第295話 偽りの銀星
夕暮れの眞学の森に、異様な静寂が落ちていた。
木々の間から差し込む橙色の光が、黒い魔力に染められ、どこか濁った色へと変わっている。
ザイード・ジュナザーンは、低く唸る獣のような目で、目の前の二人を睨みつけていた。
肌には黒い筋が走り、胸元の白蛇の紋様が脈打つたび、空気がぴり、と震える。
その背後では、腰を抜かした女学生二人が震えていた。ローブの裾を握り締め、声にならない嗚咽を漏らしている。
流星はちらりと振り返り、状況を確認すると、軽く肩をすくめた。
「……ってな訳で! 二人の救助はよろしくぅ!!『守り神』!!」
場違いなほど明るい声が、森に響く。
次の瞬間、何もない空間から、慌てたような声が返ってきた。
「お、おう! 悪い! 俺、こういう人外っぽい感じの相手には、ちょっと戦闘で役立てる気がしねぇから!」
姿は見えない。
だが、確かにそこにいる。
雷人は視線を前に向けたまま、静かに言った。
「キミの真骨頂はそこじゃないだろ。頼りにしている、影山。」
その言葉には、迷いがなかった。
次の瞬間、ふわり、と空気が揺れた。
透明な何かが、女学生二人の上に舞い落ちる。
実体は見えないが、唐草模様の大きな風呂敷が、確かに彼女たちを覆った。
「──"不可視の風呂敷"!」
影山の呟きと同時に、風呂敷に包まれた二人の姿が、すぅ、と溶けるように消えていく。
「え……?」
女学生の片方が、驚きの声を漏らす間もなく、その存在は森から消失した。
ザイードの瞳が見開かれる。
「……何だッ!? どういうトリックだ!?」
狂気を帯びた視線が周囲を薙ぐ。
だが、そこには何もない。
影山も、女学生も、彼の認識から完全に消えている。
やがてザイードは、何事もなかったかのように、再び雷人と流星へ視線を戻した。
雷人は内心で息を吐く。
(……不可視効果を他者まで拡張した影山のスキル。凄まじいな。)
あの能力は、単なる透明化ではない。
「認識から消す」力。
戦場において、これ以上頼もしい後衛はいない。
雷人は横目で流星を見る。
「気をつけろ、乾。彼は、"統覇戦"優勝候補第3位だ。しかも……様子がおかしい。」
流星は、口角をわずかに吊り上げる。
だが、その頬を一筋の汗が伝っていた。
「だな。これ、アルドさん達が戦ってた、あの魔法少女先生と同じ症状っぽくね?」
ザイードの耳が、その名に反応する。
「アルド……だと……?」
その瞳が、ぎらりと赤く光る。
「そうか……わかったぞ……! 貴様らは……あの、アルド・ラクシズの配下かァッ!?」
怒気が爆ぜた。
黒い魔力が、轟、と噴き上がる。
「"蔦縛鋼束"ッ!!」
地面が軋む。
周囲の木々が、ぎゅるるる、と不気味な音を立てて捻じ曲がる。
幹が裂け、枝が絡み合い、鋼鉄のワイヤーのような太い蔦へと変貌する。
次の瞬間、凄まじい速度で雷人と流星へ襲いかかった。
「おっと!?」
流星は身体をひねり、紙一重で回避する。
足裏からボボボッと炎が噴き出す。
そのまま空中へ跳躍し、上へ、さらに上へと昇っていく。
何本もの蔦が、蛇のように空を這い、彼を追いかける。
「アルドさんの名前が地雷だったみたいね! コイツ!?」
流星の叫びが、上空から響く。
地上では、紫電が弾けた。
パリッ……!
雷人の身体を雷光が包む。
迫る蔦の間を、まるで瞬間移動のような速度で駆け抜ける。
一歩踏み出すごとに、残像が残る。
「無理はするな、乾!」
叫びながら、サーベルを振るう。
雷撃を纏った刃が、バシィッ!と蔦を切り裂く。
焦げた匂いが森に広がる。
「大学構内にはアルドさんやリュナさん、ヴァレンさんもいるはずだ! 僕達は、彼らが来るまで、この男をここで足止めすればいい!」
上空から流星の声が返る。
「りょーかい! しっかし、各国のお偉いさんも来てるこのタイミングで大学で暴れるか、普通!?」
雷人は、迫る蔦を切り払いながら冷静に答える。
「さあね。今の彼は、普通じゃないということだろう。」
その瞳は、戦況だけでなく、ザイードの異様さを見据えていた。
(ザイード・ジュナザーン……)
予選会で見た姿を思い出す。
誇り高く、選民思想の匂いを漂わせる男。
だが、ここまで理性を失うような愚か者ではなかった。
(いくら何でも、大学構内で他人を襲うのは行き過ぎだ。)
蔦を避けながら、雷人はふと胸の奥がざわつくのを感じる。
(これじゃまるで……)
スレヴェルドを襲ったあの日。
フォルティアを襲ったあの時。
理性を削がれ、暴走した自分達の姿。
(……僕達のような。)
雷光が瞬く。
その刹那、雷人の中で一つの仮説が芽生える。
ザイードは、暴走しているのか。
それとも──
誰かに、暴走させられているのか。
森の空気が、さらに重く沈んだ。
黒い魔力と、雷光と、炎。
三つの力が交錯し、夕暮れの林道は、完全に戦場へと変わっていた。
◇◆◇
「おのれ……おのれ、アルド・ラクシズの配下共!!」
ザイードの声が、森を震わせる。
「どこまでも、余を馬鹿にしおってッ!?」
ブワッ、と黒い魔力が爆発的に噴き出した。
地面の落ち葉が宙に舞い、空気が歪む。木々の枝がびりびりと震え、まるで森そのものが怯えているかのようだった。
雷人は高速で迫る蔦を躱しながら、視線だけをザイードに向ける。
(あれは……)
黒い魔力の質が、先程までとは明らかに違う。
「やはり……マリーダ教授と同じ……!?」
予選会の最終盤、理性を削られ、暴走していた姿と重なる。
ザイードは地面を睨みつけ、バン!と両手を叩きつけた。
「"螺旋覇王樹"ッ!!」
ドゴンッ!!
雷人の足元が爆ぜる。
次の瞬間、地面からドリルのように螺旋を描いた巨大なサボテンが、雷人を囲むように八本、同時にせり上がった。
棘は一本一本が鋼鉄の槍のように鋭く、螺旋回転しながら雷人へ襲いかかる。
「何ッ!? この力は……ッ!?」
雷人の瞳が、ほんの一瞬だけ見開かれる。
左右、前後、そして頭上まで、完全包囲。
回避ルートは、ほぼゼロ。
だが──
「炎の分身魔球……!」
低い声が、地面近くから響いた。
いつの間にか着地していた流星が、腰を落とし、片足を踏み込む。
その手の中に、ボボッと火球が生まれる。
野球のピッチングフォーム。
肘を引き、体をひねり、全身のバネを使って──
「“クロスファイア”!!」
シュッ!!
放たれた火球が、空中で八つに分裂する。
八つの炎の球が、正確無比に、それぞれの"螺旋覇王樹"へと吸い込まれた。
次の瞬間──
ボォン!!ボォン!!ボォン!!
連鎖する爆発。
回転していたサボテンが、内部から弾け飛び、棘と灰を撒き散らしながら粉砕される。
雷人の周囲に、焦げた破片が降り注ぐ。
その隣に、流星が並び立った。
ザイードはキッと流星を睨みつける。
「小癪……小癪……ッ!!」
歯をギリリ、と鳴らす。
流星は肩で息をしながらも、ニヤリと笑った。
「こりゃ確かに正気じゃねぇな。」
額に汗が伝う。
「本気出して取り押さえておいた方がよくねぇか?」
雷人は、静かに頷く。
「ああ……少し気掛かりな事もある。」
サーベルを構える手に、紫電が走る。
「全力で相手をして、鎮圧しよう。」
流星も、ゆっくりと背負っていた両手剣を下ろす。
だが、その剣には刀身がない。
柄だけを握り、深く息を吸う。
「だな。修行の成果を見せるのが、こんな形になるのは予想外だったけどな……!」
互いに視線を交わす。
そして、同時に叫んだ。
「「“神器解放”……!」」
瞬間。
雷人のサーベルが、金色の雷光へと変貌する。
柄から伸びた光は、刃となり、月光を帯びた黄金の稲妻へと姿を変えた。
パリィィィン、と空気が割れる。
雷人は輝く刀身をザイードへ向け、静かに告げる。
「"雷月刃"……!」
その声は、夜空に浮かぶ月のように静かで、冷たい。
同時に、流星の握る柄から、轟炎が噴き上がった。
ゴォォォッ!!
炎が収束し、赤く輝く刀身を形作る。
溶岩のように揺らめく両手剣。
流星は炎の大剣を肩に担ぎ、叫ぶ。
「気炎万丈!!」
炎が地面を焦がす。
「俺だって、神器使いになったんだ!」
その瞳には、誇りと高揚が宿っている。
「いっちょ活躍させてもらうぜ!」
炎の刃を、ザイードへ向ける。
黒い魔力と、金の雷、紅の炎。
三色の光が、森を染める。
ザイードの目が、ぎらりと紅く光った。
「神器使い……だと……!?」
その声には、怒りと、そしてわずかな焦りが混じる。
「生意気……生意気なァッ!!」
黒い魔力が、さらに膨張する。
だが、次の瞬間、彼の口元が歪んだ。
「……だが、丁度いい……!」
狂気を帯びた笑み。
「アルド・ラクシズに挑む前に……」
黒い霧が、渦を巻く。
「貴様らの魔力、余の糧としてくれるッ!!」
ザイードの周囲で、魔力が爆ぜる。
雷人は雷光をまとい、流星は炎を纏う。
二人の足元の地面が、ひび割れる。
空気が、震える。
夕暮れの森は、もはや完全に戦場だった。
そして、三人の神器級の力が、真正面から衝突しようとしていた。
◇◆◇
魔力が、どろりとした霧のようにザイードの身体を包み込む。
それはもはや“魔力”というよりも、感情そのものだった。妬み、憎悪、劣等感。濁りきった負の情念が、視覚化されたかのように渦を巻いている。
「……ッ、まだ膨れ上がるのか……!」
雷人が低く呟く。
ザイードは、紅く染まった目を見開き、両腕を広げて叫んだ。
「"世界樹人"ッッ!!」
ドゴォォォン!!
周囲の木々が一斉に軋む。
幹が捻じれ、枝が絡み、根が地面を割りながら持ち上がる。ギュルルル、と植物同士が融合し、巨大な人型へと変貌していく。
予選会で見せた姿よりは一回り小さい。
だが、だからこそ密度が増している。
より洗練され、より凶暴な“樹の巨人”。
胸部の中心に、ザイードの姿が半ば埋め込まれている。
雷人の目が細まる。
「あの樹の巨人……チームメイトの協力無しでも発動出来るのか……!」
次の瞬間。
ドォン!!
"世界樹人"の巨大な拳が、雷人めがけて振り下ろされる。
空気が圧縮され、衝撃波が走る。
だが。
「"焔大蛇"!」
流星の声が、炎と共に弾けた。
両手剣を下から上へ振り上げる。
すると、刃から放たれた炎が二筋の蛇となって飛び出した。
赤く、青白く、蠢く二匹の焔の大蛇。
それらは振り下ろされた"世界樹人"の腕へ絡み付き、締め上げる。
ギギギギギ……!
木が焼ける音。
炎が食い込み、植物の繊維を焦がしていく。
ボボボッ!!
腕は瞬く間に黒く炭化し、灰となって崩れ落ちた。
巨人のバランスが崩れる。
ザイードの声が胸部から響く。
『何だとッ!? だが、世界樹人は片腕くらい直ぐに再生出来るわッ!!』
裂けた断面から蔦が伸び、絡み合い、再構築されていく。
再生速度は異常。
だが──
「甘いっての。」
いつの間にか跳び上がっていた流星が、上空から炎の大剣を振り下ろす。
「"火之夜藝速"ッ!!」
刃が振るわれた瞬間、炎が龍の形を描いた。
うねり、唸り、夜を裂く紅の軌跡。
ズバァァァッ!!
"世界樹人"の胸部が縦に裂ける。
内部の蔦が焼き切られ、中心に埋まっていたザイードの姿が露わになる。
「ぐおぉッ!? おのれ、おのれェッ!?」
憎悪に歪んだ顔。
だが、その瞳には焦りが宿っている。
「ならば……ッ!! "神林牙獣"ッ!!」
巨人を構成していた植物が、ギュルルルッと一斉に変形する。
幹が縮み、四肢が再構築され、鋭い牙を持つ四足獣へ。
獣の体躯はしなやかで、筋肉のように植物繊維が脈動する。
ザイードを内部に包み込み、完全に覆い隠した。
「ハハハハ!!」
高笑いが森に響く。
「このスピードについて来れるかッ!?」
次の瞬間。
ドンッ!!
"神林牙獣"が爆発的な速度で駆け出す。
木々の間を縫うように、ジグザグに跳び、幹を蹴り、枝を踏み砕きながら加速。
流星が目を見開く。
「うおっ、速ぇ!?」
残像が残るほどの速度。
このままでは、大学構内へ被害が拡大する。
だが、雷人は静かだった。
「下がっていてくれ、乾。」
パリッ。
周囲に紫電が走る。
「……あのスピード形態のまま逃げられては、大学内に被害が広がる。」
視線が鋭くなる。
「ここは、確実に捕縛する。」
ヴンッ──
空気が歪み、雷人の姿が掻き消えた。
ザイードは疾走しながら、背後に視線を向ける。
「何ッ!?」
次の瞬間。
"神林牙獣"の背に、雷人が立っていた。
まるで、最初からそこにいたかのように。
「──スピードには、僕も多少自信があるんだ。」
低く呟く。
そして、金色の雷刃──"雷月刃"を、獣の背へと突き立てた。
ズドォォォォンッ!!
凄まじい雷撃が内部を駆け巡る。
植物繊維が一瞬で白熱し、焼け焦げる。
「グアアアアアアアッ!?」
ザイードの絶叫。
雷が内部を暴れ回り、'神林牙獣"は内側から砕け散った。
バラバラに崩れ落ちる蔦と木片。
中心から、ザイードの身体が投げ出される。
ゴロゴロゴロッ!!
地面を転がり、数メートル先でようやく止まる。
黒い魔力が薄れ、煙のように消えていく。
焦げた木の匂いが漂う。
流星が炎の剣を肩に担ぎ、倒れたザイードを見下ろす。
「……俺ら2人でも取り押さえられそうでよかったぜ。」
肩で息をしながら、にやりと笑う。
雷人も隣に立ち、刀身の雷を静める。
「ああ。」
冷静な声。
「スキルの相性も悪くなかったからね。」
だが、その瞳は油断していない。
倒れ伏すザイードを見下ろしながらも、次の異変を警戒していた。
森は一瞬、静まり返る。
だが、この静寂が“終わり”なのか、それとも“嵐の前”なのか──
まだ、誰にも分からなかった。
◇◆◇
地面に転がったザイードの身体が、びくり、と痙攣する。
「あり得ぬ……あり得ぬ……ッ!?」
掠れた声。だが、その奥に滲むのは怒りではない。壊れかけた誇りだった。
「こんな……アルド・ラクシズの配下にすら……ッ!!」
両手で地面を掻き、土を握り潰す。爪の間から血が滲むが、構わない。
「余は……余は、ヤツには……アルド・ラクシズには……勝てぬというのか……ッ!!」
その名を口にした瞬間、声が裏返る。
嫉妬。劣等感。憧れ。
そして、憎悪。
それらが混ざり合い、黒い魔力となって噴き出した。
「アアアアアアアァァアアアアア!!妬ましい嫉ましいッ!!余は、余ハァァッ!!」
頭を掻きむしる。髪が乱れ、皮膚に黒い紋様が浮かび上がる。
ブワッ──
再び、いや、それ以上の濃度で黒い魔力が立ち昇る。
流星が一歩下がる。
「なんだ!?また何か変身すんのかよ!?」
炎の大剣を構え直しながら、額に汗が滲む。
雷人も、わずかに眉をひそめた。
「気をつけるんだ、乾。これは……」
視線が鋭くなる。
「先程までの植物による変身とは、何かが違うぞ……!」
黒い魔力は、今度は外部の植物に干渉しない。
ザイード自身の身体に、絡みつくように収束していく。
ギチ、ギチ、と骨が軋む音がする。
筋肉が膨れ、縮み、再構築される。
輪郭が変わる。背丈が変わる。
顔立ちが、歪みながら整っていく。
黒い渦が晴れた、その瞬間。
流星の喉から、思わず声が漏れた。
「──げっ!?」
背中に冷たい汗が流れる。
雷人でさえ、目を見開いた。
「じょ……冗談だろ……!?」
そこに立っていたのは──
アルド・ラクシズ。
いや、“それ”に酷似した姿。
銀の髪。
整った顔立ち。
均整の取れた体躯。
だが。
皮膚には黒い筋が走り、血管のように脈打っている。胸元には、白い蛇の紋様がうねり、まるで生きているかのように動いていた。
瞳だけが、違う。
あの穏やかで底知れぬ深さを持つ眼ではない。
そこにあるのは、歪んだ執念と狂気。
ザイード──いや、偽りのアルドが、ぎぎぎ、と不自然な動きで首を傾げる。
「余ハ……」
声が二重に重なる。
「俺ハ……」
低く、しかしどこか擦れた声。
「"銀の新星"……アルド・ラクシズ……!」
名乗りと同時に、空気が震えた。
魔力の質が変わる。
圧が、違う。
流星の喉がひくりと鳴る。
「一条……」
目を逸らさずに、しかし声は震えている。
「これ、俺ら2人で取り押さえられると思うか……?」
冗談めかした調子は、完全に消えていた。
雷人は、静かに息を吐く。
目は冷静だが、その奥で計算が高速で巡る。
「さあね……」
視線を偽アルドから外さないまま、淡々と答える。
「もし、この変身が見た目通りのもの──」
わずかに間。
「本当にアルドさんに匹敵する力を持っていると仮定するなら……」
ごくり、と唾を飲み込む。
「まず無理だ。殺される。」
事実を、感情を挟まずに告げる声。
流星は引き攣った笑みを浮かべる。
「だよな〜……」
炎の大剣を握る手に、力が入る。
だが、足は一歩も退かない。
偽アルドが、一歩踏み出す。
その動作は、どこかぎこちない。
だが、踏み出した瞬間──地面が、ミシリと沈んだ。
重い。圧倒的な存在感。
流星の背筋を、ぞわりと寒気が走る。
(アルドさんと敵として向き合ったら……こんな感じ、なのかよ……?)
雷人は冷静に観察する。
呼吸。魔力の流れ。動作の癖。
(……違う。姿形は似ているが、“芯”がない。あれは、アルドさんじゃない。だが……!)
違うと分かっていても、身体が本能的に警鐘を鳴らす。
目の前にいるのは、“最強”の象徴。
それに酷似した存在。
偽アルドが、にたり、と笑う。
その笑みは、あまりにも禍々しい。
「どうした……?」
アルドに似た、それでいて……
低く、ねっとりとした声。
「俺に……挑むんじゃ、なかったのか……?」
森の空気が凍りつく。
雷人と流星は、無意識のうちに並び立つ。
炎と雷。
二つの神器が、再び輝きを増す。
だが。
心の奥底で、二人とも理解していた。
これは、ただの力比べではない。
“本物”の名を騙る存在と対峙する──
精神そのものを揺さぶられる戦いの始まりだと。




