逆らわないようにしよう。
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ここがシアン侯爵の自治惑星上空なら来る。絶対に来る。自分にとって恐怖をもたらす存在が。次兄という名の悪魔が。でもさすがにここにいる事は、すぐには知れ渡らないはず。なら、ばれていない内にさっさと帰るしかない。
「トリア、私そろそろ帰ることにする。ううん、帰る」
「帰すわけないだろうが!」
「あぁ、うるさいなぁ。男のくせにヒステリー起こさないでよ」
帰ると宣言した途端、騒ぎだしたカインにうんざりしつつ席を立つ。そして自分と一緒にこの世界に落ちてきた古い皮鞄に手を伸ばす。しかし、体が縮んだせいか少し持ち上げるのが限界だった。仕方なしにそのままズルズルと引きずる。テーブルの上に持ち上げる為、鞄を抱えようとしたところで横から手が伸びてきた。その手は、軽々と自分の代わりに鞄をテーブルの上にのせてしまう。
(縮むって本当に不便だ)
心の中で愚痴りつつ、手伝ってくれた人物を確かめようと手の持ち主に目をやる。手伝ってくれたのはオリバーで、相変わらず何を考えているのか分からない笑みを浮かべていた。
「ありがとう」
「どういたしまして。実は気になってたんだよね、その鞄。君が殿下の着せ替え人形になってた間にちょっと見せてもらってたんだけど、何をしても開かない。その上、留め金には、鍵穴が一切ない。不思議だよね」
「別に普通の鞄だよ。『開錠』、ほら開いたでしょ」
(まぁ、私の言葉がなければ開かないけどね)
鞄の中を漁りお目当ての物を探す。その過程で背後から大きな溜め息が二つ聞こえた。一旦、手を止めて振り返る。するとカインが呆れたように首を振った後、自分が鞄から取り出した荷物の山を見つめながら何かブツブツと呟いているし、オリバーまでもが手で口を塞ぎながら首を振っていた。
「何よ、言いたいことがあるなら言えば」
「お前、女だろう?もう少し整理整頓をだなぁ」
「うん、今のうちからきちんとしたほうがいいよ」
真剣に諭されると素直に受け入れがたいのは、何故だろう。
「別に困らないもん。私は、ちゃんと中身把握してるから」
「そうは言ってもだな。おい、洋服ぐらい畳め! シワがよるだろう! 貸せ」
そう言うなりカインは、リリアナの荷物の山に手を伸ばし片付け始めた。
(おい、乙女の下着の替えまでちゅうちょなく触るとはどういう事だ。その上、私の体。特に胸を見て首を傾げるな~)
ついに我慢の限界が訪れた時だった。いきなりカインとオリバーが吹っ飛んだ。何が起きたのか理解出来ずにいると地を這うようなおどろおどろしい声が響く。
「女性の荷物を許可なく触れるなどありえません。一度死んで学び直してらっしゃいな」
そこにいたのは、侍女の制服の裾をたくし上げたセシルさん。二人が吹っ飛んだのは、彼女の超高速の回し蹴りをくらったため。後から聞いたけどセシルさんは、侍女じゃなくて二人の上官でトリア専属の近衛隊員なんだって。うん、これで誰に一番逆らっちゃいけないかが分かったね。