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【45万PV感謝!】真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます  作者: 難波一
第六章 学園編 ──白銀の婚約者──

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第281話 アルド&ラグナ vs. マリーダ① ──悪夢の中の追撃戦──

ラグナは、宙に浮いたまま両手を広げた。

その十本の指先に、順番に魔力の灯がともっていく。金色、蒼、翠、紅──性質の異なる魔力が、脈打つように指を巡り、彼の周囲の空気を張り詰めさせた。




「それじゃあ……」




低く、落ち着いた声。




「まずは、暴走状態にあるマリーダ教授を無力化するとしようか」




その言葉に、隣──正確には地上で──アルドは軽く屈伸をしながら応じた。

肩を回し、首を鳴らし、まるで準備運動の延長のような気軽さだ。




「そーね。今のマリーダ先生、話とか通じなそうな感じだし」




その瞬間。




「……」




ケラケラと、空間に響いていた壊れた笑い声が、唐突に止んだ。


静寂。


次いで、ゆっくりと──あまりにもゆっくりと──赤い瞳が二人を捉える。




「……ラグナ殿下……」




マリーダの声は、低く、粘ついていた。




「やはり……ワシを差し置いて……」




唇が、歪む。




「“色欲の魔王”の使徒等と……そんな……そんなに親しげにィィィィッッ!!」




叫びと同時に、赤い目が見開かれる。

そこに宿るのは、怒りでも悲しみでもない。

ただ、焼け付くような“嫉妬”だった。


ラグナは一瞬、虚を突かれたように瞬きをし、視線をアルドへと向ける。




「……キミ」




少しだけ、声の調子が変わる。




「ヴァレン・グランツの……“使徒”だったのかい?」




アルドは、ぱちぱちと瞬きをし、慌てたように両手を顔の前で振った。




「いやいや、そういうんじゃないから!ってか、“使徒”って何?」




その軽い返答が──

火に油を注いだ。




「だから……ッ!!」




マリーダの喉から、獣のような咆哮が迸る。




「ワシを!!無視!!するなァァァァァ!!」




絶叫と共に、床が悲鳴を上げた。


ゴゴゴゴゴッ!!


カラフルな床が渦を巻き、ねじれ、次々とドリル状に変形していく。

幾本もの鋭利な螺旋が、二人めがけて一斉に突き上がった。




「ハッ!」




ラグナが短く笑う。




「それはもう見たさ!」




次の瞬間、風が爆ぜた。

身体を包んでいた風の一部が刃へと変わり、放たれる。


スパパパパッ!!


真空の鎌が走り、ドリルは次々と寸断され、砕け散る。

破壊された床片が、虹色の破片となって宙を舞った。


一方、アルドはというと。




「よっ。ほっ。」




実に軽い掛け声。

突き、蹴り、回転。

無駄のない動きで、迫るドリルを拳と脚だけで叩き壊していく。

金属音と破壊音が重なり、床は瞬く間に瓦礫の海と化した。


マリーダは舌打ちをする。




「チィッ!!」




その表情に、焦りが滲む。

巨大なぬいぐるみたちを盾にするように前へ押し出し、同時に箒へと跨った。

黒い魔力を噴き上げ、後方へと一気に飛び退く。

距離を取るつもりだ。




「逃がすか!」




ラグナが叫ぶ。




「追うぞ!!アルド・ラクシズ!!」




風を踏み、空を舞う。




「了解っ!!」




アルドも即答した。




「とっ捕まえて、鎮静魔法でもかけてやろうか!」




ドンッ!!


地面を蹴る音が、砲撃のように響いた。

アルドの身体が弾丸のように前へと飛び出す。


広大なフロア。

ファンシーで、歪んでいて、どこまでも続く悪夢のような景色。

キャンディ色の柱、溶けかけた壁、笑顔の貼り付いた装飾。


その中を、箒に乗って逃げるマリーダ。

それを、地と空から追い詰める二つの影。


その行く手に──

ズン、と重い振動。

現れたのは、巨大なペンギンとウサギのぬいぐるみだった。

愛嬌のあるフォルム。だが、口の奥には鋭い牙。

眼球はギョロギョロと不規則に動き、不気味な光を放っている。


しかし、アルドとラグナは、スピードを一切緩めなかった。

アルドは走りながら拳に魔力を集中させる。

ラグナは飛翔しながら、右手の人差し指と中指を揃え、魔力を解放する。




「「邪魔っ!!」」




声が、重なった。


次の瞬間──


アルドの拳が、巨大ペンギンを正面から打ち抜く。

衝撃が内部で爆ぜ、ぬいぐるみは木っ端微塵に弾け飛んだ。


同時に、ラグナの放つ光線が巨大ウサギを貫く。

一瞬の閃光の後、爆散。


破片が雨のように降り注ぐ中、二人は止まらない。


少し離れた場所。

自ら斬り倒した巨大なクマのぬいぐるみの残骸に身を潜めながら、ザキはその光景を見ていた。




(……一時的に組んだ、っちゅう事か……)




喉が、ひくりと鳴る。




(それにしても……)




額から、一筋の汗が流れ落ちる。




(化け物やな……二人とも……!)




逃げるマリーダ。

追う“銀”と“金”。


歯車は、完全に噛み合い──

追撃戦は、さらに加速していく。




 ◇◆◇




マリーダは、黒い魔力を尾のように引きながら、箒で迷宮の上空を疾走していた。

その後ろを、二つの影が追う。

一つは、地を蹴り、壁を踏み、床を砕きながら突き進むアルド。

もう一つは、空気そのものを踏み台にするように飛翔するラグナ。


途中、道を塞ぐように現れるオモチャやぬいぐるみたちは、もはや足止めにすらならなかった。


バンッ!


アルドの拳が、突進してきたブリキの兵隊の胸を打ち抜く。


パァン!


ラグナの指先から放たれた光弾が、空を泳ぐ風船型の魔物を弾け飛ばす。

二人とも、息一つ乱さない。

その高速移動の最中──

ラグナは、前を向いたまま、唐突に口を開いた。




「アルド・ラクシズ! キミに、三つほど言っておく事がある!」



「えっ!?」




アルドは走りながら目を見開く。




「何!? こんな時に!!」




ラグナは、視線を逸らさず、きっぱりと言い切った。




「こんな時だから、だ! いいから聞け!」




風を裂きながら、言葉が続く。




「まず(ひと)つ!」




ラグナの声が、戦場に響く。




「キミも知っての通り、今のマリーダ教授は、普通じゃない! 僕は彼女の実力は(おおむ)ね知っているが──」




その瞬間、アルドの正面に、毒々しい色をした巨大な花のオモチャが飛び出した。

中央には人の顔のようなものが張り付き、口をパクパクと開閉している。




「うわっ、気色悪っ!」




アルドは迷いなく跳躍し、飛び蹴りを叩き込んだ。


ドガァン!!


花は音を立てて爆ぜ、破片が霧散する。




「……今の彼女の魔力出力は、それを遥かに上回っている!」




ラグナの言葉が、途切れず続く。

アルドは着地しながら、眉を寄せた。




「それってつまり……どういうこと?」



「察しが悪いヤツだな!」




ラグナは吐き捨てるように言う。




「つまりだ! 今のマリーダ教授は、何者かによってバフ……いや、デバフかもしれないが!」




その時、空から降り注ぐように、流れ星型のライトを模した魔法弾が飛来した。

キラキラとした外見とは裏腹に、内包する魔力は凶悪だ。

ラグナは飛翔したまま、指を鳴らすように前へ突き出した。


ゴォォォッ!!


巨大な火球が生まれ、魔法弾の群れをまとめて飲み込む。爆発音が空を震わせる。




「とにかく、何らかの状態異常をかけられてるかも知れないって事さ!!」




アルドは走りながら、短く息を吐いた。




「なるほど。でも……誰がそんな事を?」



「僕が知るもんか!」




ラグナは即答する。




「参加者の中に、そういう効果のスキルを持った者がいたとか、色々仮説は立てられる! だが──」




一拍、置く。




「今の問題は、そこじゃない!」




アルドは頷きながら、次々に現れるぬいぐるみを拳で叩き潰していく。




「──原因がどうあれ、マリーダ先生にかけられたその状態異常を解くのが先決……って訳ね」




そう答えながら、内心では別の思考が走っていた。




(……佐川くん達が受けてた、洗脳みたいな感じか……まさか、またベルゼリアが……?)




一瞬、嫌な予感がよぎるが、すぐに打ち消す。




(……いやいや。それは流石に無いか……)



「そうだ!」




ラグナの声が、少しだけ明るくなる。




「今度は察しがいいな! ……そして、(ふた)つ!!」




言葉と同時に、彼は速度を落とさず続けた。




「この共闘関係(きょうとうかんけい)は、あくまでマリーダ教授に起きた異常事態に対応する為の暫定的(ざんていてき)なものだ!」




前方で、マリーダの黒い魔力が揺らめく。




「本戦では、僕とキミは敵同士……ここで手の内を全て見せ合うのは、お互い美味(うま)くないだろ!?」




アルドは「確かに」と小さく頷く。




「能力の開示は、最小限にとどめる!」




ラグナの声は、指揮官のそれだった。




「互いの力を借りるときは、自分が望む事を『出来るか、出来ないか』だけを相手に問う!相手は、開示できる範囲でそれに答える!お互い、そういうルールでいくぞ!」



「お、おお……!」




アルドは少し感心したように返す。




「なるほど! りょ、了解!」




その内心では、別の感情が芽生えていた。




(コイツ……リーダーとしての資質、ちゃんとあるじゃん……なんでブリジットちゃんが絡むと、あんな短気でアホになってたんだろ……?)




そんな事を考えていると──




(みっ)つ!!」




ラグナが叫んだ。そして、一瞬の沈黙。

アルドは走りながら、ちらりとラグナの方を見る。




「?」




その視線に気づいたのか、ラグナは高速飛行のまま、ほんの一瞬だけこちらを見た。

黄金の瞳が、鋭く、そしてどこか楽しげに細められる。




「──こんな所で脱落するんじゃないぞ、アルド・ラクシズ!」




風が唸る。




「キミを倒すのは……この僕なんだからな!」




アルドは一瞬、ぽかんと口を開けた。

そして──




「……っ」




吹き出した。




「いいね。それ」




走りながら、笑う。




「めっちゃ、“宿敵(ライバル)”っぽいじゃん」




ラグナは、フッと口角を上げた。




「だろ?」




そのまま、飛行速度を一段階引き上げる。

風を裂き、空間を歪めながら、マリーダ教授へと一気に迫っていった。

二つの背中は、今この瞬間だけ、同じ方向を向いていた。




 ◇◆◇




ラグナは、マリーダの背中を睨み据えたまま、短く息を吐いた。




「……(らち)()かない!」




声が、風を切る。




「挟み撃ちにするぞ!! いけるか!? アルド・ラクシズッ!!」




その問いに、アルドは一瞬も迷わなかった。




「オッケー! それなら──『出来る』!」




言い終わると同時に、進路を大きく変える。

地を踏み抜くような一歩。


ドンッ!!


床が悲鳴を上げ、アルドの身体が弾丸のように前へと射出された。

箒で飛ぶマリーダの進行方向を読み、その先へ回り込むための全力疾走。

それに気づいたマリーダが、甲高い声で叫ぶ。




「チィッ!! 小賢しいッ!!」




箒の上で身をひねり、ステッキを振るう。


ゴキィ……ッ!


アルドの走る地面に、蜘蛛の巣のような亀裂が走った。次の瞬間──


ボゴォォッ!!


裂け目から、ピンク色に輝くマグマが噴き上がる。

甘ったるい色合いとは裏腹に、放たれる熱は凶悪だった。




「……おっと!」




だが、アルドは怯まない。

噴き出すマグマの合間を、縫うように走る。

熱風が頬を焼き、靴底が一瞬で焦げるが、足は止まらない。




「そっちが本気なら……!」




跳び、踏み、回避しながら、マリーダの飛行ルートを先読みする。


一方、空では──


マリーダが振り返り、別の攻撃を放っていた。

カラフルな小鳥たちが、甲高い鳴き声を上げながら生み出される。

玩具めいた見た目。だが、その速度は、弾丸そのものだった。




「邪魔だ……!」




ラグナが低く唸る。

右手を前に突き出し、五指を大きく開いた。




「──”魔杖指・五行フィンガーケイン・フィフスエレメント“ッ!!」




指先から、同時に五つの力が解き放たれる。


炎が爆ぜ、氷が裂け、岩が砕け、雷が貫き、風が薙ぎ払う。


五行の奔流が交錯し、小鳥たちは次々と吹き飛ばされ、空中で霧散した。




「……っ!」




マリーダの表情に、焦りが走る。

逃げる軌道が、次第に狭まっていく。

前方ではアルドが回り込み、後方からはラグナが迫る。


ついに──




「よっしゃ! あとちょっとで、追いつくっ!」




アルドの声が、目前まで迫った。

ラグナも、宙を舞いながら告げる。




「観念してください、マリーダ教授」




声には、確かな警戒と理性があった。




「貴女は、何らかの異常をきたしている……!」




その言葉に、マリーダの身体が、ぴたりと止まった。




「……異常……?」




箒がふらつき、やがて地面へ降りる。




「ワシが……異常……?」




震える声。




「……分かっておる……そんな事は……」




足が地に着いた瞬間、膝が笑い、身体がわなわなと震え出す。




「ワシが……ハズレスキル持ちの……“異常”である事くらい……!」




アルドは、急ブレーキをかけて止まった。

キキキィ……ッ!




「えっ!? い、いや……!」




思わず声を上げる。




「ラグナが言ってるのは、多分……そういう意味じゃなくて……つーか、これのどこがハズレスキルなの!?」




ラグナも、空中で身構えたまま、内心で警戒を強めていた。




(何だ……?マリーダ教授は……何を言っている……!?)




その時だった。


ブワァァッ──!!


マリーダの身体から、これまで以上の黒い魔力が噴き上がった。

空気が歪み、迷宮全体が低く唸る。




「ワシは……!」




叫びが、裂ける。




「ワシだって……!」




黒い魔力が、渦を巻く。




「あの人の隣に……立ちたかった……!」




胸元の白い蛇の紋様が、うねり、蠢き、脈動する。




「妹の……メリンダの様に……ッッ!!」




声が、嗚咽と絶叫の境界を超えた。




「あああアアアアアアアァァぁあああ!!」




黒い魔力が、完全にマリーダを包み込む。

人の形が、溶け、歪み、再構築されていく。

アルドとラグナは、思わず息を呑んだ。


やがて──

そこに立っていたのは。


薄黒く光る、ウェディング・ドレス。

レースとヴェールが、闇のような魔力に揺らめいている。

若い女性の姿。

マリーダに似ているが、どこか決定的に違う。

二十代半ばほどの、凛とした面差し。

美しさと、不気味さが、同時に存在する姿だった。


ラグナは、思わず一歩、引いた。




「な……何なんだ……これは……!?」




声に、わずかな怯えが滲む。




「マリーダ教授が……別の人物に……!?」




アルドも、額に一筋の汗を流しながら、低く呟いた。




「……こりゃあ……」




視線を逸らさず、続ける。




「ちょっと、普通じゃないよね。やっぱり……」




迷宮の空気が、張り詰める。

“マリーダ・フォン”だったものは、もはや別の存在へと変貌しつつあった。


その狂気と悲嘆の中心で、

物語は、さらに深い局面へと踏み込もうとしていた。

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