口は災いのもと
「リリィ、大丈夫か? セシルも謝れ」
「いいよ、謝らなくても。セシルさんじゃなくても胡散臭いって思うだろうし」
「しかし……」
「ただこれだけは言っておく。私は、トリアに危害を加えるつもりはない。それにさっきから言ってるよね、帰るって」
今もリリアナを睨みつけるセシルを正面から見据え自らの立場をはっきりと宣言する。もちろん、視線はそらさない。そらしたら、負けだ。すると、彼女は大きな溜め息をつくなりカイン達を投げ飛ばす。そして、乱れた服を整えると優しい侍女の顔に戻った。それを確認して、そっと胸を撫で下ろす。
しかし、彼女はすぐにリリアナに詰問してきた。
「では、その異世界拾得物管理士さんにお聞きしますが何故殿下の前に現れたのです? そもそも円卓同盟とは、何なのですか?」
「とりあえず、ここに来たのは、事故。同盟は、世界を渡る術を持つ者達の集団? まぁ、私は下っ端の下部組織の人間だからよく分からない。というか上とは関わり合いになりたくない。確実に性格が歪むから」
「事故なのか?」
「私は、父親がこっちの世界の人間だから。こっちの世界の引力に引っ張られ易いの。今回は仕事関係の用事をすませて帰ろうと道を開いたらこっちに無理やり飛ばされたんだよね」
「では、やはりシアン侯爵のお血筋ですか?」
「尋問上手だね。やっぱり、隊長は違う。まぁ、一応その家系。だからこそ、早く逃げなきゃいけないの!」
「逃げるって……。お前は、何をやらかしたんだ」
セシルに連続して飛ばされたカイン達が足元をふらつかせながらもこちらに戻って来る。その姿にさすが本職の軍人だなぁと素直に驚く。それほどまでにセシルの蹴りは、はんぱなかったのだ。
「さっきは、ありがとう。ただの口うるさい男と腹黒美少年じゃなかったんだね」
「お前は~、素直に礼の一つも言えんのか」
「少年? 僕は、カインと同い年なんだけどね~」
「ちなみにカインって何歳なの?」
「来月で28だ」
「へー、でも若く見えるっていいことだと思うよ。その内嫌でも老化現象が起こるんだし」
「いい度胸だね。この状態でそれだけ頭と口の回転が衰えないなんてさ。どっかの馬鹿どもにも聞かせたいよ」
楽しそうに笑うオリバーと視線があった瞬間、ゾクリと寒気がした。あれだけ楽しげな顔をしているのに目がまったく笑っていない。
(まずった。オリバーの地雷踏んだかも)
とりあえず、トリアの隣に急いで移動する。すると彼女は、苦笑してリリアナを抱きかかえソファーに座った。そしてセシルに改めて全員分のお茶を入れるように指示を出す。
その間、黒いものをゆらゆらと発しながら空いているソファーに向かって歩いてくるオリバーから逃げるようにぎゅっとトリアに抱きつく。
やつもさすがに主にギュッと抱きつく人間には手を出せないようで思い切り舌打ちをすると黙って空いている席につく。
(うん、帰るまでここにいよう)