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僕たちの面談(2)

「じゃ、前置きはこのくらいで」


 凜玖はタブレットに何かメモを打ち込み、それから画面を切り替えた。


「コースの話をしようか」


 画面には、三つのコースが表示される。


 > ① サマーフィールドキャンプ(2週間)

 > ② 半年プレ留学+オンライン課題

 > ③ 正規留学(1〜3年)


「いきなり『オホーツクで残りの高校生活全部』は、さすがにハードル高いからね」


 凜玖が、①を指でなぞる。


「①は、“お試しで辺境の空気を吸いにくるコース”。

 エクステリアの簡単な操作と、防災・救助・生活スキルの体験授業。

 現地のパイロットや技術者と一緒に、小屋を建てたり、吹雪前の準備を手伝ったりする」


 里奈の目が、分かりやすく輝いた。


「さっきの“ログハウス建て”の、もっとガチ版、みたいな?」


「そうそう。

 今日みたいな体験授業の“続き”を、実際の土地でやる感じ」


 次に②。


「こっちは、“本気で進路に入れたい人向け”。

 半年間、オホーツクで暮らしながら、

 エクステリアか、それ以外の専門――たとえば『電力』『通信』『農地開墾』とかを一つ選んで勉強する。

 そのうえで、残りの高校生活を日本に戻るか、そのまま向こうで続けるかを決める」


 “戻る”という選択肢が、ちゃんと最初から書いてあることに、明忠は少しだけ安堵した。


「③は?」


「③は、“自分の人生の重心をオホーツク側に移す”人のコース。

 ここまで来ると、正直、

 “日本の進学校での序列”とか“偏差値”とかから、飛び出しちゃうね」


「飛び出してしまいたい人は、全員採用、でもないですよね。何を見るんですか?」


「“どんな暮らしを作りたいか”と、それを人に説明できるかどうか。

 あと、最低限の語学と、健康診断ね。

 辺境は病院遠いから」


 凜玖は、さらりと言ってから、二人の表情を見た。


「今の二人は、①か②が現実的かな。

 校内推薦枠があるから、今日みたいなデモをやらせてくれた学校には、少し多めに配分できる」


「推薦……」


 “推薦”という言葉は、この学校の生徒にとって、進学の文脈で何度も聞いてきたものだ。

 けれど今、目の前にあるのは、大学でも予備校でもなく、“ロボの国”への入り口としての推薦だった。


「もちろん、お金の話もある」


 凜玖は、そこで一度言葉を切る。


「基本的に、現地で必要な生活費は、“働きながら”賄ってもらう形になる。

 エクステリアの整備を手伝ったり、栽培ハウスの管理をしたり、

 ログハウス建てのプロジェクトに参加したりね。


 学費そのものは、

 社会に出たから払う形にしてるコースもある。日本では一般的かな。

 “給料から天引きで、数年かけて返してく”みたいな」


「ローン、みたいなものですか?」


「うん。でも、

 “都会のワンルームで一人暮らし+学費ローン”と、

 “辺境で血の通った仕事が見える形で身に着けながら学費ローン”だったら、

 どっちが自分の人生に近いか、って話かな。」


 明忠は、思わず息を飲んだ。


 ――お金やその後のキャリアがネックになるのは分かっている。

 でも、それを「だから無理」で終わらせない形を、

 最初から用意している世界がある、という事実。


「……林くんの顔が、わかりやすく動いたね」


 凜玖が、にやっと笑う。


「奨学金とかローンとか、もう調べてるでしょ?」


「……はい」


「ここがポイントなんだけど」


 凜玖は、机の端に置いてあった別のパンフを一枚取り上げた。


「“逃げるための奨学金”と、“動くための奨学金”は、

 仕組みは似てても、結果は大きく違うものになる。


 どっちが正しいって話じゃなくて、

 自分がどっちの側に乗りたいかを、ちゃんと選んでほしい」


 里奈が、ぽつりと聞く。


「“逃げるため”って、たとえば?」


「日本の“しんどい場所”から、

 とりあえず別の“マシな場所”に行くためだけの進学とか、かな」


 凜玖は、少しだけ言葉を選ぶ。


「さっきも言ったけど、それ自体は全然アリ。

 そこから、また次の場所を選べるようになる子もいるし。


 でも、オホーツクに来る子の多くは、

 “どこに行っても不安はあるから、だったら一番今の生活から遠くて一番おもしろそうなほうに賭けたい”って言う」


「ギャンブルですね」


 明忠が、半分冗談で言う。


「うん、めちゃくちゃ“計算したギャンブル”」


 凜玖が、口元だけで笑う。


「だからこそ、今日の話を聞いて、

 “自分には無理だ”って感じたら、それも正解。

 “アリかも”って思ったら、そこからようやくスタートライン」


 里奈は、昼間の自分の言葉を思い出す。


 ――ありかもね。“ロボの国”。


 あれは、スタートラインの手前でつぶやいた一言だったのだと、今さら気付いた。


「じゃ、最後に一個だけ」


 凜玖は、ペンを持って、タブレットの端に小さく書き込む。


「さっき二人が言った“嫌な自分”ね。

 “遠くを画面で見てるだけの自分”と、

 “わかってるのに動かない自分”。


 オホーツクへのルートを選ぶっていうのは、

 “その二人を、少しずつ減らしていく”っていう選択でもある。


 ……それでも、“今はまだ怖い”って決めるのも、アリ」


 その言い方は、決して急かすものではなかった。


 選択肢は、今ここに提示された。

 けれど決定は、今日である必要はない――

 そういう余白を、ちゃんと残してくれる声音だった。

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