バスターサッカー
プロット書いてAIに書いてもらったものを修正してまとめました。
自力で書いて公募に出すつもりだったんですが、試合描写がうまくできず断念、お蔵入りよりはいいかと思ってこの形式にしました。
都市は死んでいた。
かつて繁栄を誇った高層ビル群は、今や黒ずんだ骨のように空に突き刺さり、地上にはスラムが広がっていた。
壁には焦げ跡、路地には瓦礫、空にはドローンと腐った雲。人々は影のように動き、誰もが誰かを疑っていた。
ジンはその都市の中を、無言で駆けていた。
背負ったローダーは運送用の旧式モデル。
だが彼の動きは、まるで生身のパルクール選手のように滑らかだった。
壁を蹴り、手すりを掴み、屋根を飛び越える。都市の構造を身体で覚えた者だけができる動きだった。
「……来たか」
耳に仕込まれた通信機が、警告音を鳴らす。
上空からのローター音。警察のヘリだ。
ジンは一瞬だけ立ち止まり、背後を振り返る。
ヘリの機銃が回転を始める。ガトリングだ。街の損壊など気にも留めない連中だ。
「やれやれだな……」
ジンは息を吐き、ビルの屋上の端に立つ。
観念したように見せかけて、ポケットから小型のリモコンを取り出す。
赤いボタンを押すと、足元の床が爆音とともに崩れ落ちた。
彼の体は、瓦礫とともに落下する。
だがそれは計算された動きだった。
倒壊してゆくビルの内部を、ジンは走る。
壁を蹴り、床を突き破り、鉄骨をすり抜ける。
そして倒れるビルがぶつかった建物に飛び込むとさらに先へ。
ガトリング掃射が壁越しに彼を襲うがその走りは止められない、
彼を止められるものは何もないように思えた。
まるで都市そのものが彼の味方であるかのように。
最後の壁をぶち抜いた瞬間、彼の体は宙を舞った。
飛び出した先は、都市の外縁にある森林エリア。
彼は木々の間に身を隠し、息を殺す。
ヘリは彼を見失い、空へと去っていった。
ジンは、倒木の陰に身を横たえた。
ローダーの駆動音がかすかに軋む。
傷だらけで体のあちこちが痛む。
だが、まだ生きている。
「……口封じか」
積み荷はすでに届けた。
問題は、その中身だった。
誰かが、彼を消したがっている。
ジンは目を閉じた。
この都市で生きる者に、安息などない。
だが、死ぬにはまだ早い。
彼はローダーを打ち捨てられた倉庫に隠すと、
身を隠せる小さな小屋を見つけそこに忍び込んだ。
そのとき、遠くから足音が聞こえた。
誰かが、森の奥から近づいてくる。
---
森の奥に、ぽつんと建つ小屋があった。
木材と金属片を組み合わせた粗末な造り。
屋根には雨水を集めるパイプ、
壁にはジャンク品のパネルが貼り付けられている。
まるでゴミ捨て場の寄せ集めのような家だった。
その家の主、マクスは帰ってきたばかりだった。
手には拾った部品の袋。
背中には工具を詰めた古びたリュック。
彼の姿は、ボロ着を纏い眼鏡をかけた奇妙なロボットだ。
だがその動きは人間の老人じみていた。
「……ん?」
玄関を開けた瞬間、彼は立ち止まった。
床に、見慣れない男が倒れていた。
傷だらけで、息も荒い。
マクスに気づいたジンは素早く銃を取り出し、彼にそれを向ける。
その目は冷たく、表情もこわばっている。
「怯えんでもええ。怪我しとるじゃないか。治療してやるから、そんな物騒なもんしまっとくれ」
マクスのその声には、皮肉と優しさが混じっていた。
ジンはしばらく沈黙した後、銃を下ろす。
マクスは手慣れた様子で、ジンの傷を診はじめた。
消毒液を塗り、古い医療器具で応急処置を施す。
「医療用アンドロイドか? 随分手慣れてるな」
「失敬な。これでも私は人間だよ。まぁ、生体部分は3割しか残っとらんがね」
ジンは目を伏せる。
「……すまない。他人との会話は苦手なんだ」
「いいよ、言われ慣れとるし。それより意外と素直なんだな、驚いたぞ」
マクスは笑いながら、コーヒーを差し出す。
「ゴミ捨て場で拾った豆だがまだ飲める。結構いけるぞ」
ジンは黙って受け取り、口をつける。
苦いが、温かい。
「なぁ、さしつかえなかったらでいいんだが、事情を聞かせてくれないか」
「よく喋る爺さんだな」
「人と話すのが久しぶりで嬉しくてな。なんせこの風体だ、そもそも人間扱いされることがなくてな」
ジンは少しだけ目を細めた。
「運び屋をしていて危ないとこだった。積み荷を届けた帰りに狙われた。おそらく口封じだろう」
マクスはため息をつく。
「あの街はあいかわらずなようだな。あんたも災難だったな。ということは、さっきテロリストって報道されてたのはあんたか」
「俺のことはどうでもいい。それより技師に心当たりはないか。ローダーが壊れて動かせないんだ。キャリアを持ってくるのも足がつきかねない。隠してある倉庫で修理を済ませたい」
マクスは顎に手を当てて考える。
「ふーむ、そういうことならローダーを見せてくれんか」
「……いいだろう」
ジンがローダーを見せると、マクスは自身の頭部からコードを伸ばし、ローダーに接続する。
目を細め、何かを解析している。
「なるほど、制御系がいかれとるな。駆動系の損耗はここにあるジャンクを使えばどうにかなるか」
「なにをするつもりだ」
「ん? ああ、言っとらんかったか。私が技師だ。修理は任せてくれ」
ジンは半信半疑だった。
だが、ろくな設備も材料もない中で、マクスはローダーを見事に蘇らせていく。
重機の代わりにアームを使い、手際よく部品を組み替える。
「えらい旧式だな。こんなローダーで警察のヘリから逃げ切れるなんて信じられん。パワーローダーの扱いが随分うまいようだが、元軍人かなんかかい?」
「……あんたこそよく直せるな。そんな技術があって、なんで浮浪者なんてやってる」
マクスは笑った。
「ちょいとばかし権力者に嫌われてね、あとは転がり落ちてこのザマだ。仕事を探しても全部話を潰されちまう」
彼の話にジンは皮肉な顔をする。
「この街じゃお人よしはただの食い物だ」
「社会の歪みって奴なのかね。その日暮らしに手一杯で、世の中のことにはとんと疎くなっちまったが」
マクスはそう言いながらどこか声色が優しく温かい。
ジンは彼との会話に奇妙な心地よさを覚えていた。
「……あんた、変わってるな」
「そうかい? まぁこんな暮らしをしとるからな」
マクスは笑い、ローダーの胸部パネルを開けた。
内部の配線を確認し、慎重に新しい制御ユニットを取り付ける。
「よし、これで動くはずだ。試してみな」
ジンはローダーに乗り込み、起動スイッチを押す。
一瞬の沈黙の後、駆動音が響いた。
アームがゆっくりと動き、脚部が安定した姿勢を取る。
「……動く」
「そりゃそうだ。誰が直したと思っとる」
ジンは、マクスを見た。
その目には、彼への信頼が宿っていた。
---
夕暮れのジャンク山は、赤錆と夕焼けが混ざり合っていた。
ジンはマクスに言われた部品を探しに、倉庫の外れにある廃材の山へ向かっていた。
風が吹くたび、金属片がカラカラと鳴る。
静かすぎるほど穏やかな時間だった。
必要なパーツを見つけ、ジンが倉庫へ戻る。
そのとき、内部から鈍い音が響いた。
「……!」
ジンは走った。
扉を蹴り開けると、そこには血まみれのマクスが倒れていた。
頭部の外装が割れ、内部の配線が露出している。
「マクス!」
ジンが駆け寄ると、倉庫の奥から男が逃げ出した。
ジンは銃を抜き、構えた。
「止まれ!」
男は振り返らず、森の中へ消えていった。
ジンはマクスの傍に膝をついた。
彼の呼吸は浅く、目は虚ろだった。
「ローダーは……守り切ったよ」
「……済まない」
「こんな生活をしとりゃ、おそかれ早かれだ。おりゃぁ幸せもんだよ、死ぬ間際にあんたみたいな友達ができた。看取ってもらえるなんて上出来すぎらぁね」
「勝手に諦めてんじゃねえよ、ジジイ」
マクスはふふっと笑い、意識を失った。
ジンは彼を抱きかかえ、倉庫を飛び出した。
夜の森を駆け抜け、人目を避けながら都市へ向かう。
目的地は、サイボーグ専門の闇医者。
腐れ縁だが信用できる男だ。
都市の裏路地にある診療所。
ジンが扉を蹴り開けると、医者は驚いた顔で振り返った。
「おー、久しぶり我が友よ。ようやくサイボーグになる決心がついたか?」
「恩人が死にかけてる。助けてやってくれ」
医者はマクスの状態を見て、顔をしかめた。
「おっと、こいつは酷いな……」
冗談めかした笑みが、すぐに真顔に変わる。
「傷もそうだが、改造手術と使ってるパーツが軒並み酷い。ゴミだなこれは。助けるとなると全身組み直し、内部パーツもほぼ総とっかえだな。途方もない金額になるぞ、払うだけの価値がある関係か?」
ジンは迷わず「頼む」と言った。
医者はしばらくジンを見つめた後、頷いた。
「よし、わかった」
手術は始まった。
ジンは待合室で、ただ黙って座っていた。
時間の感覚はなかった。
ただ、マクスが生きていてほしいと願っていた。
数時間後、手術は終わった。
マクスは静かに目を覚ました。
傍には、彼の目覚めを待ち眠りに落ちたジンがいた。
マクスはゆっくりと体を起こし、機能チェックを始める。
怪我や破損が治ってるほか、
慢性的に抱えていた吐き気も頭痛もない。
身体は軽く、動きも滑らかだった。
「……なんていう馬鹿なことを。こんなジジイなどのたれ死なせておけばよかったのに」
彼の目から、洗浄液が涙のようにこぼれ落ちた。
ジンがどれだけのものを犠牲にして、自分を救ってくれたか。
その事実が彼の胸に突き刺さる。
「気分はどうだ」
目を覚ましたジンが静かに尋ねる。
「……こんなに清々しい気持ちは久しぶりだよ。ありがとう。お前さんは、私の最高の友達だ」
マクスはそう言って、ジンを抱きしめた。
---
診療所の薄暗い部屋。
ジンとマクスは椅子に座り、医者の説明を聞いていた。
「さて、支払いなんだが……」
医者は端末を操作し、金額を表示する。
3000万ジェニー。高級車が3台は買える金額だ。
「返済方法に当ては?」
医者は尋ねる。
「今のところはない」
ジンは眉ひとつ動かさずに答えた。
医者は肩をすくめ、ニヤリと笑った。
「だと思ったよ。なのでこちらから用意させてもらった」
画面に映し出されたのは、荒れ果てたスラム街を舞台にした試合映像。
巨大なローダーがプラズマボールを蹴り、建物を破壊しながら突き進む。
観客は熱狂し、爆発音が響き渡る。
「バスターサッカー?」
マクスは少し食い気味に言った。
医者は頷いた。
「なんだそれは」
ジンは首を傾げる。
「知らんのかね。今人気沸騰中のモータースポーツだ。
パワーローダーを使い、スラム街をフィールドにして行われるサッカー。
高エネルギープラズマボールを用いて、スラムを破壊するも妨害も攻撃もなんでもあり。
最後にゴールを決めさえすれば勝ちのゲームだよ」
「これに俺が参加するのか?」
医者はジンの問いにうなづく。
ジンはしばらく沈黙した後、首を横に振った。
「無理だ。専用のローダーもない」
ジンの言葉を聞いた医者はマクスに目を向ける。
「だそうだけど?」
尋ねる彼にジンは顔をしかめた。
「お前もしかして爺さんのメモリーを見たのか」
「ああ、修理の時に必要だったんで彼の個人情報は全部抜かせてもらった。凄いぞ彼の経歴、大企業マーズコープの特許技術の7割が彼の発明だ」
ジンは目を伏せ顔を横に振る。
マクスは少し考えた後、ジンを見た。
「お前さんのローダーを改造してもいいなら用意できるぞ」
---
闇医者の支援とマクスの改造により、ジンのローダーはバスターサッカーの試合にでられる基準をクリアできた。
そして試合当日。
スラム街を改造したフィールドは、まるで戦場だった。
崩れかけたビル、鉄骨むき出しの高架、瓦礫の山。
そのすべてが障害物であり、戦術の一部だった。
ジンのローダーは、旧式のフレームにマクスの改造が施されたもの。
出力では劣る。だが、構造のシンプルさから反応速度と駆動精度は新型機よりも優れている。
試合開始のサイレンが鳴る。
プラズマボールが空中に射出され、試合が始まった。
開幕:機動の差
敵チームは3機。
対してジンは1人で挑まなければならない。
最新鋭のローダーに乗ったプロ選手たち。
それぞれが高出力のブースターを使い、ボールに向かって突進する。
ジンは動かない。
いや、動いている。
だがその動きは、異様に滑らかで、視認しづらい。
「なんだ……あいつ、止まってるように見えるのに、位置が変わってる……?」
敵の一人がボールを取ろうとした瞬間、ジンのローダーが横から滑り込む。
タイヤではなく、脚部の関節を使った“踏み込み”で、ボールを奪った。
「踏み込みで加速した!? あんな動き、ローダーじゃ無理だろ!」
中盤:瓦礫を利用した戦術
ジンはボールを保持したまま、瓦礫の間を縫うように進む。
敵が追いかけるが、瓦礫に引っかかり、動きが鈍る。
「フィールドを読んでる……いや、記憶してるのか?」
ジンは、瓦礫の配置、鉄骨の角度、地面の傾斜——
すべてを事前に把握し、最短ルートを描いていた。
敵がブーストで強引に突っ込んでくる。
ジンは一瞬、ボールを手放し、瓦礫の上に跳ね上がる。
空中でボールを再キャッチ。
そのまま鉄骨を蹴って反転し、敵の背後に回り込む。
観客が叫ぶ。
「なんだあれ……人間じゃない……!」
終盤:チャージと決着
ゴールまで残り30メートル。
ジンはボールをチャージし始める。
プラズマボールが青白く光り、エネルギーが蓄積されていく。
敵3機が一斉に突っ込んでくる。
ジンは止まった。
「止まった……? いや、違う。構えてる」
敵の一機が真正面から突撃。
ジンはわずかに身を傾け、敵の肩を利用して跳ね上がる。
空中で回転しながら、チャージ完了。
「撃つぞ……!」
ジンはボールを蹴り込む。
爆発的な光と衝撃。
ゴールネットが焼け焦げ、キーパーのローダーが吹き飛ぶ。
静寂。
そして、歓声。
「ジン・カシマ、勝利! 推薦枠からの出場選手が、プロ3機を撃破!」
ジンはローダーの中で、静かに息を吐いた。
マクスの命を救った代償。
それは、彼の「神技」が世界に晒されることだった。
---
試合の映像は、瞬く間に拡散された。
SNS、地下フォーラム、ニュースの隅。
「旧式ローダーでプロを圧倒した男」
「生身のように動く操縦技術」
「推薦枠から現れた神技の亡霊」
ジン・カシマ
その名は、スラムの片隅から一夜にして広まった。
だが、彼の素性は謎に包まれていた。
推薦枠の登録情報は空白が多く、経歴も不自然なほど削られている。
それを嗅ぎつけた者がいた。
試合後、倉庫でマクスとローダーの整備をしていたジンのもとに、黒服の男が現れる。
「ジン・カシマは偽名、本名ライ・クロサワ。特殊部隊ブラックランス所属」
黒服の男は淡々とジンに話す。
「テロ組織の攻撃阻止の任務中、お前が離脱したことでチームは全滅、街は壊滅的打撃を受けた。死刑相当の逃亡兵、それがお前だ」
ジンは黙って男を見つめる。
「そんな作り話を信じているのか?とでも言いたげな顔だな」
男はフンと鼻を鳴らしながら、手にしていた端末を下ろす。
「ここまではACIの表向きの筋書き。
実態はテロ組織攻撃の口実のために政府がお膳立てした自作自演。
その情報を手に入れたお前のチームはテロ攻撃の阻止に動き、
ACIの暗部によるテロ組織側へのお前たちの動きの伝達、
そしてテロ組織との連携攻撃によりブラックランスは壊滅した。っていうのがBIFの見解だ」
「BIFの黒服が俺に何のようだ」
「顔を売っておきたくてね、なにか困り事があれば連絡してくれ」
そう言って男は名刺をジンに投げる。
指で挟んで受け取ったそれにはBIF捜査官シリウス・ブラッドと書かれていた。
何か裏がありそうだと感じたが、ジンがそれを尋ねる間もなくシリウスはその場を後にした。
ジンは椅子に腰を下ろし、静かに目を閉じた。
過去は、消えない。
だが、今はそれよりも大切なものがある。
「……面倒なことになったな、後悔してないか?」
マクスの問いにジンは首を横に振ると、彼の顔を見る。
マクスの目はどこか暗い。
そんな彼の様子にジンは笑う。
「どうかしたか?」
「いや、あんたがずっと俺の事ばかり心配してるからつい、な」
「そりゃまぁ、命の恩人が自分のせいで借金まみれになってるんだから…」
ジンはマクスを見つめる、その目は優しい。
「肝心なことを忘れてるぞ」
そういうとジンはマクスを抱きしめる。
突然の彼の態度にマクスは少し戸惑いながらも、彼にされるがままに身をゆだねた。
「あんたは見も知らない俺を匿って治療してくれた。話を聞いて共感してくれた。
救われたのは俺の方だ……だから助けた、それだけの話だ」
マクスは目を伏せ、ふっと笑う。
「とんだお人よしだ、あんた」
マクスもジンを抱きしめ返し、見つめあうと二人はキスをする。
マクスの目からは洗浄液が涙のように流れだしていた。
「死を待つばかりだったポンコツでおいぼれの私を、こんなに想ってくれてありがとうな」
泣きながらそういうマクスに微笑みながら、ジンは彼を抱きしめ頭をなでる。
ずっと苦しい中耐えてきた彼をいつくしみ慰めるように。
「あんたは世界一可愛い俺だけの爺さんだ、誰にも渡さない。それが死神だろうとな」
マクスはその言葉にうっとりとジンに抱かれ、頭を胸に押し当てる。
互いの手を握り合い、二人は再びキスを交わした。
その夜、都市の片隅で、誰にも知られずに灯った小さな光。
それは、救いのない地獄の現世を生き抜いた者が見つけた、確かな温もりだった。