第十話―落花生の読んで字のごとく落ちる花のように自由に重力に身を任せて落ちていく彼の生き方に黙祷(彼って誰だ)
総合遊戯研究部の参加により、思わぬ増員があった俺達は、取りあえず俺、相神、瑕村、新風の四人と、壁斑、悪野、大王崎の三人にわかれることにする。
悪野の依頼をうけ、半強制的に総合遊戯研究部の参加を余儀なくされ、結局翠津の町をさまよっていた俺だが、途中でふとあることに気がつく。
「なあ相神、その、例の浮島ってやつはどこにいんだ?」
「ええ・・・・・・・・・・」
「彼女は今は自身の班、六班の調べ学習として『翠津の歴史』について調べてます。きっと、町の記念館にでもいるんじゃないですか?」
「ナイスだ瑕村。何故お前がそこまで詳しいかは不問にしよう」
「まあ、何を隠そう悪野に頼まれて浮島の周囲を観察し、見守ってたのは僕ですからね」
「成程・・・・・・お前は班に合流しなくていいのか?」
「見りゃわかるでしょう、したくてもできないんですよ。迷ったんです」
納得。
「この捜査陣に加わってりゃ、いつかは班に合流もできるでしょうし」
「そんな適当なことでいいのか?」
「まあ、僕の担当している部分は初日に終わらせてますしね」
「・・・・・・・初日は水族館見学じゃなかったのか?」
「そのあと、三十分ほど自由時間がとられたんで、その間に翠津の北方面を調べたんです」
瑕村優雅、何気にハイスペックだった。
「この先を右に曲がって十メートルほど右手に記念館はありますね」
どこからともなく地図を取り出し、新風が言う。
「ちなみに、入場料は中学生以下百円大人二百円」
「良心的な値段だな。相神、二百円貸してくれ」
「何さらっと要求してんですかアンタは・・・・・・」
財布から百円玉を三枚取り出し、二枚俺に渡しながら相神が『そんなに儲かってないんですか?』と訊いてくる。
「まあ、経営は火の車っていうか火炎車並みの苦しさだ。壁斑は依頼よりバイトの方が時間が長いし、三食のうち朝夕はコンビニ弁当で昼はマックらしい」
「先輩は?」
「俺は寮に凄い世話好きの奴がいて、頼めば三食どころか生活に必要なモン全部用意してくれそうな感じだからな。最悪、事務所なんてやめてもいいんだがまあ、世話になってるばかりでも悪いし、いつか恩を返せたらな的なノリで働いてるわけだ。流石に毎日世話になるわけにもいかないしな、本人は結構嬉しそうだが」
「彼女ですか?」
「彼女じゃねえよ。寮の知り合いだ。あの世話好きな性格は少々行き過ぎな気もしないでもないがな」
「成程。彼女じゃないけど女性ではあるんですね」
「まあな」
「ヒモですか」
「・・・・・・・お前、俺の話聞いてた?ヒモじゃねえよ。一応働いてんじゃねえか」
「儲けは薄そうですけどね」
「五月の通り魔事件以来、ろくな依頼がなかったからな。ペット探しが三件と浮気調査が一件だけ」
「・・・・・・・・・・」
「そんなことより、道はこっちであってんのか?」
「あってるはずです」
「一向にそれらしい建物が見えないんだが」
周囲を見渡し言う俺に、地図担当の新風が不思議そうな表情で言う。
「え?あるじゃないですか」
「どこに?」
「そこに」
彼女が指さした場所には、雑居ビルみたいな建物が建っていた。
「一階が受付、二階から三階までが町の歴史で四階が地理、特産品なんかの紹介、五階がお土産売り場ですね」
本当に記念館だったビルの内部の案内板を見ながら、瑕村が言った。
「つまりうちの班員たちは二階から三階にかけてにいる可能性がい高いわけだ」
「よかったな、あっさり見つかりそうじゃねえか」
「まったくです。あいつら、勝手に動くのはやめてもらいたいですよね」
「勝手に動いたのはお前だろ」
喋りながら階段を上り、二階へ到着。
「おお、瑕村じゃないか」
「悪いな夏冬。少し遅れた」
「お前が相神達と一緒にここに来ることは予測済みだ。さあ、とっとと自分の課題を済ませてくれ」
「自分のはとっくに終わってる」
「ああ、そうだったな。じゃあ加々宮のを手伝ってやってくれ」
「わかった」
「あいつは夏冬春秋。うちの班の班長です」
「すげえ名前だな」
二階にはその夏冬なる生徒しかいなかったので、三階へとまた階段を上る。
「夏冬は低学力の目立つ、ウチのクラスの数少ない『頭脳派』なんです」
「相神とかみたいなのは頭脳派とは言わないのか?」
「あれは悪だくみ専門ですから」
「本人ここにいるぞ」
「事実じゃないか」
どうやら瑕村の話を聞く限り、夏冬は本当に頭がイイらしく、テストの成績等、単純な頭の良さならクラスどころか校内一、都内トップレベルだそうだ。
「その割に特別熱心に勉強してる素振りゼロなんですよね」
「そういう奴ってのは大抵、本当に人並みにしか勉強してない、所謂『天才』だからな。俺の知り合いにも一人いるが、なんでも『一を聞いたら百わかるからさらに自分で十学べば百十理解できる』らしい」
「・・・・・・雲の上ですね。むしろアンドロメダ大銀河並みの距離感です」
「本当に天才ってのはそういうもんなんだよ。ちなみに、俺が愛用している『衝撃を十分の一以下にすることで相手を殺さない程度に殴れるグローブ』を作ってくれたのも、そいつだ」
「ああ、長良川さんは力が強すぎて、拳で殴ると拳がすぐダメになりそうですもんね」
「いや、俺は別に問題ないんだが、本気で顔でも殴ったりすれば、本当に相手の命が危ないからな。頭が吹き飛んだり」
「・・・・・・・・それはもう十分の一程度では抑えられないのでは・・・・・・・・・」
「十分の一じゃねえ。十分の一以下だ。衝撃吸収のほかに、手首のカバーに重りが仕込んであったり、指の部分にバネが入ってて指の折り曲げを邪魔してたりして、俺の『力を抑えること』に特化してるんだよ。実際、お前とかがコレをつけたら、物を殴ったりつかんだり以前に腕を上げることすらかなわねえ」
「天才すげえ・・・・・・・・・・・そしてそれを使って人を殴ってリアルにぶっ飛ばしたりした長良川さんもっとすげえ・・・・・・」
「まあ、彼はかつて藤岬学園在籍時には『世紀末皇帝』として最強の名をほしいままにしていたらしいからね」
「なるほど、どんな小説にも大抵一人は登場する最強キャラなわけか・・・・・・・・・」
「チートだね」
「てめえら良く本人の前でそこまで言えるな・・・・・・・・・」
「そして、ピンチの時には大抵最後に出てきておいしいところだけ持ってく最強キャラ」
「そういえばいつぞやの通り魔事件の時も、ほとんど何もしないで犯人殴っただけだったね」
「あの裏で壁斑先輩がどれほどの苦労をしていたか・・・・・・・」
相神の語るところによると、どうやらあの事件は、俺の知らないサイドストーリーがあるらしかった。
「あの紙野と間暮っていう二人組の警察コンビは、もっと苦労したんだろうね」
「それをパンチ一発で全て終わらせるなんて・・・・・・・・」
じめじめとした視線を俺に投げかける二人。
何故だ。
記念館の三階は、古そうな地図や文書の展示されている、ある意味殺風景な空間が延々と続いている場所だった。
「うわあ、メンドくせえ」
「おい、本音がダダ漏れだぞ」
「いいんですよ、分っててやってんですから。はあ。なんで俺は生きてんだろう」
「悩み方が重てぇよ」
「まあ、面倒くさいからと言って死ねたら世話ないです」
「それより瑕村、お前は班員を見つけられんのか?」
「ええ、もう一人見つけました」
「早いな、どいつだ」
「ウチの班で一番口うるさい奴だったんで、スルーしました」
「おい」
「本当にうるさい奴なんですよ、加々宮は」
「それって、あの夏冬とかいう奴に『手伝え』って言われてた生徒じゃないか?」
「まあ、生返事ってやつですよ。夏冬も俺が本当に手伝うとは思ってもいないでしょう」
「信用されてねえんだな」
「ある意味、協力しない、という結果を信用しているとも言えますね」
「いや、それはねえ」
「そうですか。残念です」
そう言って瑕村は肩をすくめる。
・・・・・・・・・・なんか腹立つな。
数分後。
「え?浮島?下の階にいるんじゃないの?こっちには来てないよ?」
やたら語尾上がりな少年は瑕村の班の『名前』という名前の奴らしい。面倒だ。
「来てない?」
「うん、まあそういうことになるかな?登って来る途中は一緒だったんだけどいつだったかな?途中で『トイレに行く』って別れてきり?だったよね?加々宮?」
瑕村のスルーしたはずの加々宮は、名前と一緒に調べごとをしていたらしい。
瑕村本人は『確かに、あの三つ編みは加々宮だった・・・・・!!!』などと一人で盛り上がっていたが。
「何故私の名前を呼ぶ時も自信な下げなんだ・・・・・・・。私は確かに加々宮鏡花その人だぞ。というか瑕村、だから言っただろう。貴様が面倒を見なければならないと」
「ああうるさいうるさい。お前の声なんて微塵も入ってこない何も聞こえな~い」
「き、貴様・・・・・・・・・・」
「ね?こういう面倒くさい奴なんですよ加々宮」
同意を求めてくる瑕村。取りあえずスルーする。
「つれないですね。泣き寝入りますよ」
「寝入ってくれるなら有難い話だ。そのまま目覚めるな」
「死ぬことなく目覚めることなく眠ってられるなら、それは最高の幸せじゃないですかね?しかしながら眠ってしまった以上、起きるか死ぬかの二つしか結末はないんです。しょうがないですよ」
「どうでもいい」
「まったくです。そのどうでも良さが瑕村優雅のウリですから」
肩をすくめる瑕村。
「おい瑕村、私の話は聞く気はないのか」
「ないな」
「即答、それもまた潔し。だが認められんな」
「あァもうメンドくせえな。瑕村、悪野の彼女探しは俺達がやるから、お前こっちに残れ」
「え?」
「おら、行くぞ相神、ならびに新風」
「了解」
「わかりました」
「え?ちょっと、あれ?え?ええええええええ!?」
というわけでメンバーを一人減らし、捜索は続く。
「・・・・・・いませんね。ていうか、二階と三階にいなけりゃ、もうトイレか踊り場くらいしか候補がないじゃないですか」
二階から三階に続く階段の踊り場で、新風が言った。
「非常階段から下りたのかもしれないな。ちょうど二階と三階の間にある」
「いや、なんで非常階段から下りたのかって話ですよ」
「誰かに誘拐されてたりして」
「「!!!!」」
相神が冗談めかして言うが、冗談に聞こえなかった。
「・・・・・・・もしかして」
三人の間に重苦しい空気が流れる。
「もう、手遅れだったりして・・・・・・・・・」
沈黙を破ったのは、携帯の着信音だった。
発信元は、見覚えのない携帯電話。
「・・・・・・もしもし」
『あ、長良川氏でしょうか?』
炭酸部部長、弾橋溢だった。
「・・・・・・・なんでテメエが俺の携帯の番号を知っている」
『壁斑氏と交換しました。それ、長良川氏のモノだったんですね。確かにそんな感じのことを言ってはいましたが』
「まあいつものことだ。ていうか弾橋、俺はいまちょっと手が離せないんだが、何か用か?」
『手が離せないとか言いながらきちんと用件を聞いてくれるあたり、俺は感動しました。それはさておき一大事です。我々炭酸部が厳重に保管していた、『超酸コーラ』が盗まれました』
「ほう、あの誰にも幸せをもたらすことのなさそうな悪魔の産物を盗むモノ好きがいるとは。てか厳重に保管するモノ好きにも驚きだが」
『そこで、長良川氏に探してもらいたいのです』
「お前話聞いてた?暇じゃねえつってんだろ」
『そこをどうにかすればいいでしょう』
「せめてお願いしてくれ。なんで言い切り?」
『とにかく、頼みましたよ。なんだか嫌な予感がします』
「しゃあない。わかった。手が空いたらな」
『恩に暗殺されます』
「恩に着れ」
『ちなみに、自分は今、翠津の西地区の駄菓子屋に来ています』
「遊んでんじゃねえか」
『ウチの班のテーマが『翠津のスイーツ』だっただけの話です。とにかく、頼みましたよ』
勝手に電話してきた炭酸部部長は、勝手に言うだけ言って、勝手に電話を切りやがった。
この時点で俺のイライラはかなりのところに来ており、次の電話に出るなり怒鳴ってしまったのはきっとやむをえないことなのだ。
『もしも・・・・・・』
「ああ!?」
『・・・・・・・・すいませんでした・・・・・・・』
電話の主は、壁斑だった。
「なんだ、お前も弾橋と同類か」
『炭酸部部長の?・・・・・状況がよくわからないがまあいいだろう。多分こっちの方がよくわからないから』
「どういうことだ?」
壁斑は電話の向こうで黙り込んでいる。
スピーカーから、騒ぎ声が聞こえる気がする。
『・・・・・・・驚くなよ』
「何に?」
『・・・・・・・・・・・・水曜館が、萌えて・・・・間違えた、燃えている』
流石に、想定外の答えだったと言わざるを得ないだろう。うん。
夏も終わったので、更新ができると思います。
多分。ものすごく恐らく。