ロボティック芋掘り
昨日は本編更新がなくて作品解説を活動報告に載せましたので、よろしければどうぞ。
https://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/710334/blogkey/3564178/
「じゃ、今日からは皆でエクステリア体験会……と言いたいところなんだけど」
凜玖は教室前方に立ち、いつもの軽い調子で両手を広げた。
「さすがに十機も町中をうろつかせたら、苦情が先に来ちゃう!
なので今日は、モニターとコントローラーで“感触”だけ味わってもらいまーす」
語尾だけがやけに明るい。
それに対する反応は、見事なまでにばらけていた。
里奈は身を乗り出し、鈴音は腕を組みながらも口元が緩んでいる。ユウトと遥人は、もうゲーム感覚で周囲を見回していた。
一方で、明忠と直規は背筋を伸ばしたまま、モニターを正面から見据えている。
覚悟、という言葉がしっくりくる表情だった。
海夏だけは、どこか別の場所を見ているようだった。
目の焦点は合っているのに、心が追いついていない。
そして残りの面々は、期待とも不安ともつかない曖昧な顔で、流れに身を任せている。
全員が席についたのを確認し、凜玖は続けた。
「エクステリアが色んな場面で活躍する話、今日は実際にやってもらいます。
まずは……みんなも一度はやったことあるよね?」
一拍、間を置いて。
「お芋掘りから!」
「え、操作説明とかないんすか」
反射的に声を上げたのはユウトだった。
考えるより先に口が動くタイプだ。
「もちろん無いよ」
凜玖は即答した。
「それがエクステリアのいいところだからね」
その言葉を裏付けるように、モニターの中ではすでに動きが始まっていた。
高さ四メートルの人型機体。その視界は、畑全体をゆったりと包み込む。
里奈と鈴音の機体は、備え付けの農具を使って、規則正しく土を掘り返している。
動きは滑らかで、力任せではない。土の抵抗を“感じている”ような制御だった。
〈僚機の収穫作業開始を確認。本圃場の作物はジャガイモです〉
ヘッドセット越しに、平坦で感情のない音声がユウトの耳に届く。
〈本機も作業に参加しますか?
音声、または画面上のパネルでご指示ください〉
「あ、はいはい。そういう感じね」
ユウトは画面右下に浮かんだ[許可]のパネルをタップする。
即座に担当エリアが淡く表示された。
「まあ、これならぶつからないかな? オッケー」
適当な返事にも、音声は変わらない。
〈安全確認、完了。行動を開始します〉
〈最終確認のため、タッチ操作をお願いします〉
次の瞬間、画面構成が切り替わった。
第三者視点の俯瞰映像が空中に浮かび、行動予測と結果が線で示される。
左上には、頭部後方から見下ろす視点。
正面には、一人称で映し出される巨大な手と、掘り起こされる土。
確認パネルをタッチすると、エクステリアの腕がゆっくりと沈み、土をすくい上げた。
「え、座ってるだけじゃん」
思わず漏れた声に、少し笑いが起きる。
「楽勝すぎる」
「そうだね」
凜玖は否定しなかった。
「でもさ、大きいとはいえ“ひとり分の作業”を、ひとりで指示してるだけじゃ、実はあんまり効率よくないんだよね」
そう言いながら、全体を見渡す。
「周り、見てみて。
実はこれ、全員分の指示を“ひとり”がまとめて出してもいい。
だから他の人は、別のことをしてていいんだ」
モニターに映る複数のエクステリアが、互いに干渉せず動いている。
「家事でも、育児でも、研究でも、デスクワークでも。
必要なときに、必要な場所へ、物理的な力だけを集める。
じゃがいもの収穫期なら、今ここだよね」
「雪下ろしでも、草刈りでも、荷物運びでも……」
鷹宮がぽつりとまとめる。
「つまり、何でもできる“助け合い”の形、っすね」
「そう」
凜玖は頷いた。
「人手不足はロボ手で解決。
それは開拓の現場だけの話じゃない。
金融、機材の貸し出し、都市の投資まで全部つながってる」
一瞬、言葉を切る。
「しかも、エクステリアは眠らない」
その言葉が、静かに教室に落ちた。
「オホーツク共和国が“ロボットとAIが切り拓く国”って言われる理由、
少しは分かってもらえたかな?」
少しだけ、得意げな笑み。
里奈はその横顔を、まぶしそうに見上げていた。




