捕獲されました
「やっと出て来たと思ったら。それが久しぶりに会う家族に対する態度ですか? そもそもここがどこだか理解しているのですか? 我がシアン侯爵家が仕える皇家の皇女殿下の御前ですよ」
「わたしは、この世界の人間じゃないから関係ないもん!! それより何でわたしが侯爵家預かりになるのよ!!」
部屋から飛び出てくるなり次兄に食ってかかるリリアナと彼女に対して小言を言いだすアベルに他の人間は口を出すタイミングを完全に失う。はっきり言って二人の会話はまったくかみ合っていない。ひたすら自分の疑問をぶつける妹に、ひたすらお説教をする兄。終わりが見えない兄妹の姿にヴィクトリアは思わず笑ってしまう。しかし、そこに怒声が響く。
「お前達! いい加減にしないか!!」
「申し訳ありません」
「…………………ごめんなさい」
怒鳴ったのはエヴァンスでアベルはすぐさま頭を下げた。そしてリリアナからも一応謝罪の言葉が聞こえる。が、その態度が気に入らないのかアベルが再び口を開きかける。しかし、エヴァンスが手を振ってそれを止めた。そしていつもの低い穏やかな声で妹を呼ぶ。すると、リリアナも黙って彼の側に行く。
「久しぶりだな、リリィ。元気そうで何よりだ。だが、今回はやり過ぎたな。義母上達も頭を抱えていたぞ」
「私は悪くない。正当防衛よ」
眉間にしわを寄せむくれる妹を見てエヴァンスは苦笑する。
「詳しい経緯は、義母上から聞いたから知っている。私はお前の言い分を支持する。その後の騒動は別だが」
「ごめんなさい。でも何で私が……」
「相手側がお前を嫁に寄越せと言っているらしい。本来ならあちらに全面的に非がある。だがお前の主家の若当主が仕事で留守なのをいいことに自分達の都合の良い和解条件を出してきているそうだ」
「本当に不能にしてやれば良かった」
「その解決策として義母上はこちらの世界にリリィが属する組織の支部をお作りになるように進言されそれが通った。そしてその責任者にこちらとの繋がりが深いお前が任じられた。だから当家での預かりが決まったのだよ」
「…………私が責任者? いやいやいや、それはないでしょう。こんな年端のいかない娘にそんな大役はありえない」
「これは決定事項だ。その為にもお前はこちらとの繋がりをより深くする必要がある。サイラス」
「きゃぁ」
いきなり自分の身体が浮かび上がったことに驚いたリリアナの口から悲鳴が漏れる。だがすぐに幼子のように抱きかかえられたことに気がつきその顔を紅潮させた。
「サイラス兄~」
「兄上の命令だ。さぁ、帰るぞ。じゃあ、殿下失礼しますね」
「は~な~せ~」
「いてっ、こら暴れるな」
リリアナを捕獲するとサイラスはそのまま部屋を後にして行く。どうやらそのまま自分達の戦艦に強制収容するつもりらしい。
「では殿下、我々も失礼致します。我が家の事でしばらく騒がしいかと思いますが、それらが収まればやっとお約束が果たせるかと思いますので」
「…………それは」
「アベル、行くぞ」
「はい。では失礼致します」
ヴィクトリアに意味深な言葉を残してエヴァンスとアベルは去って行った。
「セシル…………」
「はい。すぐに準備を始めます。良かったですね、殿下」