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【45万PV感謝!】真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます  作者: 難波一
第六章 学園編 ──白銀の婚約者──

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第280話 二つ星、狂気に挑む

薄黒く染まった肌。

血走った赤い瞳。

喉の奥を引っ掻くような、壊れた笑い声。




「ケラ……ケラケラケラ……」




マリーダ・フォンは、もはや教授の名にふさわしい姿ではなかった。

身体の表面を這う黒い魔力が、呼吸に合わせて脈打ち、胸元の白い蛇の紋様がぬらりと光る。


その光景を前に、アルドは引き攣った笑みを浮かべ、ラグナに顔を寄せた。




「……いや、これヤバいでしょ、マジで」




声を極限まで落とし、ヒソヒソと囁く。




「どう見ても正気じゃないよ。病院とか連れてってあげたほうがいいやつなんじゃない?」




ラグナも、同じく声を抑えながら、喉を鳴らした。




「た……確かに……」




視線はマリーダから逸らさず、慎重に言葉を選ぶ。




「マリーダ教授のこんな姿は、僕も……(ゲームの中でも)一度も見たことがない……」




一瞬の沈黙。

ラグナは深く息を吸い、そして吐いた。




「……ふぅ」




気を取り直したように、足先を下へ向け、宙からゆっくりと地面へ降り立つ。

着地と同時に、風の流れが静まり、彼の表情から軽薄さが消えた。




「何にしろ」




冷ややかな声音。




「僕とキミの決着に邪魔になるのなら……」




視線を真っ直ぐマリーダへ向ける。




「少々、静かにしておいてもらいましょうか。マリーダ教授」




右手を掲げ、短く詠唱した。




「”氷結牢獄(ジェイル・グラキエス)”。」




ラグナの足元から、ひび割れるような音と共に薄氷が広がる。

それは瞬時に地を這い、マリーダの足元へと到達した。


次の瞬間──


ドンッ!!


凄まじい勢いで、氷柱が地面から噴き上がる。

螺旋を描く氷の檻が、一気に閉じ、マリーダの身体を完全に包み込んだ。

内部に閉じ込められたマリーダの姿は、氷越しに歪んで見える。

笑い声が、ぴたりと止んだ。


アルドは氷柱を見上げ、眉をひそめる。




「……ねぇ」




ちらりとラグナを見る。




「これ、大丈夫なの?マリーダ教授、死んだんじゃ……」




ラグナは前髪をかき上げ、肩をすくめた。




「心配無用だよ」




余裕を装った声音。




「マリーダ教授は、僕ほどではないにしろ、この国でも有数の魔法の使い手だ」




視線を氷柱へ戻す。




「この程度で死んだりするもんか。少しの間、寝ててもらうだけさ」




そして、アルドへ向き直り、口元に自信満々の笑みを浮かべた。




「さぁ……邪魔者はいなくなった。決着をつけようとじゃないか」




魔力が、再び高まる。

黄金の瞳が、アルドを射抜く。




「アルド・ラクシズ……!」




アルドは一瞬、氷柱へと視線をやる。

閉じ込められたマリーダは、微動だにしていない。




(……うーん)




内心で唸る。




(さっきの感じ……本当に、ほっといて大丈夫なやつなのかな……?)




だが、ラグナの気迫に押され、アルドも構えを取った。その瞬間だった。




『──ワシを”邪魔者”扱いとは……』




低く、静かな声。




『……酷いではありませぬか。ラグナ殿下』




アルドとラグナは、同時に氷柱の方を振り向いた。


ピキ……

ピキピキ……。


氷の表面に、細かな亀裂が走る。




「……っ!?」




次の瞬間──


ガシャァァァンッ!!


爆音と共に、氷柱が砕け散った。

氷片が飛び散り、床に叩きつけられる。

その中心に立っていたのは──




「ケラ……ケラケラケラ……」




笑い声を上げる、マリーダ・フォン。

黒い魔力が、まるで炎のように身体から噴き上がっている。




「ワシも……」




ゆっくりと、腕を広げる。




「混ぜておくれ……ッ!!」




赤い瞳が、ラグナとアルドを同時に捉えた。

ラグナは、目を見開いた。




「……バカな……ッ!?」




声が、明らかに震えている。




「僕の”氷結牢獄(ジェイル・グラキエス)“が……こうも容易く破られるなんて……!?」




さらに、目の前の存在から放たれる圧に、息を呑む。




「それに……なんだ……!?この……馬鹿げた魔力量……!?」




喉が、かすれる。




「マリーダ教授に、ここまでの力があるなんて……そんな”設定”、僕は知らないぞ……!?」




その言葉を聞き、アルドの眉がわずかに動いた。




(──”設定”?)




内心で首を傾げる。




(妙な言い回しだな。……いや、今はそれどころじゃないか)




アルドは、マリーダから迸る魔力の奔流を、肌で感じ取っていた。




(……確かに、これは普通じゃない)




胸の奥で、冷静な思考が回り出す。




(……ヴァレンや、マイネさんに近い魔力だ……力をセーブしたままだと、多少手こずりそうかな?)




だが、表情には出さない。

狂ったように笑い続けるマリーダを、静かに見据える。




「ケラケラケラ……」




マリーダは、首を不自然に傾け、舌なめずりをする。




「さぁ……」




その声は、甘く、粘ついていた。




「三人で……遊ぼうではないか……」




地下50階層。

歯車は、完全に噛み合い、もはや誰にも止められない方向へと、回り始めていた。




 ◇◆◇




マリーダは、首を人形のように不自然な角度へと傾けたまま、ゆっくりと周囲を見渡した。

赤い瞳が、歪んだ空間を舐めるように巡り、やがて満足げな笑みが口元に浮かぶ。




「──迷宮(ここ)は、ワシが作った、ワシの為の空間」




声は甘く、誇らしげで、そしてどこか狂っていた。




「天も、地も、万象が……」




胸を張り、杖を掲げる。




「ワシの思うがままに従うッ!!」




次の瞬間──

魔法少女めいた装飾が施されたステッキが、シャララーン!と軽やかな音を立てて振るわれた。

それを合図に……


ゴゴゴゴゴ……ッ!!


アルドとラグナの足元で、カラフルな床がうねり始める。

渦を巻き、ねじれ、螺旋を描きながら隆起していく。




「──ッ!?」




床そのものが、鋭利なドリル状へと変貌し、何本も同時に二人へ向けて突き上がった。




「チィッ!!」




ラグナが舌打ちし、即座に風を纏う。

身体がふわりと浮き上がり、ドリルの先端をかすめるように宙へ逃れた。


一方、アルドは──




「うおっ!?床からドリルが!?」




驚きつつも、反応は速い。

身体をひねり、回し蹴り。

続けざまに、後ろ回し蹴り。


ガガガガッ!!


鋭い衝撃音と共に、ドリルは次々と粉砕され、砕けた床片が飛び散る。




「ちょっとしたアトラクションなら楽しいんだけどさ……!」




着地しながら、アルドは舌打ち混じりに呟いた。


その様子を、クマのぬいぐるみの陰から見ていたザキは、目を見張る。




「何なんや……これ……!?」




喉を鳴らし、声を殺して呟く。




「これも……ダンジョン・サバイバルの演出の一環なんか……?」




その問いに答えるように。


グルルルル……。


低く、腹の底から響く唸り声が、上方から降ってきた。

ザキは、嫌な予感に顔を上げる。

巨大なクマのぬいぐるみ。

そのボタンのような目が──


ギョロリ。


音を立てて回転し、布の質感を失い、ぬらりとした“眼球”へと変化した。




「……っ」




縫い付けられていたはずの口が、ガパァッと開く。

中から覗いたのは、リアルな歯茎と、ギザギザの牙、ぬめる舌。


ザキは乾いた笑みを浮かべ、腰の剣にそっと手を添えた。




「──どうも、違うみたいやね」




その声には、覚悟が滲んでいた。


その頃、戦場の中心では──




「どうじゃ!!」




マリーダが壊れたように笑い、ステッキを振り回す。




「ワシは、強い!ワシは、賢い!」


「だから……ワシを……ワシを、見ろッッ!!」




笑い声が、歪んだ迷宮に反響する。

その背後から、シルクハットを被った道化師のぬいぐるみが現れた。

玉乗りをしながら、異様な軽やかさで宙を舞い、ラグナを追う。




「……ッ」




ラグナが身構えた、その瞬間。

道化師は、シルクハットのツバを掴み、サッと前に差し出した。


ドドドドドッッ!!


シルクハットの穴から、キャンディ型の魔力弾が、マシンガンのように吐き出される。




「くっ……!」




ラグナは風の流れを操り、弾幕の隙間を縫うように飛翔する。

カラフルな弾が、耳元をかすめ、空気を裂く。

だが、それで終わりではなかった。


道化師は、にやりと歪んだ笑みを浮かべ──

シルクハットを、フリスビーのように投げ放った。


高速回転するツバが刃となり、ブーメランの軌道で、死角からラグナに迫る。




「何ッ!?」




反射的に、ラグナは手を振り下ろした。




「”防壁の魔杖指フィンガーケイン・バリアフィールド”!!」




九重に展開された魔力の結界。


ギィィンッ!!


刃が結界に叩きつけられ、一枚、二枚──

三枚目を砕いたところで、ようやくその勢いが止まる。




(……三枚も、抜いてきた……!?)




ラグナの背筋に、冷たいものが走る。




(マリーダ・フォン教授……迷宮内で強いのは知っていたが……)




視線を走らせ、魔力の奔流を感じ取る。




(これは……異常だ……!)




喉が鳴る。




(この力……まるで……大罪魔王級じゃないか……!?)




だが、怯む暇はない。

ラグナは宙で身を翻し、左手を前に突き出した。




「”第六の魔杖指フィンガーケイン・シックス“ッ!!」




左人差し指から、圧縮された核撃魔法の光が一直線に走る。


ズドォォォンッ!!


眩い閃光が、道化師のぬいぐるみの腹を貫いた。

大きく風穴を開けられた道化師は、玉乗りごと崩れ落ち、床に転がって動かなくなる。

光が収束し、静寂が一瞬だけ訪れる。

その中で、マリーダの笑い声だけが、なおも響いていた。




「ケラケラケラ……」




迷宮は、完全に彼女の狂気に支配されていた。




 ◇◆◇




一方、その頃──地上。


カラフルな床の向こう側から、規則正しい足音が鳴り響いていた。

タッ、タッ、タッ──。


現れたのは、整然と隊列を組んだオモチャの兵隊たち。

先ほどまで人形棚に収まっていそうなサイズだったそれらは、今や完全に“人間大”へと巨大化し、無機質な瞳でアルドを見据えていた。


一斉に、銃口が向けられる。

カチャリ、という無数の金属音。

アルドはその光景を前に、肩をすくめて小さくため息をついた。




「よく銃で一斉射撃されるなぁ、俺」




どこか他人事のような声だった。


次の瞬間──

ダダダダダダッ!!

火花と共に、弾丸の嵐がアルドへと殺到する。


だが。


バババババッ!!


アルドの両腕が、信じられない速度で動いた。

指先が霞み、空気が裂ける音が連続する。

銃弾は──当たらない。


否。すべて、掴み取られていた。

両手で、弾丸を“受け止める”というより、“拾い上げる”ように。




「……っと」




アルドは軽く息を吐き、掴んだ弾をジャッと右手にまとめる。

野球のピッチャーのように、半身になって振りかぶった。




「せーの……っ!!」




次の瞬間、腕が唸りを上げる。

弾丸は散弾のように放たれ、空気を引き裂きながら兵隊たちへ突き刺さった。


パァン!!パァン!!パァン!!


次々と穴が穿たれ、オモチャの兵隊たちは破裂音と共に粉々に砕け散る。

床に転がるのは、ただの部品と破片だけだった。




「……っと、これで一段落かな」




アルドがそう呟いた、次の瞬間。


ガァァンッ!!


左右から、巨大な影が迫る。

シンバルモンキー。

人間を優に超えるサイズのそれが、両側から挟み込むように巨大なシンバルを振り下ろしてきた。




「おっと──」




アルドは一歩も退かない。


ガシッ!!


両手で、叩きつけられたシンバルをそのまま受け止める。

金属音が耳をつんざき、床が軋む。

モンキーは牙を剥き、顔を近づけてくる。

その眼は狂気と玩具めいた無邪気さが混ざった、不気味な光を帯びていた。




「近い近い」




アルドはそう呟き──


ガッ!!


一閃のような蹴りが、モンキーの顎を打ち抜いた。

衝撃は一直線に首へと伝わり、

首が、文字通り吹き飛ぶ。


ガシャァァーン!!


巨体が後方へ倒れ、二度と動くことはなかった。

アルドは軽く手を振り、視線を前へ向ける。




「いやいや……なかなか凄いな、こりゃ」




視線の先では、マリーダが狂ったようにステッキを振るっていた。

薄黒く染まった肌、赤く爛々と輝く瞳。

ケラケラと笑いながら、黒い魔力を無尽蔵に放出している。


その周囲には、まるで忠誠を誓う兵のように、無数のぬいぐるみたちが陣取っていた。

アルドは、ふと天井を見上げる。




(──本気を出せば、ロリババア2号先生を倒すのは、訳ない)




冷静な判断だった。




(けど……)




視線を巡らせ、迷宮全体を意識する。




(この迷宮は、ロリババア2号先生のスキルで作られたもの……)




胸の奥に、嫌な予感が広がる。




(倒したら、このスキルは消えるのか? それとも……残る?)




もし、消えたら。




(……まだ迷宮内にいる皆は、どうなる?)




ブリジット。鬼塚。ジュラ姉。

脳裏に浮かぶ顔が、アルドの表情をわずかに曇らせた。




(スキルの消失と同時に、何が起きるか分からない以上……)




拳を、ぎゅっと握る。




(やっつけてハイ終わり!って訳にはいかないよな……!)




アルドは深く息を吸い、決意を固める。




「──どっちにしろ、あんま早まった真似はしないほうが良さげかな」




視線をマリーダへ戻し、低く呟く。




「とりあえず……様子がおかし過ぎるマリーダ先生の動きを止めないと……!」




そして──

宙を舞うラグナへ、声を張り上げた。




「ねぇ!ラグナ!」




その呼びかけに。

ラグナは、ビクッと身体を揺らす。




「なっ、何だ、アルド・ラクシズ!!」




驚きと、なぜか胸の奥が跳ねるような感覚。




「き、急に名前で呼んでくるなんて……馴れ馴れしくないかっ!?」




アルドは一瞬、目を瞬かせる。




(あっ、そうか……一応、王子様だったな)


「あー……ら、ラグナ殿下?」




言い直した瞬間。




「……っ!」




ラグナは、なぜか少しだけ照れたように視線を逸らし、咳払いをする。




「い、いや!キミは僕の”宿敵(ライバル)“キャラ……!」




急に威丈高になる。




「ライバルは名前で呼び合うものだ。特別に、名前呼びを許可しよう!ありがたく思いたまえよ!」




アルドは小声で、




「何なのよ、その感じ……」




と汗をかきつつ呟き、気を取り直した。




「じゃあ、ラグナ!このマリーダ先生、明らかにおかしいよね!?」




ラグナは即答する。




「ああ!それについては、僕も同感だ!!」




アルドは続ける。




「だからさ!まずはマリーダ先生を取り押さえた方がいいんじゃない!?決着は……その後つければいいじゃん!」




一瞬の沈黙。

ラグナは、戦場を見渡し、そして小さく息を吐いた。




「……一時休戦、という訳か」




口の端が、わずかに上がる。




「仕方ないな」




そう言って、アルドの隣へスタッと降り立った。




「話聞いてくれてよかったよ」




アルドは安堵の笑みを浮かべる。




「僕はいつだって理知的さ」




ラグナはそう返し、二人は自然と背中合わせに構えた。

視線の先は同じ──狂気の中心。




「よし、それじゃ……」




アルドが低く呟く。




「”銀の新星(シルバー・ノヴァ)“と……」




ラグナが、静かに続けた。




「”金の超星(ゴールデン・スター)“の、今宵限りのタッグと行こうか……!」




二つの気配が、重なり合う。

その瞬間、迷宮の空気が──

確かに、変わった。

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