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【45万PV感謝!】真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます  作者: 難波一
第六章 学園編 ──白銀の婚約者──

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第277話 アルド vs. ラグナ(2戦目)② ──大賢者の覚醒──

宙に舞う瓦礫と瓦礫の隙間を、アルドは音速で駆け抜けていた。


水面に浮かび上がった巨神像の破片を足場にし、蹴り、踏み、弾き、次の一歩へと繋ぐ。

踏み込みのたびに衝撃波が走り、空気が裂け、湖面が爆ぜる。

人の身でありながら、その動きはもはや獣ですらない。純粋な"エネルギー"そのものだった。




「──ッ!」




アルドの蹴りが、拳が、肘が、踵が、あらゆる角度からラグナを襲う。

上下左右、死角という概念そのものを否定する連続攻撃。瓦礫を踏み台にした瞬間移動じみた突進が、間断なく続く。


だが。




「……っ!」




ラグナ・ゼタ・エルディナスは、その嵐の中心で、確かに生きていた。


額には冷や汗が滲んでいる。呼吸もわずかに荒い。魔力の消耗も、はっきりと感じている。

それでも──口元には、薄く、確かな笑みが浮かんでいた。


アルドの拳が頬を掠める寸前、ラグナは半歩だけ身を引く。

蹴りが腹を抉る直前、風の流れを歪めて軌道をずらす。

そして──どうしても避けきれないと判断した一撃にだけ、




「”防壁の魔杖指フィンガーケイン・バリアフィールド”……!」




瞬間的に展開される魔法障壁が、ピンポイントで炸裂する。


バチッ、と閃光が弾け、アルドの一撃が弾かれる。その隙に、ラグナは再び宙へと逃れる。


アルドは空中で身体をひねり、次の瓦礫へと着地しながら、思わず口角を上げた。




(コイツ……いくら魔法の天才だからって、なんでここまで俺の攻撃を防げるんだよ……!?)


(反射神経がいいとか、そういう次元じゃないぞ、これは……!?)




称賛に近い感情が、胸の奥で静かに膨らんでいく。


──その通りだった。


ラグナが、この神速の連続攻撃を“避け続けられる”理由。

それは、単なる才能でも、経験でもない。


彼が持つ、二つ目のスキル。



万象術式オムニス・アーキテクト”。



この世界に存在する、あらゆる魔法を──

「式」として、「構文」として、「設計図」として認識し、再構築するための異能。


ラグナがこのスキルを発動した瞬間、視界に半透明のウィンドウが展開される。

まるで、ゲームの設定画面のような、直感的で冷酷な表示。


カーソルを動かし、魔法を選び、分解し、組み替える。

既存の魔法を素材として、新たな術式を“即興で”構築する。


風魔法を素材にした探知。

風と魔力制御を組み合わせた疑似飛翔。

火焔魔法を再設計した、火の雨。


ありとあらゆる局面に対応し得る、驚異的な汎用性の高さ。


だが、“万象術式オムニス・アーキテクト“の真骨頂(しんこっちょう)は──別にあった。


ウィンドウが視界の半分を埋めた瞬間。

それ以外の世界が、凍りついたかのように停止する。


時間が、止まる。


一度の発動で、許される時間は十秒。

ラグナ自身も動けない。攻撃も、防御もできない。


だが、その静止した十秒の中で──

彼は“見る”ことができた。


止まった世界の中にある、アルドの位置。

瓦礫の配置。

次に来る一撃の角度。

その次、その次。


ラグナは、このスキルを連続発動していた。

十秒、解除、一瞬の現実、再発動。

まるで、ゲームのポーズボタンを連打しながら、次の一手を考えるかのように。


反則すれすれ──いや、反則そのもの。


だが、代償は確実にあった。

魔力は、確実に削られていく。




(アルド・ラクシズ……!)




ラグナは、歯を食いしばりながら思う。




(こいつは……掛け値無しの、強敵……ッ!!)




彼にとって、この世界は“ゲームの中の世界”だった。

ただ一つ、致命的な違いを除いて。


──この世界では、死ねば終わりだ。


リトライも、ロードも、存在しない。

だからこそ、ラグナは慎重だった。病的なほどに。


勝てそうな相手でも、万全を期す。

少しでも敗色を感じれば、勝てる可能性があっても、撤退する。


そうやって、生き残ってきた。


だが──今は違う。


ここはダンジョン・サバイバル。

死んでも、外で蘇生される。


命の危険が、存在しない。


そんな場所で出会ってしまった、アルドという強敵。


元来ゲーマー気質で、強敵との初見バトルを愛するラグナの心は、かつてないほどに昂っていた。




(シナリオに無い……隠しボス……いや……!)


(主人公である僕の前に立ちはだかる……”宿敵(ライバル)“キャラだッ!!)




アルドの蹴りを紙一重でかわした瞬間。

ラグナの口元に、確かな笑みが浮かぶ。


死の危険性の無い空間での、かつて無い強敵との初見プレイ。


この状況そのものが、”大賢者王子(ウィザード・プリンス)“ラグナ・ゼタ・エルディナスの潜在能力を、無理やり引きずり出していた。


彼は宙を舞いながら、真っ直ぐにアルドを見据える。




(──感謝するよ、アルド・ラクシズ……!)


(ここで、お前に出会えた事で……)


(僕という“主人公”は、更なるレベルアップを遂げるんだ……ッ!!)




その瞬間。


ラグナの胸にあった、ブリジットへの執着も。

アルドに向けていた無自覚な嫉妬も。


すべてが、きれいに消え去っていた。


残ったのはただ一つ。

──強敵と、全力でぶつかり合える、この“愉悦”だけだった。




 ◇◆◇




瓦礫が宙を舞う。


アルドは震脚を踏み込み、足裏から衝撃を叩き込むたびに、砕けた巨神像の破片をまとめて浮かび上がらせていた。

空間そのものが歪み、破片が不規則に跳ね上がり、次の瞬間には刃となってラグナへ襲いかかる。


踏み、跳び、殴り、叩き落とす。

瓦礫を“空間ごと”ぶつけるような攻撃が、何度も、何度も続く。


その合間に、アルドはわずかに目を細めた。




(──ラグナ……段々と、こっちの攻撃に対応してきてるな)




瓦礫の軌道を読まれ、踏み込みの癖を見抜かれ、致命打になりかけた一撃だけが、正確無比に防がれている。




(これは……ちょいと、攻め方を変える必要があるかもね)




その思考が終わるより早く。


──パンッ!


乾いた音が、空気を裂いた。

ラグナが両掌を打ち合わせ、左右へ大きく開く。




「”魔衝機雷群(マギア・トーピード)”……!」




低く、確信に満ちた声。

次の瞬間、ラグナの周囲に無数の光球が現れた。

赤と青、二色の光が混ざり合い、まるで星雲のように宙を漂う。


数は、数え切れない。


アルドは瓦礫の足場で膝を沈めながら、目を見開いた。




(また、俺が知らない魔法……!?)




一瞬だけ、そう考え──すぐに切り替える。




「とにかく……」




歯を食いしばり、踏み込む。




「攻めてみるしか無いか!」




ドンッ!!


瓦礫を蹴り、宙へと躍り出る。

空中で身体をひねり、ラグナ目掛けて高速の飛び蹴り。


だが──


赤い光球が、意思を持ったかのように動いた。

アルドの軌道を塞ぐように、ふわりと漂い、次の瞬間。


ドゥン!!


爆音と共に、赤い光が炸裂した。




「どぅわっ!! 危なっ!?」




アルドは反射的に身体を丸め、胸元のネームプレートを庇う。

衝撃で吹き飛ばされ、空中で二転三転。

瓦礫に着地しながら、息を吐く。




(ダメージは無いけど……ネームプレート、割られたかと思った……! あっぶねー……!)




視線を走らせ、赤と青の光球を見る。




(あの光球、触れると爆発するのか……!?機雷みたいな感じか!!)




さらに観察し、眉をひそめる。




(でも……反応したのは、赤の光球だけだ。青の光球は……何だ……?)




アルドは一度、大きく距離を取る。

水面を蹴り、首を失って静止した巨神像の頭部へと着地した。


瓦礫の山の上で、肩をすくめる。




「攻撃魔法って……」




苦笑しながら、右手を掲げる。




「あんま、実戦で使った事無いんだけど……ねっ!!」




人差し指を、真っ直ぐラグナに向ける。




「”核撃魔光砲ニュークリア・ブラスター”……!」




指先から、眩い光が解き放たれた。

一直線に伸びる、核撃魔法のビーム。


だが。


ラグナは、険しい目元のまま──口元だけを吊り上げる。




「っだから……ッ!!」




愉しげに、しかし苛立ちを隠さず。




「僕のオリジナル魔法を、そんな簡単に真似るんじゃ……ねぇよッッ!!」




指揮者がタクトを振るうように、指をクイッと振る。すると……


青い光球が、ビームの前に集まり、壁のように立ちはだかった。


ゴゥン!!


核撃魔法の光が、球形に“削り取られる”ように消えていく。

青い光球が次々と弾け、ビームは完全に相殺された。

アルドは目を見開いた。




「青い光球は……」




思わず、声が漏れる。




「魔力に反応して……消失させるのか……」




ラグナは満足そうに頷き、両手を広げる。




「さあ……」




赤と青の光球が、再び無数に展開される。




「これならどうする!? アルド・ラクシズ!!」




アルドは、ふっと笑った。




「なるほどね」




次の瞬間、水面を蹴る。


バババババッ!!


光球を縫うように走りながら、右手を振り抜く。




「──だったら……」




バァン!!


巨神像の瓦礫を、拳で粉砕する。

砕けた破片が、散弾のようにラグナへ飛ぶ。

ラグナは即座に思考する。




(ただの瓦礫の散弾? 無駄だ!赤の”魔衝機雷群(マギア・トーピード)“で……)




だが、次の瞬間、赤と青、両方の光球が同時に弾け、消滅した。




「何ッ!?」




思わず、声が漏れる。




(物理的に瓦礫を飛ばすと同時に……土魔法の石礫も混ぜたのか……!)


(物理攻撃に、魔法攻撃を重ねて……ッ!)




額に汗が浮かぶ。

それでも、ラグナは──笑った。




「やるな……アルド・ラクシズ……!」




アルドは、少し驚いた顔をしてから、肩をすくめる。




「アンタが俺を褒めるなんて……」




にやりと笑う。




「こりゃ、明日は雪でも降るのかな?」



「抜かせッ!!」




ラグナは叫び、宙を舞いながら、両手を突き出す。

次の瞬間、鋭いレーザーが、アルド目掛けて放たれる。


アルドは、その光を正面から見据え──

ニッと、笑った。

そして、再び、音速で、ラグナへと駆け出した。




────────────────────




時間は、少しだけ遡る。


十五分ほど前。


白い橋が、闇の湖面に静かに伸びていた。

水は鏡のように凪ぎ、空も天井も判別のつかない広がりの中、49階層──“神々の水面”。


その別の入り口から、ひとりの男が足を踏み入れる。


ザキは歩みを止め、右手で前髪を持ち上げた。


額に、横に裂けるように開いた禍々しい第三の目。

血の色を思わせる縁取りの奥で、異様な光が静かに脈打っている。




「──ホンマびっくりやな、この目の力……」




低く、感心したように呟く。




「“正しい道”が、バッチリ見えるんやね」




白い橋の先、分岐も迷いも存在しないかのように、一本の“最適解”だけが、はっきりと視界に刻まれていた。




「俺一人やったら……こんな短時間で、ここまでは来れんかったなぁ」




肩をすくめ、苦笑する。




「ロールちゃんの力のおかげやな」




その瞬間、第三の目の奥から、か細い声が響いた。




『わ、私は……“氷の心を持つ女”ですから……』




どこか照れた、しかし必死に取り繕うような念話。




『そ……そんな、褒められたって……嬉しくなんて、ありませんからね……!』




ザキは、思わず小さく息を漏らした。




「ふふ……」




優しく笑い、




「ああ、せやね」




それから、少し真剣な声音で続ける。




「ロールちゃん。もうええで」




一瞬、間が空く。




「このチカラ……君ぃの負担も、デカいんやろ?」




第三の目が、わずかに揺れた。




『えっ……? で、でも……』




心配が、声に滲む。

ザキは湖面を見つめながら、穏やかに言った。




「ここまで来れば、大丈夫やって」




白い橋の先、闇の奥を見据える。




「ラグナの捜索言うても……もう最下層手前やし、おるとしても、このフロアか……この下やろ?」




振り返り、微笑んだ。




「あとは、俺一人で充分や。ありがとうな」




少しの沈黙。

やがて、念話が返ってくる。




『──分かりました。ザキさん……ご武運を』




ふっと、温度が引くように。

第三の目は、音もなく閉じた。

額には、いつものザキの顔だけが残る。




「……よし」




ザキは深く息を吸い、闇に広がる湖面を見渡す。

耳を澄ますと──


ドォォォーーン……!


遠くから、低く腹に響く破壊音。




(誰かが、戦っとるな)




目を細める。




(恐らく……)




ザキは身を低くし、白い橋を駆け出した。




──そして、時間は現在へ戻る。


巨神像の瓦礫が積み重なった影。

ザキはそこに身を潜め、息を殺していた。

目の前で繰り広げられているのは──


常識を踏み越えた、超音速の戦い。


音速で宙を舞い、無数の魔法を連射するラグナ。

そのすべてを、音速のダッシュで掻い潜り、瓦礫を足場に縦横無尽に攻め立てるアルド。




「……なんやねん……」




思わず、声が漏れる。




「この二人の……この力は……!?」




冷や汗が、背を伝う。




(ラグナはともかく……)




視線が、アルドを追う。




(アルドくん……やっぱり、(きみ)ぃは……とんでもない怪物だったんやね)




瓦礫を蹴り、空間を裂くように加速する姿に、目を細める。




(これは……真っ向勝負じゃ、勝ち目あらへんな)




その時。

ラグナが、宙で身を翻し、両手を突き出した。

八条のレーザーが、空を裂く。

ザキの奥歯が、ギリッと噛み締められた。




(……あの時と同じやな。ラグナ・ゼタ・エルディナス……!)




脳裏に、焼き付いた光景。




(忘れもせん……俺の仲間を……オヤジを殺した、あの時と……!)




その瞬間。


──ズン。


背後から、圧倒的な気配。

ザキは即座に振り返った。


そこに立っていたのは、80メートル級の巨神像。

巨大な剣を振りかぶり、静かに、しかし確実にザキを捉えている。


ザキの目が、氷のように冷える。




「……今、ええとこやねん」




低く、殺気を孕んだ声。




「邪魔せんといてや」




腰の剣──"羽々斬(はばきり)に、そっと手を置く。




「──“神器解放”」



「“刹那之麁正(せつなのあらまさ)”……!」




──キン。


ほんの一瞬、(つば)が鳴った。

刃が、閃いた。


次の瞬間、巨神像の中心に、足元から頭頂まで、真っ直ぐな切れ目が走る。


ズリン……。


時間差で、左右にずれる巨体。


ザキが、チン……!と刀を鞘に完全に納めた瞬間。


31体目……最後の巨神像(・・・・・・)は、真っ二つになって崩れ落ちた。


……だが。その直後。

空間が、ぐにゃりと歪んだ。




「……あ?」




湖面が、抜ける。


ドオオォォォ……!!


水が、空間が、世界そのものが──

下へ、下へと、引きずり落とされていく。




「な……何や、これ!?」




ザキはバランスを崩し、叫ぶ。

抵抗も、足場もない。

ただ、落ちる。

49階層が崩壊し、ダンジョンはその口を開いた。


──その先に待つ、最下層。


ザキの身体は、叫びと共に、闇の底へと吸い込まれていった。




────────────────────




瓦礫の雨が止み、湖面に反射する光が一瞬だけ静まった。


ラグナは宙に静止し、目の前を駆け抜けるアルドを真っ直ぐに見据えていた。

音速で移動するその残像を、追うのではない。見極めている。




(──出し惜しみして、勝てる相手じゃない)




胸の奥で、静かに結論が落ちる。

それは敗北の予感ではない。

“全身全霊で当たるべき強敵”を前にした、純粋な覚悟だった。




「──“これ”をみせるのは……」




ラグナは息を整え、低く告げる。




「キミが、初めてだよ……アルド・ラクシズ……!」




その瞬間、バッと両手を前に構えた。

十指が絡み、格子を描くように重なり合う。

魔力が、呼応するように震え始めた。


アルドは、瓦礫を蹴って距離を取る。

直感が、警鐘を鳴らしていた。




(……ラグナの空気が変わった)




軽口は、自然と引っ込む。




(こりゃ……何か、とんでもねぇのが来るな)




次の瞬間。





「──“神器解放”……!」





ラグナの呟きは、静かだった。

だが、それを合図に、世界が金色に染まる。


凄まじい黄金の魔力が、渦を巻いて噴き上がった。

湖面が震え、空気が悲鳴を上げる。


アルドに、僅かな緊張が走る。


しかし、次の瞬間。

空間そのものが、軋んだ。


──ぐにゃり。


視界が歪む。




「……ッ!?」




ラグナの目が見開かれる。

次の瞬間、湖の底が抜けた。

ドオオォォォ……!という轟音と共に、水が、光が、空間が──下へと流れ落ちていく。




「何ッ!?」




制御しかけた魔力が、足場を失う。




「な、なんだこりゃ!?」




アルドも周囲を見渡し、叫ぶ。

瓦礫が、湖が、世界が、すべて“落ちていく”。


抗う暇もない。


二人の身体は、黄金の魔力と崩壊する49階層に飲み込まれ──


そのまま、空間ごと引きずり落とされた。


ダンジョン最下層。

未知の深淵、50階層へと。


落下する闇の中で、

ラグナは歯を食いしばり、

アルドは不敵に笑った。


戦いは、まだ終わっていない。

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