式典<2>
ついに車が式典会場に到着した。サイラスは、緊張する妹の頭を軽く撫でると外の人間へ手を挙げて扉を開くように合図を送る。すると、扉が開き目の前には見慣れた式典用の赤絨毯が目に入った。
「さぁ、行きますかね。お手をどうぞ、お姫様」
「…………ムカつく」
自分の緊張を和らげようと冗談めかして声をかけてくれる兄の気づかいに感謝しつつも素直になれないリリアナは覚悟を決めて目の前に出された手を取り車外へと一歩踏み出した。すると、待ちわびた人物の登場に聴衆のボルテージはいっきに上がり歓声が鳴り響いた。その圧に押されながらも何とか微笑みを浮かべると用意された車椅子へと腰を下ろした。
(…………早く帰りたいかも。私を見て何がそんなに嬉しいのか分からない)
「姫様。大丈夫です。彼等はただのホログラムとでも思ってください」
「フィリップ、流石にそれはないでしょう」
「私にとっては姫様達以外は、いてもいなくても一緒です」
「仮にも国を守る軍人の言う言葉じゃないけどね」
「さぁ、参りましょう」
フィリップの極端な思考から繰り出される言葉に呆れつつ、前へと進み出す。自分の世界と違ってこの国の車椅子は快適だ。ある程度の段差はエアジェットで浮かび上がるし、いざとなったらかなりの強度のシールドで覆われるため例え何かが起きても余程の事がない限り安全らしい。運転も自動なので本来は人が着く必要もないのだが、そこはVIPなのでいざという時の対処要員が必要とのこと。
(まぁ、意外に何とかなりそうかな)
左右の列にそれぞれ手を振りながら笑顔を振りまくとそれはそれは嬉しそうに声をかけてくれる。特に年配の人達の反応が凄まじい。こちらを見て祈りの仕草をする一団もいる。
「姫様、数メートル先の区画がマスコミの区画になりますので、そこで一旦足を止めてサイラス様とフォトセッションを行います」
「げっ、また写真。みんな、本当に好きねぇ。あれだけ、写真を事前に提供したのに」
「やはり、当日に撮るものは違うのではないでしょうか」
「はいはい、精一杯お姫様スマイルとやらを振りまきますか」
「その調子です」
「…………ねぇ、マスコミの人達。区画から飛び出てない? 手前の子供達が潰されそうなんですけど」
「係は何をしている! …………分かった。いざという時の為にその一団の後方に待機しろ」
フィリップが通信機で会場の案内係に確認を取る。その苛立ちが混じった声色から想定外の出来事が起きているらしいことが分かった。まぁ、これだけの規模の式典だ想定外の一つや二つ起こるだろうし、慌てても仕方がない。一族の式典の際は同じように下っ端として会場係をすることが多いのでその苦労は知っている。
「姫様、あのマスコミが飛び出ている個所はそのまま素通りします。彼等が何かを言っても止まりません。ルールを逸脱しているのは彼等なので」
「そうね、文句は飛んでくるでしょうけど仕方がないよ。ただ、手前の子供達が巻き込まれないかが心配。ほら、お花を持っている子達」
「後方に人を配置させました。いざという時彼等が対処します」
「…………でも間に合う? だったら、こういうのはどう?」
フィリップの耳元でリリアナはある提案をする。
「それは危険では」
「彼らはスクープ写真が欲しいんでしょ。一枚提供してあげれば喜ぶし。あの位置なら隣の区画のマスコミからも見えるだろうし、そちらから人が流れないように人員を配置すればいざという時に最前列の子供達も守れるでしょう?」
「承知しました、その様に人を配置いたします」
「さて、一世一代のお芝居を開始しますか」