ドローン戦の行方
<森に入っちゃったか。定石とかある?>
鈴音は視線をメインモニターから外さず、短く問いかけた。
画面には、相手ドローンの推定位置が半透明の円で表示されている。森の上空で急激に不確定性が増していた。
<推奨:森に侵入せず、上空からの監視を継続してください>
<おっけ>
追跡ドローンは高度を維持したまま、樹冠の輪郭に沿うように速度を落とす。
カメラ映像は俯瞰と拡大を頻繁に切り替え、相手の軌跡を“見失わないこと”にリソースを割いている。
<全然見えないね>
相手の機影は、樹木の影に溶けるように消えては、数秒後に別の隙間から現れる。
ときおり樹冠すれすれまで上昇してきて、すぐにまた沈む。そのたびに、画面右側の推定軌道が書き換えられていく。
<電池切れまで粘れば、相手も回収不能になるか、
それともタイガに潜伏してるのか、どっちかは分かるんだろうけど……>
鈴音は、画面下部に表示された残バッテリーを一瞥した。
<っていうか、タイガに潜伏してるのを見つけるのが課題だったりすると思う?>
<不明です>
ヴィヴィアンの返答は即座だった。
<しかし、時間経過で判明する情報もあります。
現在も飛行を継続している点から、発進地点の推定範囲は収束しつつあります>
つまり、“逃げている限り足はつく”。
鈴音はそう理解した。
相手は完全に消えたかと思えば、樹木の合間から一瞬だけ姿を見せる。
ごく稀に、樹冠より上まで上がってくるが、こちらの高度に並ぶことはない。
鈴音は、見失わないギリギリまで自機の高度を落とす判断をした。
上空を維持したまま、しかし森の“動き”が読み取れる高さ。
その瞬間だった。
<後方、敵機>
<えっ>
思わず声が漏れた。
警告表示と同時に、背後カメラのサブウィンドウがポップアップする。
そこには、同型の小型ドローンが、異様な近さで迫っていた。
反射的に回避行動を取ろうとするが、林間を抜けられるルートを探す余裕がない。
横方向への急旋回は枝への衝突リスクが高すぎる。
鈴音は、ほぼ無意識に上昇を選択した。
しかし――
画面が一瞬、激しく揺れた。
高度インジケータが乱れ、姿勢制御が黄色表示に切り替わる。
何かが絡みついた。
回転数が急落し、推力補正が間に合わない。
機体はバランスを崩し、そのまま映像が下へ流れていく。
<機体、制御不能。墜落。活動不能>
システム音声が淡々と告げ、画面がグレーアウトした。
落ちる直前まで、前方には追跡していた機体がいた。
それなのに、後方にも同型機。
<待ち伏せされた?>
鈴音は即座に切り替える。
<なら、タイガに敵が潜伏?
センサーで拾えない?>
<残念ですが、現時点では確定できません>
ヴィヴィアンは、事実だけを積み上げる。
<林内からドローンが上昇してきたこと。
相手が機材の限界速度近くで飛行していたこと。
当方の機体が林内を低速で飛行せざるを得ない状況だったこと>
画面に、簡易的な相対速度グラフが表示される。
<これらから、相手方が“上方からの接近が可能”と判断した可能性は推定できます>
<武装は? 何か見えた?>
<映像ログから、ワイヤ状の物体を確認しています。
有力候補は、有線通信用ケーブルです>
「あー……」
鈴音は、思わず声を出した。
絡め取るための“武器”ではなく、通信や回収のための装備。
それを“使った”。
そのタイミングで、教室全体に凜玖の声が響いた。
「はい、芋掘りはここまで!
シミュレーターも各自でストップかけてね。席の横の赤いボタンでいいから」
メインモニターが一斉にフェードアウトしていく。
「十五分後に再開するよ~。
このフロアのドリンクバー、使っていいから休憩してきて!」
体感的には一瞬だったが、ログを見るとそれなりに時間は経過していた。
「沢渡さん、だよね。ドローンで追っかけてきたの」
声をかけてきたのは相馬遥人だった。
「あ、相馬君だっけ。
もしかして、待ち伏せしてた?」
「ごめんごめん。黒川とちょっと遊んでたら、追っかけてくる子がいてさ」
軽い調子で肩をすくめる。
「追いかけっこしてたら面白くなっちゃって。
ちなみに待ち伏せは黒川ね」
「オレを黒幕みたいに言うなよ」
ぶっきらぼうに直規が割って入る。
「へぇ……すごいね。
逃げる暇もなかったよ。最後の、何? 武器じゃないよね」
「さあな。休憩、すぐ終わるぞ」
直規はそれだけ言って立ち上がった。
「こいつ、いつもこんな感じだから気にしないで。
あ、直規。オレのカフェオレも頼む! 砂糖一本な!」
黒川直規は短く返事をすると、ドリンクバーの方へ向かっていった。
相馬もそそくさと離れていく。トイレだろう。
鈴音は、椅子に深くもたれたまま、個人端末に向かって小さく言った。
<ヴィヴィアン。反省会できるように、全部データ取っといて>
<了解>
簡潔な返答と同時に、ログ保存完了の表示が出た。




