自由を返せ
「姫様。あと一枚で終わりますのでこちらに視線を……」
「リリアナ、あと少しだから我慢しなさい。今日の取材はこれが最後だ」
「…………はい」
エヴァンス達に捕獲されて一週間。
ウィスタリア皇国全土に衝撃のニュースが流れた。セラトラム戦役で死亡したとされていた前シアン侯爵の存命と新たなる家族について。その情報はまたたくまに皇国全土に広がり人々に驚きを与えた。そしてその真偽を確かめるべく皇国全土からマスコミが押し寄せることになりその対応に追われる毎日。いい加減にしろと叫びたいのをグッとこらえ人々が望む姿を演じるリリアナの疲労も限界まで来ていた。
(そもそも自分に病弱キャラは無理だから。どこから見たって健康優良児でしょうが!)
しかしアベル達の情報操作は完璧で、世間ではリリアナ=病弱という図式が見事に出来上がってしまった。
「お疲れ様です。今の取材で申し込みがあった分は終了です」
「そうか。これでしばらくはゆっくり出来るな。リリィ、お茶にしよう」
「私なんか取材して何が楽しいわけ? 意味が分からない。そもそも父のことはいいの? つっこみどころ満載でしょう?」
「父上は…………うん。カリスマ性があった。だから割と父が白と言えば白になる風潮が少し残っていてね。リリィに関しては純粋に興味だろうね。何せ父上の血をひいた娘は今までいなかったし」
「でもね。私は一応仕事でこっちに来ているわけで、病弱キャラなんて作られたら動きにくいんですけど」
「メイクや服装を変えれば人の印象は変わる。人の記憶というのは案外あいまいだ。髪や瞳の色を変えたら分からないと思う」
「ふぅん、そんな簡単にいけばいいですけどね」
「ずいぶんとご機嫌ななめだな、うちのお姫様は」
「けっ、あれだけ日程詰め込まれたら誰でも嫌になるわ」
そう取材だけならたいしたことはない。ほとんど会話は記者とエヴァンスの間で交わされ、自分は時々相槌を打ったり笑ったりするだけですんだ。一日の取材件数も侯爵の仕事の都合上、十件あるかないか。だから我慢は出来た。むしろ我慢が出来なかったのは、もう一つのほうだ。
「アベルからの宿題はそんなにつらいか?」
「つらいに決まっているでしょうが! あのね、ここは私が生まれた国じゃないんだよ? 読み書きとマナーは何とかなるけど、歴史とか細かい生活習慣はどうしようもないの! それを一気に叩きこまれるんだよ? 自慢じゃないが頭は悪い方なの」
「それは自慢することではありませんよ」
後から聞こえた声にリリアナはビクリと身体を震わせる。そして恐る恐る振り返るとそこには予想通り彼女を苦しめる悪魔が立っていた。いったいいつの間にこの部屋に入ってきたのか、何より後に立たれていたのに全く気配が感じられなかったことに背筋がゾクリとした。
「アベル、あまりリリィをいじめるな。一生懸命努力しているだろう」
「甘い、兄上は本当に甘いですよ。いいですか? 彼女は我がシアン家唯一の娘です。これからうるさい虫がたかることは決定事項。それらから身を守るには完璧でいなくてはならないのです」
「だそうだ」
「だったらお披露目しなきゃいいじゃん!」
「却下です」
「私の自由な生活を返せ~!!」