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【50万PV感謝!】真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます  作者: 難波一
第六章 学園編 ──白銀の婚約者──

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第294話 選ばれた者、選ばれなかった者

……いや、待って。


待って待って待って。

頭の中で、情報が渋滞起こしてる。


俺はラーメンどんぶりを両手で持ったまま、じわじわと額に汗を浮かべていた。

さっきまで王子様騒動でパニックだったのに、今度は“特異点”とかいSFチックなパワーワード。


情報量が多い。多すぎる。


俺はズズ、とスープを一口飲んでから、恐る恐るルシアを見る。




「えっ、えっ……ちょっと待って」




自分でも情けないくらい声が上ずっている。




「そのさ……『特異点は真祖竜関係者』とか、『統覇戦関係者』とかさ……それ、どこ情報なの? 一次ソース聞いていい?」




営業時代の癖だ。

重要案件は必ず一次ソース確認。

デマ情報に踊らされちゃ大変だからね!


ルシアはまばたき一つせず、淡々と答えた。




「そこまでが、マーテラクシア様の予言。」




レンゲでスープを静かにすくう。




「そこまでしか、読み取れなかったらしい。」




……らしい、って。

俺はゴクリと喉を鳴らした。

つまり。


・真祖竜関係者

・統覇戦関係者


ここまでは確定情報。

そこに俺の脳が勝手に付け足す。


・他世界からの転生体

・異常な魔力量

・王族の血

・9つの固有スキルを全部使えるバグ竜


……。


──えっ?


ちょっと待って。


真祖竜関係者で、

統覇戦にも関係してて、

しかも他世界の限界サラリーマンの転生体とかいう謎属性持ちで、

ついでに王族疑惑まである存在って。


どう客観的に見て考えても。

一番怪しいの、俺じゃない?


汗が、背中を伝う。


いやいやいやいやいや。


そんなバカな。


俺、世界を滅ぼしたりなんてしないよ!?

小銭落としただけで三日間くらいへこむタイプだよ!?


そんなスケールの小さい俺が、世界崩壊とかスケール違いすぎない?




(もしくは……いや、そんなはずはないか、流石に……)




一瞬、別の顔が頭をよぎる。

でも、それはすぐに振り払った。


いやいやいや、そんな訳ない。

絶対ない。あの子がそんな存在なわけない。


俺は無理やり思考を切り替える。

ルシアは、俺の内心など知る由もなく続けた。




「“特異点”が真祖竜に関係しているとなれば、マーテラクシア様も看過は出来ない。」




声音は相変わらず平坦だが、言葉の重さが違う。




「人間の世界どころか、この“宇宙”──『イデア・クレータ』そのものが、危機に晒されるかもしれないから。」




……宇宙。


俺は思わず空を見上げた。

悠天環を模したこの亜空間の空は、青く澄み渡っている。

だがその向こうに広がる本物の宇宙構造──イデア・クレータ。



以前、ヴァレンから聞いた。

魂が循環し、世界が重なり、幾層にも重なった円錐構造の宇宙。


そこが、壊れるかもしれない?


喉が乾く。


例えば。

もし真祖竜が(というか俺が)本気で頭おかしくなって暴れたら?


……確かに、あり得る。


俺だって、全力で魔力をぶっ放せば、

大陸どころか、空間構造ごと歪めちゃうんじゃないか的な自覚はある。


その力が、制御不能になったら?

背筋が、ぞわりと冷えた。

俺は無意識に、ルシアの言葉に聞き入っていた。




「──はじめは、ラグナが特異点なんだと思った。」




ルシアの視線が、少し遠くを見る。




「あれは、人間には考えられない様な強大な魔力量と、強力なスキルを持っていたから。」




……ラグナ。


確かに。

あいつはおかしい。

良い意味でも、悪い意味でも。

強さも、存在感も、何かが突き抜けている。


でも。




「でも、ラグナからは真祖竜の残滓は感じない。」




ルシアははっきりと言った。




「だから、たぶん違う。ただ単に、強過ぎるただの人間、のはず。」




……ただの人間で済ませていいのか、それ。

俺は内心ツッコミを入れつつも、少しだけホッとする。


ラグナかー。


確かに性格は面倒くさいし、

無意味に主人公気質すぎるし、

ちょっと世界を支配とか言い出しても違和感はないけど。


でも。


なんか知らないけど、ちょっと打ち解けられたしなぁ。


本気で語ったら、意外と真面目なやつだし。

多分、世界を滅ぼしたりはしないと思うんだよね。

そう思いたいだけかもしれないけど。


ルシアは淡々と続ける。




「そうなると、残る候補は……アルドの周りにいる面々。」




その言葉に、胸がきゅっと締まる。




「“色欲の魔王”。」




ヴァレンの顔が浮かぶ。

あの、飄々とした笑み。

でも、誰よりも人間らしくて、優しいあいつ。




「“咆哮竜”。」




リュナちゃんの笑顔。

お茶目でグータラで。

でも内に秘めた力は、確かに桁違い。




「そして……」




ほんの僅かに、間があく。




「“真祖竜の加護”を得た、ブリジット・ノエリア。」




心臓が、ドクンと大きく鳴った。


ブリジットちゃん。

荒野で出会った天使みたいな子。

努力家で、不器用で、

誰よりも真っ直ぐで。


俺は、何も言えなくなった。

特異点。真祖竜関係者。統覇戦関係者。

俺の、すぐ傍にいる存在たち。


スープの湯気が、ゆらりと揺れる。

俺はレンゲを握ったまま、動けずにいた。




 ◇◆◇




「ちょ、ちょちょちょ!!」




俺は思わずテーブルに身を乗り出した。どんぶりの中のスープがちゃぷん、と揺れる。




「ヴァレンにリュナちゃん、それにブリジットちゃんは違うよ!!」




声がひっくり返る。




「皆、世界を滅ぼしたりなんかする訳ないって!!」




必死だった。

自分でも分かるくらい、必死だった。


ルシアはそんな俺を、静かに見つめている。その目は揺れていない。だが、完全な無感情でもなかった。




「……わたしも、そうは思う。」




小さく、こくりと頷く。

その一言に、少しだけ胸の圧迫感が和らいだ。

だが、次の言葉でまた緊張が走る。




「確認のため、ダンジョン・サバイバルでも、ブリジット・ノエリアに直接接触した。」



「えっ!?そうなの!?」




俺は目を見開いた。

あの面倒くさがりのグルーシャが、わざわざ?

あの混戦の中で、そんなことまでしてたのかよ。


ルシアは再び、こくりと頷く。




「見た限りでは、ブリジット・ノエリアから危険性は感じなかった。」




淡々と。




「確証はないけど……特異点ではない、と思う。たぶん。」




「たぶん」って付くのが怖いんだよなぁ……。

俺は乾いた喉を、ゴクリと鳴らす。

だがルシアは、そこで言葉を止めなかった。




「でも、マーテラクシア様の予言は“絶対に”外れない。」




その声音は変わらない。

だが、「絶対に」という言葉だけが、やけに重く響いた。




そういうスキル(・・・・・・・)だから。」




……そうか。


グルーシャがここまで断言するってことは、本当にそうなんだろうな。


マーテラクシア様の未来視は、誤差ゼロ。

そこは疑いようがない。

俺は黙って頷くしかなかった。


しばらく、風の音だけが流れる。

ルシアは少し俯き、どんぶりの中のスープを見つめたまま、何も言わない。


そして、ぽつりと。




「アルドが、あの人達と一緒にいて、すごく活き活きしてたところ……わたしも見てる。」




……え?


俺は一瞬、言葉を失った。




「アルドが人間の世界で楽しく暮らせてたのは、きっと彼女たちのおかげ。」




わずかに。

ほんのわずかにだけ、声色が柔らかくなる。




「わたしも、そこは感謝してると、言えなくもない。」




無表情のままなのに、ちゃんと伝わる。

ああ、グルーシャは、ちゃんと見てたんだ。


俺が笑ってたこと。

仲間と一緒にバカやってたこと。

戦って、悩んで、それでも前を向いてたこと。




「グルーシャ……」




胸の奥が、じんわりと熱くなる。

だが、ルシアはすぐに顔を上げた。




「彼女たちが“そう”だと決めつけたい訳じゃない。」




視線は真っ直ぐ。




「だけど、可能性を排除しきれないうちは、候補から外す訳にはいかない。」




冷静で、合理的で、そして残酷な判断。

それが、真祖竜としては、正しい在り方なのかもしれない。




「だから、アルドには一つ、約束してほしい。」




俺は思わず身を正す。




「約束って、何を?」




ルシアは、ほんの一瞬だけ躊躇ったように見えた。

そして、静かに言う。




「もし、万が一。アルドの周りの誰かが“特異点”だと分かったら……アルドが、その者を止めて。」




胸の奥が、ひゅっと冷える。




「アルドにも、人間の世界を楽に滅ぼすくらいの力はある。」




事実を、ただ事実として述べる。




「だから、もし特異点が現れても、アルドなら止められる。……と思う。」




信頼なのか、責任の押し付けなのか。

どちらも、だろう。

俺はしばらく黙っていた。


ラーメンの湯気が、ゆらゆらと立ち昇る。

仲間の顔が、次々に浮かぶ。


ヴァレンの飄々とした笑顔。

リュナちゃんの無邪気な瞳。

ブリジットの、不器用で真っ直ぐな背中。


もし、その誰かが。

もし、何かに呑まれて。

もし、本当に世界を壊そうとしたら。


……止める。


止められるのは、多分、俺だけだ。

俺はゆっくりと顔を上げた。




「分かった。」




自分でも驚くくらい、声は落ち着いていた。




「それは、約束するよ。」




胸に手を当てる。




「俺の仲間は、そんな事しないって信じてはいるけど……」




拳を握りしめる。




「もし、誰かが何か間違えそうになったら、俺が絶対に止める。」




力強く、自分の胸を叩く。

ドン、と鈍い音が響く。

そして、わざとらしくニヤリと笑った。




「だから、グルーシャもそんな心配しないでさ!」




親指で自分を指す。




「安心しててよ!ホラ!俺の強さは知ってるでしょ?」




ちょっとカッコつけた。

自分でも分かるくらい、無理に明るく。


ルシアは、ほんの一瞬だけ、口元を緩めた。

フッ、と。

すぐに真顔に戻る。

そして、容赦なく言った。




「でも、アルド。」



「……はい?」



「案外小心者だし、ミスっては後悔して悶え苦しむタイプだから、心配っちゃ心配。」



「ひどくない!?」




俺はずっこけた。

椅子ごとガタンと揺れる。




「そこはさ!『頼もしい』とか言うとこでしょ普通!?」




ルシアは肩をすくめる。




「事実。」




即答。

俺は天を仰いだ。

う、うーむ……流石は、生まれてから数十年を共に過ごした幼馴染。

俺のこと、よく分かってるね。


たとえどんなに肉体や魔力が強くても、ビビる時はビビるし、後悔するし。

夜中に一人で「ああああああ」ってなるタイプだよ、俺は。


……でも。それでも。

守るって決めたら、逃げない。


俺はラーメンの残りをすすりながら、静かに思う。

特異点が何だろうと。

世界がどうなろうと。

俺の仲間は、俺が守る。


それが、真祖竜としてどうとかは関係ない。


ただの、俺の意地だ。




─────────────────




時間は、ほんの少しだけ遡る。


夕暮れのルセリア中央大学。


構内の一角──「眞学(しんがく)の森」と呼ばれる林道は、祭りの喧騒からわずかに離れた、薄暗い静寂に包まれていた。遠くからは、屋台の呼び込みや笑い声、楽器の音がかすかに届いている。だが、ここは違う。


空気が、淀んでいた。


その林道の中央で、ひとりの男がうずくまっている。


黒い魔力に身を包んだ男──ザイード・ジュナザーン。




「何処だ……」




掠れた声。




「何処へ消えた……!? アルド・ラクシズ……ッ!!」




ぐるり、と首を回す。その動きは人間のものとは思えないほどぎこちない。視線は焦点を結ばず、木々の影を睨みつける。


彼の足元から、黒い霧のような魔力が滲み出ていた。地面に触れた落ち葉が、じわりと炭のように変色する。




「いや……ヤツを追いかけて……それで、どうなると言うのだ……!?」




自問。




「追いついたとて……余の力では……ヤツに敵うはずもない……」




拳を握り締める。爪が食い込み、血が滲む。




「アアアアアアアァァアアア妬ましい嫉ましい!!」




頭を掻きむしる。

髪の間から、黒い紋様が浮かび上がる。

肌の表面を這うように広がり、胸元には白い蛇のような魔力の紋様がうねっていた。


嫉妬。劣等感。屈辱。


それらが形を持ったかのような魔力が、彼の周囲で渦巻く。


その時だった。




「えっと……あれ?」




林道の入口から、二人の女学生が顔を覗かせる。


大学祭の出店の手伝いをしていたのだろう。エプロン姿の上に、簡易的な魔術師風ローブを羽織っている。手には買い出し袋。




「ちょ、ちょっとあなた、大丈夫?」




一人が恐る恐る声をかける。




「こんなとこでうずくまって……具合悪いの?人呼ぶ?」




もう一人も心配そうに近づく。


黒い魔力の気配に気付いていないのか、あるいは祭りの高揚感で警戒心が鈍っているのか。


ザイードの肩が、ぴくりと震えた。


ゆっくりと──


グルン、と顔が回る。




「ヒッ!?」




二人の喉から、同時に悲鳴が漏れた。

目が、赤く濁っている。

肌には黒い紋様。

胸元では白蛇の紋様が脈打ち、生き物のように蠢いていた。


ザイードの口元が、歪む。




「……そうだ」




にたり、と笑う。




「今のままで敵わぬのなら……力をつけて挑めばよい……」




ゆっくりと立ち上がる。




「貴様らには……余の糧となる名誉を授けようではないか……ッ!!」




右手を掲げる。


その瞬間──


林道の木々が、軋んだ。

枝が捻じれ、幹が割れ、根が地面を破って這い出す。


それらはまるで触手のように変貌し、女学生達へと一斉に伸びた。




「きゃあああっ!?」




後ずさる。転ぶ。

買い出し袋が弾け、リンゴが地面に転がる。

触手が2人の目前まで迫った、その刹那──




バチィンッ!!

ゴォォォッッ!!




轟雷が走る。

同時に、爆ぜる炎。


伸びた触手は空中で焼き払われ、炭となって崩れ落ちた。




「……は?」




ザイードが目を見開く。

女学生二人の前に、二つの影が静かに降り立っていた。


夕陽を背に、並び立つ二人の少年。


一条雷人。そして、乾流星。


雷人は腰のサーベルの柄に手を添え、ため息をつく。




「やれやれ……乾が“ピアス無くした”なんて言い出さなければ、こんなトラブルに巻き込まれずに済んだんじゃないかな?」




その声音は、異様な状況にも関わらず平静そのものだ。


流星は肩をすくめる。




「いや、あれマジお気に入りなんだって。ハワイアンテイストの彫金、超イケてんの。限定品だし?」




だが、その目は笑っていない。

ザイードから、一瞬たりとも視線を逸らさない。




「それにさ――」




背中の両手剣の柄に手をかける。




「そのおかげで、そこの素敵なお姉さん達のピンチに駆けつけられたじゃん?」




軽口。

だが、立ち位置は完璧に庇う位置だ。

雷人は小さく頷く。




「それは、確かにその通りだね。」




ザイードの黒い魔力が再び膨れ上がる。




「貴様ら……何者だ……!?余の邪魔をすると申すか……!?」




声は怒号。

だが、その奥に滲むのは焦り。




「不敬……不敬なり……余は……余は、シュナザール皇国、次期皇王……!」




胸の蛇紋様が脈打つ。




「ザイード・ジュナザーンであるぞッッ!!」




吠える。

だがその姿は、もはや王子ではない。

流星が小声で言う。




「なぁ、一条。コイツやばくね?クスリとかキメてる系?」



「どうかな。」




雷人は静かに魔力を練る。

周囲の空気が帯電する。




「だが、少なくとも話が通じる状態では無さそうだ。」




サーベルがわずかに抜かれる。

夕陽を受け、刃が赤く光る。


ザイードの足元で、再び木々が蠢く。

黒い魔力と、雷光と、炎。

夕暮れの眞学の森に、三つの力がぶつかろうとしていた。


遠くでは、祭りの音楽がまだ鳴っている。

だが、この林道だけは──

すでに、戦場の気配に満ちていた。

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