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振り返り

 『投降を選べ。生きて帰れ。——死ぬ理由は、もうここにはない』


 カディクチャン防衛隊司令官、セルゲイ・ボルコフ少佐が戦域全体に投降を呼びかける声をエクステリアが拾ったところで

 主だった操縦がロックされ、鈴音のシミュレーターの視点がコクピットからカディクチャン上空の遠景に引いていく。


 完全に物語に没入していた鈴音は一拍遅れて画面下からスタッフロールらしきものが流れて来るのを認めた。


 そしてすぐに気づく。

 スタッフロールではない。


 [カディクチャン防衛隊]

 セルゲイ・(パーヴロヴィチ・)ボルコフ オホーツク共和国軍少佐(当時)

 パーヴェル・(イゴレヴィチ・)グロモフ オホーツク共和国軍中尉(当時)

 アンドレイ・(ニコラエヴィチ・)レベデフ オホーツク共和国軍曹長(当時)

 …


 そう、見知った名前の横に、役者名は無いのだ。

 そのまま50人分程度の防衛隊メンバーがスクロールアウトすると、反独立派も同様に名前と極簡単な所属等が続く。


 続いて、民間人の犠牲者への哀悼とともに

 アルカガラ、カディクチャン、ミャウンジャ、ススマンほか開戦初日~4日目までの民間犠牲者も読み上げられて行く。

 ここは所属でなく簡単な職業や年齢、そして簡単な死因が添えられていた。

 納屋に隠れていたが暴行を加えられ、結果的に…等あまりに悲惨かつ沈鬱な内容でとても読み続けられる気がしない。

 しかし、人数があまりに多く、スクロールも遅くなっており終わる気配がない。


 <ここはとても大切なところなのだけれど。

 ああ、余韻に浸っているところごめんね。

 これを見てもらうのもこの研修で重要なカリキュラムだからさ>


「歴史の勉強、戦争の悲惨さですか」


 <いや、大切なのは”次にどう上手くやるか”それだけ。

 例えばこの独立戦争に関わる状況において、当時の私…アルテアリーゼのことね、が何か史実と違う決断を下せば、

 きっと死者名簿は変わった。

 ドミトリ君みたいな重要な場所に居合わせてしまった人たちもそう>


 長い被害者情報がようやく途切れたころには夜明けから早朝にすっかり空の表情が変わっていた。


 <でもね>


 リーゼが思わせぶりに間を空ける。


 <鈴音がこの演習の世界の中とはいえ救えた命があること、これから誰かを守れる可能性を作り出せたこと。

 それを覚えて帰ってほしい。

 できなかったことだけじゃない。

 できたこと・できることを君に持って帰って欲しい。>

 

 画面に新たな項目がスクロールし始める。


 [あなたが救った人々]

 史実では戦死あるいは負傷した人々のうち、明らかにシミュレーションの中で状況が改善した人々。


 アンドレイ・ニコラエヴィチ・レベデフ オホーツク共和国軍曹長(史実では戦死したが、本演習では鉱山拠点までたどり着き生存)

 ミハイル・ソコロフ オホーツク共和国民間人。MLRSによる民間人がカディクチャンから退避する列への砲撃が史実では行われたが、本演習では発生を抑止できたため生存。

 オリガ・ペトロワ オホーツク共和国民間人。MLRSによる民間人がカディクチャンから退避する列への砲撃が史実では行われたが、本演習では発生を抑止できたため生存。

 …


「そっか。私ならやれたこと、やれること…

 でも、聞いていいですか?

 この演習ってたぶんオホーツク共和国軍人向けの研修ですよね。

 まさか、愛国心醸成・自国の価値観を植え込む洗脳プログラムなんじゃないですか」

 

 <これくらいは標準的教育だね。事実に反する歴史教育でもない。

 当然、情報不足を前後関係から補っているから脚色はゼロではないけどね。

 ”これは遺体の状態から拷問を疑うべき”のような科学検証シーンは日本では放送不可だから

 省略して”拷問があったとみられる”周辺描写に置き換えたり、遺体画像をマイルドな表現に留めるなど加工をしてもいる。

 少なくともオホーツク共和国ではこれを洗脳とは判定しない。

 ただ、ごく少数、日本や責任追及された側の国の子弟…つまり現実を直視できない事情のある受講者を中心に、疑問を呈されてるのも事実。>

 

「そうですね。確かに、英国の短期留学でも、力による残酷な切り取りが行われているのが現実で、

 暴力に向き合わないことのほうが不誠実だと言われました」


さて、鈴音のカディクチャン防衛戦も振り返りに入りました。

あと1~2話で一区切りしますが、やや手間取っており振り返り~講評エピソードは毎日連続投稿とはいかないかもしれません。

講評がひと段落したらしばらく取材のため休載となる見込みです。

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