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設計者の意図は表現と解釈次第

ハンティング初級編のMAPが展開された。

シミュレーターで3人並んでいた、明忠、里奈、エリナは自然と中央にある明忠の席に寄り集まって覗き込んだ。


起伏のある地形図。

丘状の高まり、その隣に浅いすり鉢状の窪地。

さらにそれら全体を包むように、緩やかな斜面が連なっている。


「……本番が近いからさ」


凜玖の声が入る。

いつもの軽快さが、ほんの少しだけ影を潜めていた。


「今回はスパルタ寄り。

課題山盛りの演習になってて、ちょっとは悪いと思ってる」


一拍置いて、続ける。


「ただの一方的なハンティングじゃない。

油断すると、普通に死亡事故になるシナリオを、いくつも仕込んである。

実際、ハンティングって危ないからね」


言い切りのはずなのに、どこか言葉を選んでいる。


「勝手でゴメン。

……でもさ」


短く息を吸う。


「試練に向き合って、もがいて、その先で伸びるのを期待してる。

演習、開始」


通信が切れる。


明るくテンポよく場を回す、いつもの凜玖にしては、珍しく歯切れが悪かった。

不意に、さっきのメッセージを送ってきた浴衣の女性を思い出した。

どこか、似ているような。


それにしても唐突なハンティング講座のスタートだった。

しかも急造チーム。

消化不良の講義内容に、さらに追加要素を上乗せして投げつけられた形だ。


「……ミンちゃん、どうしよっか」


里奈がMAPを山頂から窪地にかけて指でなぞりながら言う。


「地形的には……丘が一つあって、隣に浅いすり鉢。

その外側を斜面がぐるっと囲んでる、って感じか」


明忠が読み上げる。


「直前の高精度衛星画像が共有されてますね」


エリナが冷静に補足する。


「すり鉢の中央に草場。

そこにヘラジカの群れがいる、という想定らしいです」


三人の視線が、自然と草場に集まる。


手持ち装備には長射程のライフルがある。

視界さえ確保できれば、丘から打ち下ろしても、あるいは周囲を囲む斜面から顔をのぞかせてもすり鉢の内部は射程圏内だ。


「この辺の鳥獣は、ドローンに対する警戒が薄いって話だったな」


明忠が思い出すように言う。


「警戒されない距離のまま草場が見える位置まで飛ばせばれば、リアルタイムで位置を掴みながら接近できるかも」


一瞬、間。


「……二人とも。

シカと自分のお互い止まってれば、射撃で当てられそう?」


問いかけは、控えめだった。


明忠の表情には、はっきりとした不安が滲んでいる。

それも無理はない。


射撃練習では――

里奈もエリナも、構えは壊滅的でまともに頬付けをするまでで苦労していた。

凜玖に散々な指導を受けた記憶が、まだ新しい。実銃じゃなかったので肩に青あざを作って嫌いになる、といったハプニングがなかっただけでも幸運だったのかもしれない。


少なくとも、ここから先、

「理屈で組んだ計画」と「追い出した目標に実際に当てられるか」は、別問題だった。


「凜玖さんが、わざわざああ言ってきたんだ」


明忠がMAPから視線を外さずに言う。


「たぶん、命の危険に関わる“未知”が仕込まれてる。

僕が思いつくのは……ヘラジカの突進とか、熊との遭遇くらいだけど」


一瞬、言葉を探す。


「……でも、エクステリアやドローンが使えるなら、正直そこまで怖くない気もする」


「そうですね」


エリナが即座に引き取る。


「他に考えられるとすれば、滑落、誤射……

あるいは、人為的なもの」


里奈が顔を上げる。


「人為的?」


「山賊。

ゲリラ。

あるいは、軍事偵察の延長線上の何か」


言葉が淡々としている分、内容が生々しい。

ウクライナと日本のハーフという経歴が、想像の方向を自然にそちらへ引っ張っている。


「え……」


里奈が一歩引いた声を出す。


「これって、戦争系のゲームみたいな感じ?

もっと自然相手の、ハンティング寄りだと思ってた……」


「秋月さんの言ってること、当たりかもしれない」


明忠はMAPを拡大しながら言った。


「ただの狩りなら、包囲して、誰かがいい位置に立てれば取れる。

でも、滑落とか誤射のリスクも考えると――」


指が、丘と斜面をなぞる。


「エクステリアに乗って、三人で固まって動こう。

分散しない方がいい」


里奈とエリナが同時に画面を見る。


「そうすれば、各自一機ずつしかないドローンも、交代で三機運用できる。

林道の位置関係を見る限り、エクステリアなら接近ルートはほぼ決まる」


論理としては、破綻していない。

合理的で、安全寄りだ。


――その瞬間。


明忠の視界、左下の隅に、無機質な警告表示が割り込んだ。


差出人名を見た瞬間、喉の奥がわずかに詰まる。

アテーネが通知領域にメッセージを出している。


< 警告 >

< 思考誘導の懸念 >

< 踏破が容易なルートでの待ち伏せ >



短い。

説明も、補足もない。


だがそれは――

平和ボケした前提を、土台から叩き割る一撃だった。


「……あ」


声にならない音が、明忠の口から漏れる。


“安全そうなルート”

“合理的な接近”

“誰でも思いつく最適解”


それらすべてが、

相手にとっても同じ条件であるという事実を、今さら突きつけられた。


シミュレーターのMAPは、何も変わっていない。

だが――

この演習が、もう「一方的なハンティングではない」ということだけは、3人共つかむことができた。

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