兄の結婚
「今日はリリィに伝える事があって来ました」
「何?」
「あなたに付ける専属侍女と護衛が決定しました」
「別にいらないよ。そりゃ人前に出なきゃいけないだろうからその時は付けてもらってもいいけど。専属はいらないんじゃない?」
決定を拒否しようとする妹にアベルは苦笑した。仕方なしに兄に視線をやるとそれに答えるようにエヴァンスは頷いた。
「リリィ、悪いがこれは決定事項なのだ。これから少々周りが物騒になるからね。まぁ、君が彼等の標的になることはないだろうが念の為にな」
「物騒? 何それ、聞いてないんですけど……」
「実は私の結婚が決まってね」
「おめでとう!」
「あぁ、やっとお迎えする事が出来る。父上の事が公になった今なら反発も少ないだろうから」
「反発? だって皇女様でしょ?」
「リリィ、我が皇国の成り立ちは分かってますね」
「一応は…………」
ウィスタリア皇国は元々それぞれが独立した国家だった。しかし宇宙へと進出し始めると状況は一変する。元々この宙域は科学の進歩が遅かったのだ。その為、他の宙域の各惑星国家が同盟を作り利権を求めどんどんと活動範囲を広げて行くのに乗り遅れた。そんな状況に危機感を持った各惑星がウィスタリアの呼びかけに答え、一つの皇国となった。
「でもさぁ、不思議だよね。普通は自分達こそ皇帝になって主権をその手にってならない?」
「元々、争いを好まない種族ですからね。他星系に住む人々とは寿命等々違いますし。その事がはっきりしてからは、我々を恐れているようです」
「確かに身体の作りから能力から差があり過ぎだもんね。科学水準が上がったら必然的に力関係は、逆転するだろうし。で、何で兄上の結婚で物騒になるの?」
「それぞれの惑星に住む人々にとって自分達の君主は、今も各侯爵家という意識が強いのです。こればかりは我々にもどうしようもないのですよ。それでも表向きはうまくいっていたのですが、父上の件でますますその傾向が強くなりまして」
「あー、何となく分かるかも」
「父上が戦死したせいで国民感情が一気に爆発し、再独立の機運が高まりまして。そのせいで殿下を地上にお迎えすることが出来なかったのです。しかし、父上の生存と貴女方の存在が明らかになったおかげでその空気は一変しました。これはいい機会なのです」
(ついでにテロ行為に及びそうな団体を潰す気なんだな)
アベルの瞳が一瞬、ぶっそうな光を宿したのを直視してしまいリリアナは鳥肌をたてる。この兄を見ると思う。本当に自分達は争いを好まない種なのかと。