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第36話 金色の祝福、うねる神獣

——金色の光が、世界を包んでいた。


 


俺は眩しさに目を細めながら、その中心を見つめる。


 


やがて、光の粒がぱらぱらと宙に溶けるように消えていき——


 


そこに現れたのは、いつもの、でもどこか違う、巨・ダックスフンド。


 


「フレキくん……!」


 


ブリジットちゃんが、ぱぁっと顔を輝かせる。


俺も思わず身を乗り出して、よく見た。


 


そこにいたのは、確かにフレキくんだった。


だけど、その首には——


 


金色に輝く首輪があった。


真ん中には、ちいさな可愛らしい骨型のチャームが揺れている。


 


毛並みも、もともと綺麗だったけど、今はさらに輝いて見える。


まるで、ひとつの生命が、その存在そのものを祝福されたみたいに。


 


「こ……これが……!」


 


マナガルムが、低い声を漏らす。


隣のグェルも、目をまん丸にして言葉を失っている。


 


「フェンリル族の……秘宝の、真の姿……ッ!」


「兄上……何て、力強い……!!」


 


いや、確かにかっこいいけど。


俺には正直——


 


("でっかい犬"が……"でっかい飼い犬"になっただけに見える……)


 


とか、そんな感想が一瞬、よぎった。


だって、首輪、すごい可愛いデザインなんだもん!


チャーム、ぷらんぷらんしてるし!


 


——でも、言わない。絶対に言わない。


みんな感動してる空気、ぶち壊したらダメだから!


俺は大人だからね! 空気読む男だから!



ブリジットちゃんは、もう目をキラッキラに輝かせて、フレキに駆け寄った。


 


「すごいよ、フレキくん!!」


「とってもあったかい力を感じる!!」


 


彼女の声には、心からの歓喜が溢れていた。


ちょっと涙ぐんでるくらいだ。


 


フレキは、尻尾をぶんぶん振りながら、嬉しそうに胸を張った。


 


「フェンリルの秘宝が——」


「ボクを、“主”として認めてくれたみたいです!」


 


その顔は、誇らしげで、だけどどこか子犬のような無邪気さもあって。


見ているだけで、こっちまで笑顔になった。


 


フレキはさらに、ぱちん!と前足を鳴らすみたいに地面を軽く踏んで、


ぱぁっと表情を輝かせた。


 


「それに、気付いたんです!」


「秘宝に認められたことで……ボクに新しいスキルが、二つも目覚めたみたいなんです!」


 


「二つも!?」


 


リュナが目を丸くし、ブリジットちゃんも顔をパッと輝かせる。


フレキはちょっと得意そうに、でも恥ずかしそうに笑った。

 


「はいっ!どちらも、すっごく面白いスキルですよ!」

 


「どんなの?どんなの!?」

 


ブリジットちゃんが、子どもみたいにわくわくしながら身を乗り出す。


リュナも、マスクの下できっとニヤニヤしてる。



俺も、内心どんなだろうとワクワクしてた。


なんせ、フェンリル族の秘宝が認めた存在だもんな。


すごいスキルに違いない——!


 


フレキはくるっと回って、元気よく前足を上げると、叫んだ。


 


「まず一つ目は……これです!」


「えーいっ!!」


 


ポンッ!


 


次の瞬間、フレキの身体が——


 


キュインッ!!


 


って音がしそうな勢いで、小さくなった。


 


普通のミニチュアダックスフンドサイズに!


手のひらサイズとまではいかないけど、まあ、普通の犬だ!


 


「わっ……!」


 


「かわいい〜!!」


 


ブリジットちゃんが、ぴょんっと飛び跳ねながら歓声をあげる。


リュナも思わず口元を緩めた。


 


もちろん、俺も思った。


 


(ついに……完全なる小型犬になった……!!)


(かわいい!!)


 


しっぽをピコピコ振りながら、小さくなったフレキがぴょこぴょこ歩く。


なんだこの破壊力。可愛すぎる。


癒し、ここに極まれり。

やっぱ大きさって重要なんだね。


 


フレキくんは得意そうに、ぴょん!とジャンプして、言った。


 


「これが一つ目のスキル、“縮小”です!」


「身体を小型化できる能力みたいです!」


 


「すごーいっ!そんなに小さくなれたら、色々な事ができそうだよねっ!」


 


ブリジットちゃんが素直な感想を投げかけると——


フレキくんはニッコリと笑った。


 


「はい!この大きさなら、相手にわざと飲み込まれて、内側で元の大きさに戻って爆散させる!といった戦法も可能かも知れません!」




さらりと言ってのけるミニチュアダックスフンド。 


かわいい顔して、意外とドえぐい事考えるのね!?

フレキくん、発想が怖いよ!?


 

そんなエグい発想を思いつくとは思えない姿で、ぴょこぴょこと小型犬サイズのまま歩き回るフレキくん、


まるで高級感あふれる生きたぬいぐるみだ。


毛並みは金色に輝き、首の骨型チャームもぷらんぷらん揺れて、破壊的な可愛さを撒き散らしている。


これはかわいい!ペットショップで買ったら30万は下らないだろうね!

 


「かわいい〜……!」


 


ブリジットちゃんはもう、目をきらきらさせながら小さく拍手してるし、


リュナも肩を震わせながら「た、確かに、可愛いっすね……」と小声で呟いている。


マナガルムさんは神妙な顔で黙って見てるけど、耳の先っぽだけが微妙にぴくぴくしてるあたり、内心めちゃくちゃテンション上がってそうだ。


 


そんな和やかな空気のなか——


弟パグのグェルくんが、にやっと意地悪な笑みを浮かべて、ひょいっとフレキくんに近づいた。


 


「そんな小さくなって、偉大なる牙の長が務まるのか〜? 兄上〜?」


 


からかうような声色。


5m級のパグボディで、ドスドスと近寄っていく。


 


「ほらほらぁ、ちっちゃい兄上〜!」


 


グェルは巨体の前脚をふにっと持ち上げ、


縮小モードのフレキの頭を、わしゃわしゃ撫でようとした。


 


「ちょ、ちょっと、やめてよ〜! グェル!!」


 


フレキがあたふたしながら、ちいさな前足を突き出して、グェルの前脚をぺしっと払う——


その瞬間だった。


 


──バシィッ!!!


 


「ぐっはぁああ!!?」


 


爆音と共に、グェルの巨体が宙を舞った。


しかも、めちゃくちゃ綺麗な回転軌道を描いて。


ぐるんぐるんぐるん!!と荒野にスピンしながら転がっていき、


ドガッシャアアン!!と遠くの岩場に突き刺さった。


 


一同、絶句。


 


「……」


「……」


「……おー、やるっすねぇ……」


 


リュナが、ぽつりと呟く。


 


フレキはきょとんと自分の前足を見下ろしていた。


 


「……あ、あれ?」


「軽く払っただけなのに……?」


 


ブリジットちゃんも、ぱちぱち瞬きを繰り返している。


 


「ど、どうなってるの……?」


 


フレキは首を傾げ、ふわっとしっぽを振った。


そしてにこっと笑って、無邪気に言う。


 


「どうやら、秘宝の力で、ボクのパワーも上がったみたいです!」


「それに、小型化しても、力は一切衰えないみたいですね!」


 


え、つまり……この小型フレキくん、見た目だけ完全に無害なミニチュアダックスと見せかけて、


フェンリル族最強クラスの怪力持ってるってこと?


 


フレキくんパパのマナガルムさんが、震える声で呟く。


 


「……この力……」


「もはや、我に匹敵するか、いや、既に我を超えているやも知れぬ……!」


 


お父さんのマナガルムさんにそんな事を言わせるとは、フレキくん、息子としての面目躍如だね!


もう1匹の息子は岩場に突き刺さったままだけど。


ていうか、かわいさと破壊力のギャップがすごすぎる。


 


「すごーいっ!!」


 


ブリジットちゃんが、嬉しそうにフレキをひょいっと抱き上げた。


両腕で小型化フレキくんを抱きしめながら、きゃっきゃとはしゃいでいる。


フレキくんも、うれしそうにしっぽをぷりぷり振ってた。


 


(……いや……うん……)


(これはもう、ミニチュアダックス型の最終兵器だな)


 


俺は内心、微妙な汗をかきながら、でもブリジットちゃんが楽しそうにしてるから、


(ま、いっか)と流すことにした。


 


──そして。


フレキくんは、きゅっと顔を引き締めて言った。


 


「それから——!」


「もう一つのスキルは……"神獣化"です!」


 


そう告げたフレキくんは、ぴんと小さな胸を張った。


金色の首輪が、ぴかりと光る。


 


「へぇ……」


 


リュナちゃんが、黒マスクの下でふっと感心したような声を漏らす。


腕を組みながら、興味深そうにフレキを見下ろしていた。


 


「ね、ね。"神獣"って、どんなの?」


 


俺は思わず訊き返した。


異世界ものの小説や、ゲームなんかではよく聞くけど!


なんかこう、すごそうって事だけは分かるけど!


 


そんな俺に、リュナちゃんが軽くウインクしながら答えてくれる。


 


「ま、要するに、"神格"を帯びた獣っすよ。つまり準伝説級の魔物っすね。」


「“格”だけで言えば、あーし……“咆哮竜”にも、引けを取らないくらいっすよ。個体差はあるっすけど。」


 


サラリと、とんでもないことを言った。


 


「えっ……」


 


俺はごくりと喉を鳴らした。


 


(フレキくん、そんなヤバい存在になれるの!?)


(これはいよいよ、あのお父さんみたいな金色の超かっこいい狼に進化するパターン!?)


 


脳内に浮かぶのは、神々しい金狼!


黄金のたてがみをなびかせて、雷雲を引き裂きながら荒野を駆ける伝説の獣!


 


ブリジットちゃんも、期待に目をきらきらさせながら聞く。


 


「それも今、見せてくれるの?」


 


腕の中のフレキ(小型モード)は、元気よく頷いた。


 


「もちろんです! お見せしますね!」


 


きゅん、と心臓が跳ねる。


何が起こるか分からないワクワク感に、俺も、ブリジットちゃんも、リュナちゃんも、フレキを見守った。


 


ぴょんっと腕から飛び降りたフレキくんは、地面にしっかりと四肢をつけてポーズを決める。


そして、ぴしっと身体を伸ばし、凛々しい顔で宣言した。


 


「いきますよ!」


 


「《神獣化》発動!!」

 

 


ズゴォォォォン!!


 


空が、一瞬で暗くなった。


重々しい風が巻き起こり、金色の光が天へと突き抜ける。


 


俺は思わず目を細めた。


眩しい。けど、視線を外せない。


 


周囲の空気が震える。


土埃が舞い上がり、フェンリルたちも驚いたようにざわつき始めた。


 


「すごい……!」


 


ブリジットちゃんが、小さな声で呟く。


リュナちゃんも、腕を組んだまま微笑みながら頷いていた。


 


(どんな姿になるんだろう……!)


(きっと、きっと、あのマナガルムさんみたいな……!)


 


俺の胸も期待で膨らむ。


この瞬間だけは、世界が静まり返ったように感じた。


 


——そして、光が収まる。


 


目を開けた俺の視界に、現れたのは——

 

 


「……えっ」


 


胴長!!


 


めちゃくちゃ、《《胴が長い》》!!!


 


頭も、足も、尻尾も、全部そのまま巨大なダックスフンドなのに!


ただ、胴だけが異様に引き伸ばされて!


しかもそのまま、空中をウネウネと泳ぐように漂っている!!




「ウワーーーッ!!?」




理解が追いつかず、思わず叫んで盛大に尻もちをついてしまった。


あまりの絵面に脳が理解を拒否してる。


何これ!!?


色々あった1日なのに、今日イチの『何これ!!?』が出たわ!!



(神獣……? こ、これが神獣の姿……!!?)


 

もっとこう、普通にカッコいい狼的な姿になると思ってたのに!!


この姿は……この姿は、何て言えば良いんだ……?


可愛い、キモい、怖い、神々しい、全ての感想が相反する事なく同時に成立している。




しかし、俺以外の周囲の反応は——


 


「すごい、すごーいっ!!」


 


ブリジットちゃんが、ぴょんぴょん飛び跳ねて喜んでいて、


 


「へぇ……立派なもんっすね」


 


リュナも、にやっと笑いながら満足そうに頷いていて、


 


マナガルムとグェルに至っては——

 


「フレキが……こんな立派な姿になるなんて……!」

 


「兄上、すごいですぅぅ!!」

 


もう涙ぐみながら感動している。


 


えっ!?俺だけ違う世界線にいるの!?


いまのフレキくんの姿、なんて言うか、こう……


見ただけでSAN値が下がるような姿だと思うんだけど。



呆然としながら、俺は空を漂う金色の超長胴フレキくんを見上げた。


 


ウネウネ、ウネウネ。


 


雲間を突き抜けそうな勢いで漂っている。


これ、完全にあれじゃない?


神獣というか……◯龍(シェ◯ロン)じゃない?


オレンジのボール7つ集めたら出てくるやつ。


 


汗がつつーっとこめかみを流れた。


 


フレキは、自分の長すぎる胴体を見下ろしながら、感無量の声で言った。


 


「こ、これが……」

 

「神獣化した、ボクの姿……!」


 


しかも、声にはエコーがかかってる。


いちいち演出がすごい。


 


ブリジットちゃんは、涙ぐみながら、キラキラした目でフレキを見上げていた。

 


「その力があれば……」


「きっと、どんな願いだって、叶えられるよ!」


「フレキくん!」




 袖で涙を拭って、ダックスフンド風◯龍と化したフレキくんを見上げるブリジットちゃん。 


 確かに、どんな願いも一つだけ叶えてくれそうな見た目ではあるよね。

叶えた後、一年間行方不明になりそうだけど。




「みんなが笑って暮らせる場所……」


「一緒に、作ろうね!」


 


その言葉に、空を漂うフレキも、うるうると目を潤ませた。


金色の巨大な胴体が、嬉しそうにくねくね揺れる。


 


「はいっ!!」


 


エコーがかかった声が、空高く響いた。


 


——ああ、もう。


これが、この世界なんだな。



シュールで意味が分からない事も沢山あるけど、


それでも愛おしい世界。

 


俺は苦笑しながら、そっと手を空に伸ばした。


 


そして、こっそり心の中で呟いた。


 


(……たぶん、どんな願いも……)


(本当に、叶えられる気がするよ。君達ならね。)

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