何をべらべらと!!
兄達が部屋に入って来ると一瞬、その場の空気が凍りつく。その緊張の発生源はセシルでエヴァ兄上を目にした途端、殺気を放つ。それを察したトリアが自ら兄のもとへ行くことで場の空気を緩ませた。それにしても仮にも主の婚約者に対して本気で殺気を放つとは。
(まぁ、アベル兄様が何の反応も示していないし、サイラス兄も笑っているから問題ないんだろうけど)
そんな感じで始まったトリアと兄達の会談だったが、この時点でリリアナは高を括っていた。どうせ適当に親族の娘だと言ってごまかすに違いないと。何しろ自分の存在を明かす事は、父が生きていることを白日の下に晒すことと同じだからだ。
それに戦争の原因である父が生き延びて、暢気に第二の人生を謳歌しているなど言えやしまいと思っていたのだ。だが、彼女は忘れていた。長兄は、誤魔化しや嘘が嫌いな直球勝負な人間だということを。
「まず問題の娘と我々の関係ですが、あれは妹です。実はサイラスの下に四人程弟妹がおりまして、あれは三人いる妹の一番下です」
ガタン。
長兄の一言にリリアナは、覗いていた水晶玉を思い切り床に落としてしまった。余りのショックに落としたことすら理解していないようで思わずその場で地団駄を踏む。
「ありえない! 何をベラベラ喋っているのよ!!」
「リリィ様、あまり騒がれると外へ聞こえてしまいますよ」
「セシルさん、いつの間に!! って落ち着いてられるか~!!」
一人で恐慌状態に陥っているリリアナを見て溜息を一つ落としたセシルは、彼女が落としたと思われる水晶玉を拾い上げた。
「これは…………水晶? でも、中に写っているのは……殿下方? リリィ様、この得体の知れない物は何ですか?」
「え? あぁ、遠見用の水晶玉。私が見たいと念じた場所を映し出してくれる便利な仕事道具」
「何か特殊な機械でも入っているのですか?」
「ううん。これを作った人の住む世界に科学なんて存在しないから機械じゃないよ。向こうで仕事をした時に貰った個人的報酬の一つ。私に合わせて調整してあるから、私が望まないかぎりはただの水晶玉だよ」
「まぁ、いいでしょう。あなたが一番得体の知れない人間ですからね」
「うわっ、ひどい」
セシルの言葉に嘆いたふりをしたリリアナは、彼女から見えないように微笑む。トリアがいないせいか言葉はきついのだが先ほどよりも自分に対する態度が柔らかくなってきていた。
(それに完璧な侍女姿より、こっちのほうが好きなんだよね。あと、サイラス兄の好きな人ってセシルさんだ。絶対に)
「それにしても、まさか侯爵がご存命とは」
「え? そこまで言ったの! 何考えてるわけ?」
いつの間にか兄達は、父親のことまで暴露したらしくトリアはもちろんカイン達も驚きで固まっているのが分かった。
(ありえない、ありえない…………。やっぱりここは逃げるべき?)
もういっそうのこと逃げ出してしまおうかと思い始めたリリアナに更なる爆弾が投下される。
―――――リリィは、しばらく家で預かることが決定した
その言葉が兄の口から出た瞬間、全ての事が頭から吹っ飛んでいた。簡単に秘密を暴露した兄達と自分のこれからを勝手に決められたことで彼女は怒りに支配され、そのままトリア達のいる部屋へと走り込み叫んでいた。
「何、べらべらしゃべってるのよ!! てか、何であたしが兄上達預かりなわけ!?」
 




