顔合わせ
広報課から転属で侍女となったアリエル・バレーヌ。あの兄様の下で仕事をしているだけあって采配に無駄がない。濃い茶色の髪をバレッタで止め侍女の制服に身を包んだ彼女は、テキパキと自分の式典用のドレスを選び他の侍女に指示を出している。
「本日は、皇女殿下をこの惑星にお迎えする為の記念式典です。姫様にとって初めての公務ですがご安心を。殿下にお許しを貰い車いすでの参加が認められておりますので」
「別に立って参加すればいいじゃない」
「姫様の病弱説を決定的にする為です。今回の式典はシアン侯爵領の全ての民が目にするでしょうから」
「まぁ、兄上の結婚だしね」
「それもあるでしょうが、姫様のお姿を拝見したいという民の希望がありますから」
「まぁ、その分警備体制を整えるのに時間がかかりましたが」
「フィリップ。時間がかかったのは、あなたのせいだと思うけど」
扉近くに立つ男をジロリと睨むが全然気にすることなく涼しい顔をしている。このフィリップ・ガネルという男は、シアン軍の誰もが恐れる人間で死の天使との異名を持っているのだ。外見は、甘いマスクの美青年。しかし、中身は…………。
とりあえず、何も起こらないことを祈るのみ。
「だいたいあなたが監督したわたしの護衛官選抜テストに問題があると思うんだけど?」
「ふっ、あれしきの試験で音を上げるようでは姫様の護衛官は務まりません」
「参加者百名のうち八十名を病院送りにしておいて言う台詞じゃないわよ。サイラス兄から苦情が来たわよ」
「姫様、そのおかげで精鋭の護衛官がそろいましたわ。さすが、フィリップ殿です」
「アリエル。あのねぇ、わたしに精鋭付けてどうするのよ。普通、兄上とトリアに付けるべきでしょうが」
「もちろん、そちらも精鋭揃いですのでご安心を」
自分の言葉に全く聞く耳を持たない二人に見切りをつけると、手元の書類に目を通す。内容は、本日の式典の概略だ。正午、空港にトリアを乗せたシャトルが到着。その後、元王宮で現在は政府が置かれているシアン宮で式典とパーティー。招かれているのは、各自治惑星の外交官とこの惑星の政財界の人間に皇帝からの使い。
「うわぁ、これだけの人間が来るってことは何か起こるよね。絶対に」
「その為の警備ですわ。姫様に傷一つ負わせません」
「いやいやいや、招待客を守らないと」
「今回の招待客は全て穏健派の方々です。まぁ、表向きはという言葉はつきますがね」
「あぶりだしか…………」
「姫様は、ご自分のお仕事をなさればいいのです」
「当然。やっかい事に首を突っ込む気はさらさらないわ」