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【50万PV感謝!】真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます  作者: 難波一
第六章 学園編 ──白銀の婚約者──

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第295話 偽りの銀星

夕暮れの眞学の森に、異様な静寂が落ちていた。


木々の間から差し込む橙色の光が、黒い魔力に染められ、どこか濁った色へと変わっている。


ザイード・ジュナザーンは、低く唸る獣のような目で、目の前の二人を睨みつけていた。

肌には黒い筋が走り、胸元の白蛇の紋様が脈打つたび、空気がぴり、と震える。


その背後では、腰を抜かした女学生二人が震えていた。ローブの裾を握り締め、声にならない嗚咽を漏らしている。


流星はちらりと振り返り、状況を確認すると、軽く肩をすくめた。




「……ってな訳で! 二人の救助はよろしくぅ!!『守り神』!!」




場違いなほど明るい声が、森に響く。


次の瞬間、何もない空間から、慌てたような声が返ってきた。




「お、おう! 悪い! 俺、こういう人外っぽい感じの相手には、ちょっと戦闘で役立てる気がしねぇから!」




姿は見えない。

だが、確かにそこにいる。

雷人は視線を前に向けたまま、静かに言った。




「キミの真骨頂はそこじゃないだろ。頼りにしている、影山。」




その言葉には、迷いがなかった。


次の瞬間、ふわり、と空気が揺れた。

透明な何かが、女学生二人の上に舞い落ちる。

実体は見えないが、唐草模様の大きな風呂敷が、確かに彼女たちを覆った。




「──"不可視の風呂敷(ジーニーズ・ワーク)"!」




影山の呟きと同時に、風呂敷に包まれた二人の姿が、すぅ、と溶けるように消えていく。




「え……?」




女学生の片方が、驚きの声を漏らす間もなく、その存在は森から消失した。


ザイードの瞳が見開かれる。




「……何だッ!? どういうトリックだ!?」




狂気を帯びた視線が周囲を薙ぐ。

だが、そこには何もない。

影山も、女学生も、彼の認識から完全に消えている。


やがてザイードは、何事もなかったかのように、再び雷人と流星へ視線を戻した。


雷人は内心で息を吐く。




(……不可視効果を他者まで拡張した影山のスキル。凄まじいな。)




あの能力は、単なる透明化ではない。

「認識から消す」力。

戦場において、これ以上頼もしい後衛はいない。


雷人は横目で流星を見る。




「気をつけろ、乾。彼は、"統覇戦(ドミナンス・カップ)"優勝候補第3位だ。しかも……様子がおかしい。」




流星は、口角をわずかに吊り上げる。

だが、その頬を一筋の汗が伝っていた。




「だな。これ、アルドさん達が戦ってた、あの魔法少女先生と同じ症状っぽくね?」




ザイードの耳が、その名に反応する。




「アルド……だと……?」




その瞳が、ぎらりと赤く光る。




「そうか……わかったぞ……! 貴様らは……あの、アルド・ラクシズの配下かァッ!?」




怒気が爆ぜた。

黒い魔力が、轟、と噴き上がる。




「"蔦縛鋼束(オーク・バインド)"ッ!!」




地面が軋む。


周囲の木々が、ぎゅるるる、と不気味な音を立てて捻じ曲がる。


幹が裂け、枝が絡み合い、鋼鉄のワイヤーのような太い蔦へと変貌する。


次の瞬間、凄まじい速度で雷人と流星へ襲いかかった。




「おっと!?」




流星は身体をひねり、紙一重で回避する。

足裏からボボボッと炎が噴き出す。

そのまま空中へ跳躍し、上へ、さらに上へと昇っていく。


何本もの蔦が、蛇のように空を這い、彼を追いかける。




「アルドさんの名前が地雷だったみたいね! コイツ!?」




流星の叫びが、上空から響く。


地上では、紫電が弾けた。


パリッ……!


雷人の身体を雷光が包む。

迫る蔦の間を、まるで瞬間移動のような速度で駆け抜ける。

一歩踏み出すごとに、残像が残る。




「無理はするな、乾!」




叫びながら、サーベルを振るう。

雷撃を纏った刃が、バシィッ!と蔦を切り裂く。

焦げた匂いが森に広がる。




「大学構内にはアルドさんやリュナさん、ヴァレンさんもいるはずだ! 僕達は、彼らが来るまで、この男をここで足止めすればいい!」




上空から流星の声が返る。




「りょーかい! しっかし、各国のお偉いさんも来てるこのタイミングで大学で暴れるか、普通!?」




雷人は、迫る蔦を切り払いながら冷静に答える。




「さあね。今の彼は、普通じゃないということだろう。」




その瞳は、戦況だけでなく、ザイードの異様さを見据えていた。




(ザイード・ジュナザーン……)




予選会で見た姿を思い出す。

誇り高く、選民思想の匂いを漂わせる男。

だが、ここまで理性を失うような愚か者ではなかった。




(いくら何でも、大学構内で他人を襲うのは行き過ぎだ。)




蔦を避けながら、雷人はふと胸の奥がざわつくのを感じる。




(これじゃまるで……)




スレヴェルドを襲ったあの日。

フォルティアを襲ったあの時。

理性を削がれ、暴走した自分達の姿。




(……僕達のような。)




雷光が瞬く。

その刹那、雷人の中で一つの仮説が芽生える。

ザイードは、暴走しているのか。


それとも──


誰かに、暴走させられているのか。


森の空気が、さらに重く沈んだ。


黒い魔力と、雷光と、炎。

三つの力が交錯し、夕暮れの林道は、完全に戦場へと変わっていた。




 ◇◆◇




「おのれ……おのれ、アルド・ラクシズの配下共!!」




ザイードの声が、森を震わせる。




「どこまでも、余を馬鹿にしおってッ!?」




ブワッ、と黒い魔力が爆発的に噴き出した。


地面の落ち葉が宙に舞い、空気が歪む。木々の枝がびりびりと震え、まるで森そのものが怯えているかのようだった。


雷人は高速で迫る蔦を躱しながら、視線だけをザイードに向ける。




(あれは……)




黒い魔力の質が、先程までとは明らかに違う。




「やはり……マリーダ教授と同じ……!?」




予選会の最終盤、理性を削られ、暴走していた姿と重なる。

ザイードは地面を睨みつけ、バン!と両手を叩きつけた。




「"螺旋覇王樹(スピラリス)"ッ!!」




ドゴンッ!!


雷人の足元が爆ぜる。


次の瞬間、地面からドリルのように螺旋を描いた巨大なサボテンが、雷人を囲むように八本、同時にせり上がった。


棘は一本一本が鋼鉄の槍のように鋭く、螺旋回転しながら雷人へ襲いかかる。




「何ッ!? この力は……ッ!?」




雷人の瞳が、ほんの一瞬だけ見開かれる。


左右、前後、そして頭上まで、完全包囲。

回避ルートは、ほぼゼロ。


だが──




「炎の分身魔球……!」




低い声が、地面近くから響いた。


いつの間にか着地していた流星が、腰を落とし、片足を踏み込む。

その手の中に、ボボッと火球が生まれる。

野球のピッチングフォーム。


肘を引き、体をひねり、全身のバネを使って──




「“クロスファイア”!!」




シュッ!!


放たれた火球が、空中で八つに分裂する。

八つの炎の球が、正確無比に、それぞれの"螺旋覇王樹(スピラリス)"へと吸い込まれた。


次の瞬間──


ボォン!!ボォン!!ボォン!!


連鎖する爆発。


回転していたサボテンが、内部から弾け飛び、棘と灰を撒き散らしながら粉砕される。


雷人の周囲に、焦げた破片が降り注ぐ。

その隣に、流星が並び立った。

ザイードはキッと流星を睨みつける。




「小癪……小癪……ッ!!」




歯をギリリ、と鳴らす。

流星は肩で息をしながらも、ニヤリと笑った。




「こりゃ確かに正気じゃねぇな。」




額に汗が伝う。




「本気出して取り押さえておいた方がよくねぇか?」




雷人は、静かに頷く。




「ああ……少し気掛かりな事もある。」




サーベルを構える手に、紫電が走る。




「全力で相手をして、鎮圧しよう。」




流星も、ゆっくりと背負っていた両手剣を下ろす。

だが、その剣には刀身がない。

柄だけを握り、深く息を吸う。




「だな。修行の成果を見せるのが、こんな形になるのは予想外だったけどな……!」




互いに視線を交わす。

そして、同時に叫んだ。




「「“神器解放”……!」」




瞬間。


雷人のサーベルが、金色の雷光へと変貌する。

柄から伸びた光は、刃となり、月光を帯びた黄金の稲妻へと姿を変えた。

パリィィィン、と空気が割れる。

雷人は輝く刀身をザイードへ向け、静かに告げる。




「"雷月刃(チャンドラハース)"……!」




その声は、夜空に浮かぶ月のように静かで、冷たい。


同時に、流星の握る柄から、轟炎が噴き上がった。


ゴォォォッ!!


炎が収束し、赤く輝く刀身を形作る。

溶岩のように揺らめく両手剣。

流星は炎の大剣を肩に担ぎ、叫ぶ。




気炎万丈(レヴァンテイン)!!」




炎が地面を焦がす。




「俺だって、神器使いになったんだ!」




その瞳には、誇りと高揚が宿っている。




「いっちょ活躍させてもらうぜ!」




炎の刃を、ザイードへ向ける。


黒い魔力と、金の雷、紅の炎。

三色の光が、森を染める。


ザイードの目が、ぎらりと紅く光った。




「神器使い……だと……!?」




その声には、怒りと、そしてわずかな焦りが混じる。




「生意気……生意気なァッ!!」




黒い魔力が、さらに膨張する。

だが、次の瞬間、彼の口元が歪んだ。




「……だが、丁度いい……!」




狂気を帯びた笑み。




「アルド・ラクシズに挑む前に……」




黒い霧が、渦を巻く。




「貴様らの魔力、余の糧としてくれるッ!!」




ザイードの周囲で、魔力が爆ぜる。

雷人は雷光をまとい、流星は炎を纏う。

二人の足元の地面が、ひび割れる。


空気が、震える。


夕暮れの森は、もはや完全に戦場だった。


そして、三人の神器級の力が、真正面から衝突しようとしていた。




 ◇◆◇




魔力が、どろりとした霧のようにザイードの身体を包み込む。


それはもはや“魔力”というよりも、感情そのものだった。妬み、憎悪、劣等感。濁りきった負の情念が、視覚化されたかのように渦を巻いている。




「……ッ、まだ膨れ上がるのか……!」




雷人が低く呟く。


ザイードは、紅く染まった目を見開き、両腕を広げて叫んだ。




「"世界樹人(ユグドラシル)"ッッ!!」




ドゴォォォン!!


周囲の木々が一斉に軋む。


幹が捻じれ、枝が絡み、根が地面を割りながら持ち上がる。ギュルルル、と植物同士が融合し、巨大な人型へと変貌していく。


予選会で見せた姿よりは一回り小さい。

だが、だからこそ密度が増している。

より洗練され、より凶暴な“樹の巨人”。


胸部の中心に、ザイードの姿が半ば埋め込まれている。


雷人の目が細まる。




「あの樹の巨人……チームメイトの協力無しでも発動出来るのか……!」




次の瞬間。


ドォン!!


"世界樹人(ユグドラシル)"の巨大な拳が、雷人めがけて振り下ろされる。

空気が圧縮され、衝撃波が走る。


だが。




「"焔大蛇(ほむらおろち)"!」




流星の声が、炎と共に弾けた。

両手剣を下から上へ振り上げる。

すると、刃から放たれた炎が二筋の蛇となって飛び出した。


赤く、青白く、蠢く二匹の焔の大蛇。


それらは振り下ろされた"世界樹人(ユグドラシル)"の腕へ絡み付き、締め上げる。


ギギギギギ……!


木が焼ける音。

炎が食い込み、植物の繊維を焦がしていく。


ボボボッ!!


腕は瞬く間に黒く炭化し、灰となって崩れ落ちた。

巨人のバランスが崩れる。


ザイードの声が胸部から響く。




『何だとッ!? だが、世界樹人(ユグドラシル)は片腕くらい直ぐに再生出来るわッ!!』




裂けた断面から蔦が伸び、絡み合い、再構築されていく。


再生速度は異常。


だが──




「甘いっての。」




いつの間にか跳び上がっていた流星が、上空から炎の大剣を振り下ろす。




「"火之夜藝速(ほのやぎはや)"ッ!!」




刃が振るわれた瞬間、炎が龍の形を描いた。

うねり、唸り、夜を裂く紅の軌跡。



ズバァァァッ!!



"世界樹人(ユグドラシル)"の胸部が縦に裂ける。

内部の蔦が焼き切られ、中心に埋まっていたザイードの姿が露わになる。




「ぐおぉッ!? おのれ、おのれェッ!?」




憎悪に歪んだ顔。

だが、その瞳には焦りが宿っている。




「ならば……ッ!! "神林牙獣(パナスパティ・ラジャ)"ッ!!」




巨人を構成していた植物が、ギュルルルッと一斉に変形する。


幹が縮み、四肢が再構築され、鋭い牙を持つ四足獣へ。

獣の体躯はしなやかで、筋肉のように植物繊維が脈動する。


ザイードを内部に包み込み、完全に覆い隠した。




「ハハハハ!!」




高笑いが森に響く。




「このスピードについて来れるかッ!?」




次の瞬間。


ドンッ!!


"神林牙獣(パナスパティ・ラジャ)"が爆発的な速度で駆け出す。


木々の間を縫うように、ジグザグに跳び、幹を蹴り、枝を踏み砕きながら加速。


流星が目を見開く。




「うおっ、速ぇ!?」




残像が残るほどの速度。

このままでは、大学構内へ被害が拡大する。

だが、雷人は静かだった。




「下がっていてくれ、乾。」




パリッ。


周囲に紫電が走る。




「……あのスピード形態のまま逃げられては、大学内に被害が広がる。」




視線が鋭くなる。




「ここは、確実に捕縛する。」




ヴンッ──


空気が歪み、雷人の姿が掻き消えた。

ザイードは疾走しながら、背後に視線を向ける。




「何ッ!?」




次の瞬間。

"神林牙獣(パナスパティ・ラジャ)"の背に、雷人が立っていた。


まるで、最初からそこにいたかのように。




「──スピードには、僕も多少自信があるんだ。」




低く呟く。


そして、金色の雷刃──"雷月刃(チャンドラハース)"を、獣の背へと突き立てた。


ズドォォォォンッ!!


凄まじい雷撃が内部を駆け巡る。

植物繊維が一瞬で白熱し、焼け焦げる。




「グアアアアアアアッ!?」




ザイードの絶叫。

雷が内部を暴れ回り、'神林牙獣(パナスパティ・ラジャ)"は内側から砕け散った。


バラバラに崩れ落ちる蔦と木片。

中心から、ザイードの身体が投げ出される。


ゴロゴロゴロッ!!


地面を転がり、数メートル先でようやく止まる。

黒い魔力が薄れ、煙のように消えていく。


焦げた木の匂いが漂う。

流星が炎の剣を肩に担ぎ、倒れたザイードを見下ろす。




「……俺ら2人でも取り押さえられそうでよかったぜ。」




肩で息をしながら、にやりと笑う。

雷人も隣に立ち、刀身の雷を静める。




「ああ。」




冷静な声。




「スキルの相性も悪くなかったからね。」




だが、その瞳は油断していない。

倒れ伏すザイードを見下ろしながらも、次の異変を警戒していた。


森は一瞬、静まり返る。


だが、この静寂が“終わり”なのか、それとも“嵐の前”なのか──


まだ、誰にも分からなかった。




 ◇◆◇




地面に転がったザイードの身体が、びくり、と痙攣する。




「あり得ぬ……あり得ぬ……ッ!?」




掠れた声。だが、その奥に滲むのは怒りではない。壊れかけた誇りだった。




「こんな……アルド・ラクシズの配下にすら……ッ!!」




両手で地面を掻き、土を握り潰す。爪の間から血が滲むが、構わない。




「余は……余は、ヤツには……アルド・ラクシズには……勝てぬというのか……ッ!!」




その名を口にした瞬間、声が裏返る。


嫉妬。劣等感。憧れ。

そして、憎悪。


それらが混ざり合い、黒い魔力となって噴き出した。




「アアアアアアアァァアアアアア!!妬ましい嫉ましいッ!!余は、余ハァァッ!!」




頭を掻きむしる。髪が乱れ、皮膚に黒い紋様が浮かび上がる。


ブワッ──


再び、いや、それ以上の濃度で黒い魔力が立ち昇る。


流星が一歩下がる。




「なんだ!?また何か変身すんのかよ!?」




炎の大剣を構え直しながら、額に汗が滲む。

雷人も、わずかに眉をひそめた。




「気をつけるんだ、乾。これは……」




視線が鋭くなる。




「先程までの植物による変身とは、何かが違うぞ……!」




黒い魔力は、今度は外部の植物に干渉しない。

ザイード自身の身体に、絡みつくように収束していく。


ギチ、ギチ、と骨が軋む音がする。

筋肉が膨れ、縮み、再構築される。

輪郭が変わる。背丈が変わる。

顔立ちが、歪みながら整っていく。


黒い渦が晴れた、その瞬間。

流星の喉から、思わず声が漏れた。




「──げっ!?」




背中に冷たい汗が流れる。

雷人でさえ、目を見開いた。




「じょ……冗談だろ……!?」




そこに立っていたのは──



アルド・ラクシズ。



いや、“それ”に酷似した姿。


銀の髪。

整った顔立ち。

均整の取れた体躯。


だが。


皮膚には黒い筋が走り、血管のように脈打っている。胸元には、白い蛇の紋様がうねり、まるで生きているかのように動いていた。


瞳だけが、違う。

あの穏やかで底知れぬ深さを持つ眼ではない。

そこにあるのは、歪んだ執念と狂気。


ザイード──いや、偽りのアルドが、ぎぎぎ、と不自然な動きで首を傾げる。




「余ハ……」




声が二重に重なる。




「俺ハ……」




低く、しかしどこか擦れた声。




「"銀の新星(シルバー・ノヴァ)"……アルド・ラクシズ……!」




名乗りと同時に、空気が震えた。

魔力の質が変わる。

圧が、違う。


流星の喉がひくりと鳴る。




「一条……」




目を逸らさずに、しかし声は震えている。




「これ、俺ら2人で取り押さえられると思うか……?」




冗談めかした調子は、完全に消えていた。

雷人は、静かに息を吐く。

目は冷静だが、その奥で計算が高速で巡る。




「さあね……」




視線を偽アルドから外さないまま、淡々と答える。




「もし、この変身が見た目通りのもの──」




わずかに間。




「本当にアルドさんに匹敵する力を持っていると仮定するなら……」




ごくり、と唾を飲み込む。




「まず無理だ。殺される。」




事実を、感情を挟まずに告げる声。

流星は引き攣った笑みを浮かべる。




「だよな〜……」




炎の大剣を握る手に、力が入る。

だが、足は一歩も退かない。


偽アルドが、一歩踏み出す。

その動作は、どこかぎこちない。


だが、踏み出した瞬間──地面が、ミシリと沈んだ。


重い。圧倒的な存在感。

流星の背筋を、ぞわりと寒気が走る。




(アルドさんと敵として向き合ったら……こんな感じ、なのかよ……?)




雷人は冷静に観察する。

呼吸。魔力の流れ。動作の癖。




(……違う。姿形は似ているが、“芯”がない。あれは、アルドさんじゃない。だが……!)




違うと分かっていても、身体が本能的に警鐘を鳴らす。

目の前にいるのは、“最強”の象徴。

それに酷似した存在。


偽アルドが、にたり、と笑う。

その笑みは、あまりにも禍々しい。




「どうした……?」




アルドに似た、それでいて……

低く、ねっとりとした声。




「俺に……挑むんじゃ、なかったのか……?」




森の空気が凍りつく。

雷人と流星は、無意識のうちに並び立つ。


炎と雷。


二つの神器が、再び輝きを増す。


だが。


心の奥底で、二人とも理解していた。

これは、ただの力比べではない。


“本物”の名を騙る存在と対峙する──


精神そのものを揺さぶられる戦いの始まりだと。

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