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高校対抗エクステリア・サバイバル要綱

 コンセプトカフェの奥、半地下の会議室は、昼間でも少し薄暗い。

 壁一面のガラス越しに焙煎機の低い駆動音が伝わり、

 コーヒーと機械油が混ざったような独特の匂いが漂っている。


 丸テーブルを囲むように、十二人分の椅子が並んでいた。


 土曜の午前。

 今日は丸一日、この件に集中できる日だ。


 凛玖は、立ったまま軽く腕を組み、全員を見渡した。


「さて」


 間を置いてから、切り出す。


「昨日の連絡は、もう読んでもらえたかな」


 返事はないが、誰も視線を逸らさない。

 ここにいる十二人は、もう“ただの参加者”ではなかった。


「薄々、気づいてる人もいると思うけど」


 凛玖は淡々と続ける。


「ここにいるみんなは、すでに一次選考を通過している」


 わずかに、空気が変わる。


「シミュレーターの台数や講師の数には限りがあるから、

 応募者全員に、ここまでの体験をしてもらうことはできない」


 凛玖は、事実だけを並べるように話す。


「申し込み、面談、体験講座。

 その途中で、静かに終わった人たちがいた」


 誰の名前も出さない。

 だが、全員がそれを理解している。


「技量だけじゃない。

 姿勢、安全意識、他人との距離感。

 短い時間だったけど、見るところは見ている」


 凛玖は、そこで一度だけ言葉を切った。


「そして、勝ち残ったのが、君たちだ」


 林明忠、黒川直規、沢渡鈴音は、表情を変えない。

 柊と鷹宮は、わずかに身を強張らせている。

 ユウトや大介、里奈は、状況を噛み砕く前に嬉しさが先に来ている様子だった。


 温度差は、はっきりしていた。


「ポスターにも書いてあったから知ってる人も多いと思うけど」


 凛玖は続ける。


「オホーツク共和国と国立科技大は、

 いくつかの分野で共同の選抜制度をやっている」


 壁際のスクリーンに、簡単な資料が映る。


「エクステリア・サバイバルはその一つ。

 全国大会で優勝すれば、留学にかかる交通費、学費、

 それに滞在費の大部分が免除される」


 一瞬、ざわつきかけるが、凛玖は手で制した。


「ただし、うまい話には理由がある。

 向こうが求めているのは、単なる成績優秀者じゃない」


 視線が、自然と鈴音や明忠の方へ向く。


「現地で判断し、動き、責任を取れる人材だ」


「それに」


 凛玖は軽く肩をすくめた。


「優勝できなくても、一次予選の成績次第で

 試験の一部免除や、受験日程・交通面の優遇は受けられる」


 ここで初めて、完全に納得した顔をする者が増えた。


「問題はここから」


 凛玖はトーンを変えない。


「エクステリア・サバイバルのレギュラーは七人。

 補欠が二人。

 つまり、この十二人からさらに絞る必要がある」


 はっきりとした数字が、現実を突きつける。


「学内選抜は、三人一組のチームで行う。

 各チーム三戦ずつ。

 勝敗だけじゃなく、対戦内容そのものを見て評価する」


 そして、少しだけ間を置いて言った。


「本線と同じで、優勝者優遇はある。

 学内選抜で優勝したチームの三人は、

 その時点でレギュラー・補欠を含めた九人に自動的に入る」


 ここで、凛玖はようやく周囲を見回した。


「それで、三人チームなんだけど」


 会議室の空気が、妙に静かになる。


 自由着席だったはずの椅子は、いつの間にか固まっていた。


 凛玖は小さく笑う。


「もう、ほぼ決まってたみたいだね」


 視線の先。


 Aチーム

 ――黒川、相馬、鈴音。


 Bチーム

 ――明忠、里奈、エリナ。


 Cチーム

 ――ユウト、大介、司。


 Dチーム

 ――柊、鷹宮、白石。


「一応、形式上ね」


 凛玖は書類の束を持ち上げる。


「各チームから代表が来て、申し込み用紙を受け取って。

 それで正式決定にしよう」


 誰も異議を唱えない。


「じゃあ、これからはチーム別研修」


 凛玖は軽く手を叩いた。


「親睦を深めつつ、操縦に慣れつつ、作戦も考えてみて」


「私はこの部屋にいるか、

 それぞれのチームを回って話してると思う」


「学内選抜、九州大会、全国大会。

 先は長いけど」


 少しだけ、声が柔らぐ。


「この三人は、しばらく同じ場所で戦う仲間になる」


「急場の連携で、

 相手の言ってることや意図が分からないと、

 それだけで負けるからね」


 そう言って、凛玖は会議室を見渡した。


 ここから先は、

 もう体験コースではない。


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