第1話
僕はただのオタクな大学生。俗に言う隠キャってやつだ。なろう系でよく見る転生したら最強でした…ってやつを夢見て今日も平凡な大学生生活を送っている。
「なーにぶつぶつ言ってるの、叶ちゃん」
「うるせえな、娘の独り言に色々言うなよ」
「そんな口の悪い子に育てた覚えはないんだけどねえ」
あーうるせえ。いつまでもそう言うことぐちぐち言うなよ…。大学生になっても実家住みなのなんか恥ずいし。一人暮らししたかったけどさせてもらえなかったし。僕の部屋自分で掃除するって言ってんのに勝手に掃除するからプライバシーもクソもないし。どうにかしてくれないかな本当…。
「そういえば、そろそろ道場開く時間じゃねえの?」
「あら、本当だわ。ありがとう。行ってくるわね。叶ちゃんも行ってらっしゃい」
「はいはい」
髪をとかし、荷物をバックに詰め、玄関を出る。今日の講義はなんだったかと考えながら、自宅の門をくぐると……。
ボロボロの天使(男)がいた。しかも気絶しているらしい。
「はあ?」
え?何?コスプレでもしてる変な人?こう言うのって警察に通報した方がいいのか?よくよく観察しながら悩む。しっかり見るとおかしな点はいくつもある。こんなリアルな羽、コスプレ用でも売ってるのか?普通こんな古代ギリシャの人が着てるような服着て街中を歩くか?髪ってここまで綺麗に白く染まるか?なぜこの格好で捕まらないんだ?即逮捕されてもおかしくない格好なんだけど…。少なくとも職質ぐらいはされそう。
「……ん…」
目の前の急にむくりと起き上がる。よく見ると顔がいいな。ムカつくけど。
「あっ、やば、時間やん」
そう言って走り出そうとする。医療の知識がない僕から見ても明らかな重症で。流石にまずいと思い、追いかけ、強引に引き止める。
「お前、そんな重症でどこ行くつもりだよ」
そう、至極普通のことを聞いたつもりだった。それなのに、目の前のやつと来たら。
「え?」
なんですか急にと言いたいような、キョトンとした顔で首を傾げている。確かに急に話しかけたけどね?そんな「こいつ何言ってんの?」と言いたげな表情でこっちを見ないでくれます?
「え、君、俺が見えるん?」
「なんでそんな当たり前のこと聞くんだよ。見えてるに決まってんだろ」
少し語気を荒げる。そんなことを話していられる容体には見えない。…そもそも人間ってここまで出血していても話せるものだっけ?人間って強いな…。
「マジでかぁ…ほんとに見える人間っているんやな…」
わけがわからないことをつぶやく。大丈夫かなこの人。大怪我した衝撃で言動おかしくなってたりしないかな。
「はっ、救急車呼ぶの忘れてた。119番」
「やめといた方がいいと思うで。君以外に俺の姿見えてないから」
「え………?」
本当に大丈夫かこの人。だいぶ言動が…。ただのイタい人って可能性もあるかな。それにしてはがっつり血の匂いが…。
「この国でここまでの大怪我で放置されてること自体おかしいと思わんかったん?」
「確かに」
それはそうかもしれない。何で放置されてんだ。結構人通り多い道のはずなんだけどな…と思いながら顔を上げると、道ゆく人々がこちらを怪訝な目で見ている。僕だけを。
「マジじゃん…」
僕って霊感(?)あったんだ…。
「え、じゃあお前、何?」
「じゃあ、改めて」
よいしょ、と言いながら立ち上がる。足がふらふらしている。やっぱ救急車呼んだ方がいいのでは…。見えないから治療もできないか。
「俺はキューピットの0003や。ちょっと今悪魔に狙われててな。だからいっぺん建物の中に行きたいんやけど」
「僕大学行かなきゃだから。それじゃ」
話している間にかなり時間が経ってしまっていた。急がなければまずい。
「ちょっ、待てや」
「だいぶ時間ギリギリなんだよ。帰ってきてから話聞くから。お前普通の人間には見えないんだろ?この家の中入って待ってろ。それじゃ」
「ちょっ…」
何か言っていたような気がするが気にしない。単位の方が大切だから。
「それじゃ」