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【45万PV感謝!】真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます  作者: 難波一
第六章 学園編 ──白銀の婚約者──

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第302話 祝宴の夜、王国は動く

センプラ大ホールの一角、柔らかな照明に照らされたソファ席で、リュナは深く背もたれに身体を預けていた。

足を組み、銀のトレイからパーティサンドイッチをひょいと摘まみ上げる。

そのまま口へ放り込み、反対の手でカクテルグラスを傾けた。




「しっかし……兄さん遅くね? 何してんすかね〜? そろそろ始まっちゃうんしょ?」




黒いマスクの奥で頬を動かしながら、キョロキョロと周囲を見渡す。いつもの気怠げな口調だが、視線は落ち着かない。

隣に立つブリジットも、苦笑を浮かべた。




「ホントだねぇ。アルドくん、結構おっちょこちょいだから……集合場所間違ってるとか、そんな事無いかなぁ。」




そう言いながらも、どこか楽しげだ。アルドが慌てて駆け込んでくる姿が、目に浮かぶのだろう。


だが、その時だった。


ホールに流れていた軽快な音楽が、ゆっくりと音量を落としていく。ざわめきが波のように引き、空気が変わる。


グェルがピクリと耳を動かし、辺りを見回した。




「な、なんか……皆の様子が静かになってきましたねッ……!」




その声は、先ほどまでの陽気さとは違う、どこか緊張を孕んでいた。

ブリジットの表情が、すっと引き締まる。




「これは……公爵家以上の、所謂(いわゆる)“上級貴族”が、会場入りするんだよ。」




蒼龍が目を瞬かせる。




「公爵家以上、って……確か、ブリジットちゃんのお家も……」




ブリジットは小さく、しかし確かに頷いた。喉が、わずかに鳴る。


リュナは摘まみかけたサンドイッチの手を止め、黒マスクをクイッと持ち上げて口元を隠した。目だけが細められる。


センプラ大ホールは完全な静寂に包まれ、やがて優雅で重厚な旋律へと切り替わる。

一般客の出入り口とは別の、奥に設えられた荘厳な扉が、ゆっくりと開いた。


赤絨毯の上を、格式ある衣装に身を包んだ貴族たちが歩み入る。視線は前方へ、姿勢は揺るがず、足取りは一定。


その中に──


グレゴール・ノエリア。

そして、ミレーユ・ノエリア。

ブリジットの両親の姿があった。


事情を知る者たちの間に、見えない緊張が走る。


リュナの目が細まり、フレキはブリジットの腕の中で小さく息を止める。蒼龍も、ビビアーナも、言葉を失う。


グレゴールは凛とした軍服風の礼装に身を包み、背筋を伸ばして歩いている。ミレーユは気品に満ちたドレス姿で、その隣を静かに進む。


二人は他の貴族と共に、VIP席へと向かって一直線に歩いてくる。


──その進行経路上に、ブリジットたちは立っていた。


心臓の鼓動が、耳の奥で大きくなる。


ブリジットは、ほんの一瞬、迷った。

けれど、両手をぎゅっと握りしめ、勇気を振り絞る。




「──お父さん、お母さん……あたしね……!」




声は震えていた。だが、確かに届くはずの距離だった。


グレゴールの視線が、ほんの一瞬だけ、ブリジットの方へ揺れる。


ほんの一瞬。


だが、その歩みは止まらない。

ミレーユの表情も変わらない。

二人は、まるで風が吹き抜けるかのように、ブリジットの横を通り過ぎていった。

声は、なかったことのように。


足音だけが、遠ざかっていく。

ブリジットの喉が、ひゅっと鳴る。




「あ……」




言葉が続かない。

胸の奥で、何かが崩れ落ちる。


自分でも気づかないうちに、期待していたのだ。

予選会一位通過。

あの激戦。自分の努力。

もしかしたら──ほんの少しだけでも、認めてくれるのではないか、と。


その淡い幻想が、音もなく砕ける。




(……甘かったなぁ、あたし)




自嘲が胸に滲む。

視界が滲みそうになり、ブリジットはそっと下を向いた。


ビビアーナが一歩踏み出す。




「ブリジット……」




だが、その腕を、リュナが静かに掴んで制した。

ビビアーナが戸惑いの視線を向けると、リュナはフッと笑う。




「だいじょーぶ。」




その目は、優しかった。




「姉さんの、一番の味方が来たから。」




次の瞬間。




「ブリジットちゃん!」




明るく、屈託のない声が、空気を切り裂いた。


その声を聞いた瞬間、ブリジットの胸にのしかかっていた重い塊が、ふわりと浮き上がる。


顔を上げる。


銀髪が照明を受けてきらりと光る。

少し息を弾ませながら、笑顔でこちらを見ている少年。


アルド。




「ごめんごめん! ちょっと……あー……知り合いと話してたら遅くなっちゃってさ!」




頭をかきながら、いつもの調子で笑う。

その姿が、どうしようもなく、眩しかった。

ブリジットの目の奥が、じわりと熱を帯びる。




(なんで……泣きそうなんだろ……)




言葉にできない。

悔しさでも、悲しさでもない。

ただ──救われた、という感覚。




(そうだよ……今のあたしは……)




アルドの後ろには、リュナがいる。フレキがいる。グェルがいる。蒼龍がいる。ビビアーナがいる。




(……一人じゃないもの……!)




ブリジットは涙を堪え、思いきり笑った。




「遅いよっ! アルドくん!」




声は少しだけ掠れていたが、その笑顔は、確かに前を向いていた。




 ◇◆◇




アルドの明るい声が届いた瞬間、ブリジットの胸に沈みかけていたものは、確かに浮き上がった。


だからこそ、その次にアルドが見せた“空気の読めなさ”が、逆に救いのように感じられたのかもしれない。


アルドは銀髪を揺らしながら、今しがた通り過ぎていった上級貴族たちの背を目で追い、目を丸くする。




「えっ!? さっき入って来た人達、この国の上級貴族の皆さんなの!?」




驚きの声が少し大きくなる。周囲の視線が一瞬こちらへ寄るが、本人は気づいていない。




「──って事は、ひょっとして、ブリジットちゃんのご両親もいた感じ!? あわわ……ご、ご挨拶とか行ったほうがいいかなぁ!? いつも娘さんに大変お世話になってます、的な!! ね!?」




“ね!?”のところで、両手をわたわたと動かす。

まるで今から戦場に飛び込む兵士のような勢いで、視線だけが忙しく泳いでいた。


ブリジットは一瞬ぽかんとする。


そして、次の瞬間、リュナと目が合った。

リュナは黒マスクの下で口元を押さえたまま、肩をぷるぷる震わせている。目尻が明らかに笑っていた。


ブリジットも堪えきれず、ぷっと吹き出す。




「ふふっ……アルドくん、慌てすぎ……!」




リュナも耐えきれずに、くっ、と短く笑い声を漏らした。




「兄さん、そういうとこっすよ……マジで。」




アルドは二人の反応に「え、え?」と戸惑い、首を傾げる。真面目に心配しているからこそ、余計に可笑しい。


ブリジットは笑いながら、アルドの袖を軽く引いた。




「大丈夫だよ、アルドくん。挨拶に来てくれるのは……すごく嬉しいけど。」




そこで、いったん息を吸う。胸の奥に残る痛みを、言葉の背中にそっと隠すように。




「それは、“統覇戦(ドミナンス・カップ)”で優勝してからにしよう!」




ブリジットは笑った。明るく、強く。


“今はまだ、いい”と自分に言い聞かせるための言葉でもあった。


アルドは「そ、そう?」と目を瞬かせ、それから素直に頷く。




「ブリジットちゃんがそう言うなら、そうしようかな?」




あまりにもあっさり従うその感じが、またブリジットの胸を少し軽くした。


そのとき。

横から、低く、愉快そうな声が滑り込んでくる。




「ククク……流石はブリジットさん。いい事言うねぇ。」




空気が、ふっと変わった。

軽い冗談のはずなのに、どこか甘い香りのような“危うさ”が混ざっている。

聞いた瞬間、背中の産毛がわずかに逆立つような。


アルドたちが声の方を向く。

そこに立っていたのは、長身の男だった。


ツーブロックの黒髪。ところどころ赤いメッシュが入っていて、光を受けるたびに微かに燃えるように見える。

髪はマンバンヘアにまとめられ、額と首筋がやけに色っぽく露わになっている。


ビシッと整えられたスーツ。

肩幅は広いのに、着こなしが軽い。

きっと普通の場なら、視線が集まりすぎて困る類の男だ。


ビビアーナが、反射で背筋をピーンと伸ばした。




「ハーーー!だ、誰なのねぇ!?この、どこかデンジャーな香りが漂う色気たっぷりのお兄さんは!?」




声がホールに響きそうな勢いだが、本人は真剣だった。警戒と興味がごちゃ混ぜになった目を向けている。


アルドも首を傾げる。目を細めて、男を見上げる。




「いや、本当に誰? ──って、その声と喋り方、まさか……?」




男は苦笑し、肩をすくめた。




「おいおい。ちょっと正装しただけで俺の顔忘れちまうとか、酷いじゃあないの。」




その手には、分厚い魔本がある。上質な黒革表紙。指先でページをパラパラと捲った瞬間──


ボワン。


まるで煙幕のように、サングラスと肩掛けのロングコートが“現れた”。

空気が一段階、胡散臭くなる。


グェルが思わず声を裏返らせる。




「ヴァ、ヴァレン様ッ!?」




ブリジットも目を丸くして、声を上げた。




「えーー!?普段と全然印象違うから気付かなかったよ、ヴァレンさん!」




アルドも「ホントホント」と頷き、肩を落としたように笑う。




「どしたの、ヴァレン? そんなおめかししちゃって。」




男──ヴァレンは、わざとらしく胸を張り、サングラス越しにウインクした。




「なぁに。俺も形式上は国賓なんでね。正装して式典に参加しなきゃあならないのさ。似合ってるだろ?」




そう言って、またページをひらりとめくる。


ボワン。


サングラスと肩掛けロングコートが消える。まるで舞台の早着替えだ。


フレキはブリジットの腕の中でハッハッと息を弾ませ、目をきらきらさせた。




「とっても似合ってますっ!ヴァレンさん!」




蒼龍も両手を叩き、楽しそうに頷く。




「本当!とっても素敵よぉ、ヴァレンくん!」




だが、リュナだけは違った。

ジト目でサンドイッチを摘み、もぐもぐしながら言う。




「いや、別に。いつもとあんま変わんねーし。」




その温度差に、場がふっと緩む。

ビビアーナは汗をかきながら、ヴァレンの顔を凝視した。




「……ヴァレン?みんな、ヴァレンって言ったのねぇ?まさか……!?」




嫌な予感と、“でもまさか”という希望が半々の顔だった。


ヴァレンはサッと姿勢を正し、深々と礼をする。さっきまでの軽薄さが嘘のように、所作が綺麗だった。




「はじめまして、ビビアーナ・ロカ嬢。大罪魔王・第五の座……“色欲”のヴァレン・グランツだ。」




“色欲”という単語だけが、空気をすっと冷やす。

けれどヴァレンは、続けて柔らかく笑った。




「今は、フォルティア……新ノエリア領の食客としてお世話になっている。以後、よろしく。」




ビビアーナの背筋が、ガチンと固まる。




「ハーーー!?し、色欲の魔王!?こんなカジュアルな感じで魔王と初対面するとは思わなかったのねぇ!?」




叫んだ後で、ハッと我に返る。両手を胸元で慌てて揃え、ぺこぺこと頭を下げ始めた。




「あっ、び、ビビアーナ・ロカです!こ、この度は、お日柄も良く……!」




明らかに何を言えばいいか分かっていない。言葉が古典的な挨拶に逃げている。

ヴァレンは愉快そうに肩を揺らす。




「ククク……そう固くならないでくれ、ビビアーナさん。今の俺は魔王ではなく、この大学の客員教授。」




そこで、わざとらしく間を取る。

そして、アルドの肩に、ぐいっと腕を回した。




「そして……“銀の新星(シルバー・ノヴァ)”の……相棒さ!」




バチーン!とウインク。


アルドはされるがまま。慣れたように、半目で「また言ってるよ」みたいな顔をしている。


ビビアーナは、固まったままその光景を見た。




(し、色欲の魔王の……相棒!? “銀の新星(シルバー・ノヴァ)”……思った以上に、とんでもないヤツなのねぇ……!)




冷や汗が、背中を伝う。

その様子を見ていたリュナが、ジト目のまま切り込んだ。




「ヴァレンさぁ。おめー、兄さんの相棒とかよく言ってっけどさぁ。お前が思ってるだけなんじゃね?片想いっしょ、それ。」




冷酷なまでに正論。

アルドはふと真剣な顔になり、顎に手を当てる。




「確かに……よく考えると、“相棒”ってヴァレンが一方的に言ってるだけだよね……」




妙に真面目な口調が余計に刺さる。

ヴァレンは胸を押さえ、傷ついた役者みたいな顔をした。




「相棒……お前それ、本気で言ってるのか……?」



「いや、本気で言ってたらこんなに長く一緒にフォルティアの開拓やってねぇよ。」




一瞬、間が落ちる。

ヴァレンとアルドは、同時に身体をほんの少し斜め後ろへ反らし、顔を見合わせた。

そして……




「「へへへへへへへ!」」




揃いすぎた笑い方で、二人して声を漏らす。肩の動きまで似ている。妙な“型”があるのが分かる。


リュナは冷静に、サンドイッチを咀嚼しながら突っ込んだ。




「ソレ、ちょいちょいやってるけど、何なんすか?」




蒼龍が吹き出して、口元を押さえる。フレキは「出ましたっ!」と尻尾を振って喜び、グェルは「す、すごい息の合い方……!」と感心している。


ビビアーナは、目を輝かせたまま、背筋をピーンと伸ばす。




「ほ、本当に、色欲の魔王と仲良しなのねぇ……!(すご)!!()っご!!」




その言葉に、ヴァレンが得意げに顎を上げる。

アルドは「いや、仲良しっていうか……」と苦笑しながらも、どこか安心したように笑っていた。


さっきまでブリジットの胸に重くのしかかっていたものは、いつの間にか遠のいている。


騒がしくて、可笑しくて。

でも、なぜか“守られている”みたいな空気があった。


ブリジットは、その輪の中心で、そっと息を吐く。




(……うん。大丈夫)




笑いながら、心が少しずつ、温度を取り戻していくのを感じていた。




 ◇◆◇




ひとしきり笑いが落ち着いたあと、ブリジットはふと真顔に戻った。


さっきまで胸を満たしていた温もりの奥に、まだ消えきらない緊張がある。




「──それはいいとして。」




ブリジットはヴァレンを見上げる。




「ヴァレンさん、今日朝から姿が見えなかったけど……何をしていたの?」




その問いに、ヴァレンは軽く目を細め、すっと腕を組み直した。さっきまでの軽薄な笑みが消え、代わりに理知的な光が宿る。




「……ああ。」




気を取り直すように、背筋をビシッと伸ばす。




「ちと、“統覇戦(ドミナンス・カップ)”の本戦についての話し合いがあってね。客員教授としてアドバイスを求められて、参加してたのさ。」




アルドが首を傾げる。




「話し合い?」




ヴァレンはゆっくりと頷いた。




「ああ……予定では、本戦もマリーダ教授の“迷宮組曲”で作ったダンジョン内の会場で行われるはずだったんだ。」




その名が出た瞬間、空気がわずかに張り詰める。

ヴァレンの視線が、アルドへ向く。




「だが、予選会の最後。相棒とラグナ王子がマリーダ教授と戦ったあの時。」




声が、ほんの少し低くなる。




「マリーダ教授に……異変が起きた。」




アルドの脳裏に、地下五十階の光景が蘇る。

崩れ落ちる迷宮。歪む空間。変貌した教授の姿。




「あの時の……」




無意識に、拳がわずかに握られていた。

ヴァレンは小さく頷く。




「マリーダ教授の身に何が起きたのかは、現在も大学側で調査が続いている。勿論、俺も協力して、な。」




軽く肩を竦めるが、その目は真剣だ。




「だが……今だに、何が起きたのかは分からず仕舞いだ。」


「教授の体内に、外部から干渉された形跡がある。だが、それが何者によるものか……確証がない。」




その一言が、静かに不穏さを落とす。




「だから、“統覇戦(ドミナンス・カップ)”開催本部……エルディナ王国の上層部は、リスクを避けて、本戦にマリーダ教授の迷宮を使うのを取りやめる事にした。」




ブリジットたちの間に、緊張が走る。

迷宮が使えない。

つまり──本戦の形式が変わる。

その意味は、軽くない。


そのとき。




「──そういう事さ。」




横から、澄んだ声が差し込む。

アルドとブリジットが同時に振り向く。

そこに立っていたのは、ラグナ。

その後ろに、セドリック、リゼリア、そしてルシア。


アルドは目を瞬かせる。




「ラグナ……それに、グル……じゃない、ルシア……さん。」




一瞬、言い間違えかける。

ルシアは微かに眉をひそめるが、何も言わない。

ビビアーナはラグナの顔を見て、




「ギョエーーー! ら、ラグナ、殿下……!?」




と、白目を剥いて泡を吹き始める。

心酔するラグナの突然の登場に、心がもたなかったのだ。

蒼龍がギョッとした様子でビビアーナを見る。




「ちょ、ちょっと!?ビビアーナちゃん!?何!?何なの!?だ、大丈夫!?」




と、倒れるビビアーナを慌てて抱き止める。

ブリジットは小さく息を呑む。




「お兄ちゃん……それに、リゼリアさんも。」




ラグナは穏やかな微笑を浮かべた。

以前の、どこか刺々しい気配は薄れている。




「もっとも、僕ですら聞かされたのは、つい先程だがね。」




肩を軽く竦める。

ヴァレンはすっと一歩前へ出て、優雅に一礼する。




「これはこれは、ラグナ王子。予選会での素晴らしいご活躍、感服致しました。」




ラグナは胸に手を当て、礼を返す。




「偉大なる魔王であらせられる貴方に評価いただけて、光栄の極みです。ヴァレン・グランツ。」




丁寧だが、皮肉はない。

その穏やかさに、ヴァレンは内心わずかに驚く。




(この王子様……随分とまぁ穏やかになったじゃあないの。相棒と戦って一皮剥けた、ってところかな?)




口元に、にやりとした笑みが浮かぶ。

ラグナはアルドとブリジットへ視線を巡らせる。


一瞬、目が合う。

ほんの小さく、柔らかな笑み。

アルドは軽く手を上げる。

ブリジットも、そっと頭を下げる。


セドリックは無表情のままだが、その視線はどこか温かい。

リゼリアは腕を組み、静かに状況を見極めている。


ラグナがゆっくりと口を開いた。




「今大会の本戦は、今までの物とは大きく異なったものになるはずさ。」




その一言で、周囲の空気が引き締まる。




「今から、それについての説明が始まる。兄上、姉上達によって、ね。」




視線が、ホール奥の巨大な扉へ向けられる。

アルドが息を呑む。




「えっ?ラグナの兄上、姉上……って事は……」




ラグナは穏やかに答える。




「ご明察。この国の第一から第五王子……僕の兄姉さ。」




その言葉と同時に、会場が再び静まり返る。

ざわめきが消える。

参加客たちが、自然とホール奥を向く。


荘厳な扉が、ゆっくりと開く。

重厚な音が、床を震わせる。


差し込む光。


その中から、五つの影が現れる。


中央に立つ第一王子。

左右に第二、第三。

一歩引いた位置に、第四、第五。


それぞれが異なる威圧と品格を纏い、堂々と歩み出る。


後光を背負ったかのようなその姿に、ホールの空気が一段階、格上げされたように感じられた。


ブリジットは無意識に息を止める。

アルドも、思わず目を細める。

リュナが小さく呟いた。




「……いよいよ、国家イベントって感じっすね。」




その言葉が、場の空気を的確に言い当てていた。


統覇戦は、ただの学生大会ではない。

国が動く。王家が動く。

そして──


何かが、始まろうとしていた。

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