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エクステリア基本操作

 芋掘りに続くエクステリアの基本操作講座は、鈴音の予想よりずっと拍子抜けする内容だった。

 ロボットの操縦、というよりは、小中学校で触ったビジュアルプログラミングに近い。


 農作業、見回り、雪下ろし。

 どの用途でも、基本動作はすでに専用AIの側で組み上げられている。

 しかも、その中身は単なる教科書的な手順ではなかった。


 過去に現地で使われた数えきれない実例。

 失敗して転倒した記録、道具を壊したログ、危険判定が遅れてヒヤリとしたケース。

 それらが圧縮された形で蓄積されており、人間が思いつくより一歩先で「それは危ない」「そのやり方は非効率」と修正が入る。


 だから、指示は驚くほど雑でいい。


「この辺、ざっと見回って」

「雪、屋根から下に落として」

「ここ、掘れる?」


 それだけで、エクステリアは周囲の地形と状況を再構成し、実行可能な手順を勝手に組み立てる。

 初心者のメンバーが思わず声を上げるのも無理はなかった。


「え、もう動いてる」

「今の、何も押してないんだけど」


 誰でも使える、という言葉が誇張ではないことを、全員が肌で理解し始めていた。


 その最中、鈴音はふと思い立ち、シミュレーターのチャット機能を開いた。


 <黒川君さ。ドローン操縦、すごかったね。私にも教えてよ>


 携帯端末で直接連絡するには、そもそも連絡先を知らない。

 こういうところだ、と自分で苦笑する。

 だが、シミュレーター内には参加者同士の1on1メッセージ機能が用意されていた。


 返信は、すぐだった。


 <嫌だね。

 初対面だし、それに留学枠のライバルだろ>


 一行で、ばっさり。


 <留学枠、確か一枠じゃなかったよね?

 お礼もちゃんとするし。次の休憩、射撃場で待ってるから来て>


 既読表示がついたまま、返事はなかった。


 誰でも簡単に動かせる、という体験が一巡し、初心者たちの緊張がほどけた頃。

 講座は次の段階に移った。


 音声入力による指示が制限され、代わりに手動操作の訓練が解放される。


 とはいえ、それも想像していた“操縦”とはだいぶ違う。


 遠距離移動は、マップ上で目的地を指定するだけだ。

 エクステリアは最短かつ安全な経路を自動で選び、歩行を開始する。

 途中で建物や他機体が干渉しそうになると、確認用のウィンドウがポップアップする程度。


「右足を出して」「速度を微調整して」

 そういった操作は、基本的に存在しない。


 鈴音が何度か同じ状況で操作を繰り返すと、次からは処理提案そのものが省略されていった。

 前回と同様の地形、同様の障害物、同様の目的。

 AIはそれを“学習済み”として扱い、確認を飛ばす。


 なるほど、と鈴音は思う。


 これなら、人手不足も解消される。

 個人が所有するエクステリアを、遠隔で出稼ぎに行かせる、という発想も現実味を帯びる。


 ――だが。


 最後に用意された、エクステリア同士の組手だけは、まるで別物だった。


 自動対応に任せたまま接触すると、警告が頻発する。

 人身被害の可能性。

 物損のリスク。

 過剰な力の使用。


「攻撃してよし」

「危険でも避けなくてよし」


 その二つを事前に整理して入力していないと、判断待ちのまま動作が停止する。

 相手を無視するように、その場で固まってしまう機体も少なくなかった。


 気持ちの準備ができていないまま、判断を求められる。

 それだけで、人は簡単にフリーズする。


 周囲を見ると、はっきり差が出ていた。


 明忠のエクステリアは、動きこそ緩慢だが、途切れがない。

 相手の動作を受け流すように脚部や腕部を取り、重心を崩し、淡々と転倒させていく。


 黒川、相馬、大垣も、明らかに慣れていた。

 型を事前に設定し、タックルや打撃を織り交ぜながら、動くだけで精いっぱいな相手を圧倒する。


 鈴音はそこで、ようやく理解した。


 これは反射神経の勝負じゃない。

「どう動くか」を、どれだけ先に決めておけるか。

 相手をどう“巻き込むか”、あるいはどう“待つか”。


 その差が、結果に直結する。


 その理解が広まり始めたところで、組手は打ち切られた。


「はい、今日はここまで。希望者はもう少し動かしていいけど、設備の点検が入るから30分は休憩ね。

 それと短期留学の募集について大事なお知らせをみんなに送ったから、明日までに確認しておくこと。

 私はまだ残ってるから聞きたいことがある人はこの後聞いてくれてもいいからね」


 凜玖の声で、シミュレーターのセッションが一斉に終了する。


 まったく肉体の疲れはないはずだが、全身から汗が噴き出すような感覚だった。


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