侍女と護衛
「とりあえず、つねにつける人員は二名です。侍女と護衛各一名づつ。もう数人つける予定ですが選抜が終了していないので。二人は私の部下ですから問題ないです」
「え? 兄様の部下? それは遠慮したいな…………。ほら! いざとなったら道を開いて逃げればいいんだし!」
「それは最終手段です。専属侍女とはすでに顔合わせが終わっています。彼女なら問題ないでしょう」
すでに顔合わせが終了している。その言葉にある女性の姿が浮かんだ。もしかして、彼女がそうなのだろうか。
「もしかして広報のアリエルさんとか?」
「正解です。彼女は、今は広報課ですが昔は軍にいた人物です。いざとなれば、護衛としても活躍してくれます」
数日間、一緒に行動していたアリエル・バレーヌという女性。大分、侯爵家に心酔気味なところはあるが明るく、気配り上手。時々、暴走気味になるあのハイテンションさえなければ完璧な人物だった。
「明日から早速着任します。それと彼女にさん付けはなしです。貴女は彼女の主なのですから」
「…………はい。で、護衛は?」
「護衛は…………、フィリップ・ガネルです」
「え! 兄様、死人出す気なの?」
「念の為です。彼なら確実に返り打ちにしてくれるでしょう」
「返り打ちにしたら駄目でしょ? 捕縛して尋問しなきゃ意味がないよ?」
フィリップ・ガネル。シアン領軍の特殊部隊班に所属する軍人で、本来の仕事は基本的に殲滅作戦を取るのが主流の部隊にいる人間。護衛にはまったく向かないタイプだと思う。それに彼は死の天使として皆から恐れられている存在だった。
「私もそう思ったのですが、選抜テストに志願してきたのです。もちろん、死人は出してません。貴女の護衛に志願してきた有能な人物です。上に立つ貴女が御すればいいのですよ」
「そこで視線をそらさないでよ。兄上?」
「彼以上の優秀な人物はいないから仕方ないのだ。それに昔からリリィの言う事はよく聞くだろう?」
「もちろん、私の事を大切にしてくれているのはきちんと理解してるよ。私は、好きだしね。ただ、私が怪我しようものなら何が起きるか分からない。責任が持てないんだよね」
「リリィが意識を失い、命令出来ない事態にならなければいいだけです。この機会に守られるということを身につけなさい」
その言葉に憂鬱になる。自分の性格からして一番向かない事柄だから。そもそも物心つく頃から様々な武術の鍛錬をしている自分に守られる事が出来るのかいささか不安だ。攻撃をされたら無意識に闘争心に火がついてしまう。
「…………努力します」