騒乱の日々の幕開け?
「さぁ、こちらを向いて下さい」
「嫌だ」
「嫌だじゃありません。あと数枚ですから」
「もう何百枚と撮ったじゃない!!」
「いいえ、あと五種類は衣装を変えて撮りませんと…………」
「もういい加減にして~」
リリアナの悲鳴が響き渡るも目の前にいる女性は動じず、彼女の顔に白粉を叩く。そして唇にピンクのルージュを塗ると満足気な顔で頷く。
「さぁ、お立ちになってください。若干時間が押しております。アベル様とのお約束に間に合わなくなってしまいますよ」
「だから、何でこんなに写真なんか撮る必要があるのよ」
「もちろん、各報道機関に提供するためですわ。姫様の存在は皇国全体に知らしめる必要がありますから」
「だったら一枚撮ればいいじゃない」
「我がシアン領の宝をお披露目するのに同じ写真を使い回すなど、シアン領広報課の人間としてプライドが許しませんわ」
「私の人権は無視?」
目の前で自分の仕事について熱く語るこの人物は次兄の部下でシアン領の広報課を取り仕切る人物であり、領地についてからほぼ毎日一緒に行動している女性だった。そもそも何故このような状況に陥っているかと言うと原因は自分の置かれた微妙な立場である。そもそもの原因は両親の結婚にあるわけで。
「だからこっちに住みたくないのよ」
「そのような事をおっしゃらないでください。我らシアン領民にとっては何よりも嬉しい知らせなのです。今だって信じられませんわ。前侯爵や奥様が御存命でこのような可愛らしいお嬢様までいらっしゃるなんて」
「だったら、姉上や姉様、もしくは私の片われをだした方がいいって絶対に!! 私ごときじゃ意味がない~」
「いいえ、ウィスタリア人の特性をお持ちのお嬢様をお披露目されるほうが効果的ですわ。さぁ、行きますよ」
そう言うなりリリアナは手首を掴まれズルズルと引きずられカメラの前に立たされた。
「さぁ、どんどん撮りますよ!」
「もう……、嫌だ」
この時点でこれらの写真がこれから引き起こす大騒動をリリアナは知らない。