片や建設
本話でも登場人物やエクステリアなどのイメージ画像が挿絵として後書きの前に入っています。
文字で浮かんだイメージを損ないたくない場合は、画像が見えてきたらストップしてページ上部の「次へ」で進むなどの自衛策をお願いします。
「さて、最後は“暮らしづくり”ね」
凜玖が指を鳴らすと、エクステリアの視界が大型モニターに映し出された。
校庭の端、白いラインの内側に、杭で印が打たれている。
ARゴーグル越しには、そこに**完成後のログハウスの半透明モデル**が重なって見えた。
「オホーツク共和国の辺境では、パイロットたちがエクステリアと一緒に、こういう小屋を何十棟も建てる。
風よけ、作業拠点、仮住まい、安全地帯。
**国の形って、こういう“小さな箱”の集まりだからね**」
凜玖はあたりを見回し、ニヤッと笑った。
「体験パイロット、一名。
さっき一番に走ってきた──そこの子。手、挙げてもらっていい?」
「え、あ、私?」
里奈が、反射的に自分の胸を指さす。
「うん、その“ミンちゃん”って呼んでた方の子。
さっきから目がキラキラしてるから、絶対向いてる」
ざわ、とクラスメイトたちがどよめいた。
里奈は顔を真っ赤にしながら、前に出る。
ヘッドセットを装着して、簡易の操作レバーを握らされる。
視界の端に、文字がポップアップした。
> 手順1:基礎位置の確認
> 提案位置:白線内中央。杭マークをハイライトしました。
> この位置でよろしいですか?[はい/いいえ]
「あ、うわ……」
里奈が思わず声を漏らす。
視界の中で、地面の特定の範囲がうっすらと光っている。
エクステリアのカメラと、設計図と、測量データが一体になって、自分の目の代わりをしてくれている感覚。
「声でいいよ。『はい』って言ってみて」
「……はい!」
その瞬間、エクステリアの足元に印が浮かび、
機体がゆっくりと位置を調整していく。
自分が歩いているわけじゃないのに、足が地面をつかむ感覚だけが伝わってくる。
> 手順2:基礎用の穴掘り
> 深さ:80cm 直径:40cm
> 掘削を開始してよろしいですか?[はい/いいえ]
「はい!」
右手のレバーが軽く振動し、
視界の中で、アーム先端のオーガーが地面に食い込んでいく。
音はさほど大きくない。ただ、土が砕ける鈍い感触だけが、ハンドル越しに指に伝わる。
「……なんか、思ったより簡単?」
里奈がつぶやく。
凜玖が笑った。
「難しい部分は、全部AIがやるからね。
でも、『どこに建てるか』『何をしたいか』は、いつも人間が決める。
それをサボると、いくらロボが賢くても、役に立たない箱が立つだけ」
穴を掘り終えたエクステリアが、今度は丸太を一本抱えて戻ってくる。
太い柱を、まるで鉛筆か何かのように軽々と持ち上げて。
「手順3:支柱の立て込み。
支柱の垂直を保持するため、微調整に協力してください」
AR表示の指示にしたがって、
里奈は「そこ」「もうちょい右」「ストップ」と言葉を重ねる。
言うたびに、巨大な腕が数センチ単位で動いてくれる。
自分の声が、そのまま新しい世界を作っていく感覚。
「わぁ……」
一見ゆったりした静かな動きのエクステリアが建てる柱の一本、梁の一本が家へと変わる。
誰のものともつかない感嘆が、あちこちから漏れる。
明忠は、エクステリアの背中越しに、その光景を見ていた。
ロボがただの“作品”でも“敵の兵器”でもなく、
「自分の進路」「投資」「外付けの体」としてそこにある、というイメージが、
ようやく具体的な形を持ち始める。
参考書を買って、自分の頭に組み込む。
エクステリアの操作を覚えて、**自分の行ける場所を増やす**。
どちらも本質的には同じ“勉強”の延長線上にあるのだ、と。
AIの声が、里奈の耳元で静かに告げる。
> 本日の進捗:基礎シーケンス 35%完了
> 初回としては上出来です。
> 次回、支柱間の水平確認から再開できます。
ヘッドセットを外すと、世界の色が一段階トーンダウンした気がした。
さっきまで自分のものだった巨大な視界は、もうエクステリアの頭の中へと戻ってしまった。
「ど、どうだった?」と明忠。
里奈はしばらく言葉を探して、それからぽつりと笑った。
「……ありかもね。“ロボの国”」
そう言ったときの横顔に、
凜玖が、少しだけ満足そうな目を向けていたのを、明忠は見逃さなかった。
挿絵は雰囲気ですよ雰囲気!
今回はめちゃめちゃだまし絵になっているので、そのつもりでお楽しみください!!




