貴族の物って言えば分かりやすいかな。
うん、宮殿にある部屋をそのまま移しましたって感じ。それのどこがおかしいって? 王族だから当たり前じゃないか。それが違うんだな。軍施設にある住居ってシンプルなんだよね、普通。あと室内の作りも全部屋だいたい一緒の場合が多い。一度だけ行ったシアンの軍施設はそんな感じだった。いくら王族が住む部屋だからってこんなに豪華にしないものだ。
まぁ、何か事情がるのかもしれないからつっこむのは野暮だよね。
そんな事を考えていると突然、オリバーが声を上げる。実に楽しそうな黒い笑みを浮かべて。あぁ、さっきの失言がここまで尾を引きますか。
「リリアナ。君さぁ、変態をのしたくらいで処分を受けるって、一体どんだけ痛めつけたんだよ」
「うわっ、ここで話をそこに戻す? 人が触れられたくないことに。…………別に相手の大事な処を機能不全にする一歩手前までにしたくらいだよ」
「お前という奴は…………」
「え~、だって相手は変態だよ? じゃあ、カインはさぁ自分より十五も下の未成年の女の子を部屋に連れ込んで襲っちゃうわけ?」
「するか!! 逆にそんな奴が目の前にいたら何か理由を付けて始末する」
「でしょでしょ。もう、いい加減うざかったんだよね。お姉ちゃん達に振られたからって妹の私をターゲットにするなっての。本当にいい迷惑だよ」
「リリィには、姉上方がいるのか?」
「うん。兄三人と姉二人とあと双子の片われがいる。それが皆そろって才色兼備でさぁ~、円卓同盟でも幹部候補なの。そんなだから姉や双子の片われには手がだせない奴らがそのうっぷんを私で晴らそうとするんだ。だから下部組織に配属された時は、万歳三唱したよ。それなのにたまたま仕事関係で本部に呼ばれた時に事件は起きたのよ」
「苦労しているんだな」
「まぁ、油断してた私にも責任がいくらかはあるしね。急ぎの用件だったから、姉や双子の片われに一緒に行ってくれるように頼まなかったのがそもそもの原因だし」
そう、だからこそ早く帰りたいんだよ。きっと今頃、姉達が暴れ出している気がするんだよね。あんな事があったばかりだから。
とりあえず、死人が出ていないことを祈ろう。