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第7話 魔竜と真祖竜

——ズボッ。


 


腰まで地面に突き刺さっていた俺は、ようやく身を起こした。


飛びながら、地面が近づいて来るのが見えたから、誰かを驚かせたりしない様にと空中で変身魔法で人間形態になってみたら、そのままド派手に落下して地面に突き刺さってしまった。


人の姿では飛べないのねー!残念!

空を舞う術的な感じでスイスイ飛びたかったのに!


足元のクレーターが見事に半球を描いていて、戦闘民族の宇宙人がポッドで地球に着陸した跡みたいになってる。



「……うーん……着地、完全にミスったな……」


 

視界の端には、青ざめた少女が一人。驚いた様子で尻餅をついている。


金髪ポニテの軍服美少女。目がくりくりしてて、泥で汚れてんのに、やたらかわいい。いや、本当かわいい。


え、待って。この子、本当に可愛くない?


およそ半世紀ぶりに見た人間の女の子だから多少のフィルターがかかっている事を考慮しても、顔の造形もスタイルも、全てが整い過ぎている。


 可愛過ぎて逆に現実味が無いレベル。AI出力で作ったグラビアの女の子みたい、と言えばお分かりいただけるだろうか。分かる人だけ分かってください。


 


(……久しぶりに目にした人類がこんな美少女なんて、これは幸先いいんじゃないの?)


 


 そんな訳で、見知らぬ美少女が、地べたに座り込み、呆然と俺を見上げている。とりあえずニコッと笑顔を送ってみる。

 怖くないよ〜。怪しい者じゃないよ〜。


 振り向くと、反対側には、全身黒銀に輝く、やや小型(※真祖竜基準)の15〜20mほどの竜が、こっちをガン見していた。


 


「…………」


 


「…………」


 


「………………」


 


「……えーっと?」


 


あまりの沈黙に、思わず間抜けな声が漏れる。


 


そして、その“竜”——いや、“魔竜”は、ズシン……と一歩、俺の方へ踏み出した。


その足音だけで、地面が揺れた。


 


(竜かー。この子も俺と同じ"堕竜"なのかな。いや、でも魔力量も《《小さ過ぎる》》し、真祖竜では無いのか?)


 


黒銀の鱗。鋭く裂けた口元からは、霧のような呼気が漏れ、眼は獣特有の爛々とした光を湛えていた。

なかなか恐ろしげな面構えだ。

"ドラゴン・あくタイプ"って感じ。

妖精が刺さりそう。


六本足。尾はムチのようにしなやかで、今にも飛びかかってきそうな姿勢——


 


(……って、アレ?……これって……)


 


ヤダこの子、めっちゃ睨んできてる。


鼻息も荒い。

本誌掲載時のハ◯ターハ◯ターの作画くらい荒い。

(※週によります)


完全に“狩る側”の目だ。ハンターだけに。

え?俺が狩られる側なの?


 


「えーっと……あの、こんにちは?」


 


一応、挨拶してみる。

返事はない。かわりに、ぐぐっと首をもたげるようにして、さらに一歩、こちらに踏み込んでくる。


鱗が擦れ合い、金属音のような響きを立てる。


 


(うん……だめだな。話す気、ゼロだこれ)


 


 その背が伸びるたびに、影が伸び、風圧が俺にぶつかる。


 いやほんと、なんでこんなキレてるのこの子。

……子、ではないか。でも、竜的には何故か“後輩”感があるんだよなあ。本能的なもの?


 俺がぼんやりそんなことを考えている間にも、魔竜ちゃんの口元から、低く唸るような音が漏れ始めていた。


 


「えぇ〜……何そんな怒ってるの?ちょっと地面に突き刺さっただけじゃない。不慮の事故だよ、これは。」


 


困惑しかない。


こっちはただ空から降ってきただけだし、あなたのナワバリだって知らなかったし、まぁ、なんか驚かせたならごめんって感じであるんだけど。


 


(……いや待て。この子、俺のこと“ただの人間”だと思ってる?)


 


 確かに、今の俺の姿は“人間”だ。真祖竜の力をほぼ完璧に抑え、魔力の波動も抑えている。外見上は、どこにでもいそうな美少年(自画自賛)にしか見えない……はず。


 


(ってことは……)


 


この魔竜ちゃんにとって、今の俺は、“ひょろい人間の小僧”にしか見えていないわけで。


 


(……めちゃくちゃ誤解されてるやつじゃん)


 


そう思った瞬間、真竜ちゃんの尾がビュオン!と一閃、地面を払った。


土が爆ぜ、周囲の草が根こそぎ吹き飛び、数メートル先にあった木々がバタバタと倒れる。


完全に戦闘モード。


 


(おお〜、やる気だねぇ。)


 


反射的に一歩後ずさる俺。多分当たってもあんま痛くは無いとは思うんだけど。


今の俺は人間サイズ。この魔竜ちゃんとのあまりのサイズ差に、当たっても平気だと頭で理解していても心がついていかない。


 


ちら、と背後を見る。


美少女ちゃんは、まだその場に尻もちをついたまま、こっちを見上げている。


その目に、ほんの一瞬、涙の光が見えた気がした。


 


(……あらら、かわいそうに。怖い思いしちゃったのね。とりあえず、女の子の前でカッコ悪いとこ見せたくないなぁ)


 


俺は、背筋を伸ばした。


そして、目の前の魔竜に向かって、にっこりと微笑んで——


 


「よしよし、驚かせてごめんな。キミのナワバリだったんだよね?ごめんごめん、すぐ出てくから、ね?」


 


この魔竜ちゃんからすれば、ナワバリでのんびりしてた所を邪魔された!と憤ってるだけなのかも知れない。


一方的に悪と断じてボコるのは気が引けるのだ。野生動物には優しくしないとね。


言葉は通じないかもしれないけど、風の谷の少女的なノリでなんとなく雰囲気で伝われば……と思って。


でも——


魔竜ちゃんの反応は、鋭く、激しかった。


 

 ◇◆◇



口元を開いた。


空気が震える。


目が、完全に“捕食の眼”になっていた。




魔竜ちゃんの喉が震える。

低く、唸るような音が空気を伝い、森を揺らす。


その息は白く、冷気を孕んでいて、まるで——嵐の前触れのようだった。


 


(あっ……これ、ブレスくる感じ?)


 


見た目で分かる。あの首の引き具合、口元の光、空気の膨張。


こいつ、やる気だ。


俺のこと完全に「ただの人間」だと思ってる。


まぁ、そう見えるように魔力も抑えてるし、見た目も中性的な美少年(自画自賛act.2)にしか見えないし。


仕方ないとは思う。うん、仕方ないけど。


 


(うーん……どうしたもんかなー……)


 


ちょっと冷静に状況を分析していた、そのとき——



「あぶないっ──!!」

 


 ——ザッ!!


 


何かが俺の視界を遮った。


思わず瞬きをする。


 


「……え?」


 


金の髪が、風に揺れていた。

さっきの美少女……あの子が、俺の前に立ちはだかっていた。




剣を握る手が震えていた。膝も、少し曲がっていた。


でも——彼女は、両手を広げ、

確かに俺を“かばう”ようにして立っていた。


 


「ちょ、ちょっと……?」


 


言いかけた瞬間。


 


 ——ドォンッ!!


 


光と音が一斉に弾けた。

魔竜の口元から放たれたのは、衝撃と熱を孕んだ魔力の奔流。


 


彼女の身体が、風に弾かれたように宙を舞った。


その姿を、俺はただ、見ていることしかできなかった。


 


「っ……!!」


 


ゴロリ、ゴロリと転がって——動かなくなる。


斜面の下に、小さな身体が沈む。


金の髪が、血と土にまみれていた。


 


(……あ、)


 


思考が、真っ白になった。


風の音が遠ざかる。鼓動の音だけが、耳の奥で反響する。


俺の前にいた魔竜は、再びこちらに向けて構え直していた。

あの冷たい、獣の眼で。


 


でも。


 


もう、どうでもよかった。


 


「……ふーん……そっか」


 


口元が、自然と笑っていた。


でも、目は笑っていなかった。


 


「俺は平和的に解決しようと努力したつもりだったんだけど、キミには全然伝わって無かったわけね。」


 


魔竜が一歩、踏み出す。


でもその瞬間——


 


 ——ドウッ!!!


 


空気が一変した。



地面から、空から、世界のあらゆる方向から「圧」が押し寄せる。



《《真祖竜の魔力》》を、ほんの少しだけ解放する。



それだけで、空気が震え、森の木々がざわめき、空が灰色に染まりそうなほどに、世界が“ひれ伏す”。


 


魔竜の脚が、止まった。


その瞳に、初めて——“怯え”の色が差した。


 


「俺さ……怒ると、周りが怖がるだろうから、基本怒らないようにしよう!って旅立つ前に決めたんだけど……」


 


一歩、近づく。


魔竜が、ほんの少しだけ、身を引いた。


 


「今だけは……ちょっと、怒ってもいいかな」


 


足元の地面がびりびりと音を立ててひび割れる。


音じゃない。“存在の圧”だ。

真祖竜特有の、そこにいるだけで空間の法則が狂うような威圧。


 


魔竜は——六肢を地に伏せ、首を垂れた。


小刻みに震えながら、竜族の“服従のポーズ”を取っていた。


 


「……調子のいい子だなぁ。

……いや、そもそも悪いのは俺か。ナワバリに落っこちてきて、ビビらせて、怒らせて……ほんと、ごめんな」


 


俺はそう呟いてから、振り返る。


 


一目散に、彼女の元へ駆け寄った。


 


——金の髪。白い肌。唇が、わずかに青ざめていた。


胸元の服が、赤く滲んでいる。ブレスの衝撃波か、それとも……


 


「……ねえきみ……大丈夫……?」


 


反応は、ない。


呼吸も、かすかすぎて、よく分からない。


重症だ。回復魔法じゃ、もう間に合わない。

 



俺は、躊躇(ためら)いなく、自分の指を噛んだ。


 


竜の血。それも、“真祖竜の血”だ。


あまりにも強過ぎるその力は、普通の生き物にとっては毒。猛毒。それでも——


もしそれを克服出来たなら、彼女は助かる。


これは賭けだ。それでも──

 


「……助けたい」


 


俺は彼女の唇に、自分の血を一滴垂らした。


 


——願った。


 


どうか、生きて。


 


君の名前も、まだ知らないけど。


どんな人かも、まだ何も分からないけど。


でも。


 


君が俺を、庇ってくれたことだけは——


誰よりも、強く、胸に残ってるから。


 


「お願いだ。死なないでくれよ。」


 


それだけを、静かに呟いた。


そして——


 


彼女の睫毛が、かすかに、揺れた。

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