落ちちゃいました
突発的に思いついた作品で、異世界物の練習作になります。
多分、そんなに長くはならないかと思いますがよろしくお願いします。
雅・L・香月には、秘密がある。きっと誰に言っても信じてもらえない。
その秘密とは、何か。
一つ、自在に世界を渡れること。いわゆる異世界トリップが自由自在。まぁ、そのせいでかなり面倒くさい一族の一員でもある。まぁ、ここらへんは、許容範囲内。
二つ、異世界人のハーフであること。許容範囲外な秘密はこっち。何故なら、父親が指名手配犯的な立場だから。その上、ハーフの悲しき性で向こうの世界の引力に引っ張られあちらの世界にたびたび落下。そして落ちた先では、容姿が変化してしまうのだ。その変化した姿というのが父親色がかなり出る。その上体が縮む。冗談ではなく、現在の年齢引く十歳前後の身体に変化してしまう。なのでいつもは、さっさと帰るんだけど。こんな事態になるとは。
(…………どうしようかな)
「おい! 貴様、人の話を聞いているのか!」
「耳、痛い」
「だから、貴様は何者だ! 誰の命令で」
先ほどから自分の目の前で青筋を立てながら怒鳴りちらす男にうんざりしていた。黒の軍服らしき制服に身を包む金髪長身の男は、延々と叫び続けている。その青い瞳に整った顔は、間違いなく童話の王子様だ。…………姿だけは。
だが、超美形と呼ばれる面々に幼少期から囲まれている彼女にとっては中の上くらい。その上短気な男は嫌いなので完全無視をしていたがさすがに耳元で怒鳴られるとつらい。
「まぁまぁ、そんなおチビちゃんを使うほど彼らも落ちぶれてはないでしょ」
「何を気楽な事を言っている! ここをどこだと思っている」
「うん? 我が第2方面宇宙軍基地内の殿下の私室だよ?」
「そんな場所に普通の子供がいきなり現れるはずないだろう!!」
「まぁまぁ………」
それまで黙っていた赤毛の少年が溜息をつきつつ金髪男を宥めにかかるが効果がない。それでも一生懸命話を聞き続けるその忍耐強さに尊敬の念が少しわく。
(うわー、やっかいな場所に落ちたな。さっきの女の人って王族なんだ)
そして、男達の会話を聞きながら、先ほどまでいた背の高い女性を思いだす。
その人は、金茶の髪を長めのショートカットにした人で、いきなり目の前に落下してきた自分を見て動じることなく言った。
「君は、誰かな?」
「雅。こっち風の名前は、リリアナ?」
「自分の名前なのに、疑問形なのか?」
「だって普段使わないもん。でも、こっちの人は呼びやすいだろうからリリアナって呼んで?」
「そうか。では、リリアナ。何故君は、そんなに大きな服を着ているのかな?」
「体が縮んだの」
体が縮むなど信じる人間はいない。だからこそ、わざと真実を教えることで頭のおかしい子供と思わせ警察なり施設なりに送られるように仕向けた。一人になりさえすればさっさと道を開いて帰れる。しかし、この女性は違った。逆に目を輝かせながらリリアナに近づいてくる。その予想外な反応に思わず後ずさるとぶかぶかになった服に足を引っ掛けてしまった。
(いや~、このままだと確実に頭打つ~)
目を閉じて来るであろう衝撃と痛みに身構えたがいつまでたってもそれは来ない。その代わり体がふわりと浮いた感じがした。恐る恐る目を開けるとすぐ近くに女性の顔があり、どうやら彼女に抱え上げられたことが分かる。
「危ないぞ、リリアナ。ここの床はかなり固いんだ。それにしても…………、まずは服だな。確か私の幼少時の服が残っていたはず。ちょっと待ってくれ」
そう言うなりリリアナを抱えたまま近くの机の上にある内線機器に手を伸ばす。するとすぐに声が聞こえた。
『どうされましたか?』
「あぁ、カインか。セシルに私の昔の服を持ってくるように言ってくれ。そうだな、七歳前後に着用していたなるべく小さな服を…………」
『はい? ヴィクトリア様? どういうことですか? すぐに参ります!!』
「しまった。オリバーに頼むべきだったか。すまないが、これからうるさいのが来るが心配しなくていい。話したくなければ話さなければいいからな」
「分かった」
そして、現在に至る。たしかにあの女性、ヴィクトリアが言った通りカイン(金髪男)はうるさかった。一緒に来たオリバーは、こっちを見て何か驚いた様子だったけどすぐに楽しそうな笑みを浮かべた。その笑みに嫌なものを感じとったのは気のせいではないと思う。あれは、時々父親が兄達に向けるものと同種だ。カインよりオリバーを警戒すべきだ。
(それにしても遅い。ヴィクトリアは何をしてるんだろう)
するとそんな彼女の心の声に答えるかのように扉が開いた。そこにはヴィクトリアとヴィクトリアと………。
その光景に思わず意識が飛びかける。彼女の手にはピンクや黄色など可愛らしい色合い布地にたくさんのレースがついたワンピースが山のようにあった。更にその後ろからは他の衣装を抱えた女性が現れる。何故だかその目は輝いており嬉しげでもあった。
しかし、何故だか反対にリリアナをゾクリと寒気が襲う。
「待たせたな。リリアナ」
(いや~、逃げたい。お家、帰る~)