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【50万PV感謝!】真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます  作者: 難波一
第六章 学園編 ──白銀の婚約者──

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第286話 伝説ですら測れない存在

大学構内、来賓用に使われる小さな会議室。


外の喧騒が嘘のように遮断されたその部屋で、アルド・ラクシズは硬めの椅子に腰掛け、居心地悪そうに背筋を伸ばしていた。


長机を挟んで向かい合う形で、ヴァレン・グランツとグラディウスが座り、そして──アルドのすぐ隣には、マリーダ教授がいる。




「……あのー」




沈黙に耐えきれず、アルドがおずおずと口を開いた。




「俺、なんでここに呼ばれたんでしょうか……?」




視線が、無意識に左右へ泳ぐ。

ヴァレンはいつもの余裕ある笑みを浮かべているが、その奥に何か考え込む色が見え隠れしている。

グラディウスは腕を組み、眉間に深い皺を刻んだまま、ひとことも発さない。

アルドは首の後ろをかきながら続けた。




「結果発表まで、まだ時間ありますよね?だったら、ブリジットちゃんとか、リュナちゃんとか、鬼塚くんやジュラ姉たちと……ご飯でも行こうと思ってたんだけど……」




どこか申し訳なさそうで、それでいて本音丸出しの声音。

その瞬間だった。




「まあまあまあまあ!!」




唐突に、柔らかい感触がアルドの腕に絡みついた。




「そんな、つれないことを言わんでくだされ、アルド様っ!!」




ぴとっ、と。

マリーダ教授が、まるで恋人のようにアルドの腕へ腕を絡め、ぐいっと距離を詰めてくる。




「ワシはまだ……ワシはまだ、あなた様を救っていただいた礼も、何ひとつ返せておらぬのですよぉ?」




上目遣い。吐息混じり。

完全に“そういう距離感”だった。




「えっ!?」




アルドの声が裏返る。




「ちょ、ちょっと待ってくださいマリーダ先生!?近い近い近い!!」




慌てて腕を引こうとするが、意外なほど力が強い。

いや、力というより──執着だ。




(え……?この人、予選前めちゃくちゃ俺のこと嫌ってなかったっけ……?)




内心の困惑が、そのまま表情に出る。




「何ならこの二人も追い出してしまって……」




マリーダはちらりとヴァレンとグラディウスを睨み、




「ワシとアルド様だけで、甘〜いひとときを過ごすというのも……ふふふ」



「いや追い出さないで!?会議室ですからねここ!!」




アルドが必死にツッコむ。

その様子を見て、ヴァレンは一瞬、目を見開いた。

次いで、口元に手を当て、深く頷く。




(こ……これは……なるほど、そうなったか……!)




納得の表情。

アルドは助けを求めるようにヴァレンを見る。




「いや、ヴァレン……見てないで何とか言ってよ」




するとヴァレンは、にこやかに、実に爽やかな笑顔で言った。




「いやぁ、相棒が順当にハーレム系主人公として進化してるみたいで、俺としては喜ばしい限りだよ。」



「そう言えば、お前はそういうヤツだったね……」




アルドは一気に力が抜けたように、遠い目になる。

その時。




「よさんか、マリーダ」




低く、落ち着いた声が割って入った。

グラディウスだ。




「いい歳をして、そのようにはしたない真似を……アルド君が困っておるではないか。」




マリーダの腕に絡みつく手を、ちらりと見やり、




「そんなんだから、その歳まで独り身なのではないのか……?」




──沈黙。

一瞬、時間が止まったかのようだった。

次の瞬間。マリーダの目が、カッと見開かれる。




「じゃかましいわコラァ!!」




雷鳴のような怒声が会議室に響いた。




「グラディウス!!貴様にだけは!!貴様にだけは言われたく無いんじゃ!!ブチ殺すぞ!!」




机を叩き、椅子を蹴り、勢いよく立ち上がる。




「えっ……えぇ……?」




グラディウスは完全に理解が追いつかず、思わず一歩後ずさった。




「な、何故そこまで……?儂、何かおかしなことを……?」




その様子を見て、ヴァレンは静かに目を伏せた。




(……あー……)




すべてを察した顔である。




(なるほど……そういうことか……。俺が恨まれてたのも……それは……まあ……ゴメン)




心の中でだけ謝罪する。

一方、アルドはというと。




(マリーダ教授……グラディウスさんへの当たり、()っよ……)




内心ビビりながらも、腕に絡みつくマリーダの力がさらに強くなっていることに気づき、ますます困惑していた。


会議室の空気は、完全にカオスだった。




 ◇◆◇




騒然としていた会議室の空気が、ふっと変わった。


ヴァレン・グランツは、軽く咳払いをひとつすると、背もたれに預けていた身体を起こし、表情を引き締めた。

いつもの余裕ある笑みは消え、視線は真っ直ぐ、アルドへと向けられている。




「……お疲れのところ、すまないな、相棒」




その声は低く、真剣だった。




「だが、ちょっとばかり……ハッキリさせておかなきゃあならない事がある」




アルドは、腕に絡みついたマリーダの温もりを感じながらも、自然と表情を改めた。

先ほどまでの困惑や照れは影を潜め、静かな目でヴァレンを見返す。




「──まあ」




短く息を吐いて。




「何となく、見当はついてるけどさ」




その一言に、グラディウスとマリーダも、揃って頷いた。

マリーダは未だアルドの腕に絡みついたままだが、表情だけは先ほどの浮かれたものではなく、どこか緊張を孕んでいる。

ヴァレンは三人を見渡し、静かに告げた。




「──ああ。マリーダ教授の……あの変貌について、だ」




室内の空気が、ぴんと張り詰めた。

しばしの沈黙の後、マリーダは自分の身に起きた変化を話した。




「……そんな訳で、じゃ」




彼女はアルドの腕を離す気配もないまま、視線を落とす。




「あの時は……ワシの心が、まるで自分のモノでは無くなったかの様だったのじゃ」




言葉を選びながら、記憶を辿るように。




「考えておるのに、考えておらぬ。怒っておるのに、何に怒っているのかも分からぬ。ただ……」




喉を鳴らし、続ける。




「胸の奥に、黒く濁った感情だけが、どんどん溜まっていく感覚じゃった」




グラディウスとヴァレンは黙って耳を傾ける。

だが、アルドはというと。ちらりとマリーダの腕を見る。




(……いつまで腕にしがみついてんだろ、ロリババア2号先生……)




そんな失礼極まりない呼び名が頭をよぎりつつも、




(まぁ……認めてもらえたっぽいのは、いいんだけどさ……)




困惑と居心地の悪さを同時に抱えていた。

マリーダは真剣な表情のまま、さらに言葉を重ねる。




「あの時……ワシの中に、メリンダを……妹を、羨む気持ちが膨れ上がっていった」




その名を口にした瞬間、彼女の声がわずかに震えた。




「強い嫉妬の情念が……魂そのものを、掌握していく様な……そんな感覚じゃった」




ヴァレンの眉が、ぴくりと動く。




(──“嫉妬”の……?)




嫌な符号が、頭の中で結びつき始める。

その横で、グラディウスが首を傾げた。




「──羨む……?」




困惑した様子で、率直に問いかける。




「マリーダ、お主がメリンダの何を羨むというのだ?魔の才に愛されたのは、メリンダではなく、お主だろうに」




次の瞬間。




「死ねっ!!」




即答だった。




「……え?」




グラディウスの思考が、完全に停止する。




「え、えぇー……? さっきから、儂への当たり、強くない……?」




本気で心当たりがない顔だった。

ヴァレンは、思わず目を伏せる。




(グラディウス……今のは、お前が悪い)




内心で合掌した。

気を取り直すように、ヴァレンはアルドへと向き直る。




「なあ、相棒。現場にいたお前としちゃ……何か、気づく事でもなかったか?」




アルドは一瞬、「えぇー?」と気の抜けた声を出し、顎に手を当てる。




「そうだなぁ……」




少し考えてから、ぽん、と手を打った。




「あ、そうだ」




軽い調子で続ける。




「花嫁衣装みたいなのに変身したマリーダ先生を元に戻すためにさ。ブレスで、マリーダ先生の魂に干渉してみたんだよね」




会議室が、一瞬で静まり返った。

グラディウスのこめかみに、冷や汗が伝う。




(……魂に、干渉……? そんな事が……可能なのか……?)




だがアルドは、そんな周囲の反応など気にも留めず、続ける。




「その時さ、マリーダ先生の魂に、なんか白い蛇みたいなのが巻き付いててさ」




マリーダが、びくりと肩を震わせる。




「丸呑みにしようとしてた。寄生虫かもしれないけど、なんか……長いヤツ」




その言葉に、マリーダは身を強張らせた。




「……あの時の記憶は、ハッキリとは覚えておらぬのじゃが」




怯えたように、両腕で自分を抱く。




「確かに……何かが、ワシの魂に絡みつき、飲み込もうとしておった。それは……憶えておる」




そして、ふっと顔を上げ、うっとりとした目でアルドを見上げた。




「そして……それを救ってくださったのが、アルド様だということもな……!」



「さ、様付けはやめていただけると……!」




アルドは引き攣った笑顔で返す。

ヴァレンは、深く考え込んでいた。




(“嫉妬”の心……魂に干渉する、白い蛇……まさか……)




胸の奥に、嫌な予感が走る。




(何にしろ……俺は、俺で動く必要がありそうだな)




アルドは、場の重さを察したのか、ふと立ち上がった。




「もういい?」




軽く言ってから、続ける。




「休憩時間、そろそろ終わっちゃうしさ。俺、ダンジョン・サバイバルの後半ずっと一人行動で、正直寂しかったから」




肩をすくめ、照れたように笑う。




「早く皆に合流したいんだよね」




そう言って、そそくさと会議室を出ていく。




「あっ!」




マリーダが慌てて立ち上がる。




「アルド様が行くのなら、ワシも!!」




そのまま、アルドの後を追って出ていった。

扉が閉まり、残されたのはヴァレンとグラディウスだけ。

ヴァレンは、「ああ、お疲れ」と、ひらひらと手を振り、二人を見送った。

会議室には、再び静寂が戻る。

だがその沈黙は、先ほどまでとは違い、明らかに重く、危ういものだった。


物語は、確実に──

より深い場所へと踏み込み始めていた。




 ◇◆◇




会議室の扉が閉じる音が、やけに大きく響いた。


残されたのは、ヴァレン・グランツとグラディウスの二人だけ。

先ほどまでの騒がしさが嘘のように、室内は静まり返っている。

グラディウスは椅子に腰掛けたまま、しばらく黙っていた。

その沈黙は、言葉を探しているというより──覚悟を固めているように見えた。

やがて、重々しく口を開く。




「ヴァレン・グランツ……」




低く、静かな声だった。




「いい加減、話してもらうぞ」




ヴァレンは片肘をついたまま、気の抜けた調子で首を傾げる。




「ん? 何をだよ?」




その軽さが、かえってグラディウスの表情を硬くする。




「──アルド君だ」




即答だった。




「彼が何者なのか……儂は、いい加減、ハッキリと知っておく必要がある」




視線は逸らさない。

逃げ場を与えない問いかけだった。




「……」




ヴァレンは、笑みを消したまま黙って聞いている。

グラディウスは言葉を継ぐ。




「あのマリーダを、魂ごと支配する程の“何者か”が、この“統覇戦”に潜り込もうとしておる」




拳が、机の上でぎゅっと握られる。




「それ自体が、既に大事件と言っていい」




そして、ゆっくりと、噛み締めるように告げた。




「それを……“魂に干渉”などという離れ業で救ってみせた、アルド・ラクシズ……彼は、何者だ……?」




視線が、鋭くヴァレンを射抜く。




「答えろ、ヴァレン・グランツ……!」




会議室の空気が、張り詰めた。

ヴァレンは、何も言わず、ただグラディウスの顔を見つめ返していた。

その目には、いつもの飄々とした色はない。


数秒。

いや、十数秒だったかもしれない。

グラディウスは、ふぅ、と短く息を吐いた。




「──貴様にも、立場がある事は理解しておる」




声は少しだけ、柔らいだ。




「勝手に、彼の秘密を話す訳にもいかぬのだろう」




そう前置きしてから、静かに続ける。




「だがな……儂は既に、かの者が何者なのか……おおよその見当は、ついておる」




その言葉に、ヴァレンの眉がわずかに上がる。




「何だと?」




グラディウスは、椅子の背から身体を起こし、まっすぐ前を見る。




「彼は……」




一語一語、確信を込めて。




「世界に七つしか顕現しないと言われている、“勇者系スキル”を極限まで極めし者……」




そして、きっぱりと告げた。




「伝説の“至聖勇者”であろう。違うか!?」




その表情は、これ以上ないほど真剣だった。

しばしの沈黙。

ヴァレンは、その顔を見つめたまま──




「全然違うけど」




あっさりと言った。

グラディウスの思考が、一瞬止まる。




「あれっ!?」




思わず声が裏返り、身体が前のめりになる。

ヴァレンは、深くため息をついた。




「まぁ……お前にゃ、ちゃんと伝えておく必要はあるかもな。確かに」




視線を伏せ、言葉を選ぶように間を置いてから。




「相棒は……アルド・ラクシズの正体は……」




静かに、しかしはっきりと。




「“真祖竜”だ」




空気が、凍りついた。




「し……真祖竜、じゃと……!?」




グラディウスは目を見開き、椅子の肘掛けを掴む。




「この世の調律者であり、神域の存在……!」




声が震える。




「“全ての世界の竜の祖”とされる、伝説の存在ではないか……!」




ワナワナと肩を震わせながら、続ける。




「伝説にしか聞いた事は無いが……その力は、百歳未満の“幼竜”であっても……『大罪魔王に匹敵する程の力』を振るうと言われている……!」




そして、愕然とした顔でヴァレンを見る。




「それが……アルド君の正体だと言うのか……!?」




その瞬間。

ヴァレンの表情が、ほんのわずかに強張った。




(──そう。そこだ)




内心で、そう呟く。




(俺も、伝説に聞く真祖竜は……“幼竜であっても大罪魔王に匹敵する程の力を持つ存在”だと、聞き及んでいた)




視線の先に、呑気そうに笑うアルドの顔が浮かぶ。




(だからこそ……初めて相棒の存在を知った時……リュナから話を聞いた、あの時……ちょっかいをかけてみる気になった)




思い出すのは、軽い気持ちだった頃の自分。




(相棒は、明らかに真祖竜としては“幼竜”に類する年齢。多少モメる事になっても……本気になれば、逃げる事くらいは出来るだろうと……タカを括っていた)




だが。




(……現実は、違った)




ヴァレンの胸に、形容し難い感情が広がる。




(相棒の強さは……俺達“大罪魔王”ですら、比較にならないレベルだった。俺は、完全に……あいつの強さを読み違えていたんだ)




ふと、アルドの呑気な笑顔が脳裏をよぎる。

あの力で、あの性格。

ヴァレンは、真剣な眼差しで天井を仰いだ。




(つまり……相棒のあの強さには、"真祖竜だから(・・・・・・)"というだけでは片付けられない……"別の何か(・・・・)”がある)




拳を、ゆっくりと握り締める。




(相棒……お前は、一体……何者なんだ……?)




会議室の静寂は、答えを持たぬまま、深く沈み込んでいった。


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