表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【50万PV感謝!】真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます  作者: 難波一
第六章 学園編 ──白銀の婚約者──

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

287/316

第285話 ダンジョン・サバイバル、終了!!

ダンジョンの奥深く──

血の匂いと魔力の残滓が渦巻く全フロアに、等しく、よく通る声が降り注いだ。




『──ダンジョン・サバイバル、完全攻略者が現れました』




その瞬間、剣戟も、咆哮も、爆ぜる魔力も、すべてが不自然なほどぴたりと止まる。




『只今をもちまして、“統覇戦”予選会を終了とさせていただきます。挑戦者の皆様、お疲れ様でした』




地下深層。

闘技場めいた広間で、汗と闘争心を撒き散らしていた二つの影が、同時に動きを止めた。


拳と金棒が交錯する寸前だった。

ジュラ姉は、腰を深く落とした格闘の構えのまま、視線だけを上げる。

対するギュスターヴも、振り抜こうとしていた金棒を半ばで止め、鼻先で荒く息を吐いた。


二人とも言葉はない。

ただ、その瞳に浮かんだのは──「終わったのか」という、確かな実感だった。




別のフロア。

至近距離で殴り合っていた鬼塚とディオニスは、同時に拳を引いた。


互いの攻撃は、互いに完璧なガードに阻まれ、致命打には至っていない。

だが、ぶつかり合っていた気迫が、ゆっくりと霧散していく。


鬼塚は肩で息をしながら、視線を巡らせる。

ディオニスは口元を歪め、楽しげとも悔しげともつかない表情で天井を仰いだ。


戦いは終わった。

勝敗は、ここでは決まらない。




探索区画。

瓦礫の間を慎重に進んでいたブリジットは、足を止めた。


肩に乗ったフレキが、小さく鳴き、彼女の耳元で尻尾を揺らす。

ブリジットは一度だけ目を瞬かせ、それから胸の奥で、何かがすとんと落ちたような感覚を覚えた。




さらに別の通路。

セドリック、リゼリア、ルシアの三人組も、それぞれの足を止めていた。


セドリックは地図を仕舞い、深く息を吐く。

ルシアは無言で周囲を見渡し、状況を即座に把握したように目を細める。

リゼリアは、ほんの一瞬だけ微笑み──そして、その笑みを誰にも見せぬよう、すぐに伏せた。




次の瞬間、ダンジョン内に残っていた全ての挑戦者の身体が、ふわりと宙に浮いた。


重力が消える。

足元の感覚が失われ、空間そのものが捩れる。


視界が歪み、引き伸ばされ──

まるで巨大な何かに吸い上げられるように、身体が上方へと引っ張られていく。




競技場。

地面に無数に開いていた転移用の扉から、ポポポポン!と、小気味よい音を立てて、挑戦者たちが次々と吐き出されていった。

土煙と歓声が同時に巻き起こる。

観客席は、一拍遅れて爆発した。




「うおおおおおお!!」


「帰ってきたぞ!!」


「全員無事だ!!」




その喧騒の中、ひときわ落ち着いた様子で、ヴァレン・グランツは頬杖をついていた。

水晶球を見下ろし、口元に愉快そうな笑みを浮かべる。




「ククク……やってくれたな、相棒」




隣で腕を組んでいたリュナが、得意げに鼻を鳴らす。




「だーから言ったっしょ?兄さんなら何とかする、って」




ヴァレンは肩をすくめ、再び競技場へ視線を戻した。



そして、アナウンスが再び響く。




『──ダンジョン・サバイバル史上初の、完全攻略者……その名は……』




観客席が、息を呑む。




『ブリジット・チーム、アルド・ラクシズ!!』




割れんばかりの歓声。




『そして、ラグナ・チーム、ラグナ・ゼタ・エルディナス!!』




さらに歓声が重なり、悲鳴に近い声が上がる。




『……他、一名!!』



「他一名って何やねん!?」




煌びやかな光のアーチが競技場中央に出現し、

その中から、四つの影が弾き出されるように飛び出した。


空中で、ザキが思わず叫ぶ。




「確かに最終フロアでは俺ほとんど何もしてへんけども!!」



「うぇっ!?」




隣で、アルドが目を見開く。




「ザキさん、いたの!?」



「は……ハハ……やぁ、アルドくん。久しぶりやね。」




ラグナは空中でふわりと姿勢を整え、顎に手を当ててザキを見る。




「いつの間に50階層に……? 編入試験二位は、伊達ではなかったという事だね」




四人は、ほぼ同時に──

スタッ、と音を立てて壇上に着地した。




マリーダ教授は、一歩前に出る。

観客席を見渡し、胸を張り、晴れやかな笑顔で叫んだ。




「皆の者!!此度のダンジョン・サバイバル……ワシの完敗じゃ!!」




ざわり、と空気が震える。




「栄えある完全攻略者は……この者達じゃ!!」




両腕を大きく広げ、アルドとラグナを指し示す。

競技場が、ドッと沸き立った。




「ラグナ殿下ーー!!素敵ーー!!」


「“銀の新星(シルバー・ノヴァ)”も凄かったぞおおお!!」




ラグナは慣れた様子で、王子然とした微笑みを浮かべ、観客席に手を振り返す。

一方、アルドは。




「こ……こんな注目浴びるの、初めてかも……」




肩をすくめ、緊張した面持ちのまま、ぎこちなく手を振った。

だがその表情には、確かに──

戦いを越えた者だけが持つ、確かな達成感が宿っていた。




 ◇◆◇




競技場の一角。

歓声と拍手が渦を巻く中、ひときわ“異質な静けさ”をまとって立つ影があった。


ジュラ姉──

腰に手を当て、片足に体重を預けたその立ち姿は、戦士でありながら舞台女優のように洗練されている。

鋭く、艶やかな視線の先には、壇上で戸惑いながらも観客に手を振る青年の姿。


アルド・ラクシズ。


ジュラ姉は、ふっと唇を緩め、満足そうに目を細めた。




「──流石は、アルドきゅんね」




声音は甘く、しかし芯がある。

ウィンク一つ、艶やかな笑みを添えて、はっきりと言い切る。




「それでこそ、ギャタシが惚れ込んだ男子よッ♡」




その隣。

金棒を肩に担いだまま、体を揺らしていたギュスターヴが、ぴくりと反応した。




「──何だトッ!?」




低く、獣じみた声。

ぎり、と歯噛みする音が聞こえるほどに顎を強く噛み締め、憎々しげに壇上を睨みつける。




「アイツが……お前の惚れた(オス)なのカ……ッ!?」




視線に宿るのは、明確な敵意と、認めがたい現実への苛立ち。

ジュラ姉は、その様子を横目で一瞥すると、肩をすくめるように息を吐いた。




「──忠告しておいてあげるけど」




半目。

だが、ふざけた色は一切ない。




「カレにケンカ売ろうなんて考えちゃ、ダメよッ」




ギュスターヴは、鼻で笑い返す。




「ハッ……!惚れた(オス)の心配カ……?」




金棒を軽く持ち直し、低く唸る。




「安心しロ。不意打ちの様な汚い真似はしなイ……」




──そこまで言いかけた瞬間。

ジュラ姉の声が、すっと温度を失った。




「そうじゃなくて」




そして、あまりにも静かで、あまりにも“実感のこもった”声。




「カレは優しいから大丈夫だとは思うけど……」




視線は、アルドを捉えたまま。




「万が一、アルドきゅんを怒らせでもしたら……」




そこで、ようやくギュスターヴを見る。




「アナタ……死ぬわよ。確実に」




一切の誇張がない。

脅しでも、冗談でもない。

“事実”を述べているだけの声だった。

ギュスターヴの背筋に、ぞくり、と冷たいものが走る。




「……ッ」




思わず息を呑み、再び壇上を見る。




(アルド・ラクシズ……)




胸の奥で、名前を反芻する。




(“凶竜”のジュラシエルをしテ……ここまで言わしめる程の強者……)




理解してしまったが故に、口元が歪む。




(──つまり、逆に言うなラ……)




視線に、歪んだ闘志が灯る。




(ヤツを倒せバ……ジュラシエルも、俺を認めざるを得なイ……)




冷や汗を流しながらも、ギュスターヴは、にぃ、と獰猛に笑った。




少し離れた場所。


全身に打撲と擦過傷を負いながらも、まだ立っている二人の男がいた。

鬼塚玲司と、ディオニス。

二人は並んで腕を組み、壇上を見上げている。

鬼塚は、歯を見せて笑った。




「流石はアルドさんだぜ……!」




声には、隠しようのない敬意。




「マジ、パネェな……!」




隣で、ディオニスが「おーおー」と軽く相槌を打つ。




「うちの大将もいるじゃねぇか」




そう言いながら、マジックバッグに手を突っ込み、酒瓶を取り出す。




「50階層まで行けたんだな。こりゃ、予選突破は確実じゃねーの」




ボンッ。


親指で瓶の口をへし折り、そのまま豪快に喉へ流し込む。

ゴッ、ゴッ、ゴッ……

数秒後、プハッと息を吐き、鬼塚を横目で見る。




「──なぁ」




軽い調子だ。




「なんで、“神器”使わなかった。使ってたら、もっと楽々俺に勝ててたんじゃねーの?」




鬼塚は、眉を吊り上げる。




「あ?」




鋭い視線。




「そんなもん、てめぇも同じだろ。力隠してやがった癖によ」




ディオニスは、ニッと口の端を上げる。




「バレてたか」




肩をすくめて、楽しげに言う。




「ま、本戦前に手の内全部見せるほど、お互いバカじゃねぇって事か」




鬼塚は鼻で笑った。




「試験中にガブガブ酒飲んでるヤツぁ、バカそのものだろ」



「これは俺の燃料なんだよ、燃料」




ディオニスは瓶を振ってみせる。




「お子ちゃまには分からねぇだろうがな」



「あぁ!?誰がお子ちゃまだコラ!?」




二人は、同時に睨み合い──そして。




「決着は、本戦でつけてやるよ」




口を揃えて言い切り、

同時に、ニッと口の端を上げた。




観客席の上段。

佐川颯太と天野唯は、並んで壇上を見下ろしていた。

鬼塚が無事に戻ってきた姿に、二人とも胸を撫で下ろす。

佐川は、ほっとしたように肩の力を抜いた。


そして、その視線は自然と、アルドとラグナへと向かう。


何やら話し込んでいる二人。

予選会開始前に漂っていた、張り詰めた空気は、もうない。


ラグナは、柔らかい表情でアルドと向き合っていた。

その様子を見て、佐川は小さく微笑む。




「ラグナ……」




独り言のように、呟く。




「アルドさんと……打ち解けられたのかな」




その笑顔は、戦いを越えた“変化”を、静かに喜ぶものだった。


そしてその変化は、確かに──

次なる舞台、“本戦”へと繋がっていく予兆でもあった。




 ◇◆◇




ブリジットは、歓声の渦をかき分けるように走っていた。

淡い金髪を揺らし、弾む足取りで、まっすぐに──ただ一人の青年を目指して。




「やったね!アルドくん!!」




声は弾み、喜びがそのまま形になったようだった。

その足元では、ミニチュアダックス姿のフレキが、短い脚を必死に動かして追いかけている。




「流石はアルドさんっ!凄いですっ!」




アルドは、その声に気づいて振り返り、ぱっと表情を明るくした。




「あっ!ブリジットちゃん!フレキくん!」




少し照れたように、だが嬉しそうに手を振る。




「なんとか最終フロアまで行けたよ〜」




その瞬間。

ブリジットは勢いそのままにアルドの前まで来ると、思わず彼の手をぎゅっと掴んだ。




「ほんとにすごいよ!アルドくん!あたし、信じてたけど……やっぱり、びっくりしちゃったよ!」




その無邪気な笑顔に、アルドは一瞬言葉を失い──

そして、はっとしたように視線を横へ走らせた。


ラグナ・ゼタ・エルディナス。


少し離れた場所で、静かに二人を見ていた青年は、ブリジットがアルドの手を握っている光景を目にした瞬間、ほんのわずかに眉をひそめた。

苦々しさが、確かにその表情をよぎる。


だが、それは長く続かなかった。

ラグナは小さく息を吐く。

フゥ……と、胸の奥に溜まっていた何かを吐き出すように。


そして、ブリジットを見た。


その視線に気づいたブリジットは、ぴくりと肩を跳ねさせ──

条件反射のように、サササッとアルドの影へ隠れる。




「……っ!ら、ラグナ殿下……」




アルドの背中に半分隠れながら、ちらりと様子を窺う。

だが、ラグナの声は、予想していたものとは違った。




「ブリジット……」




低く、落ち着いた声。

棘はなく、怒気もない。




「キミが、その男……アルド・ラクシズに肩入れする気持ち……」




一拍置き、ラグナは自嘲気味に微笑んだ。




「今の僕なら、少しは分かる気がするよ」




ブリジットは、思わず目を瞬かせた。




(……あれ?)




以前のラグナにはなかった、柔らかさ。

張り詰めた執着の色が、確かに薄れている。

理由は分からない。

だが、肌で感じる──“違う”と。


ブリジットは、そっとアルドの影から出て、ラグナに向き直った。

ラグナは、その様子を見て、ふっと笑う。




「──だが!」




声に力が宿る。




「ブリジット!!本戦でアルド・ラクシズを打ち倒し、キミを僕に振り向かせてみせる!」




宣言は、堂々としていて、真っ直ぐだった。

そしてどこか、清々しい。

ラグナは肩をすくめ、口の端を上げる。




「それまで、ブリジットは預けておこう」




視線をアルドに向ける。




「アルド・ラクシズ」




その言葉に、アルドとブリジットは思わず顔を見合わせた。


そして──


二人は、少しだけ笑った。

アルドは頭をかきながら、軽い調子で言う。




「──まだ、本戦出場決まってないけどね」




冗談めかした声。

ラグナは、鼻で小さく笑った。




「僕らが本戦に出ないで、誰が出るって言うんだ?」




その自信に満ちた言葉に、アルドも思わず苦笑する。

いつの間にか、アルドとブリジットの背後には、鬼塚とジュラ姉が並び立っていた。

鬼塚は腕を組み、静かに様子を見守っている。

ジュラ姉は、どこか愉しげに目を細めていた。

一方、ラグナの背後には、セドリック、リゼリア、ルシアが自然と並んでいる。

その中で、フレキはルシアを見るなり、びくりと身体を震わせ──




「あわわわ……!」




サササッとアルドの足元の後ろに隠れた。

さらに少し離れた場所では。

ザキの元に、ディオニス、ギュスターヴ、ロールが集まり、誰も言葉を発さぬまま、アルドとラグナ──二人の中心を静かに見つめていた。


その中心。


アルドとラグナの“間”に立つ形になったマリーダ教授は、しばし二人を交互に見上げ──

次の瞬間、目をハートにする。




「右にラグナ殿下、左にアルド様……」




頬に手を当て、恍惚とした溜め息。




「ハァー……眼福じゃ……」




だが、次の瞬間。

ハッとしたように背筋を伸ばし、真顔になる。




「皆の者!!」




拡声魔法で、声が競技場全体に響き渡る。




「今からスコアの集計を行う!!」




ざわめきが広がる。




「本戦出場者の発表は、3時間後じゃ!!それまで、解散!!」




その宣言と同時に、張り詰めていた空気が、ふっと緩んだ。


アルドたち四人。

ラグナたち四人。

ザキたち四人。


それぞれが、別々の方向へと踵を返し、歩き出す。


その背中を見送りながら──

ラグナ・チームのリゼリアは、前を歩くラグナの背を見つめていた。


憑き物が落ちたような、清々しい表情。

まるで長い悪夢から覚めたかのような背中。




(ラグナ殿下……)




内心で、そっと呟く。




(アルドさんと、和解されたのですねぇ〜……)


(ブリジットさんへの執着も、薄くなられたみたいですぅ〜……)




一瞬、微笑みかけ──

だが、その表情は、ふと別の方向へ転ぶ。




(でも……)




リゼリアの瞳から、温度が消える。




(それって、ちょっと……)




唇の端が、わずかに歪んだ。




(……解釈違いなんですよねぇ〜……)




その視線は、ほんの一瞬だけ。

凍りつくほどに冷たく。


やがて、何事もなかったかのように、彼女は再び歩き出した。


物語は、静かに──

だが確実に、次の段階へと進み始めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ