狩猟インターミッション
演習エリアから戻ると、身体の奥に張り付いていた緊張が、ようやく剥がれ落ちた。
三人は無言のままドリンクバーに立ち寄る。
明忠は、カフェイン入りのダイエット炭酸。
無色透明で、味気ないが頭は冴える。氷はやや多め。
里奈は、砂糖スティックを三本。
ためらいなくカップに放り込み、ホットカプチーノをかき混ぜる。
エリナはアイスティー。
かき混ぜられた氷が溶ける様を、しばらく眺めてからストローを口に運んだ。
まだ、他の演習グループは進行中らしく、施設内にはどこか切迫した空気が残っている。
その中を抜け、熊鷹高校選抜候補向けに開放されたミーティングルームへ向かう。
ソファに腰を下ろしたところで、明忠がようやく口を開いた。
「……みんな、ごめん」
視線を落としたまま言う。
「肝心なところで動けなかった。
それに、ヘラジカの突進……正直、危険な状況に巻き込んだと思ってる」
言葉を選びながら、少し遅れて詫びる。
「もおー、ほんとだよー」
里奈は頬を膨らませるが、声は明るい。
「でもさ、それに引き換えエリナさん、めっちゃ頼りになるんだけど!」
怒っているふりはしているが、完全に上機嫌だ。
「ううん……」
エリナは慌てて首を振る。
「里奈さんのドローンネットの判断が良かったです。
私、あの時は完全にドローン対策だと思い込んでいて……」
少し、恥ずかしそうに目を伏せる。
「そうだな」
明忠が頷く。
「二人の連携、正直すごかった。
あれがなかったら、もっと悪い結果になってたと思う」
褒め言葉のはずなのに、どこか歯切れが悪い。
その空気を切り裂くように、里奈がぱっと手を叩いた。
「よしっ!
じゃあチーム名は――リナリナね!」
一瞬、沈黙。
明忠もエリナも、反応が遅れる。
「え、えっと……」
「頼れるエリナさんがリーダー!
私がナイスアシスト!
準備は影で頑張ってたミンちゃん!」
里奈は胸を張る。
「うむ。良いチームだっ!」
よく分からない締めだったが、強引に“いい話”にまとめに来た。
その時。
「うひゃっほー!
いやー、滅茶苦茶おもしろかったな!」
やたらとテンションの高い声が、部屋に飛び込んでくる。
大垣ユウト。
その後ろに、疲労困憊の一条司。
さらに、物静かな西郷大介が続く。
三人とも、どこかやりきった顔だ。
「お、秋月さんと加藤さんに林か。
そっちもおつかれー」
ユウトは軽い。
「なんかさ、ヘラジカの群れが突っ込んできてな!」
司がげんなりした声で続ける。
「撃っても撃っても、全然止まらなくて……
一頭、俺のエクステに突っ込んできたんですよ」
――エクステ。
誰も突っ込まなかったが、初耳だった。
「そしたらさ、猫娘AIの強制介入で……ブフッ」
ユウトは笑いをこらえきれない。
「跳び箱みたいに避けようとしました」
司が淡々と語る。
「でも飛距離が足りなくて、後ろ向きに馬乗りになって……
生きた心地がしませんでした」
深いため息。
「二度とごめんです」
「で、面白そうだったから、オレも適当なの捕まえてロデオしてた!」
ユウトが胸を張る。
「ちゃんと前向きでな!」
詳細を聞くと、司とユウトは大介の補助を受けながら、どうにか二頭を開放して撤退したらしい。
乱射した群れのうち三頭は命中し、やや離れた場所で捕獲。
結果としては“順当”だったとのことだ。
「そういやさ」
ユウトがふと思い出したように言う。
「一条、めっちゃ用心してたけど……
結局、誰にも会わなかったな」
明忠の喉が、わずかに鳴る。
――同じ疑念を、抱いていた。
そこへ。
「はい、みんなお疲れ様!」
凛玖の声が、場を制した。
やや冴えない表情の鷹宮、柊、白石のグループを引き連れている。
三人とも、口数が少ない。
「三グループ終わり。
もう一つは、まだ少しかかりそうだから……ここで一旦区切ろう」
軽く手を叩く。
「じゃ、順番に。
何が起きたか、簡単に報告して――最後に感想ひと言」
凛玖は笑っているが、
その目は、どこか冷静すぎるほど全体を見渡していた。
ALV主催の“ハンティング初級講座”は、
まだ終わっていない。
――ただの狩りではない、何かが。




