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大自然入門@ハンター

 各自のシミュレーターで、右モニタ一面に、オホーツク海沿岸の低解像度衛星画像が映し出される。

 雪と針葉樹、途切れ途切れの道路。人の痕跡は、まるで地図に置き忘れた注釈のように疎らだ。


 別途指示が出ていて、中央画面でシミュレーターで動かしているのは「人間」だ。

 軽く操作確認をせよとのことでチュートリアルステージ的なフィールドに単独で立ち、備品のインベントリから地面に落ちたものの習得など、事前に軽く講義を受けた基本的な動作を行っている。

 当然だが、このシミュレーターではエクステリアの操作だけ行ってきたので皆動きがぎこちない。

 一応、チーム単位ということでチームごとにパーティションが立てられ、音声チャンネルも分けられている。


「じゃ、今日は“オホーツク共和国の大自然に触れちゃおう講座。”ハンティングツアーの形で進めていきたいと思います。

 ……って言っても、いきなり鹿の撃ち方教える回じゃあないからね」


 凛玖は軽く手を叩いて、場の空気を切り替えた。

 シミュレーターのヘッドセットから音声が流れる形式だが、案外有効なようだ。


「建前は、オホーツク共和国の自然と、過疎地の暮らしを知ってもらうこと。

 本音は――この後やる模擬戦や実地の生活に進む前の、"共通言語のすり合わせ"になるよ」


 明忠が軽くチームメイトの様子を探ると、

 里奈は自動メモのログ取りが上手くいっていることを確認しつつ講義に集中。

 エリナは直前まで基本動作を練習中のスクリーンを睨んでいたが、手をたたく音で講義のほうに視線を切り替えた。

 チーム内でほかに目くばせのような動きはなく、皆それぞれのことに手いっぱいだ。


「まず前提ね。ここ」


 凛玖が地図を拡大する。

 一本道が、雪原に飲み込まれるように消えている。


「オホーツク共和国の過疎地は、”交通が細い。”

 一本道、冬季閉鎖、代替路なしっていうところがとても多い。

 これ、自然が厳しいからじゃない。“人が少ないから維持しない”だけ

 逆に冬季のほうが不安定だった路面が凍結して使いやすくなる現象もあるんだけど……それは追々体験してもらうね。」


「つまり……」と里奈。


「事故も事件も、”自己解決が基本”。

 救急も警察も、来る前提で動かない。

 だから生活文化が“狩猟寄り”になる」


 凛玖はそこで一拍置いた。


「で、ここからが万国共通の話」


 スクリーンが切り替わり、鹿、熊、狼の簡易モデルが並ぶ。


「狩猟の基本はね。

 ”相手を知ること”。

 撃つ前に、もう勝負は始まってる」


 エリナが眉をひそめる。

「自分の準備じゃなくて?」


「たとえば銃は道具としてわかりやすいね、撃って当てられないと話にならないし、日常生活では使わないから準備が必要。。

 でも獲物を見つけないと撃つことすらないんだ。だから本命は――」


 凛玖は指を折っていく。


「生態。

 地形。

 気候。

 それから、”現地社会”」


 明忠が小さく首を傾げる。

「社会……?」


「人がどう暮らしてるか、って意味。

 例えば、ここで鹿が減ってるなら、

 ・他所からハンターが来てるのか

 ・密猟があるのか

 ・道路工事が入ったのか

 理由がある」


 凛玖は淡々と言う。


「理由を知らないまま痕跡を追いかけても、その先にはもう獲物はいないかもしれない。撃ってはダメな保護区に逃げるかもしれない。」


 場が静かになる。


「で、ロシア――というか極東圏の狩猟」


 今度は地形モデル。森、河川、尾根。


「前提は銃。

 これは紛争でも同じだね。一番普及している手段。

 でも大事なのは銃本体じゃなくて、”目標の動きを読むこと”そして、”撃つ判断に至るまで段取りを組むこと”。

 具体的なパターンをいくつか紹介するね」


 シミュレーター上で、鹿の移動ルートが線で表示される。


「忍び猟。

 気配を消して詰める。

 単独向き」


 線が細く、ゆっくり進む。


「流し猟。

 広い範囲を横断して、移動を制限する。

 体力と地形把握が要る」


 線が蛇行する。


「待ち伏せ。

 一番楽で、一番準備が重い。

 “待つ場所”を決めるまでが仕事。むしろ待つ場所を決めるまでは事前準備でたくさん動くよ」


 線が一点で止まる。


「チーム式追い出し猟。

 複数で圧をかけて、逃げ道を作る。

 これはもう、”作戦行動”」


 エリナが小さく息を吐いた。

「……戦闘と変わらない」


「変わらないよ。どちらも覚悟と準備が必要だから。」


 凛玖は即答した。


「違うのは、

 ”相手が誰か”それを深く知るほど、まったく同じところも、全然違うところもたくさんある」


 里奈が顔を上げる。

「でも、考え方は同じ……?」


「入口は同じ。

 だから今日はエクステリア抜きでやる」


 明忠が驚いた顔をする。

「え、無しで?」


「無し。

 まず自分の目と足で、状況を読む。

 エクステリアは、その後。

 まず、軽く主な目標となる動物や基本的な地形と地元の一般的な猟法について説明しながら歩いてもらう」


 凛玖は一度全員を見渡す。


「覚えておいて。

 ハンティングってのは、“自然相手の話”に見えるけど――」


 一瞬、間を置く。


「本質は、

 “限られた情報で、最悪を避け続ける訓練“だから」


 その言葉が、静かに残った。


 シミュレーターが駆動音を立て、無味乾燥な草原チュートリアルエリアから遥かな山肌が見える雪原を貫く未舗装道路に切り替わる。

 野生動物の匂いも、硝煙のにおいもまだない。

 だがこの瞬間から、彼ら3人はもう“狩り”の世界にいる。


導入&背景説明中心で狩猟自体のことがあまり書けなかったのですが…

実際の狩猟に関するお話は本格的に取材を行って下記の拙作で触れておりますのでご興味の湧いた方はぜひ。

・都市在住ハンターの狩り語り

→特にヒヤリハット無線封鎖で「あ、ちょっとのすれ違いで死ぬんだ~」という狩猟の現実感がわかります(ある程度前提知識ある人向きです)

・狩猟。獣と銃と山とヒト

→猟師のはじまり~からのハンター体験談まとめが狩猟免許取得後本当に捕獲するまでの雰囲気を感じたい皆さんにお勧めです。


今回は過疎度合いや大自然、自衛感覚のほうが主題で、その後エクステリア・サバイバルに引き継がれていくので狩猟話はバーベキューや芋掘りに続く多少なりとも登場人物(高校生)の未開地で生きることや闘争に対するハードルを下げる試みということでよろしくお願いします。


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