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復縁惹かれ合う魂|虐げられた病弱短命の眼帯少女と、笑顔で血まみれの男、二人は手を取り合い最強になり世界を■■!〜赤目の灰被り姫と青目のグリムリーパー〜 短編

作者: 指書
掲載日:2026/11/02

「なんで……」


 空を見上げた彼女の顔に赤い雫が落ちてくる。


 辺り一面赤い雫が降りしきる。


 彼女の周りは炎の海。


 そして多数の倒れている人影。


 彼女は人影を抱き抱えている。


 声にならない叫びが響き渡る。



 アリスの片方の目は髪の毛で見えない。


 もう片方の赤い目が開く。


 汗だくのアリス。


「ううっ…まただ…。」


「うっ!」


 アリスの脳内に磔にされ足元から炎が上がってくる光景が再現される。


「神様!どうか助けてください!」


「またあの様なものを見てしまい申し訳ありません!」


 アリスは信心深い者である。


 単なるパニック時の苦し紛れの叫びではなく、心の底から神を信じ、拠り所にしている彼女の生き方そのものから出た言葉である。


 アリスは真っ直ぐで純粋な心を持ち続けている。


 アリスは幼少期から、この屋敷から一歩も外にでていない。


 アリスに与えられた知識や価値観は聖なる教本に限定されている為、彼女の思考や世界は母親から教えられている事、神と教本だけで作られている。


「イヤァー!!」


「アリス!」


「ママ!」


「アリス!大丈夫?ママが来たから安心してね」


「怖いよ〜」


「よしよし。良い子ねー。ほら、片方のお目目隠しましょうねー。これで大丈夫よ」



———


「アリス、いい?外の世界は醜く危ないのよ」と、家から出ることも許されず、守られ続け、読むことを許されたのは聖なる教本のみ。


 教育は母親がしていた。


 アリスの学力は同年代の子よりも格段に進んでいた。


「貴女は私がいないと生きられない弱い子なのよ。だから私のいう事だけ聞いてちゃんとやればいいのよ。そうすれば神様もお喜びになられるわ」


 母から病弱で短い命と告げられた少女アリスは、片目を眼帯で隠されたまま、世界から隠されて生きてきた。


 幼少期から読めるのは聖なる教本のみ。


「この世界であなたを受け入れるのは私だけよ」


 神の事を徹底的に教え込まれていた。


「アリス、病気をやっつける為に修行がんばろうね」


「うん!頑張る!アリスが元気になったらママもパパも神様も喜んでくれるもんね!」


「そうよ!皆喜ぶわ!」


 病弱短命を克服する為と心技体を強める敬虔な修道における肉体と精神の鍛錬も毎日欠かさず行わされていた。


 それらは全て神の為、母の為、自分自身の為だと健気に一生懸命に何の疑問も抱くことなく純粋に取り組んでいた。


 アリスは穢れを知らない純真無垢な聖隷少女。


 精神と肉体の極限の追求。


「大事な大事なアリス…あなたは、失いたくないの……世界で何より愛してるわ」


 修道院や隠者(エルミット)の生活、神殿の巫女、聖女育成プログラムそのもののように…。


 病弱短命だからこそ鍛える必要がある。と親の愛を一身に受ける。


 生まれながらに身体が弱く、長く生きられない運命を背負っているからこそ、その脆弱な器に強靭な精神や在る技術叩き込むことで、神の教えを守る、過酷な使命に耐えさせる、魔に抗う。


 比較対象、外の世界や、普通の暮らしを知らないアリスは、今日も生まれたときからそこにある空気や重力と同じ自然現象のようなその日を暮らす。


 他と比べようがないのだから、これらがアリスの『世界のすべて』


 人間は、他者や外部の世界と比較して初めて自分の置かれた環境が良いか悪いか。異常か正常か。を認識できるため、アリスのように生まれた時からその環境しか知らない場合、それが本人にとっての世界のすべて、常識、自然現象なので閉じ込められている等とは微塵も感じることはできない。


 アリスは神に仕える清らかな聖女。



 アリスは単なる弱者ではなく、病弱克服と神への奉仕という名目のもと、母親から「極限の肉体と精神の鍛錬」「修道・巫女・聖女としての厳しい訓練」を叩き込まれている。


 外の世界を知らないため、これが異常だと気づいていない。そもそも気づくことは他を知らない為不可能。


———


 ある日、聖騎士の父が任務中に消息不明になる。


———


———


 父親の消息不明調査が家庭に入る。


 聖騎士である父親の消息不明を機に、学校に通わせていなかった等の家庭環境の異常が発覚し、王都の高校へ通うことに。


 ジロジロと見られるアリス。


 初めて大勢の視線を浴びアリスは人の目を敏感に感じとってしまうがそれが好奇の目なのかなんなのかは分かっていない。


 これまでは母親と家の中しか知らなかったので、学校で向けられる視線が悪意なのか、単なる好奇の目・珍しさなのか、区別がつかない。


 どういう目なのか分かっていないが居心地の良いものではないと感じているようだ。


 「外の世界は醜く危ないのよ」「この世界であなたを受け入れるのは私だけよ」とずっと教え込まれてきたため、アリスの心の中には常に外の人間は脅威かもしれない、という恐怖や警戒心がある。


 周りからの視線を無意識に警戒すべきもの、攻撃の予兆として感じているかも知れない。


 リタというリーダー格の女子生徒が声をかけてきて友達になる。


 初めての友達ができる。


 リタの他にリタの幼馴染のジェニファーも友達になる。


 いつしかアリスは憧れを抱く。


 学校で度々ある男子と目が合う。


 今まで無かった同年代の子の情報が洪水の様にアリスへ流れ込む日々。


 様々な書物を読んだり、色々な話を聞いたり。


 リタやジェニファーから色々教え込まれていた。


 青春を謳歌し学校生活も順調に過ごしていた。


 何事も順調そうに見えていた。


 しかし。


「やっぱり、ママの言った通り……」


 学校で悪意というものを味わう。


「ママー、ママの言った通りだったよー!ママー!うぅ…」


 母が言っていた事をアリスは実感する。


 外の世界は醜く危ないと。



 「バーカ。あたしがあんたみたいな芋くさいやつと友達になるわけないじゃん!はは!フレネミーってやつだよ!あ、フレネミーって分かんないか?無知だもんねー!教えてあげる。フレネミーってやつはね…」

と初めてできた友達、かけがえのない存在にその説明を丁寧に分かりやすく説明された。


 親愛の皮を被った毒の洗礼。


 外の世界を知らない純真無垢なアリスにとって、初めてできた友達という存在は、眩しい憧れであり救いだった……。


 しかし、そこから突き落とされた。


 世間知らずでピュアで、外の世界の濁りを知らないアリスにとって、これが初めて知る人間の悪意の味。


「アリス…ママが守ってあげる。そいつらに分からせてあげないと…罰を与えなければ……」


 傷つき泣き崩れるアリスを母は優しく抱きしめ包み込む。





 母子共に傷ついたが、それでも通わなければいけなかった。


 通わないと引き裂かれてしまう。


 親子共々我慢し学校に通い続けた。


 ある日アリスはミスコンでトップになりキラキラのステージにスポットライトを当てられ立っていた。


 それは作為的に組織票でトップにされていた。


 地味で隠されて生きてきたアリスが、あえてミスコンのトップに祭り上げられる。

これは彼女に好意を寄せたからではなく、最高潮まで持ち上げてから、一気に突き落として最大の羞恥を味あわせるための、悪意ある見せしめ。


 そんな事は知る由も無く純真無垢なままステージに立つアリス。


 全方位から悪意に囲まれ、どす黒いスポットライトの真ん中で晒されているアリス。


 彼女自身は何が起きているのか、なぜ自分がここにいるのか、もよく分かっていないまま、ただ眩しいスポットライトを浴びせられている。


 周囲の生徒や仕掛けた人間たちの目的は、彼女を称えることではなく、一番高いところから、このあと最高にみじめな形で叩き落として、最大の羞恥を味あわせるという、極めて陰湿で悪質な行為を楽しんでいる。


 女子生徒が「この衣装絶対に似合うから着てステージ上でこのヒモを引いて皆に居披露して」と言われアリスはそれを実行する。


 会場は一瞬凍りつく。


 アリスはその場の全員から笑いものにされる。


 多種多様な声が耳を貫く。


 極限の羞恥・悪意に晒された。


 涙を溜めたアリスの瞳に映る嘲笑者達。


「ママ…神様……」



 アリスの背後に優しい笑顔の男。


 その男が優しくアリスを抱きしめ耳元で囁く。


「よぅ、ねえちゃん。やっちゃおうか」


 そしてそれは起こった。



 周囲は劫火と赤い海。



 アリスと笑顔の男は赤い雫塗れ。


 笑顔の男は赤い雫が着いている顔をより一層笑顔になり囁く。


「ねえちゃん。行こっか」


 笑顔の男はアリスの手を取る。


「まて!好きにはさせない!」


 そう声をかけ対峙しているのは学校でちょくちょく目があった男子。


 その男子に目もくれずにやついている男は

「なんだアイツ……。ねえちゃんは俺だけ見てりゃあいい…俺が守ってやんよ」

と魅惑的な笑顔でアリスを見つめる。


「行くぜ…」


「アリス!耳を貸すな!ソイツは……」


プツン―


———


無機質なデスクの上にあるモニターの画面に映るミスコンの惨劇。


そこにはあの男もあの男子も映っていない。


アリスの背後は劫火。


アリスは地面に足が着いていない。


宙をゆっくり歩き周りの人間を弾き飛ばしつつ歩む。



社会や学校、リタやのような悪意ある人間たちから追い詰められ、アリスのなかのリミッターが外れて学校や町ごと焼き尽くすほどの能力が暴走しそうになっている映像が映し出されている。


ビデオカメラの横に座る女性が落ち着いた口調で問いかける。

「それで、お母様、詳しくお話お願いします」


「……」




———



赤い雫塗れのアリスは一点を見つめながら歩き続けている。


「ママ……早くママの元へ帰りたい……」


「よう…ねえちゃん…俺が連れていってやんよ」


「おい!簡単に言うなよ!」


「わーってるよ。ギャーギャー喚くな…あいつらやらねーとな…」


「アリス、ママの元に帰るにはね…」と男子は優しく囁く。


男は遮り


「俺が言う!お前はアリスと喋んな!アリス…」


「君のママはきっともう捕まっている」


「ママ!」


「ねえちゃんはあの魔女の末裔で狙われていたんだ。さっきの事で場所バレちまって奴らがねえちゃんを狙ってくる」


「私の事はどうでもいい!ママを助けなきゃ!」


「ママの事愛してんだな…。いいぜ。俺が力かしてやんよ」


「お前…!アリス、僕が守ってあげるからね」


「いい……。大好きなママは私が絶対に助ける!!」


———


———


エイミー・バイオレット



こんなところまで来てわたしは、なにをしているのだろう?


こんなわたしは、必要とされてますか?


聞こえてますか?


わたしは嘘つき。


憧れができました。


でも叶うはずもないもの。


誰かを妬むようになってしまいました。


神様ごめんなさい。


わたしはこんなことまでして愛されたいの?


もう器は壊れかけているのよ。


こんなわたしだって本当は愛され愛しても良い。


ねぇ、そうだよね?


答えてよ。




私にも憧れができました。


いつの日か欲張りになってしまいました。


あなたを妬む様にもなってしまいました。


嫌いになるようにもなってしまいました。


そんな事いいの?


一歩一歩階段を上がるけれどもうどうすればいいか分からないよ。


教えて。


わたしの願いは、いつだって愛される純粋なあの子。


でも私はそうじゃない。



憧れはいつだって愛されるあの子で純粋なあの子で何もかもあるあの子で、いいな。


かなうはずないもの。


でもいいの。


そんな私が私だから。


世界と滅びるまでは私が─。




エイミーは目を覚まして横で寝ている幼子を優しく撫で声をかけた。

「おはよう。わたしの大事な大事な愛しの子。わたしのようにならないように守るからね。あなただけは……神様ごめんなさい……あなた様よりも大事になってしまいました……」



———


アリス・バイオレット



残骸を歩むアリス。


「…ママ…。私にも憧れができました。

いつの日か欲張りになってしまいました。

あなたを妬む様にもなってしまいました。

嫌いになるようにもなってしまいました。

そんな事いいの?

一歩一歩階段を上がるけれどもうどうすればいいか分からないよ。

そんな私は悪い子?

教えて」


アリスは涙をためる。


「こんな私はきっとママに愛されない、悪い子になってしまったのだろうか……でも。それでも私は大好きなママを助ける!!」


アリスは二人を見る。


「私は弱い!だから、この人達に助けてもらうしかない!」


そうだ。学校生活を思い出せ。あの憧れていたリタとジェニファーのように……。


笑顔で二人に語り掛けるアリス。


「ね、ねえ、力、か、貸してほしいな……」


自分をハメて笑いものにしたリタやジェニファーたちフレネミーが、普段どんなふうに人懐っこい笑顔を使い、親しげに近づいて他人を油断させていたか。


その人間の悪意を隠した笑顔のやり方を、図らずも体験として学習してしまった。


アリスはスポンジのように水を吸っていた。


外の世界を知らず、純真無垢な聖女として育てられたアリスは、文字通り白紙のまま世間に放り出された。


だからこそ、初めて浴びた悪意、初めて見せつけられた人間のドロドロとした嘘や笑顔の裏側を、恐ろしいほどの吸収力(適応力)で血肉に変えてしまった。


純白だった少女が、真っ黒な者たちが使っていた黒魔法をそのまま会得していた。


アリスは外界の汚染を知らないからこそ、それを悪意ある笑顔や打算的なものとしてではなく、親愛として人間関係の正しい形として理解していた。


「!!」


「俺は最初からそのつもりだぜ」


「僕もだよ」


「2人共ありがとう」



お読みいただきありがとうございました。


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