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【45万PV感謝!】真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます  作者: 難波一
第六章 学園編 ──白銀の婚約者──

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第304話 地下の密談、血の命令

慰労会を終えた大学構内は、昼間とはまるで別の顔を見せていた。


つい先ほどまで笑い声やグラスの触れ合う音で満ちていたキャンパスは、今やすっかり夜の静寂に沈んでいる。

夜気に冷やされた石畳の通路を、一定間隔で並ぶ魔導灯が淡く照らし、長く伸びた影を地面に落としていた。


その影の中を、ひとりの男がのんびりと歩いている。


ザキだった。


黒い外套を肩に引っ掛け、片手をポケットに突っ込みながら、まるで夜風でも楽しむような気軽さで通路を進んでいく。

だが、その耳元で小さく光る銀色のピアスは、ただの装飾品ではない。微細な魔法陣が刻まれた、通信型の魔導具だ。


ザキは歩きながら、そのピアスに指先で触れた。




「せやから言うてますやん」




気の抜けた声が、静まり返った通路に溶ける。




「俺も何が何やら分からんのですって」




返事は、ピアスの向こうから飛んできた。




『……巫山戯(ふざけ)ているのか?』




低く押し殺した声。

だが、その奥に滲む怒気は隠しきれていない。




『あれだけ怪しまれる行動は控えろと言ったにも関わらず……予選会第三位のチームリーダーであるお前が、慰労会に顔すら出さないとはどういう了見だ?』




声はさらに険しさを増す。




『目立つ行動はよせと、あれほど言っただろう』




だが、当のザキは足を止めない。

むしろ口元には、どこか楽しげな笑みすら浮かんでいた。




「いやぁ、ホンマに俺も何が何やら分からんかったんですよぉ」




肩をすくめ、他人事みたいな調子で言う。




「気ぃ付いたら『眞学の森』っちゅう森の中におって。周りの木ぃも、なんやめちゃくちゃに薙ぎ倒されとってなぁ」




まるで今日の天気でも話すかのような気楽さだった。




「近くにおった特別留学生の兄ちゃんらに案内してもらわんかったら、ここまで戻って来れたかも怪しかったくらいですわ。いやぁ、不思議なもんですなぁ」




通話の向こうで、短い沈黙が落ちる。

そしてやがて、低い声が返ってきた。




『言い訳は、直接聞く』




その一言だけで、空気がわずかに冷えた。




『……急げ』




ザキは口元を歪めた。




「そりゃもちろん。今向かってますさかい」




軽くそう返すと、ピアスから手を離す。

通信が切れ、夜の静けさが戻ってきた。


ザキはそのまま、大学構内の一角にある建物へ向かう。

外から見れば、ごく普通の研究棟にしか見えない。だが、その内部──人目のつかない通路の奥で、ザキは足を止めた。


目の前には、何の変哲もない石壁。

しかしザキは左手を持ち上げる。

人差し指には、重厚な金属の指輪が嵌まっていた。宝石が淡く光り、次の瞬間──


ピッ。


短い電子音が鳴る。

続いて、低い振動音が響いた。


ヴォン……


石壁が左右に滑るように開き、その奥から暗い昇降機の入口が姿を現す。

大学の地下へと続く、隠し通路だった。


その光景を見て、ザキはふっと口元を歪める。




「……ほんま、便利な世の中になったもんやなぁ」




誰に聞かせるでもなくそう呟くと、昇降機の中へ足を踏み入れた。


扉が静かに閉じる。

次の瞬間、床がわずかに沈み、昇降機は音もなく下降を始めた。

魔導盤に刻まれた数字が淡く光り、階層をひとつずつ通過していく。


地下。さらに地下。

やがて、チン、と小さな音が鳴った。

扉が開き、ザキはゆっくりと外へ出る。


そこは狭い通路だった。

石造りの壁に、青白い魔導灯の光。大学の地下とは思えないほど、ひっそりとした空間だ。


コツ……コツ……コツ……


響くのは、ザキの靴音だけ。


通路の奥には、重厚な金属扉が一枚。

ザキは迷いなくそれを押し開けた。


ギィ……と鈍い軋み音。

その先には、広い部屋があった。


そして、そこにはすでに三人の姿があった。


ソファにだらしなく腰掛け、片手に酒瓶をぶら下げている大男──ディオニス。

足を投げ出し、背もたれに身体を預けたまま、いかにも気楽そうに酒を煽っている。


その少し後ろには、異形の影。

鉄塊のような金棒を背負い、腕を組んで直立する爬虫亜人のギュスターヴ。


そしてその隣。

呪印の刻まれた包帯で両目を覆った、細身の少女──ロール。

視界を塞がれているはずなのに、まるで全部見えているかのように静かに顔を上げていた。


ザキが部屋に入ると、三人の視線が一斉に向く。


だが、ザキはいつも通りだった。

ヘラヘラと笑いながら歩いていき、部屋の最奥で足を止める。


そこには、もうひとり座っていた。


椅子に腰掛け、脚を組み、静かにこちらを見据える人物。

長い赤髪。鋭い眼差し。

それだけで、部屋の空気を張り詰めさせるだけの威圧感があった。


ザキはその人物の前で軽く頭を下げる。




「遅れてもうて、えらいすんません」




口元には笑み。

しかし、その視線の先で、赤髪の女はゆっくりと目を細めた。


不機嫌そうな視線が、ザキを射抜く。


その女の名は──

エルディナ王国第四王子。

ジゼル・デル・エルディナス。




◇◆◇




ザキが頭を下げたまま顔を上げると、部屋の空気がほんの少しだけ緩んだ。

張り詰めていた糸が、一本だけたわんだような感覚。もっとも、それも一瞬のことだったが。


最初に沈黙を破ったのは、ソファに寝そべるように座っていた男──ディオニスだった。




「よぉ、大将」




喉の奥でくくっと笑い、酒瓶を揺らす。




「慰労会ブッチするとか……なかなか大物じゃねぇか」




値踏みするような目でザキを見る。




「普通はよぉ、もっと目立たねぇように立ち回るもんだぜ?」




ザキは肩をすくめた。




「言うてるやろ。しゃあないねんて。俺も何が何やらよう分からんまま遅刻してもうたんよ」




すると、横からため息混じりの声が飛んできた。




「ザキさん……」




ロールだった。

包帯の奥から、静かな視線が向けられる。




「流石に、それは無いです……」




声は穏やかだが、完全に呆れている。

その隣で、ギュスターヴも腕を組んだままゆっくり首を横に振った。何も言わないくせに、「どうしようもない男だ」と全身で語っている。


ザキは両手を広げた。




「いや、マジやねんて! 俺も何が何やら分からんまま遅刻してもうたんやって!」




やや大袈裟に言い募るザキへ、ジゼルが冷たく言い放つ。




「言い訳はいい」




短く、それでいて鋭い一言だった。




「お前の命令無視は、今に始まったことではない」




声を荒げているわけではない。

それなのに、その一言には氷の刃のような圧があった。


ザキが「いやいや」と手を振る一方で、ディオニスが大きな声を張り上げる。




「そうだそうだ!」




酒瓶をぶらつかせながら、ニヤニヤと笑う。




「依頼主サマのご意向に背くなんざ、プロ意識が足りてねぇんじゃねぇのかぁ? オイ!」




わざとらしくジゼルの方を振り返る。




「なぁ? ジゼル姫」




そう言いながら、今度は缶ビールを一本取り出し、缶の下部をコツンと人差し指で叩く。

缶に穴があき、プシュッと泡が弾ける。

次の瞬間、ディオニスはそれを豪快に口へ押し当て、一気に喉へ流し込んだ。

ごぼごぼと喉を鳴らしながら、ショットガン飲み。


ザキは半眼になる。




「……仕事中にガブガブ飲んでるディオニスくんに、“プロ意識”とかいう概念あるん?」




部屋が一瞬、しんと静まり返った。

だが当のディオニスは、飲み干した缶をぐしゃりと握り潰し、ニヤリと笑う。




「バカ野郎」




ドン、と自分の胸を叩く。




「おめぇ、俺のスキル知ってんだろ?」




握り潰した空き缶を適当に後ろへ放り投げ、新しい酒瓶を掲げた。




「俺の“酒精勇者(バッカリオン)”はなぁ、酒精(アルコール)を魔力に変える能力だ。 つまり酒は燃料だ。燃料。分かるか? むしろ仕事熱心だと褒めてもらいてぇくらいだぜ?」




ぐびり、と一口飲んでから、満面の笑みでジゼルへ顔を向ける。




「なぁ! ジゼル姫!?」




ジゼルの目が、ゆっくりと細くなった。


ギロリ──


その視線だけで、部屋の温度がすっと下がる。

さっきまで上機嫌だったディオニスの笑顔が、ぴたりと止まった。


短い沈黙。

そして、ジゼルは深く息を吐く。




「……ハァ」




疲れたようなため息と共に、腕を組む。




「お前の能力に飲酒が必要であることは事実だ。許可せざるを得まい」




諦めの滲む、冷たい声だった。

ザキが思わず変な声を漏らす。




「えぇ~……?」




だがディオニスは一瞬ぽかんとした後、パァッと顔を輝かせた。




「いよっしゃあああああ!!」




拳を突き上げ、全力で喜ぶ。




「依頼主サマのお墨付きゲットだぜぇ!! これで合法的に仕事中でも酒飲み放題だゲェーーーーーップ……」



「いや、最低か!!」




最後の最後でとんでもなく大きなゲップをかまし、ザキが即座にツッコむ。

ロールは包帯越しにも分かるほど露骨に顔をしかめた。

ギュスターヴは相変わらず微動だにしないが、低い声でぽつりと呟く。




「この酔っ払いの事は……ひとまず置いておくとしテ」




そのまま、ゆっくりとジゼルへ視線を向けた。




「本題に入ろウ」




ジゼルは小さく咳払いをした。


コホン。


そして静かに椅子から立ち上がる。

長い赤髪がさらりと揺れ、魔導灯の青白い光を受けて妖しくきらめいた。


彼女は部屋にいる四人を順に見渡す。

ザキ。ディオニス。ギュスターヴ。ロール。

その視線には、ただの雇い主ではない、王族として人の上に立つ者の圧が宿っていた。




「……こうして顔を合わせるのは初めてだな」




静かな声が、地下室に落ちる。




「改めて名乗ろう。私がジゼル・デル・エルディナスだ」




一瞬の間。




「立場としては……お前達の雇い主、ということになる」




その言葉と同時に、場の空気がさらに重く沈んだ。

つい先ほどまで飛び交っていた軽口が、嘘みたいに消えていく。

ジゼルはゆっくりと続ける。




「私がお前達に望むのは、一つだけだ」




魔導灯の灯りが、かすかに揺れた。

誰も動かない。

誰も口を挟まない。


そして──


ジゼルの唇が、静かに開く。




「あの忌まわしき怪物」




低く、冷たい声。




「ラグナ・ゼタ・エルディナスを──殺せ」




その一言が落ちた瞬間、部屋の空気は鋭く張り詰めた。

まるで、刃を喉元に突きつけられたかのように。





 ◇◆◇




部屋の空気は、張り詰めたままだった。


誰もすぐには口を開かない。

天井の魔導灯が青白い光を落とし、五人の影を床へ細長く引き延ばしている。


その沈黙を、ザキがあっさりと破った。

頭をぼりぼりとかきながら、わざとらしく肩をすくめる。




「……今更やけど」




軽い調子のまま、ジゼルへ視線を向ける。




「ほんまにええんですか? 一応、あんたと血ぃ繋がった弟やろ?」




その瞬間だった。

ジゼルの目が、すうっと細くなる。

ギロリ──と、まるで氷の刃みたいな視線が、ザキを真っ向から射抜いた。


ザキは「おお」と小さく声を漏らし、ほんのわずかに身を引く。




「……(こわ)ぁ」




いつもの軽口。

だが、その声音にはほんの少しだけ、本物の緊張が混じっていた。


ジゼルは視線を外さぬまま、低く言い放つ。




「──あれは、弟などでは無い」




短い沈黙。

そして、言葉を噛み締めるように続けた。




「十五になる歳……あのスキルを授かってから」




椅子の背に添えられていた指先が、わずかに力を帯びる。




「ラグナは……ラグナではなくなった」




赤い髪が、魔導灯の光を受けて妖しく揺れる。




「……あれは」




一瞬だけ言葉が途切れた。

だが次の瞬間、ジゼルは吐き捨てるように告げた。




「この世ならざる何かだ」




その声音には、憎しみだけではない。

もっと生々しい、拭い切れない恐怖が滲んでいた。

ジゼルは感情を押し殺すように、さらに続ける。




「やつを生かしておいては……いずれ必ず、エルディナの災厄の火種となる。 我が国を脅かす芽は……今のうちに摘んでおかねばならん」




そこでほんのわずかに、声が沈む。




「──たとえそれが、血を分けた王家の末弟であったとしても、だ」




再び、部屋に静寂が落ちた。

その重たい沈黙の中で、ロールはじっと立ち尽くしていた。

呪印の刻まれた包帯に覆われた両目。だがその奥では、彼女の魔眼がジゼルの魂の揺らぎを静かに映している。




(……ジゼル様の言っている事は)




ロールは胸の内で、そっと息を呑んだ。




(半分は本当で……半分は嘘)




ジゼルの魂は、まるで焼けた鉄のように赤く揺れていた。




(ラグナ殿下が厄災の火種になる……それは本気で信じている)




そこに偽りはない。

少なくとも、ジゼル自身は本気だ。


だが──




(殺意の中に……それだけじゃない、別の理由がある)




もっと濁った感情。

もっと私的で、もっと根深い何か。

それが何なのかまでは、まだ見えない。

それでも。




(……確かに、ある)




ロールは何も言わず、その思考を胸の奥へ沈めた。

その時、ザキが小さく笑った。




「──ま、俺の目的も同じやからね」




口元に薄い笑みを浮かべたまま、あっさりと言う。




「異存はあれへんよ」




だが、その言葉に低い声が割り込んだ。




「──本気デ、そう思っているのカ?」




ギュスターヴだった。

腕を組んだまま、逞しい体躯を微動だにさせず立っている。

だが、その視線だけは鋭くザキへ向けられていた。

ザキが片眉を上げる。




「どういう意味や? ギュスターヴくん」




軽い調子は崩さない。

だが、その目だけは笑っていなかった。

ギュスターヴはゆっくりと口を開く。




「貴様のお気に入りノ、アルド・ラクシズ。予選会以降、ラグナ・ゼタ・エルディナスと懇意にしているらしいではないカ」




一歩だけ、前へ出る。




「貴様も情に絆され……土壇場でラグナの命を断つ事ヲ……躊躇うなどという事ニ──」




そこまでだった。


ギュスターヴの言葉が、不意に止まる。

背筋に、ぞくりと冷たいものが走ったからだ。

ザキから、凄まじい殺気が溢れ出していた。

それはただの威圧ではない。

空気そのものが軋み、場の温度が一気に下がったようにすら感じる、濃密すぎる殺意。


ザキは笑っていた。にこやかに。

いつもと何も変わらないような、張り付いた笑顔で。




「あれへんよ」




静かな声だった。




「そんな事は」




そして、次の一言だけは。

ぞっとするほどはっきりと、部屋の全員の耳に届いた。




「──絶対にな」




瞬間、殺気が爆ぜた。

ビリ、と空気が震える。

ギュスターヴのこめかみを、冷たい汗が伝った。




(尋常ならざる殺気ダ……!)




心の中で、思わず呟く。




(天魔三剣……“要塞斬り”のザキ……!)




今この場で向けられているそれは、冗談でも虚勢でもない。


本物だ。


紛れもなく、ラグナへ向けられた殺意だった。

ギュスターヴは即座に頭を下げた。




「──すまなイ」




低く、短く言う。




「失言だった様ダ」




ザキはしばし無言でその顔を見つめ──やがて、ふっと笑った。

途端に、あの濃密な殺気が霧のように掻き消える。




「ええよええよ。気にせんで」




ひらひらと手を振る。




「俺たち、仲間やんか〜」




いつもの気の抜けた口調。

だが、たった今の一瞬を見た後では、その軽さが逆に不気味ですらあった。

ディオニスも、酒瓶を傾ける手を止めたまま肩をすくめる。




「おぉ~、怖い怖い」




冗談めいた声。

しかし額には、うっすらと冷や汗が滲んでいた。

ロールは静かに考える。




(……ザキさんも、ジゼル様も)




二人とも、ラグナへ向ける殺意は本物。

そこに疑いはない。


けれど。




(……何故?)




胸の奥に、ぬぐえない違和感が残る。




(この二人の、ラグナ殿下へ向ける途轍もない殺意……私の眼は、そこに妙な共通性を見出してしまっている)




答えはまだ見えない。


けれど、何かがある。

そうとしか思えなかった。


その時、ジゼルが静かに口を開いた。




「──お前のラグナへの殺意」




冷え切った声が、部屋に落ちる。




「それを疑った事は、一度たりとも無い」




そう言って、ゆっくりと立ち上がった。

長い赤髪が揺れる。




「決行は──“統覇戦(ドミナンス・カップ)”本戦」




鋭い視線が、四人を順に貫いた。




「戦いの舞台にて──ラグナを屠る」




そして、ひとりずつ名を呼ぶ。




「“酒精勇者(バッカリオン)”ディオニス」


「“爬虫人王(リザードキング)”ギュスターヴ」


「“魔眼(イビルアイ)”ロール」




最後に。




「“要塞斬(ようさいぎ)り”ザキ」




ジゼルの声はあくまで静かだった。

だが、その静けさの奥には、ぞっとするほど濃い狂気が宿っている。




「我々は同志だ」




ゆっくりと、言い聞かせるように告げる。




「必ずや、本懐を遂げるぞ」




ザキの口元が、ゆっくりと吊り上がった。




「当たり前や」




低く、短く返す。


その瞬間。

五人の間に、鋭い誓約のような空気が走った。


静まり返った地下の部屋で──

暗殺の誓いだけが、ひどく静かに交わされた。


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ザキのお仲間?登場だ〜
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