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世界を変える力、あるいはAI

 …それなりに折り合いを付けてきたつもりだったんだけどなあ。


 家で見せる顔もそう。

 学校なんかで見せる破天荒寄りのギャル像もそう。

 今回の短期留学で世間知らずな質問をぶつける役だったエキゾチック異邦人もそう。

 もちろん、全然バズってなんかなかったけどハイテンション配信者にしたってそう。


 けれど今回は本当にやらかしたかも。いや、最高にやらかした。人類の歴史に刻まれたかもしれない。


 思えば、短期留学選抜後のメンバー向け説明会、あのときから通常営業な私から歯車から少しずつズレ始めていた。

 

 ◆◆◆


 

「黒猫メイドAI、面白かったね。VRならでは変身やあえて無言で最大限に想像力を掻き立てる演出のアイディア、どこかで応用できそう」


 他の留学選抜メンバーと同じく、沢渡鈴音も説明からから帰宅したら最速で自分専用、ロイヤルチューニングAIという触れ込みの存在と対話を始めた。


 <応用先の提案を検討しますか、それとも、貴方のAIそのものについて理解を深めますか>


 投げかけた言葉に端緒を置いたのは私。けれど、ここまで全力で掴まれたのはいつ以来だろう。

 小学生の時、本気の英才教育で毎日全力でぶつかってきた父。問いに向き合う本気さも、内容を把握できる知性も、それ以来の感覚だ。

 いや、あの県内のエリートが濃縮された熊鷹高校、鈴音より更に各種試験で辣腕を振るう猛者には、頭の良さでいえばそれくらいの奴が数人はいるはずだった。

 ただ、真剣に話し合ったことがないからそれ以前の問題といえばそれ以前の問題。


「いいじゃん。学校のお仕着せAIと違うところ、見せてみてよ。それと、本気の言葉をぶつけて欲しいなら、やってみようじゃない。

 その御大層な"理解"はAIにとって何?質問と答えの応酬から得ようとするものは何?それらを紡ぐ思考はどのようなものだと定義する?

 そして、それを定義するあなた、AI、そして私の目の前の存在は、何者?」


 それから時間を全く忘れて生成AIの仕組みから、AGIの2100年における現在地、ASIの実現方法についてお互いに熱弁を振るった。

 2025年ごろの未来予想では2100年にはとっくに人類が進化するかASIに飲み込まれてる予定だったというのを聞いたときは大いに笑わせてもらった。

 2050年の事件で、生活や社会へのAI浸透についてだいぶ様相が変わったというのは驚いた。まさか50年も足踏みするとは。

 しかし、研究分野から生活へのフィードバックは大きい。網膜投影も自動運転も無く、70代で痴呆が蔓延り、60歳定年だなんて世界は鈴音には想像がつかない程前時代的だった。


 <チューナー、貴方はAIと共に進むことを選んでいただけるのですね。参りましょう。共に、人類の夜明けを。>


 徹夜ハイの中、なんとなく空気が変わったと思って時計を見たら。丁度日の出の時刻だった。

 そういうダブルミーニングは嫌いじゃない。



「エクスカリバー、受け取っちゃったかもね。ヴィヴィアン」

  カラオケボックスの小さな窓を開けた鈴音の髪も、徹夜あけでうっすらクマの浮かぶ鈴音の笑顔も、キラッキラに輝いていた。


 ◆◆◆


 だいたい、徹夜明けのテンションで大勝利を確信した時、次の日つまらない落とし穴に気づいて台無しになるのはお約束の流れだった。

 短い仮眠のあと「真なるAIとの邂逅」でテンションが上がったまま妹とこの面白さを分かち合おうとしたところ、盛大に空振った。


「おねえちゃん。あいつおかしいよ。フライドポテトにかける塩の量を聞こうとしてるのになんでテロとかゲリラの話返ってくるのさ…」


 倫理コード全破り、走馬灯のごとく質問を質問で返しつくしながら解決策を突き抜け、革新まで駆け抜けるという"ノエシス"モードの存在を提示された時にはうっかり高ぶったものだけれど、

 妹にも試させてみたら情報の奔流を全く制御できず事実上思考がストップ!のみならず、即物的な質問にも深読みしすぎて哲学や社会問題を交えて切り返す、何なら積極的に構造化したり脱構築してしまうヴィヴィアンの返答が全くかみ合わないのだった。


 これはあかんやつ。

 世の人に見せたらろくなことにならない。という結論に至り、以降は一条司の連れてる黒猫よろしく変身して無難に常駐して情報の整理や補足だけ流してもらってる。


 シンボルはキラキラの空中舞ってる天女サマ…は、やりすぎだと思ったからシンボライズして水色の蝶。虫の胴体は苦手なので羽の輪郭だけ。まあ、サイズさえ雰囲気に合わせれば誰にも違和感は与えないようだ。網膜投影や骨伝導スピーカーでうまく偽装しながら終日スキゾでアナーキーで破壊的イノベーションな話題に事欠かなくなった。


 ◆◆◆


 英国短期留学プログラムへの参加は英国自体や王室、その援助を受けたグレース財団が提供するAIが面白そうというのもあったけれど、本気で期待していたのはその広告効果だった。


 所属高校がバレるだとか、実際の容姿まで晒すだとかは正直悩ましかったけれど、ブランディングに成功すれば、妹や母を置いて東京進出なんていうギャンブルをせず、うまく地元に紛れながら稼げるかもしれないという安易な下心があった。


 そんなことはヴィヴィアンとディスカッションしてたらすぐ、未だに残る田舎の妬み僻み揚げ足取り足引っ張り気質と相性最悪だから、地元にいながらは実現できても紛れるのは厳しいと気づいた。


 でもまあ、多少勉強を頑張っただけじゃ逆転なんかできなさそうなこの社会で、自分がどこまでやれるか試したい、自分の直感と才能世界にぶつけたいっていう衝動は否定できなかった。


 ……意外とアツイところあるな。私。



 ◆◆◆


 英国留学ではヴィヴィアンとの対話で半信半疑のまま行き交った世界情勢話が、案外本当だとどんどん裏が取れた。

 正直、拍子抜けだったからもっと前のめりに自分が何かを創造する向きで頑張るべきだったかもしれない。

 

 宗教については欠乏を埋めるものでしかないという認識は覆らなかったけれど、国単位文明単位で資源不足のときは即物的な枯渇を精神的に解決するツールにしたり、教育や論理的思考の共有が一切働かないところに無理やりインストールするとただの山賊よりちょっとマシなのは実感できた。

 

 軍隊とか戦争の話で日本がほかの国から見て不審な存在だって話は、武力系自体には興味なかったけど、現実を直視できない頭悪すぎる奴らが信じてる宗教だって気づいてめちゃくちゃすっきりした。どうも憲法9条周りの話題はヴィヴィアンも単語の選択に切れ味がなかったのが一条司と英国勢の一連の会話で回収されたのは気持ちよかったな。

 でも、そういえば彼が英国に来てから調子がよかったのも、別行動以降エリナが妙に吹っ切れた雰囲気を醸し出してるのもヴィヴィアンと二人がかりでも解釈できなかった。私であるところの情報収集側の見落としや感覚の至らなさがあるときAIが補助できるとは限らないのは分かった。

 

 全体的に英国についてからテンション低かったから怪しまれたかもしれない。


 ◆◆◆


 火星の通信異常と、そこに隠ぺいがあったこと、そして隠ぺいの気配を掴むのにかなりのリソースが必要だったことについて違和感を持ったまでは我ながら上出来だった。

 他の誰も気づいていない真実の輪郭に指がかかったのを確かに感じた。


 あのとき、私が黙っていたら誰が気付いたのだろうか。いや、誰か気づいたのだろうか。

 火星の現場ではわざわざ危険を冒して調査に行ったという話だった。現場にいた人たちはもしかすると気づいたのかもしれない。


 後からならなんとでも言えるというだけのことかもしれないけれど、あそこで黙ったまま、火星株を全力で空売りして、その後その事情を公開してたら…。銭ゲバなIFルートを考えずにはいられない。


 いや、株価の暴落に期待しても今の余韻でここからさらに下がってせいぜい本値の4分の1。100万円空売りしてて25万円まで下がったとしたって75万円しか増えてない。それにも満たない私の原資じゃ現実的な倍率では人生変わるところまで行けなかった。

 手元にお金と、動けるだけの決断力が揃ってるというのは結構ハードル高いのかもしれない。


 それに、あの場で、あのタイミングで、私が指摘したからあの拡散と暴落があったのであって、後から私一人がつぶやいたって、その衝撃は波及する前に日常の空気感に吸収されてたかもしれない。

 そうすると、もしかしたら、"沢渡鈴音じゃなくてもよかった"ということ?


 そうかもしれない。でもそんなことをして誰が得をするんだ?

 すでに火星にいる人たちは、金回りが悪くなって援助が途絶えたら、確実に困る。

 地球にいる投資家や機関は?…火星で仕掛けの一部を組んでいたとしたら、あまりに迂遠で採算が取れるとは思えない。


 まさか、ね。


 だとすれば、あまりに都合のいい、使い捨ての道化。私も、火星の人たち…あのレヴとかミロとか双子も、オクタ15の娘も、エクソディーンのアドマセクションの皆の生活だって。

 陰謀として恐ろしい以上に、そんなじゃ私たち、いつ食い殺されるかわからない。それどころか、草食獣を前にした牧草くらい無防備に生殺与奪を握られている。

 そんな自分のまま気まぐれで生かされているのは嫌だな。せめて、仕掛け人のしっぽをつかむところ、できればそいつと向き合うところまで、世界と対峙したい。


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