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【50万PV感謝!】真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます  作者: 難波一
第六章 学園編 ──白銀の婚約者──

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第288話 リゼリアとノワール

統覇戦(ドミナンス・カップ)”予選会が終わって、二日後。


大学構内を歩く俺たちに向けられる視線は――はっきり言って、異常だった。


ほんの数日前まで、「女誑(おんなたら)し」だの「二股(にまた)のオロチ」だの、聞くだけで胃が痛くなるような罵声を投げられてたっていうのに。

今は……見てください、この有様。




「キャーッ!!ブリジット・チームの皆さんよっ!!」


「“銀の新星(シルバー・ノヴァ)”アルド様ッッ!!素敵ーーっ!!」


「ブリジットさーん!!マジ可愛い過ぎーー!!」

「玲司くーーん!!変身してーーっ!!」


「ジュラお姉様ーー!ふ、踏んでくださいっ!!」




最後のやつはちょっと意味が分からない。

いや、分からなくはないけど、分かりたくない。


そんな感じで、黄色い声援が、文字通り四方八方から飛んでくる。

歩くだけで視線が集まるし、通路の端から端まで人が寄ってくる。

これ、俺たち大学生だよね?芸能人じゃないよね?


正直、むず痒い。


いや、悪い気はしないのよ?

でもこう……居心地が悪いというか!

というか、俺なんかがこんな扱いされていいのか?

なんか……ごめんなさい……って気持ちが、自然と湧いてくる。

罪悪感の正体が分からないタイプのやつ。

最強生物に転生しても、この根っからの性分は変わらないのよね。俺って。


隣を歩くブリジットちゃんも、どうやら同じらしい。

「可愛い!」「天使!」って言われるたびに、ぱっと顔を赤くして。

それでも無視することは出来なくて、立ち止まることは出来なくて。


小さく頭を下げたり、胸の前で手を振ったり。

一つ一つの声援に、精一杯、誠実に応えようとしてる。


……ああ、もう。

こういうところだよなぁ。

可愛い。


ブリジットちゃんの腕には、フレキくん。

ミニチュアダックス形態で、ぬいぐるみみたいに大人しく抱えられてるけど、耳だけはぴくぴく動いてる。


少し後ろでは、鬼塚くんが明らかに挙動不審だった。

耳まで真っ赤で、肩をすくめながらブツブツ言ってる。




「つーか……何で俺まで……? アルドさんやブリジットさんがキャーキャー言われんのは分かるけどよ……」




目線は地面。

時々、声援が飛んでくるたびにビクッてなる。

……うん。これはこれで、可愛いな。


俺は少しだけ歩調を落として、鬼塚くんに声をかけた。




「鬼塚くん、ザキさんとこの勇者スキル持ちとバチバチにやり合ったらしいじゃん。それに、変身して、二十人相手に無双したって話も聞いたよ?」




冗談っぽく言うと、鬼塚くんは「ひえっ」みたいな顔をした。




「か、勘弁してくださいよ、アルドさん……こういうの……その……キャーキャー言われるの、俺の性分に合わないっスよ……」




そこに、ブリジットちゃんが一歩前に出て、ぱっと顔を輝かせる。




「そんなことないよっ!あたし達が同点一位になれたのだって、鬼塚くんの活躍のおかげだもん!」




真正面からの称賛。

鬼塚くんの耳が、さらに赤くなる。




「ぶ、ブリジットさん……」




そこへ、後ろからバァンと勢いよく背中を叩く音。




「ケンソンすんなし、玲司」




リュナちゃんだ。

学生でもないのに、何故か普通にいる。

完全に“居るのが当然”の空気で。




「兄さんと姉さんの下につくなら、そのくらいの評価は受けて当たり前っしょ。シャンと構えるっすよ」




鬼塚くんは、叩かれた背中をさすりながら、即座に姿勢を正した。




「りょ、了解っス!リュナ姉がそう言うなら……!」




……完全に舎弟ムーブだ。


その後ろ。

ジュラ姉はというと、まるで別世界だった。

自分に向けられる声援に、余裕たっぷりの笑顔。

指先で軽く手を振り、腰をくいっとひねって歩く。

視線も堂々。堂々としすぎて、もはや舞台の上。

俺は思わず言ってしまった。




「ジュラ姉……なんか、こういうの慣れてる感じあるね」




するとジュラ姉は、ぱっと振り返って、




「アラッ!アルドきゅん、当然じゃないッ!」




ファサッ、と髪をかき上げる。




「こう見えてもギャタシ、スレヴェルドでは道を歩けばキャーキャー言われるくらいの人気者だったんですからねッ!」




いや、今の姿なら分かるけど。

スレヴェルドでの姿って、ティラノサウルスだよね?

街歩いたら、違う意味でキャーキャー言われてたんじゃない?恐竜映画的な意味で。

でもまあ……守護神扱いなら、人気者って言っても間違いじゃないか。


そんなことを考えながら歩いていると、突然。

隣のブリジットちゃんが──


ぴたっ。


右腕に張り付く様に距離を詰めてくる。

……距離、近くない?




「えっ!?ど、どうしたの!?ブリジットちゃん!?」




俺が慌てた、その反対側から。


ぴたっ。


……え?




「リュナちゃんまで!?ど、どうしたの!?二人揃って!?」




聞くと、リュナちゃんはニヤッと笑って、




「決まってるっしょ。マーキングっすよ、マーキング!」




腕を、がっちり絡めてくる。




「世間が兄さんの魅力に気づいたのはいい事っすけどね。モテ始めちゃったのは、あーしらからしたら少し困るっすから」




ブリジットちゃんは顔を真っ赤にして、こくこく頷く。




「兄さんの隣は、あーしらの専用席だって事、ちゃんと見せびらかしとかないと、ダメっしょ!」




……ま、待って。

心臓が追いつかない。




「ちょっ……そんなことされたら、ドキドキするから……!」




そこへ、背後から。




「マッ!それならギャタシも便乗しちゃおうかしらッ!」




首に、ぬるっと腕が回される。

……えっ。

待って待って待って。


女子三人に、前後左右から固められてる。

これ、完全に──




「マジでハーレム系主人公みたいになってない!?俺!!」




怖くて、鬼塚くんの方を見れない。

軽蔑の目を向けられてたらどうしよう。


……と、思ったけど。


鬼塚くんは、少し離れたところで、

「……まあ、アルドさんだしな」って、納得した顔で頷いていた。


……いや、それはそれで複雑なんだけど!?


困惑しきりの俺だったけど。

胸の奥には、確かに──


嬉しい、って気持ちも、ちゃんとあった。




 ◇◆◇




大学構内を歩いていると、さっきまでとはまた違う違和感に気づいた。


あちこちの広場に、見慣れない仮設のテント。

校舎の壁際には、木箱や樽、色とりどりの布。

どこからか甘い匂いが漂ってきて、料理の仕込みらしき音も聞こえる。

明らかに、何かをやる準備だ。

俺は首を傾げながら、ぽつりと呟いた。




「……なんか、大学全体が慌ただしいね」

「お祭りでもやるのかな?」




すると、すぐ横で鬼塚くんが目を丸くした。




「えっ。アルドさん、知らないんスか?」




その声に、ブリジットちゃんがくるっと振り返る。

目を輝かせて、楽しそうに言った。




「予選会の慰労会だよ!エルディナ王国の王族の方々や、貴族の人たちもたくさん招待して、盛大な催し物をするんだって!」




……王族。貴族。

その単語を聞いただけで、胃がきゅっと縮む。




「えぇ……」




思わず、素直な声が出た。

偉い人達が沢山来るとなると、のびのびは楽しめそうもない。

すると、すぐ後ろから。




「あらヤダッ!」




ジュラ姉が、ぱっとコンパクトを取り出した。

その場で鏡を開き、自分の顔をじっと確認する。




「それじゃ、予選会一位通過のギャタシ達は、主役同然じゃないッ!しっかりスキンケアとトリートメントしておかないと!」




そのテンションの切り替え、さすがだね。

俺が苦笑していると、突然。




「それはどうかな!?」




よく通る、少し高めの声が飛んできた。

声の方へ視線を向けると、校舎一階のオープンカフェテラス。

日除けのパラソルの下で、優雅にお茶をしている三人組が目に入る。


ラグナ。佐川くん。天野さん。


しかも──


ラグナの周囲には、目をハートにした女子生徒たち。

ラグナの顔がプリントされたウチワを振って、きゃあきゃあ言ってる。


いや、これ。

俺たちより酷くない?


ラグナは、こちらを見つけた瞬間。

俺の姿──


両側にブリジットちゃんとリュナちゃん。

背後にジュラ姉。

その構図を視界に収めて、こめかみにピキッと青筋を浮かべた。


ただし、昔ほどの剥き出しの敵意はない。

どちらかというと……呆れと、少しの嫉妬。


ラグナはコーヒーカップを持ったまま、左手で俺を指差す。




「ブリジットだけに飽きたらず……加えて二人も女性を侍らせて構内を練り歩くとは、良いご身分だな!!アルド・ラクシズ!!」




その言葉、そっくりそのまま返したい。

俺は半目になって、ため息混じりに言った。




「いや、ラグナにだけは言われたくないんだけど」




すると、隣で佐川くんが「ハハハ……」と苦笑しながら立ち上がり、手を振ってきた。




「お疲れ様っす、アルドさん。それに、玲司も」




天野さんも、少し控えめにペコッと頭を下げる。

鬼塚くんもそれに合わせて、ニッと笑いながら手を上げた。




「よっ。颯太。唯。」




ラグナはふん、と鼻を鳴らしてから言った。




「明日は、予選会の慰労会だ。当然、一位通過の僕たちは注目の的になる」




俺は思わず、げんなりした顔になる。




「うぇ〜……マジか」




するとラグナは、少しだけ楽しそうに口角を上げた。




「明日の慰労会、父上は公務で忙しく出席出来ないようだが、兄上たちは参加なされるそうだ」




ラグナの兄上。つまり、エルディナ王国の第一から第五王子達って事かな。

そして、ビシッと俺を指差す。




「キミも、僕の宿敵(ライバル)として相応しい振る舞いを心がけたまえ」




……宿敵、ね。

以前なら、もっと刺々しく聞こえただろう。

でも今は、不思議と嫌な感じがしなかった。




「へいへい」




俺は肩をすくめて、苦笑する。




「気をつけるよ」




そのやり取りを見ていたブリジットちゃんが、ふふっと小さく笑った。

その笑顔に、場の空気がさらに柔らぐ。

佐川くんも、俺とラグナを見比べて、冗談っぽく呟く。




「しかし……本戦でアルドさんとラグナが当たったら、俺はどっち応援すりゃいいのかな〜」




次の瞬間。


ガーン!!


……という効果音が聞こえた気がした。

ラグナが、割とガチ目にショックを受けた顔で固まる。




「えっ……そ、颯太は……友達である僕を、応援してはくれないのかい……?」




完全に心が折れかけている。




「ち、違う違う!」




佐川くんは慌てて手を振った。




「冗談に決まってんだろ!俺はラグナを応援する!うん!」




落ち込むラグナに必死にフォローしながら、こっそり俺と鬼塚くんに向かって頭を下げる。




(ゴメン!)




鬼塚くんはそれを見て、ニヤニヤしながら言った。




「幼馴染の俺より、新しいお友達の応援かよ?冷てぇな、颯太」



「ち、違っ……!」




佐川くんがオロオロする。

その様子がおかしくて、俺は思わず吹き出した。

ブリジットちゃんも、リュナちゃんも、天野さんも。

ふふっと、自然に笑い声が重なる。


……ああ。平和だなぁ。


ラグナとも、こうして冗談を言い合えるようになった。

ちゃんと和解できたんだって、実感が湧いてくる。


このまま。

どっちが勝っても、恨みっこなしで。

本戦が終えられたら──


……なんて。


そんな甘い未来を、少しだけ信じたくなる午後だった。




────────────────────




生徒会室は、静まり返っていた。


大きな机も、整然と並んだ書類棚も、今は誰も使っていない。

窓から差し込む午後の光が、磨き込まれた床に淡く反射し、室内を白く照らしている。


その窓辺に、リゼリアは立っていた。


カーテンの隙間から、下を見下ろす。

大学構内の一階、オープンカフェテラス。

そこには人だかりができ、その中心で──


アルドと、ラグナが、楽しげに話していた。

互いに肩の力を抜き、時折笑い合い、冗談を交わす。

以前なら考えられなかった光景だ。

リゼリアの唇が、わずかに緩む。




「……ラグナ殿下の、あんな楽しそうな表情……」




声は、とても小さい。

誰にも聞かれない独白だった。




「久しぶりに、見ましたねぇ……」




彼女の視線は、ラグナだけを追っている。

そこに映るのは、王子でも大賢者でもない。

重責でも、宿命でもない。

ただ、年相応に笑う一人の青年。




「……ひょっとしたら……」




リゼリアの胸に、言葉にならない想いが滲む。




「こうして……皆と同じ目線で、生きていく事こそが……ラグナ殿下にとっての……本当の幸せ、なんでしょうかぁ〜……」




その声には、安堵と同時に。

ほんのわずかな、寂しさが混じっていた。


──その瞬間。


生徒会室の奥。

壁際に掛けられた、大きな鏡。


そこに映るリゼリアの髪が、ぼぅっと──黒く、染まった。


光が落ちたように。

影が滲んだように。


鏡の中のリゼリアは、確かにリゼリアの姿をしている。だが、動きが違う。

実像がまだ窓の外を見ているのに、

鏡の中の“彼女”は、ゆっくりと顔を上げ、こちらを見ていた。

口角が、不自然に吊り上がる。




『──何を、寝ぼけた事を言っちゃってるんですかぁ〜?リゼリア』




甘ったるく、ねっとりとした声。

耳に絡みつくような囁き。

リゼリアは、はっと息を呑み、鏡を見る。




「……ノワール(・・・・)……」




掠れた声で、その名を呼んだ。

鏡の中の黒髪のリゼリア──ノワールは、にぃっと悪意に満ちた笑みを浮かべる。




『ラグナ殿下は……そんじょそこらの雑魚どもとは、違うんですぅ〜!覇道を歩むべき運命を背負って、生まれてきたお方』




言葉は、断定的だった。




『アナタも……それは、理解してたはずですよねぇ〜?』




リゼリアは、唇を噛む。




「で、でもぉ……」




視線が揺れる。




「殿下が……あんな風に、笑ってるのを見たらぁ……それが……幸せなんじゃないかって……」




ノワールは、鼻で笑った。




『いいですかぁ?』




声が、低くなる。




『ラグナ殿下は、皆とは違うんですぅ。この世界の全ては……ラグナ殿下という“主人公”を引き立てる為の、舞台』




鏡越しに、じっとリゼリアを見据える。




『アナタだって……その為に、殿下のお側にいるのでしょぉ〜?』




その言葉が、胸の奥に突き刺さる。

リゼリアの目が、ゆっくりと細くなった。




「──そう、でした……」




揺れていた感情が、収束していく。




「わたしは……ラグナ殿下の為だけに、存在してるんですぅ〜……」




迷いが、消える。

その瞳に宿るのは、忠誠と、歪んだ使命感。

ノワールは、満足そうに頷いた。




『うんうん!リゼリアが、使命を思い出してくれたみたいで……ノワールも、嬉しいですぅ』




そして、にやりと笑う。




『でも……その為には』




ノワールが、鏡の中から指を伸ばす。

その指先が示すのは──窓の外。


アルド。


楽しげに笑い、無防備に人と交わる、不確定要素。




『私達の……ラグナ殿下の邪魔になる。“不確定要素”を……どうにか排除しないと、ですよねぇ〜』




リゼリアは、思わず視線を逸らした。




「で、でもぉ……」




声が、僅かに震える。




「アルドさんの強さ……普通じゃなかったですよぉ〜……?予選会の力も相当でしたけどぉ……フォルティア荒野で、リゼリアが見た力……」




あの圧倒的な存在感。

抗うという発想すら浮かばなかった、あの瞬間。




「あれは……確実に……あたし達でも……太刀打ちできないもの、でしたしぃ……」




ノワールは、ふむ、と顎に指を当てた。




『そうですねぇ〜……』




一瞬だけ、思案する素振り。




『確かに……アルドさんの力を、もう少し知っておかないと、正面から手を出すのは、危険かもしれませんねぇ〜』




そして。




『だったら……』




ノワールは、別の窓を指差した。

リゼリアが、そちらへ視線を移す。


校舎の影。

人目につかない場所に置かれたベンチ。

そこに、一人の男が座っていた。


ザイード・ジュナザーン。


目の下には、濃いクマ。

髪は乱れ、背中は丸まり、口元では何かをぶつぶつと呟いている。


その周囲には──

薄く、黒い魔力が、靄のように立ち上っていた。


ノワールは、楽しげに声を弾ませる。




『手持ちの駒を……いくつか使ってでもぉ……アルドさんの能力を……丸裸にして、あげちゃいましょうかぁ♡』




リゼリアは、しばらく沈黙した後。

静かに、頷いた。




「……ですねぇ」




視線は、もう迷っていない。




「全ては……ラグナ殿下の為に……」




その背後で。

鏡の中のノワールは、

誰にも見えない場所で──


ゆっくりと、邪悪な笑みを深めていた。

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