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名探偵なら苦労しない  作者: 黒井白紙
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第三話―暴走の末に終焉へと向かう事件の鍵を握っているのはもしかしたら探偵ではなく、何かといろいろ考えている相棒なのかもしれない

今回はタイトル、少しだけ内容に関係あるかもしれない・・・・です。


さて、こちらは相神創一である。

現在、事件の最新の被害者であるところの紙野様次さんに、電撃取材中。


「あの・・・・・・通り魔の被害者ですよね?昨日の」

「ん?ああ、そうだけど。君らは僕の後輩だろ?話は長良川から電話で聞いているから、何でも質問したまえ」

「質問質問!!!好きな食べ物は何ですか!?」

「そういうことを訊けと言ってるんじゃないんだ瑕村」

「ええと・・・・・・グラタンかな」

「真面目に答えないでください・・・・ってかコアだな、おい」

「まあ、嘘だけどね。本当に好きなのは松坂牛のステーキさ」

「マジで!?」

「嘘だ。一度も食べたことがない」

「・・・・・・そうですか・・・・・・」

なんだか、話していると脱力する人だった。

「とりあえず、襲われてから一日経ってないのに、なんでそんなに元気なんですか?」

「僕を甘く見るなよ少年。こう見えても小中高大と一度も欠席したことがないんだ」

「それは凄いですけど関係ないでしょうね、たぶん。ニュースで見ましたけど、凶器には毒が塗ってあったらしいじゃないですか、即効性の。なのに貴方は今、ピンピンしている」

「多分そんなに強力な毒じゃなかったんじゃないかな?殴られた時も精々頭が少しボーっとした程度だったし」

確かニュースの情報を信じるなら、毒は即効性と致死性を兼ね備えた凶悪なものだったはずだ。

「犯人の姿なんかは見なかったんですか?」

「ああ、別に倒れた時に周りを見てればよかったんだけど、まず倒れて真っ先に考えたのがその日の夜食のメニューだったからな。周りを見渡す余裕なんてなかったんだ。かろうじて凶器のいろと、犯人が白づくめであることが分かったくらいでね」

この人がそんな馬鹿なことを考えていなければ、事件はとっくに解決しているんじゃないか・・・・?

ふと、思った俺である。

「凶器は冷たい、という話は本当ですか?」

「冷たかったよ。小学校の時に食べた某五十円アイスのソーダ味を思い出した。そういえば、最近あれをコンビニで買おうと思うと、六十円くらいに値上がりしてるんだよね。消費税のせいかな?」

「知りません。凶器の硬さや形状は分りますか?」

「硬かったよ。少なくとも、俺のおじいちゃんの頭ぐらいには硬かったんじゃないかな」

「わかりにくい例えを出さないでください」

「はいはい。形は正直よくわからなかったけど、間違っても滑らかな感じじゃないね、あれは。若しかしたら本当はつるつるの表面を持っているのかもしれないけど僕のイメージ的には・・・・・・・」

「混乱する情報を口にしないでください」

「はいはい。ところで君たち、高校生?」

「?・・・・そうですけど」

「学校生活と部活、どっちが楽しい?」

「どっちもどっちです。俺は」

「僕的には学校かな。総合遊戯研究部(ユーケン)の活動も楽しいけど、何せ学校は死ぬほど睡眠をとれるからね。人もたくさんいるし」

「自分は部活だ。学校に行っても恐怖の目で見られるだけだからな」

「私は正直、部活だけの通うために学校に行っているようなものだ」

「私、白崎朗としてはどちらも選びがたいところですが、敢えて言うならどちらも楽しいと答えるでしょうね。先輩方と違ってそれなりに学友などもおりますので」

「「「「どういう意味だコラ」」」」

「楽しそうだね。まあ今のうちに楽しんでおくといい、君たちもそのうち、それどころじゃなくなるさ」

紙野さんは最後の別れ際、意味深な一言を俺達に残した。



ところ変わり、壁斑探偵事務所にて。

「真狩先輩が、敵・・・・・・・・・?」

静寂を破り、俺が問う。

「性格には、今回の事件においては、協力的ではない」

壁斑が淡々と答える。

「今回、真狩先輩を頼るのは、まずい」

「どういうことだ?」

「真狩先輩は、犯人と何かしらの関係がある。恐らくは、情報屋と情報提供者の関係だ」

真狩先輩は顔が広いから、そんなこともあり得なくはないだろう、と適当なことを言う壁斑。

「成程。理屈は分った。根拠は?」

「・・・・・・・プロの勘」

「宇宙空間に飛び降りろ」

「飛び降りろ!?」

実際、このときの壁斑の言葉は、結構的を射ていたのだが、その時の俺達は知る由もない。

「・・・・・でまあ、真狩先輩に代わる、新・情報源があったほうが便利じゃないかとオレは思うんだ」

「新・情報源だァ?」

「織河先輩(真狩先輩のもとで働く、俺達の先輩である。事件の冒頭部分にて、真狩先輩と一度だけ登場)でもいいけど、真狩先輩の息がかかりまくってそうだから、やめておきたい。・・・・・ところで、『息がかかる』とは、どことなくセクシーな響きがしないかい?」

「その鬱陶しい口を引き裂くぞ」

「落ち着け。冗談だ。・・・・・・・・本当に落ち着いてくれ、頼むから、そのオレの口を引き裂くために用意したと思われるペンチをしまってくれ!!!っていうかどこからそんな物騒なもの出した!!!」

「冗談だ」

「し・・・・・・死ぬかと思った・・・・・」

冷汗をぬぐったのち、壁斑は体制を整えて言う。

「情報源が多いに越したことはない。そのため、この事件が解決したら、新しい情報源を探そうと思う」

「これから探すのかよ。っていうか真狩先輩が今回の事件の犯人とつながってるなら、これから探さないとやばいんじゃないのか?」

「大丈夫だ。事件はすぐに解決するから」

「さらりと爆弾発言すな。それはさて置きじゃあなんで今こんな話をしたんだ?事件解決後でもよかったのに」

「いや何、読者の皆様に軽く次回予告のようなものをしておこうと思ってね」

「・・・・・・・・読者の皆さま?次回予告?」

「・・・・あ、いや、なんでもない。・・・・・・そうか、良助にメタ設定はないんだったな・・・・・・」

突然意味不明なことを口走る壁斑は、若干不気味だった。



「再び場面変わりまして、こちら、総合遊戯研究部の面々です」

「・・・・・前にもこんなことあったけど、相神、君はいったい誰に向かって話しているんだ?」

「・・・・・・・・・あれ?誰だっけ」

通り魔の被害者への、一通りの取材を終えた俺達は、その結果を報告すべく先輩たちの待つ事務所へと向かっている。

取材の結果、わかったことは少ない。

まず、被害者たちは皆九内町内で襲われている。

被害者たちは、九内町の住民である。

被害者の一人、紙野様次は対毒性を持つ超人である。

せいぜいこのぐらいだ。

「まったく、とんだ骨折りだぜ」

大王崎が肩を回しながら言う。

「その通り。相変わらず壁斑は下らん無駄な仕事をさせやがる」

グレて若干荒れ気味な新風。

「ははははは、いいじゃないか。無駄こそはこの世の心理。若い時の無駄ほど貴重なものはない」

鬱陶しいことを言って大王崎と新風に殴られる瑕村。

「し・・・・白崎・・・・ほが、朗の・・・・体に限界が・・・・来てい・・・・・ることを・・・・・・お知らせしま・・・・疲れた・・・・」

「最後まで言い切れよ」

たかが町内を一周しただけのはずなのに、体を引きずるようにして歩く白崎。

九内町は、けして広い町ではない。

むしろ、少し小さいくらいだ。

口では文句をいいながらも、皆(当然白崎は除く。俺は含める)元気そのものなのがその証拠だ。

「そ、そういう問題では・・・・・・・体力テストで毎年・・・Eを全科で記録する私を・・・・・なめないでくださいよ?」

「いや、むしろ舐めまくりたくなるよ。どんだけ運動できねえんだ」

「・・・・・・・『舐めまくる』?セクハラはやめてください」

「ぐふっ・・・・・なんでそんなに弱ってんのに、パンチの威力は全く落ちてないんだ・・・・・・」

「ふ、鍛えてますから」

「さっきといったことが矛盾してるって気付いているか?」

「いえ?全然」

「嘘をつけ」

「バレたか」

「バレるわ。というかお前、さっきの限界来ました的なのはポーズか」

先ほどに比べ、異様なほどに滑舌のよい白崎である。

「ポーズじゃないです。確かにいくらか誇張していたところもありますが、それは・・・・・・・」

「それは?」

「・・・・・・・先輩が、私のことをちょっとでも心配してくれたら嬉しいな、なんて思って」

顔を赤らめながら言う白崎。

正直、好み的には超ストライクだった。

心臓が一瞬跳ね上がる自分。

「し、白崎・・・・・・・・」

「なんちゃって」

「テメエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!!!!!!!!!!」

俺のあの時のときめきを返せ!!!!

そう叫んで白崎に飛びかかる俺。

どこにそんな力があるんだ、というぐらいに全力疾走で逃げる白崎と、それを追う俺。

「相神・・・・・・・普通そのセリフは、女子の側が言うものだよ・・・・・・・」

後ろを歩く瑕村の、そんなつぶやきが聞こえた。




「・・・・・成程。ありがとう、後輩諸君」

「どういたしまして、先輩諸君」

相神創一その他もろもろが事務所に帰ってきて、数十分。

壁斑との情報交換を終えたところだ。

事務所に入ってきたとき、白崎という少女と相神は何故か汗だくになっており、少し遅れて入ってきたメンバーの瑕村という少年は両頬が赤くなっていた。

良く見ると、拳の跡に見えなくもない。

「それで?今回は大した情報も得られませんでしたけど、いいんですか?」

「ああ。いいよ。正直必要かどうかも怪しいだめ押しレベルの、情報の最終確認だったから」

後輩組が一気に殺気立つ。

そりゃそうだ。町中駈けずりまわって、大した結果もなく帰ってきたら『別に必要なかったけど』発言。

壁斑は殴られてしかるべきだろう。


「・・・・・・まあ、いいや。はい、これ今回の報酬ね」

そう言って壁斑が紙袋を相神に渡し、彼らの今回の仕事は、ひとまず終了となった。




「どうするんだ壁斑。何かわかったのか?」

夜。

事務所に残って何かノートにまとめ、考え事をしている壁斑と、それを横目で見ながら名作格闘ゲームのCPU対戦に興じる俺。

「取りあえず考えはまとまった。良助、これからオレは間暮警部を訪ねようと思うんだが、お前はどうする?」

「どうもしないな。このまま帰る。・・・・・・間暮さんに何か用か?」

「ああ。オレの立てた仮説を話に行ってくる。うまくいけば、明日にはこの事件は解決する」

「まあ頑張ってくれ。俺が知ったことではないから」

「明日、いつも通りに事務所に来てくれ。頼みがある」

「わかった」

こうして言葉少なにわかれた俺達。

その後、アパートでもろもろの習慣を済ませ、さあ寝ようという俺に、またもや壁斑から電話がかかってきた。


「何だテメエ二日連続で、嫌がらせか」

「すまん良助。今すぐ出かけられるか?」

「なんだ、今度は何を失敗した」

「今回はオレのせいじゃない。確かにオレにその原因の一端があるといえばあるがそれはいたしかたないことで主犯と言えるのは圧倒的に間暮警部であるからにして・・・・・・」

「・・・・・つまり何が言いたい」

「・・・・・・オレは今回の通り魔の、容疑者を明らかにすることに成功した。ただ、この数日で事件をいくつも起こしていることからもわかるように、事件の犯人は非常に周到だ。まあ、真狩先輩の情報網があれば、大抵の危険はかわせるだろうがな。オレはさっき、間暮さんに容疑者と思しき奴のプロフィールを告げ、そいつを確実にとらえるための、明日行う作戦を伝えた」

「ああ」

なんだか予想ができてきた。

「だが・・・・・・・・・間暮警部は単独で、さっき犯人のいる場所に殴りこみをかけたんだ。・・・・・令状も無いのに」

「・・・・・・・・で?」

「・・・・・・・・・犯人に、逃げられた」

「ハァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!?!?!?!?!?!?!?」

思わず大声を出す俺。

部屋の薄壁を介して、隣の部屋の俺ヶ崎から『ウルセエ!!!』というどなり声が聞こえる。

「・・・・・大丈夫、まだ間に合うんだ。これくらいならまだ修正がきく。ただ、人手が足りないんだ。間暮警部はもちろん、紙野や相神君たちにも協力してもらっている。だがそれだけじゃだめだ。長良川良助、君の『力』が必要なんだ」

壁斑が俺をフルネームで呼ぶ時。

それは、俺の事務担当ではない『もう一つの能力』を必要としている時だ。

「・・・・・わかった、今準備するから、指示を出せ」

俺は、今回のような状況に陥った場合のみ、使うことにしている(つまりはかなり久しぶりに出した)特注の皮手袋を両手にはめ、アパートの扉を開けた。

どこのどいつかも知らないがどこの誰とも知れない犯人に、つぶやきながら。

「お前が一体どこの誰だか知らねえが・・・・・・・最後に無駄な足掻きをしたこと。後悔させてやるぜ」

パシッ。掌に打ち付けた拳が、乾いたいい音を立てた。

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