講評
「分かりました。少なくとも演習の意義は。……演習ということは、合否だとか追試もあるんですよね」
<もちろん。評価はするよ>
わずかな間をおいてリーゼは軽く首を傾げた。笑っているのに、目は笑っていない。
<まず大枠。これは“共和国側”の訓練。
共和国民——より正確には共和国軍の一員として、どう振る舞えるかを見る。
それとは別に、才能が見えたところも伝える>
「判定って、史実の時点の情報でその後までシミュレーションして総合判定? それとも2100年の“本物のあなた”が採点してるんですか」
<採点するのは“今ここ”の私。演習用に与えられた権限でね>
リーゼは腕を組み、ゆっくり瞬きをした。
<未来分岐まで含めると、結果論で採点が歪む。だから評価対象は“その時点の情報での意思決定と実行”。演習期間内で切る>
一拍。
<総合評価を出すよ>
声が少しだけ低くなる。
<沢渡鈴音。あなたは生存を確保し、友軍の要請に応え、退避先の防衛支援まで通した。
本演習における総合評価は、B+>
淡々とした言い方だった。だが続く言葉が、妙に重い。
<このB+は、共和国の訓練枠組みの中では“ほとんど上限”。
兵卒でも将官でも、どこに置いても仕事をする資質がある、という判定になる。
————共和国はあなたを歓迎する、ってところだね>
リーゼが手を差し伸べた。仕草は柔らかい。内容は、勧誘というより“通告”だ。
「B+って、あんまり良さそうに聞こえないんですけど……褒めてるなら、事情を補足してもらっても?」
<いいよ。手短にね>
HUDの端に、三つの項目が出る。
<評価軸は大きく三つ。
①目標設定の速さと強さ
②連……味方の“意思決定系”に接続できたか
③盤面を変える打撃——敵の能力をどこまで潰せたか>
<A評価は、この三つを早い段階で最大化した人に出る。
アルテアリーゼ本人みたいな“最適化済み”や、各国のエリート将校の一部がそこに入る>
リーゼは言葉を切り、鈴音の顔を見た。
<彼らは最初から「侵攻そのものを頓挫させる」方向に賭けた。
アルカガラの駐屯部隊ごと無力化し、兵器を奪い、カディクチャンへの突撃自体を起こさせない。
だから市街地戦も、死者名簿も、最初から薄くできた>
「……じゃあ私は」
<あなたは“泥臭く双方の被害を減らす勝ち方”を選んだ>
リーゼはあっさり言う。
<氷堰、濁流、潜伏、誘導。守るべき線を守った。十な成果を出せた。だからB+>
そして、ここから先だけは、笑わなかった。
<ただし共和国軍の採点表は……綺麗事で出来てない>
<あなたは敵の降伏を引き出した。敵の命も本来より多く失わせずに済ませた。
でも、それは“減点ではない”だけ。大きな加点にもなっていない>
鈴音が何か言い返す前に、リーゼが先に刺す。
<この演習の題材は、民間人が奇襲で殺された史実だ。
アルカガラ、カディクチャン、ススマンも。
共和国はそれを“記念日”にしない。——忘れない。
だから私たちは、躊躇なく復讐者になる。必要ならね>
静かな声だった。静かだから怖い。
<あなたが救った命は確かにある。
でも共和国がまず数えるのは、“次に同じことを起こさせない能力”だ>
一拍。リーゼの口調が少しだけ柔らかくなる。
<……それでも。覚えて帰ってほしい。
できなかったことだけじゃない。できたこともある。
あなたは、盤面を変えた。だから新しい一歩を踏み出せた>
HUDの表示が切り替わり、新しい見出しが流れ始めた。
【あなたが救った人々】
鈴音は、その文字列から目を逸らせなかった。
ここを章区切りとするかで若干悩んでいます。
しばらく取材とお勉強で更新が停滞しますので見落とさないように目印を兼ねてブックマークや評価を残していただけるととても嬉しいです。
以降の本編は現在(2100年)に戻って学内選抜→高校同士の対戦になります。




