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【50万PV感謝!】真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます  作者: 難波一
第六章 学園編 ──白銀の婚約者──

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第287話 予選会の勝者は。

結果発表の時間──それは、戦いの熱がようやく冷めはじめた頃に訪れた。


巨大競技場は、再び人で埋め尽くされていた。

だが、先ほどまでの喧噪とは違う。歓声の質が変わっている。


数刻前まで、六百を超える挑戦者がダンジョンへ投げ込まれた。

そのうち、こうして“最後まで残って競技場へ戻ってきた者”は、八十名にも満たない。


あちこちに、傷、擦り切れたローブ、欠けた鎧。

それでも皆、目だけはギラついている。敗者の悔しさ、勝者の昂り、そして、結果発表の瞬間を待つ緊張。


競技場中央。

そびえ立つように設置された巨大な魔導光掲示板が、青白い光を放っていた。文字の枠だけが浮かび、まだ何も表示されていない。

まるで“運命の答え”が、直前まで伏せられているかのようだった。


その掲示板の前──最前列に近い位置で、アルド・ラクシズは呑気に肩の力を抜いていた。

隣には、ザキの姿。


アルドは横目にザキを見上げ、いつもの軽い調子で言った。




「いやー、ザキさんも五十階層に来てたなんてさ。俺、ぜんぜん気づかなかったよー。声かけてくれればよかったのに」




まるで、同じクラスの友人に言うみたいな口ぶりだった。

戦いのあととは思えない、呑気な口調。

ザキは、にこりと笑う。

その笑みは、柔らかい。親しみやすい。どこまでも自然で──だからこそ、よく出来ていた。




「ハハハ、せやね。でも四十九階層も五十階層も、どえらい広かったからなぁ。俺からはアルドくんのこと、見えへんかったよ」




嘘だ。

ザキは、あの場でアルドを見失ってなどいない。

だが、アルドはそんなこと露ほども疑わない。

彼は「そっかぁ」と、素直に頷いてしまう。




「確かにあのフロア、めちゃ広かったもんねぇ。……でも、これでお互い本戦出場は確実っぽいね!」




言いながら、アルドは掲示板を見上げる。

その目は、期待よりも安心に近い色をしていた。勝ち負けよりも、“みんなと一緒に次へ進める”ことが嬉しい──そんな顔。


ザキは肩をすくめるように、冗談めかして返す。




「だとええなぁ。あ、アルドくん。本戦で当たっても……あんまイジメんといてな?」




言い方は軽い。笑っている。

それでも、どこかに“針”が混じる──本人ですら気づかないほど微細なものが。

アルドはそれにも気づかず、へらりと笑った。




「いじめないいじめない。……たぶん」



「いや、たぶんて」




二人のやりとりは、和やかだった。

周囲の空気だけが、少しだけ浮く。

──この緊張の場で、その温度感は妙に目立つ。


その少し後方。

ザキ・チームの面々が固まっていた。


ディオニスが、腕を組んだまま顎をしゃくる。




「……うちの大将、”銀の新星(シルバー・ノヴァ)“のダチだったのかよ」




酒の匂いは、今日は抑えめだ。

だが口調は相変わらず荒っぽい。面白がっているのか、探っているのか、半分ずつ。

隣で鬼塚玲司が、眉間に皺を寄せたまま呟く。




「まさかてめぇが、アルドさんの言ってた『ザキさん』のチームメンバーだとはな」




腕組みは崩さない。

でも視線は鋭い。ザキを見ているようで、実はアルドの無防備さを見ている。




「世間狭ぇな」




ディオニスが、口の端だけで笑う。

そのすぐ近く。

ブリジットが、フレキを胸に抱きしめたまま、嬉しそうに顔を輝かせていた。

フレキはミニチュアダックス形態で、ふわふわの毛並みが胸元に押しつぶされ、少しだけ迷惑そうな目をしている。




「ザキさんも、最終フロアまで到達したんですね!すごいすごい!」




弾む声。

戦いの疲れを感じさせない、純粋な称賛だった。

ザキは、すぐに笑顔を向ける。

その笑顔もまた、完璧に“優しい大人”のそれで。




「ありがとなぁ、ブリジットさん。めっちゃ頑張ってん、俺。褒めてくれてもええんやで」




冗談めかした言い方に、ブリジットがくすっと笑う。

フレキも「凄いですっ」と一声、機嫌よく鳴いた。


──その瞬間。


ザキの後方で、ロールがぷくっと頬を膨らませた。

視線はザキへ。

だが睨みつけるというより、“なんとなく面白くない”という幼さが残る表情だ。


言葉にはしない。

だがその嫉妬は、態度の端々に滲む。


少し離れたところでは、ギュスターヴが無言で腕を組んでいた。

筋肉の鎧みたいな体格のまま、仁王立ちに近い。視線だけが、時折ちらり、ちらりと動く。


向かう先は、ジュラ姉──ジュラシエル。


彼女は戦闘の時と同じく、堂々と立っている。腰に手を当て、片足に体重を乗せた立ち姿。まるで舞台の上に立つスターだ。


ギュスターヴの熱視線に気づいているのに、ジュラ姉はツーンとそっぽを向いていた。

“見てない”と言わんばかりに、顎を上げ、髪を指先でくるりといじる。拒絶というより、あからさまな無関心。


ギュスターヴは、何も言わない。

言わないが、その拳がほんの少しだけ握りしめられる。


──そんな、人間模様のざわめきの中。


空気が、すっと変わった。

人の流れが、自然と道を開ける。

王族が通る時の、それだ。


ラグナ・ゼタ・エルディナス。

その背後に、セドリック、リゼリア、ルシア。

ラグナチームの四人が、アルドとザキの近くへと歩いてきた。


ラグナは、いつものように背筋が伸びている。

だが、今日は──その表情に“刺”がない。以前の、鋭利な棘のような視線が薄い。

代わりにあるのは、余裕と……どこか穏やかな王子の微笑み。




「やあ」




声も軽い。気取った響きはあるが、不快ではない。




「楽しそうじゃないか。僕も混ぜてくれるかい?」




アルドは半目になり、乾いた笑いを漏らした。




「ハハハ……編入試験の時を思い出すな、この構図」




その言葉に、周囲の空気が一瞬だけ緩む。

“ああ、因縁の二人だ”と、皆が思い出すからだ。

だがラグナは、ふっと笑った。




「そんな昔のことは忘れたよ」




言い方はさらりとしている。

ザキは表情を崩さない。

ただ内心で、静かに警戒の糸を張る。




(ラグナ・ゼタ・エルディナス……コイツからアルドくんに接触してくるなんて……えらい変わり様やん)




ラグナは、そのまま視線をブリジットに移す。

ほんの一瞬だけ。

そして、にこっと笑って、軽く手を振った。

ブリジットの肩が、ピクリと跳ねる。

一瞬、身体が硬直する。記憶が、反射のように“警戒”を呼び戻す。


だが、すぐに。

ブリジットは一歩だけ前へ出て、ぺこっと頭を下げた。

礼儀正しく、真っ直ぐに。

“怖いけど、逃げない”という意志が、その小さな動作に宿っている。


ラグナはその挨拶を受け、満足そうに微笑むだけだった。

そして、その一連を見ていたセドリックが、目を丸くする。




(ラグナ殿下から……刺々しさが消えている……?)




心の中で、確かめるように繰り返す。




(まるで……以前の殿下(・・・・・)のような、穏やかさだ……)




セドリックの視線が、アルドへ向く。

そしてブリジットへ。




(これも、アルド君……キミの影響という事か……)




口元が、ほんの少しだけ緩む。




(ブリジット……お前の、男を見る目は確かだったみたいだな)




その表情は柔らかかった。

戦いの場の中で、一瞬だけ見える“日常”の顔。


──結果発表前の、束の間。


巨大な魔導光掲示板の青白い光が、彼ら全員の輪郭を照らしていた。




 ◇◆◇




ラグナは、巨大な魔導光掲示板を一瞥してから、ゆっくりと視線を戻した。

その動作には、結果がどう転んでも揺るがないという確信が滲んでいる。




「間もなく、予選会の結果が発表される訳だが……」




穏やかで、よく通る声。

アルドとザキを交互に見渡しながら、ラグナは口角をわずかに上げた。




「僕ら三チームの本戦出場は、確実と言っていいだろう」




それは自慢でも誇示でもない。

事実を述べているだけの口調だった。

アルドは肩をすくめ、苦笑混じりに返す。




「まあ、流石にそれはね。これで落とされたら、さすがにキレるよ、俺も」




冗談っぽく言いながらも、内心では同意している。

五十階層踏破。あれだけやって落選など、もはや事件だ。

ラグナは短く息を漏らし、楽しげに笑った。




「フッ……違いないね」




そのまま、ふと視線をザキへ向ける。

先ほどまでの和やかさとは少し違う、観察するような目だった。




「しかし……」




一歩、距離を詰める。




「まさか、キミまで最終フロアに到達していたとは。正直、恐れ入ったよ。ザキ・クローバー」




名前を、はっきりと呼ぶ。

そこに含まれるのは、形式的な敬意だけではない。能力を認めた者に向ける、王子としての礼だった。




「キミのような優秀な人材が、エルディナ王国にいる事を……僕は誇らしく思う」




言葉と同時に、ラグナは右手を差し出す。




「本戦で、その力を見られる事を楽しみにしておこう」




──その瞬間だった。


ほんの刹那。

アルドの感覚が、鋭く反応する。


胸の奥が、ひやりと冷えた。

視界の端で、何かが揺れたような錯覚。




(……なんだ?)




アルドは、思わずザキを見る。

ザキの表情は、変わっていない。

いつもの穏やかな笑顔。人当たりのいい、大人の顔。


だが──




(今の……)




アルドは、確かに感じていた。

ザキの内側から、一瞬だけ噴き上がったもの。

怒り。

それも、表層的な不快感などではない。


深い。重い。

長い時間をかけて積み重なった、圧縮された感情。




(ほんの一瞬だけ……ザキさんから、激しい怒りの感情が……)




心臓が、どくりと強く打つ。


だが、次の瞬間。

ザキは、にこっと笑った。

まるで、何事もなかったかのように。

差し出されたラグナの手を、自然な動作で握り返す。




「いや〜、ラグナ殿下から、そう言うてもらえるなんて、恐縮ですわ〜」




声も、柔らかい。

関西訛りの軽さが、場の空気を和らげる。




「本戦では……お手柔らかに頼んます」




冗談めかして、少しだけ頭を下げる。

握手は、何の違和感もなく成立した。

周囲から見れば、実に爽やかな光景だ。


アルドだけが、その裏側を知らないまま──いや、知りかけているまま、立ち尽くしていた。




(……そう言えば)




胸の奥で、考えが巡る。




(ザキさん、ラグナの事……嫌いって言ってたよな)




編入試験の時、笑いながら。

冗談めかして、だが確かに。




(でも……今の感じは……)




“嫌い”という言葉で片付けられる感情ではなかった。


もっと根深い。

もっと、個人的で。


アルドは、もう一度ザキの横顔を見る。

そこには、穏やかな笑みしかない。




(……気のせい、かな)




そう思おうとして、思い切れない。

だが、ここで踏み込む理由もない。

アルドは、小さく息を吐いた。




(今は……結果発表だしな)




自分にそう言い聞かせ、意識を掲示板へ戻す。

だがその背後で、ザキの握った拳の内側には──

誰にも見せない、冷え切った怒りが、静かに沈んでいた。




 ◇◆◇




会場に、張り詰めた空気が満ちていた。


巨大な競技場を埋め尽くす観客のざわめきが、一瞬、ぴたりと止む。

次の瞬間──魔導拡声器を通した、よく通る声が響き渡った。




『皆様、大変お待たせいたしました!』




声が反響し、天井を震わせる。




『集計が終了しましたので、只今より──“統覇戦(ドミナンス・カップ)”予選会の結果発表を行います!!』




その瞬間。




「うおおおぉぉぉぉ!!」




観客席が爆発したような歓声に包まれ、競技場全体が揺れた。

アルドたちは反射的に顔を上げ、正面にそびえる巨大な魔導光掲示板を見据える。

掲示板に、鮮やかな光文字が浮かび上がった。




『本戦出場チームは、以下のチームとなります!!』




一拍置いて、続く。




『第8位!!』




数字が大きく輝く。




『ダンジョンポイント、1250ポイント! 到達階層21階層! 深度ポイント10500ポイント!』




一行ずつ、畳みかけるように表示され──




『総合獲得ポイント……11750ポイント!! サマリー・チーム!!』




少し離れた場所で、その名を呼ばれた挑戦者たちが、一瞬呆然と立ち尽くし──次の瞬間。




「よ……よっしゃアアアアアアアッ!!」




理性をかなぐり捨てたような歓喜の雄叫びが上がった。

仲間同士で抱き合い、飛び跳ね、涙ぐむ者すらいる。

アルドはその様子を見ながら、掲示板の数字を追っていた。




「……深度ポイントって、到達階層×500入るのか」




ぽつりと呟き、計算するように指を折る。




「じゃあ、50階層まで行った俺たち……もう本戦出場確定じゃない?」




ラグナとザキの顔を交互に見る。

ザキは肩の力を抜き、穏やかに笑った。




「せやね。まずは一安心やな」




ラグナは口元に、余裕の笑みを浮かべる。




「出場は当然さ」




そして、掲示板を見上げたまま、続ける。




「問題は……僕たちのどのチームが、一位通過なのか、という話さ」




その言葉に、ブリジットの胸がきゅっと締まった。

無意識のうちに、拳を握りしめる。




(アルドくんは……最終フロアまで、頑張ってくれた)




フレキを胸に抱き寄せながら、心の中で呟く。




(あとは……あたしたちが、どれだけポイントを稼げたか、だよね)




緊張で、喉がひくりと鳴った。


──第7位から第4位までの発表は、嵐のように過ぎていく。

名前が呼ばれるたび、歓声と落胆が交錯し、空気はどんどん熱を帯びていった。


そして。




『第3位!!』




声が一段と大きくなる。




『ダンジョンポイント、3280ポイント! 到達階層50階層! 深度ポイント25000ポイント!』




掲示板が眩しく輝き──




『総合獲得ポイント……28280ポイント!!』



『ザキ・チームッッ!!』




ザキは、ふっと息を吐いた。




「……ま、妥当なとこやね」




大きく喜ぶでも、悔しがるでもない。

淡々としたその声に、背後のディオニス、ギュスターヴ、ロールも、それぞれ小さく頷いた。




「ま、悪くねぇな」


「当然の結果だ」


「……うん」




納得の表情だった。


そして──。


会場が、静まり返る。




『そして……』




アナウンスの声が、わずかに震える。




『栄光ある第2位と、第1位は……』



『……おおっと!!』




ざわり、と空気が波打つ。




『これは……なんと言う事だッッ!!』




アルドたちも、ラグナたちも、思わず息を呑み、掲示板を凝視した。




『ダンジョンポイント、5670ポイント! 到達階層50階層! 深度ポイント25000ポイント!』




数字が並ぶ。




『総合獲得ポイント……30670ポイント!!』




そして、次の瞬間。




『まさかの──同点1位!!』




巨大な文字が、二つ並んで輝いた。




『ラグナ・チーム!!&ブリジット・チーム!!』


『同点優勝だぁぁぁーーーッッ!!』




刹那。競技場が、完全に爆発した。




「うおおおおおおお!!」


「マジかよ!?」


「同点だとぉ!?」




歓声、悲鳴、拍手が渦を巻く。

鬼塚は目を見開いたまま、呆然と呟く。




「……マジかよ」




その隣で、ジュラ姉は両手を広げ、目を輝かせた。




「マッ!! ファンタスティックな結末ねッ!!」




セドリックは、信じられないものを見るように掲示板を見つめる。




「まさか……同点とは……!」




アルドとラグナは、しばらく言葉を失い、掲示板を見上げていた。

だが、不意に──視線が交わる。


一瞬の沈黙。


そして、ラグナが先に口角を上げた。




「──やはり、僕たちの決着は」




静かに、だが確かな声で。




「本戦でつける運命にあるようだな。アルド・ラクシズ」




アルドは、肩の力を抜き、笑った。




「そうみたいだね。負ける気は無いけどね」




そのやり取りを、ブリジットは少し離れた場所から見つめ、そっと微笑んだ。


だが。


ラグナの後方に控えるリゼリアは、その光景を、冷ややかな目で見ていた。




(……同率1位で、満足げに微笑むラグナ様)




唇に、薄く笑みを浮かべる。




(──そんな姿……リゼリアが望むラグナ様の在り方じゃ、ないんですよねぇ〜……)




その微笑みは、どこまでも静かで、冷たかった。


歓声に包まれる競技場の片隅で、

次なる火種は、確かに──芽吹き始めていた。

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