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【50万PV感謝!】真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます  作者: 難波一
第六章 学園編 ──白銀の婚約者──

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第284話 嫉妬の檻を壊す銀光

銀色の光が、空間を切り裂いた。


アルドの口元から放たれたブレスは、ただの破壊光線ではなかった。

それは、音もなく、だが確実に“何か”を削ぎ落とす光──概念に触れるような、静謐で残酷な輝きだった。


空中でマリーダを覆っていた黒い魔力が、じゅわり、と焼け焦げるように軋む。

いや、焼かれているのは魔力そのものではない。

彼女に絡みつき、重ねられていた“役割”や“呪い”、そして歪められた在り方が、光に触れた瞬間から、剥がれ落ちていく。


黒いウェディングドレスが、裂ける。

布が裂けるのではない。

“花嫁”という虚構が、意味を失って崩れ落ちていく。


裾が灰となり、ベールが風に散り、黒い薔薇の装飾が音もなく砕けていく。

その下から現れたのは、狂気に彩られた花嫁ではなかった。


肌の色は、くすんだ浅黒さを失い、元の血の通った色を取り戻していく。

赤く濁っていた瞳は、揺れながら、ゆっくりと本来の色へと戻っていく。

表情から、張り付いたような歪んだ笑みが消え、代わりに戸惑いと混乱が浮かび始める。


空中に漂うその姿は、もはや“妹の影”ではない。

そこにいたのは、マリーダ・フォンという一人の魔法教授だった。




「……っ」




その光景を、少し離れた空中から見下ろしていたラグナは、思わず息を呑んだ。

風を操り宙に留まりながらも、その身体は一瞬、完全に硬直していた。




(これが……)




胸の奥で、言葉にならない感情が渦を巻く。




(アルド・ラクシズの……隠し持っていた力……)




銀の光線は、ただ敵を倒すための力ではない。

ラグナは、本能的にそれを理解していた。




(相手にかけられたバフ、デバフ……呪い、強化、精神干渉……それらを、まとめて“剥がす”……!?)




魔法理論的に考えれば、あり得ない。

個別に解析し、解除し、相殺しなければならないはずの要素を、あの光は一括で否定している。




(いや……それだけじゃない……)




ラグナの視線は、銀の光の奥――その発生源へと向かう。




(あれは……“状態”を剥がしているんじゃない……"在り方”そのものに干渉している……!)




思わず、こめかみに一筋の汗が伝った。

だが、恐怖や焦燥ではない。

ラグナは、ふっと口元を緩める。




(流石は……)




心の中で、彼はそう呼ぶ。




主人公(ぼく)の“宿敵(ライバル)”キャラ……という訳か……!)




自分の物語に、真正面から並び立つ存在。

追い越すべき壁であり、同時に──越えられることを期待してしまう相手。


その光景を見て、ラグナは思わず、ニッと口の端を吊り上げていた。


一方、地上。

巨大な参列者席の椅子の陰。


瓦礫と影に身を潜めていたザキは、居合の構えを解いたまま、ただ呆然と空を見上げていた。


銀色の光が、視界を満たす。

その中心に立つ青年の姿が、はっきりと映る。




(アルドくん……)




喉が、無意識に鳴った。




(君ぃは……一体……何者やねん……!?)




剣士として、数え切れない修羅場を潜ってきた。

異常も、怪物も、規格外も見てきたつもりだった。


だが──




(あんな“力の使い方”……見たことあらへん……)




ただ強いのではない。

ただ派手でも、ただ恐ろしいのでもない。

“救うために壊す”という、矛盾した力。


ザキは、知らず知らずのうちに目を見開いていた。

そして、ほんの少しだけ、背筋に寒気を覚えながらも──




(……せやけど)




口元が、わずかに緩む。




(悪いけどなぁ、アルドくん……その力、利用させてもらうで。俺の"復讐"の為に……)




銀の光が薄れ、空気が静まり始める。

崩れ落ちた虚構の向こうで、物語は確かに、次の局面へと進み始めていた。




 ◇◆◇




──その瞬間だった。


マリーダの胸元に浮かんでいた、淡い白の蛇の紋様が、不気味に脈打った。

平面だったはずのそれが、影を持ち、厚みを帯び、まるで皮膚の下から“這い出してくる”かのように立体化していく。




「……?」




意識を取り戻しかけたマリーダは、ゆっくりと瞬きをし、周囲を見回した。




「わ……ワシは……一体、何を……?」




崩れた結婚式場、焦げた魔力の残滓、遠くに見える人影。

断片的な光景を認識しかけた、その瞬間。


ぎゅるり、と。




「……ッ!?」




白蛇が、完全に実体を持った。

それは紋様のままでは終わらず、マリーダの胸元から這い出し、首、肩、腕へと絡みつき、瞬く間に彼女の身体を締め上げていく。




「ヒッ……!?」




喉から零れた悲鳴は、あまりに小さかった。


白蛇型の魔力は、アルドの銀のブレスに焼かれた痕を残しながら、なおも生き延び、のたうつように蠢いている。

白い鱗はところどころ黒く焦げ、苦しげに震えているにもかかわらず、その力は衰えない。


いや──締め付けているのは、肉体ではない。


魂だ。




(な、何じゃ……これは……!?)




胸の奥、もっと深いところ。

自我の根に直接、冷たいものが絡みついてくる感覚。




(怖い……! ワシが……ワシが……何かに……飲まれていく……ッ!!)




視界が、白に染まった。

音が消える。重力も、時間も、現実の感覚も、すべてが遠ざかっていく。


──マリーダの精神時間が、引き延ばされる。


ほんの一瞬の出来事のはずなのに、それは永遠にも思えるほど、長く、重く、残酷だった。


気づけば、彼女は立っていた。

何もない、真っ白な空間に。


上下も、奥行きも曖昧な世界。

そこには、彼女と──白蛇だけがいた。


白蛇は、先ほどよりもはるかに大きく、はっきりとした輪郭を持っていた。

冷たい瞳が、マリーダを見下ろす。




《──聞け、哀れなる人の子よ》




声は、直接、頭の内側に響いた。

古めかしく、どこか文語的で、感情の抑揚が薄い。




《お前は“嫉妬”の心に飲まれた》




マリーダの胸が、びくりと跳ねる。




《今は亡き妹を羨み、妬んだ》



「……っ」




否定の言葉は、喉に詰まって出てこない。




《我は貴様の願いを叶え、望む姿を与えた》




黒い花嫁姿。

妹の面影を纏った自分。

記憶が、痛みとなって胸を刺す。




《しかし、お前は今、我と共に敗北し、“嫉妬”の想いは消え去ろうとしている》




白蛇の身体が、ゆっくりと、しかし確実にマリーダへと巻きついていく。

精神体であるはずの身体に、圧迫感が走る。




《“嫉妬”とは、二者の間にのみ存在し得る想い》


《それが消え去る時──》




蛇の瞳が、冷たく細められた。




《お前自身と、他者との繋がりそのものが消える時よ》




ぞっとするほど、静かな宣告だった。




《貴様は我と共に、この世界の輪廻から消えるのだ》


《──“あの方”への、供物としてな》



「……ガ……ッ……!?」




マリーダの喉から、掠れた呻き声が漏れる。

白蛇は、もはや逃げ場を与えない。

魂そのものを、締め上げられている。

涙が、視界を滲ませた。




「だ……誰か……」




声は震え、掠れていた。




「助け……て……ッ……!」



《無駄だ》




白蛇は、冷笑する。




《我らが今感じているこの時は、“嫉妬の魔王”様の作られた、我らのみの空間。》


《何人たりとも、我らの滅びを止めることは出来ぬ……!》




白蛇の口元が、歪む。




《さぁ……“嫉妬”の輪から外れ……》


《輪廻の外へと、旅立とうぞ……!》



(ああ……)




マリーダは、ゆっくりと理解した。




(これは……ワシへの、罰なのじゃな……)




妹の笑顔。

幸せそうな姿。

祝福される未来。




(妹へ……醜い嫉妬の情を抱いてしまった……愚かな……ワシへの……)




分かっていた。

逆恨みだと。

八つ当たりだと。




(それでも……)




胸が、張り裂けそうになる。




(それでも、ワシは……それでも……それでも……)


(あの子の幸せを……どこかで……憎んでしまった……)




涙が、止まらなかった。




《“嫉妬の魔王”様の……》




白蛇が、口を大きく開く。




(にえ)となれぃッ!!》




闇が、迫る。

マリーダは、ぎゅっと目を瞑った。

観念し、祈ることすら諦めて。


──その瞬間。






「いや、だから助けるってば。」






あまりにも場違いで、あまりにも呑気な声が、響いた。




《……え?》




白蛇が、間の抜けた声を上げた、その刹那。


ガシッ、と。

白蛇の首元を、何かが掴んだ。




《グェっ!?》




完全に予想外だったのだろう。

白蛇の身体が、びくりと跳ねる。

マリーダが恐る恐る目を開けると──


そこにいたのは、見慣れた銀髪の青年だった。




「……き、貴様は……?」




アルド・ラクシズは、白蛇の首を片手で掴んだまま、困ったように肩をすくめていた。




「いやぁ、間に合ってよかった」




白蛇は、完全に混乱していた。




《えっ?》




 ◇◆◇




マリーダは、呆然と目を見開いていた。


白い虚無の空間の中で、銀色の髪を揺らしながら立つ青年──あまりにも場違いで、あまりにも呑気な存在。




「あ……アルド・ラクシズ……?」




掠れた声でそう呟いた瞬間、白蛇がびくりと大きく身を震わせた。




《な、何だ貴様は!?ここは、我の主様が作られた精神世界だぞ!?外部から他者が入り込めるはずが……!?》




先ほどまでの尊大さは影を潜め、声には明らかな動揺が混じっていた。


だが、当の本人はというと。


アルドは白蛇の首を掴んだまま、首を傾げ、どこか間の抜けた調子で答える。




「あ、そうなの? でも、普通に入れたけど。」




さらりと。




「“この俺”もさ、ブレスに込めた俺の精神体だしね。」




その言葉が落ちた瞬間、白蛇の動きが完全に止まった。




《ば……バカな……!?そ、そんな事が……出来るはずが……!?》




恐怖が、はっきりと声に滲む。

アルドは小さく肩をすくめた。




「出来ちゃったから、ここに居るんだけどね」




そう言ってから、ちらりとマリーダに視線を向ける。

抱え上げた彼女の身体が、まだ小さく震えているのを感じ取って、ほんの一瞬、表情が柔らいだ。

そして再び、白蛇を見据える。




「あのさぁ」




声色は変わらない。軽い。

だが、その奥に、確かな芯があった。




「今さ、“統覇戦”の予選会で、学生のみんなが必死に頑張ってるのよ」




白蛇の身体が、じり、と後ずさる。




「ブリジットちゃんもね」




その名を出した瞬間、アルドの声に微かな熱が宿る。




「それをさぁ……」




ぎし、と指に力が籠もる。




「お前みたいな、訳の分からん蛇の化け物に邪魔されて、オジャンにする訳には──」




ブチッ。




「いかないんだよっ!」




ブチブチブチ、と嫌な音が響いた。

白蛇が、悲鳴を上げる暇もなく、マリーダの魂に絡みついていた魔力が、一本一本、無理矢理引き剥がされていく。




《アアアアァァアアアア!? バカな……バカな……!?》




白蛇は必死にもがき、尾を打ちつけるが、アルドの手は微動だにしない。




「はい、分離完了」




あっさりと言い放つと、アルドは白蛇を片手でぶら下げるように持ち上げ、そのまま──


ブォンッ!!


真上へと、力任せに放り投げた。

白い虚無の中を、白蛇の魔力が弧を描いて舞い上がる。


その間も、アルドはマリーダをしっかりとお姫様抱っこしたままだ。




「ちょっと、耳塞いでて」




そう言って、彼女の頭を自分の胸元へ軽く引き寄せる。

マリーダは何も言えず、ただその腕の中に身を委ねた。


アルドの口元に、キィィーン……と高い音を立てて、銀色の魔力が集束していく。

その光は、精神世界そのものを照らすほどに眩しかった。




「よく分からんけどさ。お前……」




アルドは空を見上げ、落ちてくる白蛇を見据える。




「異世界の寄生虫みたいなヤツなのかな?

アストラル・サナダムシ的な。」




口の端を、少しだけ吊り上げて。




「とりあえず──駆除しとこ。キモいし」




次の瞬間。


ビィィィィ――――ン!!


銀色のブレスが、一直線に放たれた。




《き、寄生虫だと……!?ふざけるな……!? 我は、あのお方の……》




叫びは、最後まで届かなかった。




《──ァァアアアア!!》




白蛇の魔力は、光の中で霧散し、跡形もなく消え去る。


同時に。


パァァンッ!!


ガラスが砕けるような音と共に、白い精神世界が粉々に割れた。


──現実世界。


アルドは、マリーダ教授をお姫様抱っこしたまま、地上にスタッと着地する。


揺れる黒い魔力は消え、結婚式場の異様な気配も、急速に霧散していった。


アルドは、腕の中のマリーダを見下ろし、にこりと笑う。




「もう大丈夫だよ、マリーダ先生」




その笑顔を見た瞬間。

マリーダの目が、きらりと輝き――ハートの形になる。




「は……はひ……!」




顔を真っ赤にしながら、震える声で呟く。




「推し、二人目……決定なのじゃ……」



「えっ?」




アルドが素で聞き返した、その瞬間。




『ダンジョン・サバイバル、完全攻略!!

Congratulations!!』




明るいアナウンスが、50階層全体に響き渡った。


直後、夜空に──いや、ダンジョンの天井いっぱいに、色とりどりの花火が打ち上がる。


爆音と歓声の代わりに、勝利の光だけが降り注ぎ。


戦いは、静かに──だが確かに、終わりを告げていた。

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