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名探偵なら苦労しない  作者: 黒井白紙
7/11

第七話―太陽に俺はアイルビーバックと吼えろ!!!(文章崩壊)

・・・・・・・・惨敗だった。

一部の言い訳もできないほどに、俺は敗北しつくした。

大人としての尊厳とかそんなものをすべて振り切って、全身全霊の敗北を喫したのだ。



「ではでは、最初の競技に移りたいと思います」

司会がマイクを右手に宣言する。


「最初の競技は『しりとり』です!!!」

そう告げられた瞬間、一瞬生徒たちの間に緊張が走った気がした。


「い、いきなり『アレ』かよ・・・・・・」

「今回は初心者の人だっているんだぜ?少しぐらい手加減しても・・・・・・」

「確かにやりすぎな感じが・・・・・・」

口々に囁き合う生徒達。

何なんだ、一体何が起こるんだ。


「・・・・・というわけで、一回目のゲームはしりとりです。ルールは分りますか?」

突然マイクを向けられ、咄嗟に首を振る俺。

「覚悟はよろしいですね?」

そういう司会の目が、きらりと光った気がした。



「では、私から」

そう言って司会がマイクを持ち直す。

「『しりとり』から。『りんご』!!!」

そう言って彼は最前列である自分の席から、一つ後ろの席の女子へとマイクを回す。

「り・・・・・・・『リンドバーグ』」

いきなりコアなところから攻めに入ってきた。

そんな感じのペースで、さしてつかえることも無く俺の前の席の女子まで順番が回ってきた。

確か彼女は久米坂とかいう名前だった気がする。

回ってきた単語は『祭り』。

「り・・・・・・り・・・・・・・『リール』」

俺は難なく答えを壁斑に回す。

「『ルール』だ」

壁斑もあっさり次へ。

「『ルビー』」

そして、マイクは次の生徒へと回っていった。


二順目。

俺の前の席の女子に『周り』が回ってくる(洒落ではなくて。断じて)。

「周り、ですか・・・・・・・では『リバプール』」

俺は少し考えたのち、次へと回す。

「『瑠璃色』」


三順目。

「そうですね・・・・・・・『リサイクル』」

俺は熟考に熟考を重ね、答えを出す。

「ルルゴー〇ド」


四順目。

俺はここでふと気がつく。

このしりとり、外見はただのしりとりのようで、実は凄まじく高度なやり取りが行われているのだ。

例えば

「『クジャク』」

「く、く・・・・・・・・『クリスマス』」

「ス?・・・・・・『スピードスケート』」

一見なんでもないしりとりだが、実は、彼らのそれぞれが次の順番の人間に『ク攻め』『ス攻め』『ト攻め』を行っているのだ。

一番目の彼はさっきの答えは『クリック』であったし、二番目の少女は『クラス』、三番目の少年は『スリット』であった。

彼らだけではない。

クラス全員、全ての生徒たちが似たような『一字攻め』を行っているのだった。

しかしながら、彼ら自身もまた、前の順番の生徒から一字攻めを受けていることを忘れてはならない。

つまり、彼らは毎回毎回『同じ字で始まり同じ字で終わる言葉』を終始考えていたことになる。

恐るべき頭の回転力だが、其れをしていないのはそのことにいまさら気がついた俺と、壁斑位である。

担任である女性教師の方でさえ、やっていた。

そして、俺は今何の字で責められているかと言えば・・・・・・・・『ル』。

恐らく、一番つらいであろう文字だった。


そして、五順目。

「『リキュール』」

「る・・・・・・・・・・・・・る・・・・・・・・・・・・・・・・」

一人に設けられた制限時間は一分。

俺は制限時間をたっぷり使って考えたのち、敗北した。



「クヒヒヒヒヒヒ・・・・・・では、敗者である長良川先輩には、罰ゲームを受けていただきます」

口元をにやりと歪め、司会が楽しげに言う。

「今回の罰ゲームはこちら!!!!『青春の叫び、世界の中心でお題を叫べ!!!』・・・・というわけで」

元ネタが古かった。

「長良川さんには、今から自分の席の窓を開けていただき、私が出す十個の『お題』を叫んでいただきます」

本当に楽しそうな表情の司会。

彼はいつの間に用意したのか、単語カードサイズの小さな札を何枚か、俺に渡す。

その一枚一枚に書かれているのが、『お題』のようだ。

「まずは一つ目、どうぞ!!!」


俺は適当にカードから一枚選びとる。


・・・・・・・やばいやばい。

こんなの初っ端から叫んでたら、俺は変態ではないか。

そう思い他のカードをあさるも、どれもろくなものがない。

十枚どころか一枚だけでも、十分に俺を社会的抹殺に追い込む力を持っているお題達。

どうせどれを選んでも同じなら、と、俺は覚悟を決め、一枚の札を抜き取った。


「・・・・・・・・・・・」

「ささ、遠慮せずに大きな声で」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・だ」

「何ですか?聞こえませんよ?」

「・・・・・・・が、・・・・・・・だ」

「ほら、もっと大きな声で」

ああもう!!!!ウルセエなア!!!!


「AKBが、

大好きだああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!」


その声は、遠く遠く、我が故郷、九内町にまで届いたという。


「はあ、はあ、はあ・・・・・・・・・」

まっ白な灰となった俺に、司会の少年が口元を歪めたまま、言う。

「まだ、終わってませんよ?」

「・・・・・・な・・・・・・に・・・・・・・・?」

残りのお題九個(・・・・・・・)。全部残らず、叫んでもらいましょう?」

なんかもう色々と、ヤケクソだった。


其れから数分にわたり、俺は環状八号線の道行く車たちに向かって、一昔前の一発ギャグをかまし、下ネタを叫び、ドM宣言をし、口説き、そしてもう一度アイドルへの愛を叫んだ。

色々ともう滅茶苦茶で、何もかも俺が燃やしつくし、中学の理科の実験の完全燃焼しきった木片のごとき状態に俺がなるまで、そう時間はかからなかった。

その後のことは、よく覚えていない。

俺の記憶にないままに『第一回夏季合宿ゲーム大会』は終了した。

しかし、俺の記憶がない間もゲーム大会は続いていたらしく、サービスエリアでバスを降りた俺は、気がつけば半そでワイシャツ一枚で第三ボタンまで開放、ズボンは膝上五センチほどまで織り込まれ、額に『中』と書かれ(何ゆえ主人公でなく、脇役キャラを模倣することにしたのか、俺にはわからない)、背中には『オッス!!!オラ山田!!!』という意味不明の紙が張られ、鼻つき眼鏡をかけて首には髑髏を模した模様のネックレスをかけて幼児向けの大型絵本を開き食い入るように見つめ、駐車場のど真ん中に立ちつくしていた。

一体俺の記憶がない間に何があったのか。

甚だ不明であり、非常に気になる。

壁斑を捕まえて問いただすも、

「い、いやまあ・・・・・・・・・・」

などと目線をそらし顔を背け口笛を吹いてあからさまに誤魔化そうととするだけだ。

相神には質問する前に爆笑された。

「そんなに知りたいなら教えなくもないですけど・・・・・・・・後悔しますよ?」

などと言われては引き下がるしかない。


そんなことを考えながら洗面所で顔の落書きを落として、ハンカチで拭いながらバスに戻ろうとしたら、D組のクラス担任の女性教師(波江田さんというそうだ)がやってきて、俺に今にも土下座せんばかりの勢いで謝罪してきた。

・・・・・・・・・・・本当に、一体何があったんだ。

「世の中知らない方が幸せってこともあるんだよ。知らぬが仏ってな」

いつだったか、紙野がそんな感じの、知ったようなセリフを言っていたのを思い出した。



「・・・・・まあいい。俺は心の広い人間だから、許してやることにする」

「よく言うぜ、人に拳骨落としときながら」

「何か言ったか?」

「いえ?全然?」

サービスエリアでいったん降りた後、俺は座る場所を変えて、バスの最後列に座ることになった。

唯一五人が並んで座る最後列には、右から順に相神、俺、四月朔日嘘子(わたぬきうそこ)(先ほどのしりとりで俺をル攻めで陥れた女子生徒だ。ちなみに『四月朔日』で一つの姓らしく、世界の広さを思い知った気分だった)、大桐語(おおぎりかたる)(先ほどのゲーム大会で司会を務めていた生徒だ。俺を一目見るなり、『奇遇ですねェ』などとほざいて笑いやがった)、そして帝王学学(ていおうがくまなぶ)(相神に聞いたところ、学年トップの成績を誇るガリ勉らしい。見た目も坊ちゃん刈りに丸眼鏡で、この暑い時期に、学ランを着用している)。

ちなみに壁斑は、波江田先生と離れることを断固として拒否し、最前列の教員席に座っている。


そんなメンツの中でできることと言えば精々、知り合いである相神と話すことぐらいだ。


「そういえば、さっきのゲーム大会を見る限り、お前の言うようなクラス間の関係の悪さはないように思えたんだが?」

色々と緊迫はしていたが。別の意味で。

「まあ、バスの席では総合遊戯研究部も生徒会も別々ですからね。

白崎は一年生で紫影さんは三年生なんでここにはいませんし、大王崎は夏季合宿の委員なんで別のバスに乗ってますし、黄城はバスの最前列で黒藤はバスの中間ぐらいで瑕村は黒藤と横一列で並んでいることは並んでいますが、黒藤が右側の窓席(窓際の席)で、瑕村は左側の窓席です。新風は俺の斜め前の席ですが、俺達の複雑な恋愛事情には絡んでいません」

「呼んだ?」

そう言って後ろを向いた新風を、なんでもない、と言って追い払ってから続ける相神。

「つまり、バス間において俺達は平穏そのものなんです」

「成程。お前らがくっついてさえいなければ、何にも問題はないのか」

「そういうことです。だから、本当に大変なのは、宿に着いてからですよ」

バスはもう既に高速道路を下り、田圃(たんぼ)の時々見えるような、片田舎の町へと入っている。

毎年藤岬学園高等部の夏季合宿で訪れる町、翠津(すいつ)だ。

確か俺の記憶では、この先に石橋を叩いて渡ったら壊れそうなくらいおんぼろな石橋があって、その先に、藤岬学園が所有する寮があったはずだ。

その名も、『水曜館』。

何故か『月曜館』や『土曜館』はなく、水曜館のみが存在している。

「見えてきましたね・・・・・・・・」

水曜館へと徐々に近づいていく中、車窓から顔を出して外を眺めていた相神が言った。

「バスから顔を出すな。窓を開けるな。いろんな人に迷惑をかけるだろ」

特に、窓から入ってくる風をモロに顔面に受ける俺が。

「いいですよ、みんな心が広いから、きっと許してくれます」

そんなことを言いながら肩をすくめる相神。イラっとくる。


こうして俺は、バス内でレクリエーションと称した非道なるゲームに巻き込まれ、サービスエリアで恥を晒し、そして十年近くぶりに、高校時代の思い出の場所を訪れることとなった。

一日三食、定期的な食事を得るべくここまで来たわけだが、この時点でもう滅茶苦茶である。

だが、こんなものは前座にすぎなかったのだ。

本当に大変なことは、まだ何も始まっていない。

俺がそのことに気がつくのは、やはり遅すぎたことに『本当に大変なこと』が起こってからだ。

『本当に大変なこと』。つまり、『生徒会』(・・・・・)の正体を知(・・・・・)るところから(・・・・・・)、今回の物語(・・・・・・)は始まる(・・・・)

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