私が落ちた国
まずは、落下した父の故郷であるこの国について軽く説明したいと思う。
国の名前は、ウィスタリア皇国。首星である惑星と皇家を支える五侯爵が治める自治惑星からなる国で、議会制の民主主義ではあるけれど最終的な決定権は今も皇帝が持っているらしいです。
ヴィクトリアは「現皇帝の第2皇女であり宇宙軍の士官である立派な方なのだ」とカインは鼻息も荒く説明してくれた。
「…………うん、トリアが立派なのは分かったよ。分かったから私を解放してくれないかな」
「突然現れた不審者を取り調べもなしに解放するわけないだろう」
「私、こんなに小さいのに」
「ふん、見たところ15歳程だろう。そこまで育って幼子を語るな」
「立派に子供だもん。………………ヒスじじぃが」
「何だと!!」
「よさないか、カイン」
「そうだよ、大人げないし。それに精神は成長しててもまだ肉体が追いついてないんだから、彼女の言う通り子供だよ」
そうこの国の人々は、地球人とは違い長命で肉体の成長速度はかなり遅い。つまり、自分は立派な子供。だから、早く街に解放してくれないかな。そしたらさっさと帰るから。
「リリィ。ここは軍施設だからね、カインの言う通り君をすぐに自由にするわけにはいかないんだよ。それに私も色々聞きたいことがあるからね」
「話すことなんかないよ。というかそろそろ離してくれないかな~」
「待ちなさい、もうすぐ終わるから」
「えぇ~」
「そうですわ、あとリボンだけですから。ね? さぁ、お菓子をどうぞ」
そう言ってお皿にケーキを載せて手渡すのは、セシルという女性でトリア付きの侍女さん。さっきトリアと二人で山のような服を持ってきた人。
そして現在自分はどうしているかというと着せ替え人形になっています。
二人にあーでもないこーでもないと着替えさせられること十回。その結果、薄紫の布地で裾にレースをあしらった長袖タイプのワンピースに着替えさせられた。そして、仕上げとばかりに髪を編みこまれてます、嬉々とした表情のトリアに。
(もうどうにでもなれってんだ)
諦めの境地に達し、抵抗を放棄して渡されたケーキを頬張る。その姿を見て何やら頷く人間と目が合う。すると彼はにこりと笑ってこちらへ近づいてきた。
「どうやら彼女は、奴らとは無関係だね」
「は? どうしてそんな事が分かる」
「もし彼女が本物の刺客ならば、敵に出された食べ物を平然と口にしないよ。まぁ、どういった人物なのかというのは非常に気になるけど」
「だから、家に帰るからさっさとここから出して」
「リリィ。ここから出たら君は死ぬよ」
「何で? 不法侵入で殺されるの?」
「いや、そうではなくて。この軍施設は惑星上空にあるコロニーだからね。外は、宇宙空間だから出た瞬間死ぬぞ」
「そうなの? 危ない、危ない。うーん、じゃあ牢屋にでも放りこんでおいてくれると嬉しい。というかむしろ希望?」
「君みたいな可愛い子を牢屋になんか入れられるはずないだろう!!」
「あっそ。でも、私は何にも話さないし。留めておいても経費の無駄だよ」
「それならいいさ。いつまでも側においてこうやって愛でるから」
「げ! トリアってそっちの人!!」
「動かない! 私には異性の婚約者もいるし、彼と添い遂げる覚悟もある。ただ、可愛いものを愛でるのが好きなだけさ」
自信満々に言い切るトリアにカイン達は、溜め息をつく。
「別に私可愛くいし。普通だよ、色味がめずらしいだけで」
「何を言う。リリィは、十分美人だ。君は、大きくなるにつれて花開くタイプだ! 私が保証する」
「そうだね。その白金の髪に紫紺の瞳は、素晴らしいよ」
「はいはい、どうも。褒めても何も出ませんよ。ねー、ちなみにここは首星の上?」
「いや、惑星シアンの上だ」
「ちっ! よりにもよってシアン。最悪だ。早く、帰りたい。ね~、本気で解放してくれないかな? 早くしないと悪魔が来る」
「悪魔?」
「そう、悪魔! 人の弱みを笑いながらつく最悪な悪魔が来る」




